緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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どうもお久しぶりでございます。
希望光です。
本編の方半年ぶりの投稿ですね……大変お待たせいたしました。
それでは、本編の方をどうぞ。


第23弾 闇夜の誘い(クロス・レンジ)

「理子と一緒に泥棒しよ!」

 

 ……は? 武偵が泥棒ですか? 

 

「……泥棒?」

「うん! 泥棒」

「よし、計画犯としてしょっぴくか」

 

 そう言って俺はブレザー内のホルスターに手を掛ける。だが、俺を見据える理子の瞳は冷静なままであった。逆に俺の様を見て笑っているようにも感じられる。なんでそんなに余裕なんだ……まさか? 

 

「お前……司法取引してきたんだな」

 

 俺の頭を過った1つの理由。司法取引だ。

 

「正解! 流石シュー君!」

 

 そう言って嬉しそうにピョンピョンと跳ねる理子。お前はいつからウサギになったんだ。

 

「さいですか。んで、下手したら死刑になりそうなことを頼むってことは———何があるんだ?」

 

 俺の言葉に驚いた表情の理子は、やや俯きながら口を開く。

 

「……そこまで見抜いてたんだね」

「伊達に探偵科Sランクはやってない」

 

 俺の返答を聞いた理子は顔を上げて訳を話し始める。

 

「イ・ウーNo.2——」

「無限罪のブラドか……」

「うん……そのブラドに……御母様の形見を盗られちゃったの……」

 

 なるほど……。

 

「それで俺にそいつを取り返す手伝いをしろ、と」

「当ったりー! それで、乗ってくれるの?」

 

 普通に考えて武偵は犯罪に加担するなんてあり得ないだろう。だがしかし、俺は困ってる人の味方だ。

 

「良いだろう。その計画乗ってやる」

 

 と言うわけなので、俺は即座に首を縦に振る。

 

「聞いといてなんだけど、本当に良いの?」

「良いよ? 武偵法が怖くて武偵やってられるかよ」

 

 最近の俺はどうもどこか吹っ切れてる部分があるらしく、こんなことを平然と言う。

 でもな、ハッキリ言うと死刑にはなりたくないです。え、だってまだ死にたくないもん。

 

「そっか……じゃあ、また連絡するねー!」

「おう」

 

 頷いた俺は、踵を返し第3男子寮へと進んでいくのだった——

 

 

 

 

 

 寮の自室に帰った俺は、リビングに正座させられていた。

 

「——で、理子ちゃんと何話してたの?」

「いや、ほんと、他愛もない世間話を」

「それであんな真剣な顔しますか?」

 

 俺の言葉にド正論をかまして来るのは歳那。え、なにこの子。私のことでも見てたの?いやまさかね……。

 

「……えーっと、歳那さん」

「はい?」

「屋上から俺のこと監視してたのかな?」

「はい」

 

 首を縦に振りながら答える歳那。はい、じゃないですよちょっと。そこは正直に答えたらダメでしょうが。

 

「そこは素直に肯いたらダメだと思うよ。うん」

「それで、何話してたの?」

「いや、だから……」

「正直に」

 

 ずいっ、と顔を寄せてくるマキ。顔が近いよ……。

 対する俺は大きな溜息を1つ吐き答える。

 

「仕事の話。次の依頼(クエスト)組んでくれって言われたんだ」

「ふーん?」

「何故そこまで疑う」

「1回はぐらかしたからに決まってるじゃない?」

 

 そう答える凛音。なんか知らんが、今の一言スゲェ刺さったんだが? なんかこう、悲しくなるっていうの? うん……。

 

「普通に考えて、武偵が仕事話を漏らしたりはしないだろ……」

 

 俺の言葉を聞いた3人は少し考え込んだ後、同時に口を開く。

 

「「「確かに」」」

「分かってもらえたようで幸いです……」

 

 そう返した俺は立ち上がるが……正座による足の痺れが来ており、バランスを崩す。

 

「アウッ……」

 

 顔面からフローリングに突っ込んだ俺は体を転がし仰向けになる。痛え……。額を抑えながら、ゆっくりと目蓋を開く。

 

「シュウ君、大丈夫?」

「……ッ!」

 

 心配そうにするマキの手前、反転している俺の視界には、3人の絶対領域内が見えていた。

 慌てて目を閉じた俺は、マット運動の『ゆりかご』の要領で体を起こす。

 

「な、なんなの……?」

 

 そんな俺の様子を見た凛音が引きながら問いかけてくる。

 

「なんでも……ない」

 

 頭を抱えながら返答する俺。そしてそのまま、自室へと向けて歩き出す。え、『三十六計逃げるに如かず』っていうじゃん?

 

「ちょっと、どこに行くの?」

「部屋……やることがあるから少し篭らせて……それが終わったら、夕飯作るから」

 

 そう返した俺は、部屋に入り扉を閉める。

 

「はぁ……」

 

 今の一連の流れにより疲れがどっと現れた俺は、扉に背を預けへたり込む。

 なんて日だ。強襲科(アサルト)では見せ物にされるわ、理子の奴に窃盗……的なの手伝うことにさせられるわ、果てには見たくもない女子の下着……しかも俺が知る限り1番やばい3人。災難だよね? しかも最後のに至っては、俺じゃなくてキンジの専売だし。

 

「……っと、とりあえずやることだけやるか」

 

 切り替えた俺は、立ち上がり机へと向かう。

 

「何するの?」

「とりあえず、潜入先の情報抽出したいから理子に連絡かな……」

 

 ……ん? 俺は今誰と会話してるんだ? 

 疑問に思った俺は首のみを動かして、声の聞こえてきた方向へ視線を移す。

 

「……ッ」

 

 驚いた俺は無言のまま壁際まで飛び退く。そんな俺の視線の先には、ベッドに腰をかけるマキの姿があった。

 

「え、ん、マキさん……? どっから入ってきた……まさか天井裏から?」

「うん」

 

 コクリと頷くマキ。いやだから、『うん』じゃないんですよ。そこも認めちゃダメでしょうが。

 

「な、何の用だ……」

「シュウ君、さっき何か隠し事してるんじゃないかなと思って、ね」

 

 どうして俺の周りの女子というものはここまで鋭いんだか……。

 

「何も。さっき話したことで全部だよ」

 

 マキに背を向けた俺は机の椅子を引き、腰をかけ卓上にせっちしたPCを起動する。すると、俺の背後から首元に腕が回される。

 

「……マキ?」

「隠さないで……教えてよ……またあの時みたいなことになったら私……」

 

 涙ぐんだ声でそう告げてくるマキ。

 

「マキ……ごめんよ……」

 

 そう返した俺は、自身の左肩に乗せられたマキの頭をそっと撫でながらこう続ける。

 

「でも、このことを話したらマキは俺に対して幻滅すると思う……というかある意味では自分の身が危うくなるから言いたくないんだけど……」

「言って」

「何もしない……?」

「うん」

「さっき倒れて起き上がろうとした時その……3人の下着が見えました……ッ!?」

 

 そこまで言い切ったところで、首に回されていたマキの腕に力が込められる。あ……待って絞まる……死んじゃう……ッ! 

 慌てた俺はマキの腕を軽く連打しギブアップの意思を示す。それに応じるかの様に、マキは腕を緩める。

 

「ゲホッ……ゲホッ……」

 

 噎せながら息を整える俺。そんな俺に、マキはこう言う。

 

「私の涙を返して」

「マジでゴメン……でも、だからって殺そうとしないで……いや、ホントごめんなさい」

 

 謝罪とともに反論するアレだが、既に抜き出(ドロー)されていたグロックを向けられたため、再度謝罪する。

 

「言い訳だけすると完全に不可抗力なんです……」

「本当に……?」

「本当だって……」

 

 俺の言葉を聞いたマキは、数瞬の後グロックを下ろす。

 

「分かった。そういう事にしておくよ」

 

 そう言ってホルスターにグロックを仕舞うマキ。

 

「よく考えると、シュウ君にそんなことする度胸ないもんね」

 

 ……ん? なんかさり気無くディスられてない? 

 確かに正論だろうけどさ……まあ、理由はともあれ疑いが晴れたのは良かったとするか……。

 

「ねぇシュウ君」

 

 そんなことを考えていると、再度ベッドに腰をかけたマキが声をかけてくる。

 

「何?」

「この前さ、やりたいことがないかって聞いてきたじゃん?」

 

 ……そういや武偵病院でそんなこと言ったような。

 

「それがどうかしたか?」

「もう1つ追加したいんだけど」

「構わんが……なんだ?」

「今日……一緒に寝たい」

 

 ……はい? 一緒に寝たい? 

 

「えーっと……どういう意味ですかね」

「そのままの意味だよ……」

 

 頬を赤く染めながらそう答えるマキ。

 

「同じ布団で……?」

「うん……」

 

 マキさん……本気(マジ)ですか……。

 

「できればご丁寧にお断りしたいのだけれど……」

「もし寝てくれるなら、さっきのこと黙っててあげるから……」

 

 俺に抱きつき耳元で囁くマキ。半ば脅しだねぇ、これ。というか最近、マキとのスキンシップが多いような……。

 

「どう、終わった——」

 

 なんてことを考えていると、突然部屋の扉が開かれ凛音が姿を現す。ていうかこのタイミング最悪じゃね……? 

 案の定、プルプルと震え始めた凛音は、何処からともなく取り出した刀を抜刀する。

 

「こっちは待ってるのに……何やってるの!」

「待て! これは——」

「問答無用!」

 

 その台詞と共に突き出される刃の切っ尖。慌てた俺は、マキをベッドの方へ軽く投げて退避させた後、椅子ごとバランスを崩し後方に倒れることによって攻撃を退ける。

 だが、安堵したのも束の間。直ぐに刃が真下に向かって振り下ろされる。

 

「ヤバッ……!」

 

 急いで俺は首元の緩めていたTNK繊維(防弾・防刃)製のネクタイを外すと、両手で張り刃を受け止める。

 あ、危ねぇ……。

 

「凛音、一旦話を聞いてくれ……」

 

 刃を押し返しながらそう言葉をかけてみるが、応答は無い。

 

「——凛音、シュウ君は悪くないよ」

 

 そんな中で打開策を考えていると、マキが凛音に言葉をかける。

 

「え、でも……」

「今のは私からした事だから、シュウ君を責めないで……」

 にそ、そう……マキがそう言うなら……」

 

 マキにそう返した凛音は、刀を鞘に収める。……なんでマキの言葉には耳を貸すんですかね? 

 

「日頃の行いが悪いからでしょ?」

「やっぱり酷いよね?!」

 

 半泣きで反論した俺は立ち上がる。

 

「夕飯半分にしてやる……」

「え、それだけはやめて?!」

 

 大人気ない俺と、その一言が衝撃だった凛音。まあ、もう慣れてるかな……この日常に。

 そう思った俺は、台所へと向かうのだった———

 

 

 

 

 

 翌日、横浜駅に降り立った俺。昨晩理子にメールしたところ、今日紅鳴館に潜入してほしいと言われたためこうして横浜へと足を運んでいた。

 

「完全に寝不足だ……」

 

 重い目蓋を擦りながらボヤく俺。完璧な余談だが、結局昨晩はマキさんの有言実行によりマキさんと同じ布団で寝ました。はい。

 お陰で一睡もできなくてご覧の有り様。対するマキさんは——熟睡してたね。

 

「さてと……サクッと終わらせますか」

 

 俺は駅を出てまっすぐと目的の場所である紅鳴館を目指す。そして駅を出て数十分後、紅鳴館に辿り着く。

 

「と、遠い……」

 

 荒くなった息を整えながら、館の視察をする。第一印象は……なんか、不気味なんだけど。とまあ、それは置いておいて……とりあえずどっからか侵入できないか調べてみますかね。

 ぐるっと敷地の外から屋敷を一周してみると……なんでか床下にダクトがついてる箇所を発見。

 俺は塀を飛び越えるとそのダクトの蓋を外す。

 

「……いけるな」

 

 呟いた俺は、ダクトの中へと忍び込み、屋敷の廊下へと顔を出す。

 人の気配は……無いな。確信した俺は、今度は天井裏へと忍び込む。

 

「さーてと、こっからは……見取りのお仕事だよ」

 

 口角を吊り上げ不敵な笑みを浮かべる俺。……冷静に考えるとヤバい奴だな、今の俺。

 そんな思考を遮った俺は、館内を隈なく探る。ここがこうで……こうなると。で、カメラや階段の位置はこう……と。見取り図をその場で書き終えた俺は、来た道を戻り紅鳴館の外に出る。

 

「……っと。理子に事後報告だけして行くか」

 

 そう呟いた俺は、携帯電話を取り出しながら横浜駅へ向けて歩き始める。

 

「理子の奴の番号は……と、あったあった」

 

 理子の番号を見つけた俺は理子に電話をかけてみると、3コール後に応答する。

 

『やっほーシュー君! どうかしたのかな? あ、もしかして理子へのラブコール?』

「んな訳あるか。調査終了の報告だ」

『ちぇ〜、そっちの方か』

 

 そっちじゃなきゃどっちがあるんだよ……。

 

『それで、どうだった?』

「館内は至ってシンプルな西洋建築だったよ。()()()()()()

『一部を除いて?』

 

 先程とは打って変わり、ハイジャックの時と同じシリアスな口調へと変わった理子がそう尋ねてくる。

 

「ああ、地下室だけ妙にハイテクだった。なんせ、暗証番号機能付きの自動扉を採用してるんだぜ?」

『つまりは——』

「保管庫も兼ねた部屋ってことさ」

 

 俺は推理による結論を理子に告げる。

 

『内部情報は?』

「生憎だが……今日はそこに入るための道具を持ってなくてな。その代わりに、部屋の内部情報のスキャンはした。今日帰った後、纏め直して送るつもりだが……。それで足りるか?」

『もちろん。アタシを誰だと思ってるの?』

「おっと、そうでしたね。『()()()()』さん」

 

 やや皮肉まじりでそう返す俺。

 

「じゃあ、そういうことだから」

『あ、この後マッキーとデートなんだっけ?』

 

 電話を切ろうとしたら、普段のトーンに戻った理子がそんなことを言ってきた。

 ……ん、ちょっと待て。

 

「お前何で出かけることを知ってる。後言っとくが、デートじゃないぞ」

『理子はなんでもお見通しだよー』

 

 こいつ……。

 

「はぁ……もうなんでもいいや。ところで、今思い出したんだが……報酬の件を聞いてなかったんだが」

 

「おっと、そうだったね」と呟いた後、理子は切り出す。

 

『じゃあ、理子の知るシュー君の親しい人に逢わせたげる』

「……誰だよそれ」

『——従姉弟、って言えばわかるかな?』

「……ッ?!」

 

 理子の言葉に、思わず携帯を落としそうになる俺。

 

「その話マジか?」

『理子は嘘つかないよ?』

 

 ……確かに。理子は人の事を茶化したりはするが嘘を付いた試しがない。

 

「分かった。信じる。それで、日時とかは?」

『この件が片付いてからだね〜』

「了解。また何かあったら言ってくれ」

『うん。シュー君もマッキーと楽しんできてね!』

 

 一言余計だろ……と、内心でボヤいた俺は通話を終了する。

 

「しかし……なんで理子が……」

 

 そこまで考えたところで、俺はその思考を遮る。今はこのことを考える必要はない。当人に会えるなら、そこで聞けばいい。

 そう自身に言い聞かせた俺は、横浜駅へと向かう。来た道を歩く事数十分後、横浜駅に着くと見慣れた姿を見つける。それとほぼ同時に向こうもこちらに気づいたらしく駆け寄ってくる。

 

「お待たせ」

「私も今来た所だよ」

 

 微笑みながらそう答えるマキ。どうでもいいけど、今の俺達は普段の武偵高の制服ではなく私服である。勿論、防弾(TNK)繊維製のな。

 俺は黒の半袖パーカーにジーパン。

 マキが白地のワンポイントTシャツにベージュのカーディガンを羽織り、デニム生地のショートパンツと言った格好である。

 

「しかし……本当に横浜(ココ)で良かったのか?」

「うん。前々から行きたかった所もあるからね」

 

 なるほど、と納得した俺は頷く。

 

「因みに最初はどこから行くつもりだ?」

「とりあえず海沿いからかなぁ」

「了解」

 

 そう返した後、俺とマキは歩き出す。そんなこんなで汽車道を通り最初に訪れたのは、かの有名な赤レンガ倉庫。

 

「デカいな」

「そうだね。中入ってみよ?」

 

 小学生並みの感想を述べる俺と、それに同意してくれるマキ。

 そんな俺達は、赤レンガ倉庫の中に入り30分程ウィンドショッピングを楽しむ。

 そして赤レンガ倉庫を出た後、みなとみらい線に乗り元町・中華街駅へと向かう。

 

「平日なのに割と混んでるな」

 

 地下の駅舎から地上に出た俺の第一声はそれであった。

 今更だけど、もっとマシな言葉なかったのかな俺……。

 

「みたいだね。ところで、何食べる?」

「うーん……見ながら考えたい」

「そっか。じゃあ、いこ」

 

 マキと共に歩き出す俺は、人混みの中へと歩いていく。

 その後、横浜中華街を満喫した俺達はランドマークタワーへと向かう。

 

「色々回ったけど、〆はここか?」

「うん。展望台から夜景が見たくてね」

 

 気恥ずかしそうに笑いながら、そう答えるマキ。つられる様に俺も微笑む。

 そんな調子で69階の展望台へと上がる俺達。そこで目にしたのは、ライトアップされたパシフィコ横浜と海を挟んで奥にある首都高の橋をメインとした夜景であった。

 

「綺麗……」

「ああ……」

 

 互いに窓の向こう側に広がる景色に目を奪われたまま、言葉を交わす。そんな人間の営みによって生まれた景色は平和の証でもあることを、俺に教えてくれる。

 

「……守らないとな」

「シュウ君?」

「こうしてある景色を守るためにも……『平和』ってものを守らないとな、と思ってね」

「そうだね。それが、私達の仕事だもんね」

「ああ……」

 

 画して新たな覚悟を刻んだ俺……いや、俺達はランドマークタワーを後にし、帰寮するのであった。

 因みに完全な余談となるのだが、翌日は武偵高では中間テストと体力テストが行われ、その際俺は範囲の勉強をしていなかったために考査の方は歴代最低点数を叩き出すこととなってしまうのだが、それはまた別のお話——

 

 

 

 

 

 

 横浜へ行った数日後、教室に居る俺はノートPCと睨めっこしていた。

 本日より2日前に起こった保健室を『コーカサスハクギンオオカミ』が襲撃してきた事件の調査をしていたからだ。しかし……何もわからん。

 

「コーカサスハクギンオオカミの生態系を調べたところで分かることもなし……投げたくなってきた」

 

 PCを閉じながらボヤく俺。とりあえずあいつのところにでも行ってみるかな……。そんなことを考えていると、俺の元にレキがやってくる。

 

「……どうかしたのか?」

「今日の1900(ヒトキュウマルマル)狙撃科(スナイプ)棟の屋上に来てください——()()()()()()()

 

 なるほど……先日の宣言を実行する気か。

 

「……了解だ」

 

 頷いた俺は、そのままレキの横を通り過ぎ教室を後にする。そしてそのまま、情報科(インフォルマ)棟へと赴く。

 

「由宇、いるか?」

 

 一室の扉を開き覗き込む俺。すると、それに呼応するかのように由宇が振り向く。

 

「あ、来た」

「待たせた……って、こっちは誰?」

 

 首を傾げる俺は自身の視線の先——即ち由宇の傍らに立つ銀髪色白の少女について問いかける。どっかで見た様な……。

 

「パリ武偵高から来たジャンヌだよ」

「ジャンヌ……ああ、思い出した。『魔剣(デュランダル)」か。尋問科(ダギュラ)で綴に虐められてた」

 

 俺の言葉を聞いたジャンヌは、苦虫を噛み潰したような顔をした後、咳払いを1つする。

 

「……ということだ。表向きは、な」

「司法取引ね……というか、由宇もわざとああやって紹介したよね?」

「あ、バレた?」

「バレバレだよ……っと、なんでジャンヌはここに?」

 

 うむ、と言ったジャンヌはこう答える。

 

「彼女が先日現れたコーカサスハクギンオオカミの事について追っていると聞いてな」

「……何か知ってるのか?」

 

 俺の問いかけに頷くジャンヌ。

 

「あのオオカミはブラドの下僕(しもべ)と見るのが妥当だ」

「なんだと……!」

 

 ジャンヌの言葉に戦慄する俺。まさか、オオカミを使役してるってのか……?

 

「奴らは世界各地にいて、命令無しに直感頼りの遊撃ができる」

「めちゃくちゃ優秀じゃねぇか、オイ」

「誰かさんとは大違いだね」

「なんで俺を見ながら言う」

 

 俺を見ながら訳のわからないことを告げてくる由宇と、それに反論する俺。

 確かに指示待ち人間な自信はあるけどさ……これでも昔よりマシにはなってるんだぜ……? 

 

「……とまあ、情報がもらえただけでも有意義だ。ジャンヌ、ありがとな」

 

 思考を遮った俺は、ジャンヌに礼を言い部屋を去ろうとした。すると、ジャンヌに呼び止められる。

 

「ああ、それともう1つ」

「……なんだ?」

「お前にだけ伝えるが——『リーパー』が入国した」

「……ッ?!」

 

 リーパー……だと……ッ! 

 

「あいつが……か?」

「そうだ」

「……ありがとよ、ジャンヌ。お陰で次の目的が見つかったよ」

 

 それだけ言い残して、今度こそ部屋を後にする。そして、第3男子寮に帰寮する。

 

「ただいま……」

 

 玄関の扉を閉めながらそう言葉を飛ばすが、中から返事はない。……ああ、そっか。

 凛音と歳那は、実家に呼ばれて戻ったんだった。マキは……今日は遅くなるとか言ってけかな。

 

「久々1人か……」

 

 1人ボヤきながら自室に入っていく俺。そして、クローゼットからケースを取り出して開き、中にあるパーツを組み上げていく。

 

「メンテは欠かさずにやってるから……いけるよな」

 

 組み上がった武器——M110Aを見ながら呟く。この前1発だけ撃ったが……狙撃手(スナイパー)のブランクは長い。

 

「今は……やれることをやるだけ……だな」

 

 自身にそう言い聞かせた俺は、来るべき時刻に向け準備を進め18時半頃、寮を出た。M110を担いだ俺は人目の付かないところを通りながら狙撃科棟へと向かう。そして、約束の時刻である19時ジャストに狙撃科棟屋上に到着する。

 するとそこには、レキの他に大型の白狼……先日の襲撃犯とみられるコーカサスハクギンオオカミと担任である蘭豹、そして狙撃科の担当教師である南郷がいた。

 

「樋熊、少し遅いで」

「すいません。それより、これはどういうことなんですか?」

「なんや、何も聞いとらんのか……と、その前に」

 

 何かを言いかけたところで白狼が唸り声を上げ、それに反応した蘭豹は俺の背後へと視線を向ける。

 同様に南郷もそちらへと視線を向けていた。それに続くようにして、俺もそちらを向く。

 

「誰や、そこにいるのは。大人しく出てきたら懲罰は不問にしたるで」

 

 蘭豹の言葉の後、物陰から姿を現したのは——マキであった。

 

「……マキ」

「樋熊、お前尾行に対しての感覚が鈍っとらんか?」

「滅相もございません……と、マキは何してるんだ?」

 

 蘭豹の言葉に頷いた俺は、マキへと問い掛ける。

 

「帰ろうとしたら怪しい動きをしているシュウ君が見えたから」

「……そうですか」

 

 落ち度が完全に俺にあったことを悟った俺は蘭豹の方へと向き直る。

 

「それで、今回はなんなんですか」

 

 改まって聞き返した俺に対して、蘭豹はこう返す。

 

「決まっとる。お前のランク考査や」

 

 ランク……考査? 

 

「南郷先生がいらっしゃるということは……」

「そや。狙撃科や」

「試験内容は?」

 

 俺の質問に南郷が口を開く。

 

「今から——レキと戦ってもらう」

 

 その言葉の後、初夏を匂わせる夜風が俺とレキの間を駆け抜けた。まるで嵐の前の静けさ、と言わんばかりに。




今回はここまで。

そして、先日7月18日を持ちまして、この作品『緋弾のアリア 〜Side Shuya〜』は連載開始から3周年目を迎えました。
相変わらずの速度ではありますが、これからも可能な限り続けていきたいと思います。
応援の方よろしくお願いいたします。

さて次回のお話は?
ランク考査でレキと戦うことになったシュウヤ。
勝負、考査の行方は?
そして、その後に起こる新たな展開とは?
次回、『緋弾のアリア 〜Side Shuya〜』
第24弾「荒れる空模様(ブラック・エコー)」』
どうぞお楽しみに!

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