緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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どうもお久しぶりです。
最終投稿から1ヶ月過ぎちゃいました……。
本当に申し訳ないです。
楽しみにして下さっていた皆様、大変お待たせ致しました。
それでは、本編をどうぞ!


第16弾 作戦(オペレーション)コード 『/』(スラッシュ)

「作戦の内容は?」

 

 歳那が尋ねてくる。

 

「ここだと誰に聞かれるか分からない。だから、俺の部屋で話す」

 

 現に誰かがこの会話を聞いている気がする。

 誰なのかは詮索したりはしないが。

 

「了解」

 

 マキがそう答えた。

 俺たちは第3男子寮へと向かった———

 

 

 

 

 

 日が沈む頃、俺は学園島内にある倉庫街へとやって来た。

 そして、1つの倉庫の中に入った。

 情報科(インフォルマ)で事前に調べておいた水蜜桃の潜伏先である。

 

「ここに居るのは分かってるんだ。隠れてないで出て来いよ」

 

 しかし反応は無い。

 俺はブレザーの内側の左ホルスターからベレッタを抜くと両手持ちをした。

 そして胸の前で構える。

 

 所々に積んであるダンボールやコンテナなどを壁にしながら慎重に奥へと進んで行く。

 奴は何処に居るんだ……! 

 落ち着けシュウヤ。

 慎重に、そして冷静に。

 

 自らを落ち着けるために目を閉じながら奴の居場所を考えることに意識を集中させる。

 思考がだんだんと深いところへ落ちて行くのを感じる。いいぞ。

 そして、思考が沈みきった感覚と同時に目を開く。

 ……()()()みたいだ。()()()()()()に。

 

 今の俺は、通常の人間の32倍の思考能力と判断能力、演算能力を持っている。

 この状態を俺は『サイレントアンサー』と呼んでいる。

 始業式の日にUZIを撃破するために使ったのもこれだ。

 

 このサイレントアンサーのトリガーはイマイチはっきりしないのだが、どうも深く考え込んだりするとなるみたいだ。

 

 しかし、サイレントアンサーもバーストモードと同じく弱点があり、反射神経や運動能力が下がってしまう。

 

 だが、これで落ち着いた。

 再び奥を目指しながら俺は歩き始める。

 しかし、すぐに走る羽目になってしまった。

 

 足元にあったTNK(ツイスト・ナノ・ケブラー)線維性のワイヤーに気付かずに踏んでしまった。

 ここまでなら何の問題も無かった。

 だが、次があった。

 

 今の状態だと僅かな振動からでも先にある物が分かってしまったりする。

 それで分かったのだが、糸の先にはUZIがあり、ワイヤーは引き金(トリガー)に繋がっていた。

 

 急いで左前方へとローリングを行う。

 飛んだとと同時に俺のいた場所に大量の9mm弾(パラベラム)が降り注ぎ床を抉る。

 危ねぇ……。

 あんなの喰らったら地面をのたうち回りながら蜂の巣にされてただろうな。

 

 安堵したのも束の間、転がった先で再びワイヤーに触れてしまった。

 今度は右前方へと飛び込み前転を行う。

 そして、先程と同じように無数の銃弾が降り注ぐ。

 

 こちらもUZIによる射撃。

 あの重火器オタクめ……サブマシンガンばっかり用意しやがって———え? 

 そう思っていると正面からM60による銃撃が飛んで来た。

 7.62mm弾をあの速度でアレだけ喰らえば間違いなくお釈迦だ。

 でも、避けることが出来ない……! 

 

 瞬間、俺の中で()()()()が現れる。

 そう、バーストモードだ。

 サイレントアンサーには弱点と呼べるものがもう1つある。

 それは、バーストモードの方が優先されてしまうと言う事である。

 

 恐らくバーストモードは優勢形質の部類で、サイレントアンサーは劣勢形質の部類なのだと思う。

 故に窮地では()()()が優先されるのだと思う。

 

 バーストモードになった俺は、即座に空いている左手でナイフを抜くと自分に当たるコースの弾を———()()()()()

 切り裂かれた弾丸は、左側の弾丸は上へ。

 右側の弾丸は下へと飛んで行く。

 切り裂いた瞬間に手首を軽く時計回りに捻ったため弾道が変わったのだ。

 

 この一連の動作に名前をつけるなら———銃弾捌き(カット)———!! 

 俺は銃弾を切ると同時に、右手のベレッタを3点バーストに切り替え、素早くM60の一点に3発撃ち込む。

 そして、周囲に配置された他のAR(アサルトライフル)などにも発砲し破壊する。

 今の一瞬だけで周囲にあった全ての(トラップ)を破壊した。

 

 通常ならあり得ない。

 だが、現にあり得てしまっている。

 これもサイレントアンサーとバーストモードが組み合わさった結果。

 

 しかし、バーストモードになった事で落ち着きを失った。

 ヤバイ……抑えていた攻撃衝動が表に出ようとしている……。

 俺は必死になってそれらを抑え込む。

 

 その状態で1分程経つとバーストモードの血流は(おさま)った。

 そこから再びサイレントアンサーへと切り替える為に、周囲の状況へと意識を集中させる。

 そしてあの、思考が沈み込む感覚へと到達する。

 

 改めてサイレントアンサーになった俺はあることに気がついた。

 ———罠に付いてる銃が先ほどに比べて大型化しているのである。

 つまり、奴までの距離が近いと言う事。

 武装を再確認した俺は再びベレッタを構え足早に先へと進んでいく。

 そして倉庫の1番奥に奴は居た。

 

「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」

 

 コンテナに腰をかけた状態で腕を組んだそいつは話しかけてくる。

 

「随分と手荒い歓迎だったな」

 

 ベレッタを向け軽く睨みながら返答する。

 

「そんなに怖い顔するなって。しかしお前も成長したんだな。大分冷静になったみたいだし」

 

 落ち着け俺。

 奴の言葉に耳を貸すな。

 受け流せ。

 ここで奴の言葉に耳を貸せば奴の思う壺。

 あの時の様に口車に乗せられてしまう。

 だからこそ、奴の言葉に耳を貸すな。

 

「ある程度は、な」

 

 受け流しながら返答する。

 

「で、こんな所まで来てどうする気だ?」

 

 そんな事言うまでも無い。

 

「お前を逮捕する。その為に俺はここに居る。それだけだ」

 

 それを聞いた水蜜桃はどこか満足げな表情を浮かべた。

 

「何だよ?」

「何って、そう来なきゃ面白く無いなと思っただけだ」

 

 ……は? 

 

「どう言う意味だよ?」

 

 すると水蜜桃は、コンテナから降り不敵な笑みを浮かべこちらに向き直る。

 

「こう言う事だ!」

 

 叫ぶと同時に煙幕が張られる。

 

「待て!」

 

 俺は銃口を見えなくなりつつある水蜜桃へと向ける。

 

「良いのかそんなもん使っちまって?」

 

 その言葉を聞いて気づいた。

 この煙幕には僅かだが火薬と小麦粉が含まれている事に。

 俺は慌てて近くのコンテナの裏へと滑り込む。

 僅かに遅れて爆発が起きる。

 

「……ッ! やりやがった」

 

 呟きながら立ち上がった俺は周囲が安全かを確かめる。

 建物への損傷は……恐らくだが壁のみだな。

 天井等に亀裂は見られない。

 そうだ……あいつは? 

 先程まで水蜜桃の居た位置を確認する。

 そこには穴の空いた壁があるのみ。

 

 急いでそこから外へ出る。

 周りに人影は無い。

 ……何処へ行った? 

 奴の行き先をサイレントアンサーの脳を回転させて考える。

 すると足元に足跡を見つけた。

 

 これは……燃えなかった粉末が積もった所を踏んだ跡の様だ。

 その足跡のつま先の方角へ逃げたと俺は推測した。

 俺は倉庫の入り口側に回ると停めてあった自転車に跨る。

 そして、インカムを繋ぐ。

 

「聞こえるか? 水蜜桃()が逃げた」

 

 俺の問いかけにマキが答えた。

 

『聞こえるよ。どっちの方角に逃げた?』

「凛音がマークしてる方角だ。今から追いかけて加勢する」

『了解。凛音にも伝えておくね』

 

 通信を終えた俺は自転車を漕ぎ始める。

 加速した自転車で倉庫の間を走り抜けていく。

 その途中マキから通信が入る。

 

「どうした?」

『大変! 凛音が!』

 

 それだけで言いたい事は大体分かった。

 俺は自転車を飛ばす。

 クッ……サイレントアンサーのせいで飛ばし切れない! 

 今の状態の全速力で自転車を漕いだ。

 そして、凛音の居る地点へと到着した。

 乗っていた自転車を放り出すとそのまま倉庫の中へと走る。

 無事でいてくれ……凛音! 

 

 倉庫に飛び込むと、床に倒れ伏した凛音の姿があった。

 急いで駆け寄り容態を確かめる。

 ……脈も呼吸も安定している。

 良かった、生きてる。

 だが、意識が無い。

 昏睡しているようだ。

 

 近くには凛音の持っていたAR『ステアーAUG』が落ちていた。

 ステアーAUGはオーストラリアのシュタイヤー・マンリヒャー社がオーストラリア軍向けに作ったARである。

 それ故オーストラリア軍ではこの銃が正式採用されている。

 

 俺はAUGの弾倉(マガジン)を確認する。

 この銃は通常30発、弾倉を交換すると42発入る。

 因みに凛音のは後者である。

 すると弾が10数発撃たれていた。

 どうやら交戦して直ぐにやられてしまったようだ。

 

 つまり奴はこの倉庫にいる。

 そう考えた俺は周囲に目を向ける。

 ……しっかしコンテナだらけの倉庫(ところ)だな。

 

「何探してるんだ?」

 

 俺の正面にあったコンテナの前に突然、奴が———水蜜桃が現れた。

 

「凛音に何をしたんだ?」

 

 凛音を抱えた状態の俺は水蜜桃を睨みつけつつベレッタを向ける。

 不味い、サイレントアンサーが切れ始めている。

 このまま行けばどうなるか分からない……。

 奴の返答次第では飛びかかるかもしれない。

 

「安心しろ。ただ眠らせただけだから。あ、でもちょっと強めの奴で寝かせたから当分の間起きないだろうけどな」

 

 水蜜桃は軽く思い出すような仕草をしながら言った。

 ……催眠薬の類か。

 恐らく気体式のやつだな。

 俺は推理しながらも現状打破の策を考える。

 しかし、何も思いつかない。

 

「……お前に選択肢をやる」

 

 突然水蜜桃が言った。

 

「選択肢?」

 

 あまりの事に鸚鵡(おうむ)返ししてしまった。

 

「そうだ。1つはお前の持ってる講武実用流の奥義を渡す、もしくは『イ・ウー』に来る。2つ目は———ここで死ぬ」

 

 この場でそれを言うか。

 まあ、答えは1つしかないけどな。

 

「……どちらでもない。俺は、お前を捕まえる」

 

 その言葉を聞いた水蜜桃は不敵な笑みを浮かべた。

 

「そう言うと思ってたぜ!!」

 

 言葉と共にいつのまにか握っていた銃———俺の愛銃と同じベレッタM93Rを、凛音の()()に向けて発砲した。

 

「……な!?」

 

 突然の出来事に俺は反応できなかった。

 予測出来ていれば動けていた。

 だが、予測できなかった。

 

 ———ヤバい。このままだと凛音が()()

 その単語がきっかけとなり、頭の中で様々な記憶が蘇る。

 ……走馬灯? いや、違う。

 

 これはバーストモードが何かを言おうとしている。つまりメッセージだ。

 記憶に映っているのは……全て無力な自分。

 どういうつもりだ? 何も出来ない俺なんかを見せて。

 ……アレ? 全部力があれば救えた……のか? 

 

 今更ながらそう思える出来事ばかりだ。

 今の俺にはその力があるって言うのか? 

 ……そうか、そういう事か。分かったよ。使ってやるよ。

 だから、見せてみろよ。お前の———バーストモードの俺の力を!! 

 

 瞬間、意識が現実へと戻った。

 そして、俺は既にバーストモードになっていた。

 ———これなら、行ける!! 

 

 そう確信した俺は、左袖からトンファーの代わりに隠し刃として仕込んでおいたタクティカルナイフを、左手に滑り込ませ握る。

 同時に右手のベレッタを3点バーストで水蜜桃目掛け発砲した。

 

「———銃弾捌き———ッ!」

 

 俺は左手でナイフを振るった。

 そしてバーストモードによってスローモーションになった視界の中で、横向きに振るった刃が9mm弾を捉える。

 そして、刃は弾丸を切り裂いていく。

 その途中で手首を反時計回りに回した。

 

 それにより切れた銃弾は動く向きを変え、凛音には当たらない別々のコースを進んでいった。

 同時にベレッタから発射された9mm弾が水蜜桃の右肩に2発当たる。

 そして駄目押しの3発目が相手の銃口へと入る。

 

 相手の銃口の動きを予測して撃つ技。

 これに敢えて名前を付けるなら———銃口撃ち(カップ)! 

 肩と銃を撃たれた水蜜桃は、体勢を軽く崩した。

 

「マジかよ……。防御と攻撃を同時に行うとか。だが、こいつはどうするかな?」

 

 驚いた表情の後再び不敵な笑みを浮かべた水蜜桃は、懐から取り出したスイッチを左手で押した。

 すると周囲のコンテナのいくつかが開き、中から巨大な何かが出てきた。

 

「なんだ……あれ……!」

 

 俺はあまりの事に息を呑んだ。

 そして5つのパーツ構成のそれは水蜜桃の背後で組み上がっていく。

 

「さあ、こいつを止められるかな!!」

 

 それは正しくロボットとでも形容できるもの。

 俺はこれを知っている。

 

Personal(パーソナル)……Arsenal(アーセナル)……Armor(アーマー)……!!」

「その通りだ。よく知ってるな。因みにコイツはうちの技師が単独で作り上げたオリジナルだ」

 

『Personal・Arsenal・Armor』とはその名の通り個人運用を想定して作られた強化スーツ。

 アレはArsenalという意味の通り工廠、つまりは武器貯蔵庫としても機能する。

 因みに略称は単語の頭文字を取った『P・A・A』となる。

 

 マズイ……詳細が分かっていても対応策が無い……! 

 俺が対応策を構築していると水蜜桃はそれに乗り込み、腕部と思しき部分についたM60(ガトリングガン)を向けて来た。

 反射的に俺は凛音をお姫様抱っこで抱えて、側にあったコンテナの裏に隠れ難を逃れた。

 

 次にどうするべきかを考えていると再びM60の銃声が轟き始めた。

 乱射してやがる! 倉庫(ここ)ごとやるつもりか! 

 俺は凛音を抱え直すと急いで外へ出る。そして振り返ると、倉庫が倒壊し始めあっという間に崩れ去った。

 

 そして舞っていた埃が晴れると、奴が、奴の乗るP・A・Aが立っていた。

 すると水蜜桃はどういうわけか海の方へと進んで行く。

 ……まさか?! 

 そう気付いた時には遅かった。

 

 奴の駆るP・A・Aはホバー推進を採用していた。

 つまり、海を滑っていくつもりなんだ。

 ここから出すとどんな被害が出るか分からない。

 それなのに奴を出してしまった。マズすぎる……! 

 俺の直感が、俺の仮説が、そう告げる。

 

「……クッ!」

 

 俺はインカムを起動する。

 

「マキ! 聞こえる?」

 

 ノイズの後マキの声が聞こえて来た。

 

『聞こえるよ! やっと繋がった。どうかしたの?』

「奴が台場に移動した!」

『え、どういう事?』

 

 俺はここで立てた仮説を話す。

 

「恐らくだが、奴はレインボーブリッジを経由して都心に向かうんだと思う」

『それって———』

 

 俺は仮説の核心部分を口に出した。

 

「———都心で暴れるつもりだ」

 

 恐らく今の奴ならそうすると思う。

 1番被害が出せて尚且つ国1つを混乱させられるからな。

 

『暴れるって……そんな武器あるの?』

 

 マキが半信半疑と言った感じで尋ねてきた。

 

「奴は今P・A・A(ピー・エー・エー)を使用している」

 

 インカムの向こうからマキの驚く声が聞こえた。

 

『P・A・A?! もしかしてあの機動兵器の事?!』

「ああ。にわかに信じられないと思うが本当だ」

『武装は?』

 

 焦った声でマキが聞いてきた。

 

「内臓武装までは分からないが都市を混乱させるほどの武装を積んでると仮定してる。現状確認できたのは、M60が2基」

 

 俺は会話をしながら凛音を安全な場所へと運ぶ。

 

「凛音の位置特定出来る?」

 

 俺は運びながら聞いた。

 

『一応こっちからは特定出来てるけど』

「凛音の回収……頼んだよ」

 

 俺は凛音を降ろすと壁に寄りかかるように座らせた。

 

『分かったけど……シュウ君はどうするの?』

「俺は今から奴を追いかける。凛音を回収してから合流してくれ」

 

 俺はそう告げると、転がっている自転車を起こして跨り漕ぎ出した。

 自転車を漕ぎながらインカムと携帯を片手で繋いでいく。

 そして電話をかける。

 8コール後電話が繋がった。

 

『……もしもし?』

「武藤、今何処にいる?」

 

 電話に出たのは武藤だ。

 

『シュウヤ? 今は車輌科(ロジ)だが。なんでだ?』

「格納庫の中に俺の弄ったハヤブサあるよな?」

『ハヤブサっていうとGSX1300Rの事か?』

 

 GSX1300Rは正式名称『スズキ GSX1300R ハヤブサ』。

 量産市販車最速の車両である。

 だが、途中からスピードリミッターの装備が義務付けられてしまったため、現在のモデルは最高速度が出せなくなっている。

 

 俺が改造した奴は、リミッターを付けたままで310km/hまで出せるように改造してある。

 つまり普通のより速く走れるのだ。

 

「それだ。そいつのエンジンをふかしておいてほしい」

『な、なんでまた』

「緊急の要件だ。頼む」

『わ、分かった』

「サンキュー。後もう1つ」

『まだあるのか……』

「ああ。装備科(アムド)の俺の作業室から7.62mm弾をハヤブサに積めるだけ用意してくれ」

 

 これはAUG用にである。

 先程回収した凛音のAUGを使うことにした為持ってきたのだ。

 本来武器の貸し借りは良く無いが……緊急時という事で割り切った。

『いいけどよ……。お前どれくらいで着く?』

「早くても8分、遅くても10分ってところだ。それまでに行けるか?」

『十分だな。ただ、別料金取るぞ?』

「払うか考えとくわ」

『おい、ちょっ———』

 

 俺はインカムを一方的に切り、自転車を飛ばした———

 

 

 

 

 

 その後、9分かけて車輌科に到着した。

 俺は自転車ごと格納庫へと滑り込む。

 

「来たか」

 

 自転車から飛び降りると武藤が話しかけて来た。

 

「もちろん。で、準備の方は?」

「万端だ」

 

 武藤は親指で後ろを示しながら言った。

 

「流石」

 

 俺はバイクに跨り状態を確認する。

 荷台には7.62mm弾が積載限界まで積んである。

 この短時間で良く積めたな。

 まあ、これが出来ると信じてたから頼んだんだけどな。

 乗ってないとは言え、整備は怠って無いからバッチリだな。

 

「おい、この自転車はどうするんだ? 前輪が逝ってるみたいだが」

 

 床に倒れている自転車について武藤が訪ねてきた。

 

「悪い、ここに着くと同時にパンクしたんだ」

 

 バーストモードの過剰運転に耐えられなかったようでパンクしてしまった。

 恐らくだが、フレームの方も歪みかけているはず。

 

「修理車両の箇所にでも置いておいてくれ。間違っても廃棄するなよ」

 

 俺は武藤に釘を刺した。

 

「分かったけどよ……本当に大丈夫なのか?」

「支払いか? 支払いなら生きて帰ってきてからな」

 

 俺は冗談交じりにそう言った。

 

「そうか。じゃあ死んだら承知しねぇ! そん時は轢いてやる!」

「まあ、死ぬつもりなんて微塵も無いけどな!」

 

 俺は苦笑しながらそう言い、ハヤブサを勢いよく発進させた。

 ハヤブサはエンジンの音とともにスピードを上げていく。

 俺はゆりかもめの路線に沿ってバイクを走らせて行く。

 

 そして台場に入り、台場駅を通り過ぎてあっと言う間にレインボーブリッジへと到着した。

 なんてたって150km/hで飛ばしてたからな。

 

 そこからレインボーブリッジの有料道路へと侵入していく。

 そこは、何故か渋滞していた。

 不審に思いながらも先に進んでいくと上空から何かが()()()()()

 

「……?!」

 

 上空から降ってきた()()は、落下地点の近くにあった乗用車数台を吹き飛ばした。

 俺は砂塵が開けると同時に目を見開いた。

 降ってきたのは、水蜜桃の狩るP・A・Aだったのだから。

 硬直の解けた俺は、急いで横転した車へと駆け寄る。良かった、乗ってる人達に怪我は無いみたいだ。

 

 乗っている人達を車外へと救出した俺は即座に避難誘導へと移った。

 なんとか全員避難したようで、人は見当たらなくなった。

 この間、奴に動きは無かった。

 

 俺はベレッタを片手にP・A・Aに近付いて行った。

 あの機体、先ほどな事で分かったが短時間であれば飛行可能らしい。

 そう考えると先程のは海面から飛んできたのか。

 

 そんなことを考えている俺の目の前で突然、P・A・Aが動き始めた。

 そして2基のM60がこちらへと向けられ、放たれた。

 慌てて俺は車の陰に隠れる。

 M60は車の窓ガラスを破り、扉を貫通して来た。

 

 俺は地面に伏せ、車の下に潜り込む事で攻撃をやり過ごした。

 どうやら奴は俺の事を探しているらしい。

 ベレッタに武偵弾炸裂弾(グレネード)を装填すると、水蜜桃から死角になる位置へと出た。

 

 そこからそっとP・A・Aを狙う。

 この距離からの炸裂弾なら……?! 

 俺が構えると同時に無数の7.62mm弾が降り注いできた。

 再びスローモーションになった視界の中で、自身に当たりそうな弾丸を紙一重で躱し、車の影へと戻る。

 

 チッ……! さっきのは罠だったって訳か。

 内心舌打ちをしながらも次の策を講じる為に頭を働かせる。

 するとサイレンの音が聞こえてきた。

 ———この音は警察車両だな。

 恐らくレインボーブリッジ(ここ)の封鎖に来たんだな。

 

 すると水蜜桃の駆るP・A・Aが都心へと向けて進み出した。それもかなりの速度で。

 コイツ、逃げるのを兼ねて攻撃を開始するつもりか!? 

 俺は急いでハヤブサの元へ駆け寄る。

 そのままハヤブサを起こすと跨った。

 再びエンジンを掛けると、そのまま発進させる。

 しかし、目の前には横転した車などがあり道は塞がっている。

 

 それでも構わずに、俺はハヤブサを加速させた。

 車と接触する瞬間、車体を上に持ち上げるようにする。

 それにより、目の前の車のボンネットに車体が乗り上げる。

 そこからスピードを落とす事なくフロントガラスの部分を走り抜けて、勢いよく上空へと()()()()()()

 そして勢いそのままに着地した。

 それにより、車を飛び越える事に成功した。

 

 俺は再びハヤブサを加速させた。

 だが、まさかあの場所に夾竹桃もいるとはな……。

 先程まで水蜜桃に動きがなかったのは、夾竹桃と会話をしていたんだな。

 先程上空から見えたのだが、道の脇にいたのだ。夾竹桃が。

 誰かを待つかの様に、佇んでいた。

 

 だが、今の俺には関係無い事だ。

 俺は彼奴を———水蜜桃を止めなければ行けない。

 その想いとともにハヤブサを一層加速させた。

 

 すると、インカムに通信が入る。

「はい?」

『あ、シュウ君。やっと出た』

 

 まただ。さっきも言ってたけど、どういう事なんだ? 

 

「やっと繋がったって、さっきも言ってたけどどうかしたのか?」

 

 うん、という言葉の後にマキが答えてくれた。

 

『さっきもそうなんだけど、シュウ君に連絡を取ろうとするとノイズが入って繋がらないの』

 

 ノイズ……? 確かにさっき俺も感じたけど……。

 マキと会話している回線に、歳那が割り込んできた。

 

『恐らくですが、相手が妨害系の電波を使っていると思われます』

 

 報告するかのような口調でそう告げて来た。

 なんだ、あの機体電子戦機も想定してるのか? 

 そうだとしたら余計に厄介だぞ。

 だが、1人でアレを沈めるのは不可能だ。

 

「マキ、今どの辺りにいるんだ?」

『今さっき凛音を回収してそっちに向かってるところだよ』

「凛音の容態は?」

『変化なし。安定してるけど、意識が戻って無い……』

 

 まだ戻ってないのか……。

 だが、あれから容態の急変がない辺りは安心だな。

 

『シュウ君の方は?』

 

 マキの言葉に意識を戻した。

 

「レインボーブリッジで交戦。この交戦によりレインボーブリッジは通行不能。渡るなら下の一般道を使うしか無いよ」

 

 今まで起こった事と現状を伝えた。

 

標的(ターゲット)は?』

「レインボーブリッジから都心方面へ向けて進行中。同時に現在追跡中ってところだ。さっきも言った通り現場で合流するぞ」

『了解』

 

 そこで一旦通信を終了した。

 そのまま俺はレインボーブリッジを渡りきり、港区海岸3丁目へと入って行った———




今回はここまで。次回で決着がつくと良いなぁ〜(遠い目)
シ「ねーねー(妙に優しい声)」
はい、なんでしょう(冷や汗)
シ「なんで遅れた?」
作者が精神的に参っていたのと、忙しさですね。はい。
シ「取り敢えず、地獄見てきた方が良いよ」
え、それって———
シ「問答無用ッ!」
アァァァァァッ!
シ「良かったら感想・評価等お願い致します。また誤字報告もありましたらお願い致します。次回もお楽しみに!」

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