緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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リハビリがてら書いた文章です。
話の内容としては2章末から3章頭ぐらいを想定しています。


閑話(スペース) 死角無き戦車(ノンホールチャリオット)

 いつもと変わらず四限までを終えた俺は、探偵科(インケスタ)棟の屋上に身を置いていた。

 柵に両腕を置きながら見飽きたとも言える東京湾の景色をただただ意味もなく眺めていると、屋上入り口の扉が開かれる音がした。

 

「……ん」

 

 気怠げに体を起こして振り返ってみると、臙脂色のセーラーに身を包み、茶髪をポニーテールに結った少女の姿を捉えた。俺はその少女に対して投げかける。

 

「何の用だ——マキ」

 

 俺の前に現れた彼女は強襲科(アサルト)所属の武偵、大岡マキ。俺のパートナーであり、幼馴染だ。

 

「お昼ご飯一緒に食べない、って誘いに来たんだけど」

「……もう昼休み始まってから10分過ぎてるけど」

 

 腕時計を見やりながら溢す。昼食べるならさっさと食わなきゃ時間がなくなるからね。そこを考慮しても時間が少しばかり経ち過ぎているかと。

 

「シュウ君がチャイムと同時にどこか行っちゃうからじゃん」

「……それもそうか」

 

 彼女の返答により自身のせいであったと理解する。これは、俺のせいでしたね。マキさんの貴重な時間を10分も無駄に消費させてしまいましたね。反省してどうぞ。

 内心でボヤいていると、マキが俺の方へ歩みを進め傍らに立った。

 

「というか油断しすぎじゃ無い?」

「武偵高にいるからかもな」

「この前ケースD7出たばかりなのに?」

「そうでした……」

 

 マキの言葉に大きく項垂れる。つい数日前のアドシアードの時に事件起きてるじゃん。それも二件。なのに平和ボケしたような状況にある今の俺。気張りすぎてた反動だろうか。軽度だが倦怠感を感じている始末だ。

 そんな俺の手前、再びマキが口を開く。

 

「武偵は常在戦場——」

 

 彼女の言の葉を聴きながら、反射的に左腰のホルスターにしまっていたDE(デザート・イーグル)を左手で抜き彼女の方へ向けて突き出す。

 すると、いつの間にやら抜いていた向こうの愛器グロック17の銃口と俺のDEの銃口が接した状態で激突した。

 

「——だな」

 

 先の彼女の言葉に首肯しながらも、変わらずに銃の位置を維持し続ける。右手での抜き出し(ドロー)を読んで左で抜いたがドンピシャを引いたみたいで自分でもびっくりしてる。

 

「やっぱりシュウ君は速いね」

「声掛けがなかったら普通に遅れて死んでたな」

「大丈夫だよ。急所は外すから」

 

 彼女の返答に畏怖を覚えつつ、構えていたDEをホルスターに収める。マキもまたグロックをホルスターにしまった。とりあえず一段落した、な。

 

「怒ってる?」

「ええっと、何に対してだ?」

 

 不意に投げられた問いに僅かにだが戸惑う。今のことに対してなのか。はたまた一人でいるところに水を差されたことに対してなのかが分からなかった。本音を言うとどっちも怒ってないがな。

 

「私がロンドンに行きたいって言ったこと」

「んんっ?」

 

 予想の斜め上を行く答えに驚愕する。え、マキさん急にどうしたのロンドンの話なんかして。今のこの流れで繰り出されるとは思わなんだよ? 

 

「なんで、だ」

「シュウ君に、辛い思いをさせちゃったかな、と思って」

 

 そう言って、先の俺宜しく柵に腕を置いてもたれるマキ。その瞳は、どこか哀しげに揺れている。

 対して柵に両肘と背を預け寄りかかっている俺は、空を仰ぎながら彼女の言葉に応じていく。

 

「怒ってなんていないさ。あそこで経験したことは、今現在の俺にしっかりと繋げられているし」

 

 そう言って両手を強く握る。あの時経験したのは、本物の戦場。日本という、戦争とは遠い場所での銃撃戦ではなく、互いに殺し合う中東の砲弾行き交う空の下、巻き上がる砂塵と激しい硝煙の匂い、そして——人の叫び。

 その中を駆け抜けて、標的(ターゲット)を捕らえる。そのために数多の武装を手にし進んで行った。それが俺の通り名『人間戦車(ヒューマン・チャリオット)』の所以。

 脳裏にこびりついて離れない、凄惨な場面も多々あった。けれど、それらは今の俺に強い覚悟と意義を与えてくれた。

 

「だから、ロンドンに行ったことを辛かったと後悔はしていないし、行って良かったと思ってる部分もある」

「そっ、か」

 

 俺の返答を聞いて、少しばかり安堵した様子を見せるマキ。その姿を見ていた俺は無意識の内に新たな言葉を紡いでいた。

 

「——むしろ謝らなければいけないのは俺の方だよ」

「え?」

 

 俺の言葉に面食らった表情を浮かべたマキ。俺はと言えば、彼女の方を向くどころか俯きがちになりながら続きを吐き出していく。

 

「俺は、マキのことを置いて一人で日本に戻ってしまった。自身を制御できなかった結果の身勝手な理由だけで」

 

 中東で水蜜桃と対峙したあの時、俺は自分自身を制することができず感情のままに刀を振るった。その結果、人を殺めてはいけない武偵という立場でありながら、人を殺めかけてしまった。

 そんな自分に失望した俺は、刀をマキに預けて一人日本へと戻ってきてしまった。このことを凄く申し訳なく思っている。未だに悔いているぐらいには。

 

「だから、ごめん」

「謝らないで。私も、怒ってないから。仮に私がシュウ君と同じ立場だったらきっと、同じようにして日本に戻ってたと思う」

「でも俺は、武偵を辞めようとした……」

 

 自責の念に押し潰されそうになり吐き出してしまった本音。彼女を失望させてしまうかもしれない。そんな恐れと共にマキの方を見やるとこちらをまっすぐと見据える彼女と視線があった。

 

「そうかもしれない。でもシュウ君は、帰国してからも武偵であり続けてくれたし、私のことをパートナーに選んでくれた。その事が凄く——嬉しかった」

 

 言い切った後、こちらへと優しく微笑みかけてくるマキ。……また、彼女の言葉に、想いに救われてしまったようだ。昔からずっと、彼女に助けてもらってばっかり、だな。

 

「ありがとう、マキ」

「ううん。こちらこそ」

 

 互いに謝意を述べて笑い合った直後、再び入り口の扉が開く音が耳に届いた。……え、今度は誰? 

 

「あら、抜け駆けでして?」

「凛音……!」

 

 俺たちの視線の先に現れたのは沖田凛音……殿。鑑識科(レピア)所属の武偵ですが……何用で探偵科の屋上に来たんだお前。あ、そもそも探偵科と鑑識科は同じ探偵学部(インケスタ)だからここにいても問題ないのか……じゃなくて。

 

「あの凛音さん、なんかキャラ違いません?」

「あらそうでして?」

「やっぱなんか変だぞお前……」

 

 普段とはどこか違った言動をする彼女に訝しみながら言葉を投げていく。後その左手に持った日本刀(物騒な物)はしまっておいてもらえると嬉しいのですが。精神衛生的な意味でも。

 

「私にあんな事をしておいてマキにもそんなことを言うのね?」

「は、え?」

「私の事をあんなに強く抱きしめて……」

 

 訳がわからずに戸惑っていると、凛音から爆弾発言が飛び出す。おい、待て。半分以上語弊じゃないか。半分は語弊じゃないけども……ッ!? 

 内心で抗議していると、自身の傍らから強い殺気を感じる。

 

「……シュウ君?」

「待て、誤解だ! 話せばわかる!」

「ここは屋上ですよ」

 

 いつの間にやら姿を現した第三の少女こと尋問科(ダギュラ)所属の武偵、土方歳那に揚げ足を取られる。犬養方式の説得を試みているところに横槍されたよ。後いつからそこにいたんだお前は。

 

「歳那さん、そうじゃなくて」

「シュウ君……どう言うことか説明してね嘘偽りなく。じゃなかったら、蜂の巣だよ?」

 

 全身の至る所、加えて言葉の端々に殺気を纏わせたマキを前に後退る。これは、普通に正面からお話しても生きて帰って来れるビジョンがないね。サイレントアンサーの俺もきっと同じことを言うよ。こうなった時のやることは、一つ。

 

「三十六計ーッ!」

 

 ベルトに内蔵したワイヤーを引き出しながら、フェンスを飛び越え下へと落ちていく。こう言う時は恥を捨てて逃げる一択! だってあの三人を相手取って勝てる気がしないもん! 

 

「シュウ君!」

「待ちなさい!」

「停止を推奨します」

 

 各々がこちらへの制止をかけながら追うようにして柵を飛び越えてきた。……今日の昼休みは飯食えそうにないな。小さくため息をつきながら地に足が着いた俺は、ワイヤーを外して走り出すのだった。




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