深海棲艦の脅威が去った時代のとある家族の話。Pixivに投稿した物のマルチ投稿となります。

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マイ・ウェイ

 私が25歳の秋、大叔母の明代(あきよ)婆が亡くなった。87歳だった。

 

 仕事の都合で何日か遅れてやってくる両親に先駆けて、祖父母と共に遺品整理の為、大叔母の住まいへと車を走らせ茨城県南東の港町へとやってきた、今でこそ海産物が美味い観光地として有名だが、何でも昔は海軍の基地があったらしい。その基地が使われていた時の戦争は、ちょうど祖父母の世代が10代から20代の頃にあったとよく聞かされていた。

 

 その時全世界が戦っていた相手は人間ではなかった。深海棲艦、突如として現れた人類種の天敵。海上は封鎖され、陸地までもが脅かされ、国々は外国との繋がりまでもが絶たれた。海底ケーブルも人工衛星も使用が不可能になり、世の中は過去の大戦の時のような暮らしだったと学校で習った程だ。深海棲艦の正体は現在に至るまで解明されておらず、人類は結局何と戦っていたとかも分からずじまいだったらしい。そんな戦争で奴らに唯一対抗できたのか、かつて実在した艦船の名を冠する少女のような外見をした存在『艦娘』であった。艦娘達とそれらを指揮、支援する軍人らは勇猛果敢に戦い、その果てで奴らを南極周辺にまで追い込む事に成功した。現在、深海棲艦との戦闘状態にはあらず、その一帯は今でも最新の艦娘達による哨戒と索敵が行われているが、奴らは発見できていないらしい。これらの話は義務教育ですら何度も学ばされる事で、歴史が苦手だった私でもよく覚えていた。

 

 祖父母と大叔母は元軍人で、ちょうどこの街の基地に勤めていたらしいが、当時の話は祖母が嫌がるのであまり聞いたことは無かった。

 

「まさか明代が死ぬとはな」

 

「そうねえ、私達より長生きすると思ってたけど」

 

 そんな祖父母の話を小耳にはさみながら、私は縁側で煙草を燻らしていた。暦上は秋だが、まだ残暑も感じられる頃の夕方、自分の住まいと違ってここは海風が吹き込むのが心地良い。しかし常に潮の香りがするのには慣れない。

 

「勇一もそんなに沢山煙草吸わないようにね」

 

「わかってるよ」

 

 適当に返事をしながら、明代婆のことを思い出していた。祖母の洋子と1歳違いの姉で、結婚はしておらず、子供の頃は悪ガキだったと祖母は言っていた。正月や盆の時期に親戚が集まるとその片鱗は見て取れ、酒は飲む煙草は吸う、挙句の果てには家の前で騒いでいた酔っ払い達を追い散らしたこともあった。会うときはいつも元気で、片目が見えなくなっており常に医療用の眼帯をしていたが、それ以外の病気や怪我をしたことは聞き及ぶ範囲では無かった。ただ理由も無く人に厳しくすることは無く、私も子供の頃は良く懐いてたものだった。

 

「勇一、婆ちゃんちょっと疲れちゃって外のの風に当たってくるからここ代わって」

 

「わかったよ、気をつけてね」

 

「あー爺ちゃんもちょっと居間で休憩してくるわ」

 

 そう言って大叔母の遺品の品々が散らばった部屋から祖父母は出て行った。こうして見てみると、元軍属であったという事を連想させるような物は持っておらず、祖父は勲章なんか持っていたが、大叔母は一体海軍で何をしていたのかは良く分からない。とりあえずこういった作業は1つ1つ少しずつ、と整理を進めていくと1枚の写真がノートから滑り出てきた。手にとって見ると、そこには1人の仕官の制服を着た男性と作業服を着た男性が何人か、事務員のような格好をした複数人の女性、そして沢山の少女達が写っていた。いや違う、写真の少女の何人かに見覚えがある、教科書や歴史ドキュメンタリー番組で見たとおりの姿だ、彼女達は艦娘だ。

 

 祖父は軍属だった事が頭をよぎり、写真の中の男の顔を注視してみると制服の男性からは祖父の面影が感じられる。祖父は基地の司令官だったのか?もしかしたら祖母や大叔母も写っているのかと艦娘以外の女性を見てみたが、そこには写ってなかった。だが艦娘の何人かを見ていると、大叔母が見えなくなっていたのと同じ左目に眼帯をした艦娘がそこにはいた。勝気そうな笑顔で隣の艦娘に肩を組んで写っているその少女は、もしかしたら大叔母なのだろうか。しかし別人の可能性も否定しきれず同じ片目を怪我しているだけかもしれない。

 

 疑念は知的好奇心を呼び、その他の遺品も探してみたが、それを確証付ける物の類は出てこなかった。すっかりと集中力を欠いてしまった私は意を決して祖父から聞けないかと、休憩をしていたはずの居間へと向う。

 

「爺ちゃん、この写真なんだけど」

 

 そこにはテレビをつけっぱなしのまま座椅子に座って寝ている祖父がいた。長い間車に揺られていたから疲れたのだろう、声をかけても起きそうに無かった。なら祖母なら何か知ってないかと私は家を出た。

 

 家の周りを探してみたが祖母はおらず、思い当たるところは家から5分ほど歩いた海岸だったのでそこへ向うと祖母はいた。

 

 祖母は海をじっと眺めていた。祖父も祖母も海が好きだった。自分たちの住まいから海は遠かったが、夏休みになると両親祖父母と私とで揃って車でこの街の海水浴場へ来たものだ。その後は家族で大叔母の家へ泊まるというのが少年期の夏の楽しみだった。

 

「婆ちゃ……」

 

 近づいて声をかけようとしたが、そこにいた祖母は、80を超えているのにもかかわらずまっすぐとした背筋で水平線の彼方を眺めているように見え、気のせいだったのだろうか、こちらに気付き振り向いた祖母は一瞬とても若々しく、まるで少女のような、あの写真の眼帯の艦娘が肩を組んでいた隣の子のような、そんな笑顔に見えた。瞬きすると、そこにはいつもの祖母が居た。

 

「ん、なあに?」

 

「えっと、この写真なんだけどさ」

 

「あらー、懐かしいわ。天龍ちゃんったらこの写真の場所わからなくなったとか言ってたのに」

 

「それで、聞きたいことがあるんだけどさ、婆ちゃんたちって戦争中に何をやってたの」

 

「そうねえ、もう話してもいいかもしれないわね」

 

 それから聞いた言葉は今後決して忘れることは無かった。

 

「私達ね、艦娘だったの」

 

 

~Fin~


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