咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『焔に寄り添う雪女』第二回戦次鋒戦

 邁進する阿知賀女子。

 二度の役満により、圧倒的な点差で他校を一気に突き放し、独走態勢に入る。他校を抑えての混戦も覚悟の上だったろうが、結果的に最上の形でバトンを回すことができた。

 猛追する千里山。

 前半戦序盤こそ、荒稼ぎし他校を圧倒したものの、終わってみればギリギリのプラス収支と、厳しい結果に終わった。前半ラス親での役満親被りは、やはり厳しいものがあったようだ。

 足踏みするのは越谷女子と劔谷高校。

 怜と玄、全国クラスのエースカードの対決に、ほぼ翻弄されるしかできなかった先鋒二人は、多大なマイナス収支を抱えて後続へバトンを渡すことになる。諦めムードも、無理のないことだ。

 

 強豪千里山が苦戦するダークホース、阿知賀女子、奈良の強豪晩成を圧倒的な収支で上回っただけでなく、全国においても、一回戦は他校を飛ばしての終了となった。

 一回戦での点差は、二回戦のそれと比ではないが、果たして今回はどうか。

 

 次鋒戦を務めるのは、二人の選手が注目を集めていた。

 阿知賀、松実宥。阿知賀を支えるもう一人の支柱にして、阿知賀唯一の三年生。

 千里山、清水谷竜華。部長にして部内ではナンバー3の総合成績を残す実力者。

 どちらも三年生にして、その高校を代表する選手でもある。彼女たちがこの次鋒で戦うことは、その後の中堅以降に、大きな影響を与えることは、語るまでもないだろう。

 

 それぞれが準備を終え、卓につく。

 待機していた時間はいくらか、いつものそれよりも圧倒的に長く、刹那のように短い。

 期待もあり、緊張もある。だれもがこの第二回戦次鋒戦、波乱を予感していた。

 

 東家は竜華、南家が劔谷、依藤澄子、西家は宥、そして北家が越谷、浅見花子となった。

 

 広く大きな対局室の、その一角を陣取った四人は、それぞれの思いを胸に牌を手に取る。

 目指すものはただひとつ、到達点を許されたのは一人だけ、竜華が、宥が、対面として居座る二人の少女が、真正面から睨み合う。

 

 

 ――東一局、親竜華、ドラ表示牌「5(赤)」――

 

 

(……なんや、違和感ある手牌やなぁ)

 

 ――竜華手牌――

 一一七八九①③③⑥⑦⑧東發  中(ツモ)

 

 開始早々の第一打、竜華は少しだけ手を止めた。

 あまり時間を賭けてはいけない状況であるから、一応すぐさま打牌を決めはしたのだが。なにやら胸に残るものがあったらしい。

 

 竜華/打發

 

(思っ苦しい手牌やけど、配牌二向聴、鳴いてチャンタ系を作ってもええし、腰を据えて純チャン目指してもえぇ、……まぁ、起親やし、鳴かずに行こか)

 

 高い手が欲しいのも事実。トップとの点差、ほぼ四万点あるそれを縮めるには、できればここで高い手を上がっておきたい。

 セーラが後ろに控えているから、一万点稼ぐ程度でいいだろうか。

 

 澄子/打1

 

 宥/打②

 

(阿知賀は好配牌か? 円依いわく、“赤い牌”らしいけど、はて……?)

 

 竜華/ツモ中

 

(役牌が重なったか、出れば鳴いてもええな)

 

 竜華/打東

 

 思考しながらも、手を進めていく、有効牌は多く、また速攻にも移行できる手、面前でチャンタが付けば、立直込みで満貫確定だ。

 出だしとしては快調な手だが……

 

 数巡後。竜華は苦しげに嘆息した。

 

(嵌張、かぁ)

 

 ――竜華手牌――

 一一七八九①③⑥⑦⑧中中中 ⑨(ツモ)

 

(……満貫確定、ここはまぁ待ちは悪いけど――)

 

「リーチ!」

 

 竜華/打⑥

 

(自摸ればええんや、自摸れば)

 

 四巡目にして最速のリーチ、他家は大いに同様したことだろう。急所はサブロー筒、わかってはいることだが、ここから手を進めるにしても、進め内にしても、このリーチは相手にしなくてはならないのだ。

 親の先制に、劔谷と越谷が大きくうめいた。

 

 そして、

 

(――ちゃう!)

 

 竜華は大きく憤っていた。

 ここまでツモは振るわず、他家が当たり牌を出すこともない、もとよりその当たり牌が危険であることもあるが、五筒は自分でツモったのだ、もし攻めるなら、二筒は出ても可笑しくない牌だろう。

 

 結局、竜華はこの東一局、和了ること無く終了する。

 

「ツモ、1000、2000」

 

 それは阿知賀からの和了り宣言だった。

 ――宥手牌――

 三三②②②⑤(赤)⑥⑧⑧⑧234 ④(ツモ)

 

(ぜ、全部使われとる……よりにもよって、四枚とも阿知賀かいな……っく!)

 

 竜華が歯噛みし、対局は、ゆっくりと時を刻む張りのように、刻々と、止まること無く進行する。

 

 ――控え室。

 

「んなぁ!」

 

 同時刻、円依の声が控え室内に響いた。体を前のめりにして、ほとんどモニターにかぶりつくような形で、車椅子が飛び込んでいった。

 

「な、なんや!?」

 

 大きな長椅子を陣取って、眠りこけていた怜が起き上がる。他の三人は、ぎょっとした様子で円依を見る。

 

「……っそ、阿知賀の次鋒、やってくれるじゃん」

 

 円依のつぶやきをよそに、再始動を最初にとげたのは、以外にもセーラだった。怜が咳き込むのを見て、冷静さを取り戻したのだろう。

 すぐさま怜の元へ駆けつけると、円依へ。

 

「声がでかいわ!」

 

 と軽く怒鳴りつける。円依はそれに振り返って勢いだけを込めた声で。

 

「すいません!」

 

 そう返すと、再びモニターへかぶりついた。

 他の二者、浩子と泉の反応はそれぞれだ。円依程ではないが、この一局に違和感を覚えたらしい浩子はタブレットを維持って牌譜を確認している。

 泉は円依に近づくと、車椅子ごと円依をテレビから引き剥がす。

 

「おわぁ!」

 

 思わず声を上げながら、少しだけ不満そうな目を泉へ向けつつ、円依は泉の言葉を待った。

 

「何事なん? 円依がそんなに声を荒げるなんて」

 

「ちょっと想定外のことが起きたんだよ、責任を感じてるだけ」

 

 言いながら、円依は腕組みをしながら考える。

 厄介なものだと、その顔は苦渋に歪んでいた。その時だった。

 

『ロン、3900』

 

 モニター内で盤上が動いた。

 劔谷から阿知賀の出和了り、宥が鳴きの手を三翻に仕上げてきたのだ。

 

 ――宥手牌――

 ②②⑧(ドラ)⑧(ドラ)234678 ②(和了り牌) 白白白

 

「……肝を冷やす配牌やね」

 

 高ければ、ほぼ満貫、未だ巡目は七巡目であるから、高めが出なかったことはかなりの偶然であるといえる。

 それにしても……と泉は手牌へ意識を移す。そこに浩子の声がかかった。

 

「なぁ、円依、あんたのいう“赤い牌”ってほんとに集まってくるんか?」

 

 それは作戦会議中、円依が宥の特徴として上げた事だ。彼女のツモには偏りがあり、それは赤い牌が集まるということ……だそうなのだが、

 

「……ちょっと、認識ミスってたみたいです」

 

 円依は、そんな問に悔しげに答えた。

 彼女自身としても、この結果は予想の外にあったのだろう。

 

「なら、今はわかるんか?」

 

「……えぇ」

 

 そうして、告げる、円依の見た真実。

 それは浩子をして驚かせ、泉にわけがわからないと、思わせるには十分だった。

 

(――お願いです、部長……気付いてください、その人は……松実玄よりも、もっとやりにくい相手だ…………!)

 

 ――対局室。

 

 “それ”を感じ取れたのは、千里山の竜華だけだった。他の二校は気づかない、“それ”に、“その気配”に。

 ――竜華は、体中が汗にまみれていることに、その瞬間気づいた。

 

(なんや、これ)

 

 最初は単なる緊張からにじむものだと思ったが、どうもそれは違うように思える。“その気配”はあまりにも、竜華に熱を与えすぎたのだ。

 ――熱い、体が、燃えるように熱い。

 

(いつから、こんなんなったんや)

 

 気づかぬ間に、自分は何かに侵食されて、それを自分は甘受していた。わけがわからない、自分に何が起こったのか理解できない。

 なぜ自分が――自分だけではない、他家がこんなにも、暑さに苛まれているのか。

 

 まるで太陽に焼かれているかのような、感覚を失うほどの暑さ。そんなもの、さっきまで感じることもなかったのに。

 

(ここ……冷房壊れてるんとちゃうか?)

 

 まるで地獄だ。

 灼熱地獄、ただそこに在るだけで、自分を根こそぎ奪い取ってしまうかのような、そんな地獄に、竜華は思わず歯噛みする。

 ――そして、気づいた。気配に、太陽とも見まごうほどの、圧倒的な“冷たい”気配に。

 

 ――東四局、親花子、ドラ表示牌「西」――

 

 ――宥捨て牌――

 ②⑧三四五東

 1九八北④

 

(……これ、染めてるんとちゃうか?)

 

 他家三人の手牌は未だ動いた様子はない、しかし宥のそれは違うのだろう、あからさまに少ない索子、一索手出しの段階で、既に聴牌の気配すら見える。

 しかし、これは……

 

(赤い牌、殆ど無いなぁ)

 

 使っている、なんてことはないのかもしれない。

 ここまで――東四局に至るまで、宥はほとんど赤い牌を使ってはいなかった、むしろ自分が宥担ったのではないかというほど、竜華は赤い牌を自摸っていた。

 そう、赤い牌は竜華が自摸っていた。

 

(――まさか)

 

 先ほど暑さを感じた時、それを受けていたのは、自分と、劔谷と、越谷の三人ではなかったか。

 あれだけの厚着を重ねて、宥には全く、暑さの色も見えないのではないか。

 

(……それって)

 

 ――対局は続く、とどまること無く、先へ進む。

 そして、流局間際。

 

(そんな、じゃあ……)

 

 

「ツモ!」

 

 

 ――宥手牌――

 2334466888發發發 5(赤)(ツモ)

 

『き、きまった! あわや緑一色という手でしたが、ツモ和了り、赤五索と合わせ、阿知賀、松実宥、跳満和了!』

 

(――赤い牌を集めるんやのうて)

 

 松実宥、そのチカラは、そんなものでは決して無い。

 そんな“簡単な”ものでは、絶対にない。

 

 

(――赤い牌を、支配するんか!)

 

 

 絶対的なまでの支配能力、それは、竜華の目前に、突如として姿を表すのだった。




割りとトンデモなお姉ちゃん爆誕。能力の成長経緯というか、切欠については次回。
姉は強い、咲世界の定石ですね。

宥お姉ちゃんの能力は自分も欲しい気がする。

収支表

次鋒戦

→ポジション 先鋒 次鋒 中堅 副将 大将
↓高校

1阿知賀   玄  宥  憧  灼  穏乃
      1537  1580
      +537  +18
2越谷    ソフィ花子 史織 玉子 景子
      717   770
      -283  +28
3劔谷    美幸 澄子 梢  友香 莉子
      698   540
      -302  -183
4千里山   怜  竜華 セーラ泉  円依
      1048  1110
      +48   +37
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