咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『千里山を背負って①』団体模擬戦イベント

 千里山女子校内での麻雀部合宿はゴールデンウィークのウチ三日分、正確には二泊三日の二日半日の形態で行われる。

 さすがに大型連休を前提とした合宿であるため、参加は任意で、途中帰宅も認められているが、千里山は麻雀部に相当の熱意を持つ学校だ。生徒にも伝播したそれは、総勢九十名前後、ほぼ全員の参加という形で現れていた。

 

 旧校舎麻雀棟。このゴールデンウィークにおける文化部の活動は麻雀部を覗いて存在しないため、麻雀棟のすべては貸切状態だ。

 中には使われていない空き部屋や、旧校舎時代に使われ、今は家庭部という部活の活動場所となっている調理室が存在している。

 麻雀棟として使用されることに決まった時からこういった合宿を想定しシャワールームまで新設されていた。

 

 ちなみに旧校舎は校庭に面して作られているので、運動部との兼用である。

 

 今日は合宿二日目、一日目は個人戦を想定した特打ちを行い、二日目は団体戦を前提とした模擬練習を行うことになっていた。

 合宿に参加している部員を五人一組に組み分けし、それぞれ団体戦と同じルールで半荘を行うのだ。

 県予選決勝以降は半荘を二回行うのだが、時間短縮のため今回は半荘一回である。

 

「……えっと、ロンです、6400」

 

 今は円依の振り分けられたチームの副将戦だ。円依のチームは二軍の生徒が多く、極々平凡的な打ち手が多い、例外は三軍の一年生、弥栄子であるが、今日は調子がいいのか収支で一軍の生徒を含む三人を上回っていた。

 現在円依チームの成績はトップ、この和了りで半荘が終了したため割と点数には余裕がある。

 

「さて、瀬野、この状況は恐らく県予選や全国の二回戦までは十分想定されうる状況や、準決決勝のような大舞台ではそうも如何かもしれんが、基本的に千里山の大将であるあんたには、こうやってトップでバトンが回ってくることが想定される」

 

 半荘に入る直前、円依に監督からの忠言が入る。円依の特性上、こういった局面での暴走は褒められたものではない。

 圧倒的なリードを保つのであれば話は別だが、今回のようにリードがほんの一万二万程度では、円依の特性が悪癖とかす可能性がある。

 

 それらのリスクに蓋をしてでも、円依のトップ率は魅力的だ。そうした中での監督の対応策は、こうした環境下での円依の登用、及び練習の積み重ねであると判断した。

 

「はい!」

 

 円依もその意味を確り理解している。どうしても一位を狙い、勝利を狙おうとするのは彼女の雀士としての昔からのスタイルなのだが、その分欠点としての自覚も大きいのだ。

 

「意義や好! 他の部員たちも、円依をはたき落とすつもりでやるように!」

 

 鼓舞するように言葉を述べると近くにいた牌譜記録係の少女に念押しするように声をかけ、監督はその場から去っていった。

 とはいえ周りには観客も多い、緊張という面では先ほどまでとさほど変化はなかった。

 

 程なくして半荘が始まる。

 円依はその半荘において、一位を維持するために、わかりやすいほどに他者を幻惑することを目的とした闘牌を見せる。

 東一局、先ほどの監督の言葉をガン無視するかのようにいつもの打牌をし、八巡目にツモ、自重をするつもりはないのだと周りにアピールしてみせる。

 

 続く東二局。円依の親番にて先ほどと同じオカルトな闘牌が炸裂。この時対面が一向聴まで手を進めていたのだが、十巡目のドラ切りに臆し、態々聴牌した牌を崩しその後流局。

 しかし、ここで問題になったのは円依が聴牌をしていなかったということだ。そう、円依は他家を騙してみせたのだ。コレにより他家三人は酷く困惑することになる。

 その後他家が幻惑された隙を付き、円依が二連続で安手を上がる。

 

 ここまで一方的なワンサイドゲーム、点数の移動は少ないとはいえ完全に円依に流れをやってしまったまま状況は南場へと流れていく。

 

 南一局も速度は変わらず、なんとか親の上家が調子を取り戻したのだが、円依の正確な打牌に手も足も出ず、すぐさま親を流されてしまった。

 

 そして南二局、円依二度目の親番。他家三人は今回もまた流局を狙ってくるだろうと、それぞれツモ上がりもしくは直撃を目的とした手作りを開始する。

 円依は先ほどの親番を焼きまわしするかのような不気味な打牌、安牌と危険牌の境目すらも消し飛ばす打ち筋に、他家はむしろ真正面から挑んだ。

 しかしそれが裏目に出る。円依はオリていなかった。むしろこの親番でとどめを刺すつもりなのだ。

 結果、無理なドラ切りリーチを仕掛けた下家にこれが直撃、倍満手を一手に負う形となった。

 

 一本場でも止まらず、円依はそのままオヤッパネをツモ上がり、この対局を決定づけた。

 二本場、南三局では他家の手配のリーチ、猛追を交わし見事なベタオリを披露。他家の踏ん張りでオーラス二本場まで対局はもつれ込んだものの、焦れた親、対面の手から安手を直撃ですくい取り終局。

 一方的な勝ちを、観戦していた部員たちに魅せつけた――

 

 

 ♪

 

 

 あまりにもあまりな展開から、泉にやりすぎだと茶々を入れられたものの、別に円依の対局すべてがこうもうまくいったわけではない。

 丁度怜が先鋒に入ったチームと激突した際は、円依への警戒が強かったのかこれでもかというほど円依チームが叩かれラス目、なんとか大将戦までには三位と持ち直したものの、円依の成績も振るわず、二位にこそなったものの、一位の怜チームをまくることはかなわなかった。

 

 下位からの逆転というのは円依の起用理由であり彼女が最も得意とする分野だ。しかし円依自身の調子が下がり、また他家にうまく円依の手を交わされたこともあってか、円依はその実力を存分に発揮することは出来なかった。

 監督は、

 

「一年生やし、団体戦への出場経験も乏しいやろ、個人の逆境ならともかく、チーム全体での逆境には、まだ瀬野自身が対応できていないんやな」

 

 として、円依にアドバイスを送った。

 

 千里山の団体戦オーダーは、千里山が最高の形で力を引き出すためのオーダーだ、しかしその個人は、決して完璧というわけではない。

 今回の円依のように、他の面子にもミスが目立った。

 

 セーラが一位の自チームに点差を加えるために無理をして、むしろ収支としてはマイナスという形で敗北してしまった状況があった。

 一人が無茶をすれば他の部分ががたがたと崩れ落ちる、そのままセーラのチームは勢いをなくし、ラスになってしまった。

 

 怜が不調に陥り、二巡ごとに裏目を引き、リーチ後にことごとく直撃を掴まされたりなど、とにかく裏目裏目に結果がいたってしまうこともあった。

 泉も円依のように経験の乏しさからか、得意とする攻めと守りのバランスを欠き、調子を崩す場面が何度かあった。

 

 この模擬戦において、安定した成績でプラス収支を残し続けたのは、清水谷竜華のみであろう。どれだけ調子が悪くなろうと、無理な攻めに出ず、少ないチャンスでなんとか大物手を作り上げる。

 鋭い打牌と真っ直ぐな自信、的確にして適格すぎる竜華のそれは、監督をして、“まるで欠けていたものを取り戻したかのようだ”と絶賛された。

 

 とはいえそれはほんの一部、問題点が決してなかったとはいえない。それぞれ練習でも十分にそれはわからされていることだ。

 竜華とて、自分の力を慢心に取れば、途端に足元を掬われる。

 

 最高なコンディション、ベストな状況とは、えてしてそういった紙一重のバランスの中にあるものだ。

 

 円依達レギュラーメンバーは、それを確り理解しながら、練習を続けた――

 

 

 ♪

 

 

 最後に、千里山のレギュラーメンバー五名と、それ以外の一軍、および今回の模擬練習において優秀な成績を収めた二軍以下の生徒十五名を選抜し、全国での舞台で打つことを想定した練習が行われた。

 

 千里山は全国屈指の麻雀部である、その中でも一軍、レギュラーメンバーを目指す位置に立つ人間は、その実力も屈指である。

 さすがに現行のレギュラーとはレベルが違うが、それでも各県においての強豪レベルの強さは持っていた。

 

 つまり、千里山はさほど麻雀が盛んではない県でなら、レギュラー以外のメンバーでも、十分全国へ行けるレベルを持っているのだ。得もすれば第二回戦への進出も決して夢などではない。

 

 ルールは全国のものと同じ半荘二回の持ち点十万点スタート。

 先鋒は当然怜、時間の関係もある、手早いテンポで対局が開始された。

 

 前半戦序盤、怜は一度リードを他家に許す展開、速さの上で怜を上回ってくる先鋒がいたのだ。

 しかし怜の聴牌速度は部内でも随一、すぐさまその速度に追いつくと、すかさずリードを奪い返した。

 その後は怒涛の連続和了が続く。

 

 最初は軽いジャブのような和了りであったが、親番に入った途端得意のイナズマのような一発ツモが炸裂、オヤッパネで他家を引き離す。

 終わってみれば他家を平らに叩き自身は四万点近い点差をつけての一人浮き。その圧倒的な力をみせつけた。

 

 続く次鋒、竜華は極々順当な麻雀を展開する。他家の次鋒との軽い稼ぎあいに発展するも、安定した打牌で追い上げを交わし、収支トップで後半戦へ折り返す。

 後半、唐突に四巡目で他家が倍満を竜華に直撃させる展開になるも、前半の収支、及び後半での怒涛の加速で一万点のプラス収支で対局を終えた。

 

 中堅は千里山の稼ぎ頭、セーラが座る位置ではあったが、ここに来て今日調子の良かった下家の二軍部員が吹いた。バカヅキ状態に入った下家が怒涛の上がりを見せる中、なんとかセーラはそのツキを周りに受け流す。

 結局前半戦は圧倒的な収支を下家に許しながらも、セーラ自信はギリギリ+に収まる上りをしてみせた。

 

 後半戦、若干勢いを落とした下家にセーラが肉薄。あわや収支トップをまくろうかという展開。最終的に収支トップは下家に譲るもののきっちり他家との点差を広げていた。

 

 副将泉、地味な闘いながらもプラス収支で半荘二回を終えている。対局自体は一万点以上の点差が動くことのない地味なものであったが、ここで特筆すべきはそこではない。

 この副将戦において、泉は一度も振り込むことがなかった。おやっかぶりもうまく他家に押し付けている。泉らしいといえばもっともな状況で副将戦は終了した。

 

 大将戦、トリを務める円依は模擬戦時にも使用した幻惑戦術で他家を苦しめる。模擬戦時のような派手な上がりはないものの、安手とオリを併せてのしかかるプレッシャーは他家のウチ二人を抑えるに至った。

 しかし後半戦序盤、思わぬアクシデントに襲われる。円依が安手で上がろうとすることを前提とした打ち方を続けていた大将――浩子が務めていた――に満貫の直撃を受けたのだ。

 それから、中堅戦で大量リードを得、得点に余裕のあった浩子とのチキンレースが繰り広げられる。

 あわやオーラスで役満直撃されれば負けるという状況まで追い詰められるものの、なんとかそれを抜け出し円依が勝利、団体模擬戦に決着を付けた。

 

 結果。

 千里山レギュラー:162100

 Aチーム:108400

 Bチーム:72600

 Cチーム:56900

 

 これにて校内合宿は二日目の日程を終え、各自の個人練習やフリーの時間として残り時間が使われることになる。




多分本作で一番持ち上げられてるのは竜華。
泉の完全上位互換みたいな立ち位置と言えばそのとんでもっぷりが解るはず。

後セーラがなんかオカシイ、バカヅキ相手にまくるとか信じられないし。
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