咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

28 / 90
『それぞれの意地』第二回戦中堅戦

 若干の余韻を伴って、中堅戦が開始される。

 次鋒戦はとにかく派手な削り合い、トップを独走するはずであった松実宥が竜華に落とされたことにより、各校の精神面に余裕が生まれ、全員がほぼ絶好調の状態で手を作ることが出来たのだ。

 どんな状況であろうとも、半荘に一回はチャンスが回ってくるのが麻雀である、だれもがそのチャンスを活かせるなら、どうか。

 今回のように、派手な戦いが繰り広げられるのも、無理のないことだ。

 

 それでもそれぞれの点数は殆ど動かず、点数を守り切ることを重視した、竜華はきっちりトップでバトンを回しているのだった。

 

 そして中堅戦。

 中堅は先鋒程ではないが、大将と並びエース格が座ることも多いポジションである。先鋒の稼いだ点数、先鋒が稼ぎ負けた点数。次鋒から受け継いだその点数を、いかに終盤へ向けてつないでいくかが焦点となるポジションであり、今後の試合展開における流れを左右する、重要な場所だ。

 そのためか、特筆すべき点の無い、よくも悪くも無難かつ、直線的な打ち手が座ることも多い場所だ。

 

『阿知賀女子からは、一年、新子憧。個人戦では健闘したものの第四位、しかし同チームのエース二名と、奈良最強と名高い小走やえを相手に、最後まで喰らいついた実力は本物か! 果たしてこの中堅戦ではどのような闘牌を見せてくれるのでしょうか』

 

 既に二校の紹介を終え、残すところは、阿知賀女子と千里山の二校のみ。針生えりの声が、モニター越しに控え室へと響いた。

 千里山の控え室では、そんな開始前の緊張感を、無言のまま全員が味わっていた。

 

『そして、千里山女子からは、三年の江口セーラ、個人戦でも活躍した千里山の前年度エースは、今年もその力をみせつけるのか!』

 

 対局中は、あれほど画面に食らいついていた円依も、今は少し体を遠ざけ、ソファに座る泉の隣に寄り添っている。

 浩子は憧を含めた、後続阿知賀の、三人の牌譜を見定めている。怜は、このタイミングで体を休めようとしているのか、顔に水に浸したタオルをかぶっていた。

 

 だれかが発言しようとしても、誰かが何かをしようとしても、この緊張感が許さない。

 強豪千里山としての焦りか、強敵を相手にするがゆえの興奮か、だれもがその感情を表せずにいた。

 

 結局それは、竜華が部屋に戻ってくるまで、続くこととなる。

 

「やっほー」

 

 軽快な足音を響かせて、竜華が控え室に登場した。晴れやかな表情は、しかしその張り詰めた空気によって崩される。

 何がどうしてこうなったのか、訳がわからない。どうしたものかと、おろおろわたわた竜華は視線を巡らせた。

 

「やっほー」

 

 ぴくりと、そんな声に反応するものがあった。怜だ。不意に手を持ち上げて、返事を返すその様に、漸く空気が霧散していく形となった。

 その怜の声音から察するに、どうやら竜華が帰ってくるまで眠っていたらしい。力のない緩んだ声は、あまりにもダルそうだった。

 

「りゅーか、枕、枕はよー」

 

「ええでー」

 

 そんな緩んだ声に触発されたのか、竜華も先ほどまでのテンションを取り戻した。泉と浩子も、その緊張を元の状態へと戻している。

 円依だけは、相変わらず極度に集中した様子だが。

 

「……円依ー?」

 

「江口先輩、がんがって……」

 

 声に反応を示すように、そんな事を返す。もはやモニターしか見えていないのだろうか、泉は嘆息気味に息を吐きだすと、竜華へと声をかけた。

 

「お疲れ様ですー、すごかったですね、収支トップですよ」

 

「ありがとー、でもやっぱ皆強いわ、守るだけで精一杯やもん」

 

 カラカラと、それでも笑んで返すのは、余裕だろうか、はたまた強敵を相手にしたことによる達成感か。

 どちらもだろうとは、誰もが思ったことではあるが。

 

「さすがに全国に出てくる相手です。どこもあれだけ戦える地力はあるもんですね」

 

 浩子が他校の闘牌を手放しに褒める。竜華をして守ることしかできなかったと言わしめた、他校の“全力”は観客として見ても、眼を見張るものがあった。

 

「ほんとはもう少し叩きたかったんやけど、阿知賀がそれ、やってくれたしなぁ」

 

 越谷と劔谷の二校は絶好調で他校との削りあいを演じた。竜華も阿知賀の松実宥も、それを耐えるように、点数を削っていったのが実際の所。

 ただ、守るだけの竜華と、その絶好調を相手に勝負をしかけ、場を平らにしてみせた宥は、根本から明確な違いがあるといっていいだろう。

 

 松実宥は本当の強敵、戦って楽だと思える類ではないし、本人はその点数を多少ながらのばした上で、各校の収支は結局平のまま。それを行ったのだ松実宥というわけだ。

 ただ守りに徹し、点数をプラスに持っていくのが精々だった竜華と違い、積極的に削り合いに参加し、その上でもぐらたたきの如く二校を叩いてしまうのだから、まったく恐ろしい相手だ。

 

 今回こそ直撃を取り、勝利できたからよいものの、次回もそううまく行くだろうか。

 あの直撃は、宥の手があそこまで高かったからこそ出た牌だ。もし宥が屑手をテンパイしたとして、二筒四筒の、注意すべき牌を切るとは思えない。

 竜華はそんな風に嘆息した。

 

「……ここからの阿知賀は本当に未知数です」

 

 浩子が、それを待っていたかのように、続けざまに切り出した。阿知賀はここまでほぼすべてを次鋒での飛び終了で終えているから、中堅以降の牌譜はひとつしか無い。

 そのひとつが晩成高校――奈良を代表する強豪校であることが、唯一の救いか。

 

「晩成は知っての通り、現在私達が戦っている劔谷を圧倒する力を持っています、その原動力のほとんどはエースからくるものですが、各個人の力も十分です」

 

 それでも、阿知賀はそんな晩成を下してここに来た。それも、全メンバーが区間ごとの収支トップに立った上で、完勝している。

 当然その牌譜上でのデータは、単なるさわりにしかならないのだが。無いよりはマシだ。

 

「新子憧は更に幸いな事に個人戦でも戦って、あの小走やえ相手にギリギリながらもプラス収支を残している。実力的には、デジタルオンリーの円依とほぼ同等かと」

 

「え……」

 

 浩子の言葉に、泉と竜華が頬をひきつらせる。円依の実力はオカルトによる物が大きいが、デジタルにおいても、千里山のレギュラークラスの能力はあるのだ。

 泉と比べても一歩劣る程度、少なくとも浩子のように――浩子は参謀という面が大きいが――控え室入りすることもできないわけではない程度の強さだ。

 

「けどこれも確実やありませんから、もしかすればもっと強いかもしれんし、弱いかも知れへん。けど、もし強い方に針が触れた場合……」

 

 少しだけ声を溜め、浩子がモニターへと視線を移す。

 ――そこでは、既に場決めが終わり、サイコロがゆっくりと回転を始めていた。ついに始まる中堅戦、対局室を照らす明かりは、まばゆい光の群れへと変化している。

 

「先輩が危ない。……何にせよ、この半荘は波乱になるで!」

 

 重苦しく語られる言葉には、けっして蜜が存在しない。存在することを、端から許されては、いないのだ。ゆっくりとサイコロが停止する。

 戦いが、火蓋を持って幕を切り裂く。それぞれの配牌へと、行動が映る。

 

 セーラ、とだれかがそこに映る少女の名前を小さく呼んだ。

 画面の先には、もう、熱気がまさに渦巻いていた。

 

 

 ♪

 

 

 ――東一局、親セーラ、ドラ表示牌「4」――

 

 開始直後、既に阿知賀は一つ鳴いて副露を晒した。

 セーラはふむ、と考えこんで手牌を覗く。

 

 ――セーラ手牌――

 二三五八⑦⑧2345(赤)(ドラ)77北

 

(三巡目、順調に手はできとるし、赤ドラ含みの構成や。鳴いて速攻はありやろうけど……)

 

 ――憧捨て牌――

 19⑤(赤)

 

(鳴いてすぐさま赤五筒、まさかもうハッてるんか? どっちにしても、ここで手を焦れへん)

 

 千里山は未だ二位、トップ阿知賀とは四満点ほどの点差があり、それを詰めるにはここでの奮闘が肝になるところ。

 しかしセーラは慌てない。けっして焦ることをよしとしない。

 

(ここで焦れるんはウチの打ち方や無い、阿知賀のような計算された鳴きならともかく、目先の河には、手を借りれへんで!)

 

 思考を巡らせ、ツモってきた牌と、現状最後の字牌を入れ替える。阿知賀はそのままツモ切りだ。軽く確かめただけで終えられるようだ。

 微妙な表情で、劔谷の部長が思考を巡らせている。

 

(降りるんかどうか知らへんけど、ここで当たらんといてや、事故はみてて嫌やねんなぁ……)

 

 しかし次巡、劔谷が出した牌を阿知賀が直撃、ドラ含みのタンヤオや、7700、高打点となった。

 

(ドラ四枚抱えかいな、絶好調やん……まぁ、ええか)

 

 ――東二局、親梢、ドラ表示牌「東」――

 

 続く東二局、セーラの手牌は続いて好調、見れば後数巡で聴牌が可能だろう。ヴィジョンとしては、七巡目聴牌からのリーチツモ、跳満手だ。

 

(けど、阿知賀と勝負せなアカンか)

 

 阿知賀の憧は既に二副露、見たところ自摸切りが目立つが、もし好調ならば阿知賀の副露センスと併せて聴牌は難いだろう。

 

(せめてもの救いは、ウチの視点からやと、赤が全部見えとるところか)

 

 自分が二枚、阿知賀が二枚、ドラは見えていないが、劔谷の部長が少し緊張した面持ちで牌を自摸っているところから、高打点が予想され、染め手の気配はない、有り体に言えば三枚くらいは握っているだろう。

 

(高くて77(チッチー)、低くて39(ザンク)か、今の点差を考えるなら、思った通りの自摸でないなら、勝負せん方が無難やな)

 

 結局、聴牌したのは予定よりも一巡遅い八巡目、聴牌のための牌が余剰牌、安牌であったこともあり、ダマを選択、その上で和了ったのは阿知賀女子だった。

 

「ツモ、1000! 2000!」

 

 そして、――東三局――

 

 ここでも阿知賀は好調を維持、越谷の不用意な打牌から、憧が3900を出和了り、好調を示す。

 

 ――東四局、親憧、ドラ表示牌「9」――

 

(ここまでわかったことがある、阿知賀の中堅は強い、泉か、デジタルしとる円依と同等やろう、けど、それを言ったら他の中堅も全国クラスや)

 

 配牌を済ませる。

 絶好調が続く、件の阿知賀が親となるこの局、他校の緊張はマックスに達しているようだし、セーラ自信、警戒心がどんどんと強くなっている。

 対する憧はきつい顔で、こちらに対して闘志をむき出しにしている。どこかさっぱりとしていそうな少女であるが、ここまでまっすぐだとこちらまで闘志を引き出されてくる。

 セーラは、そんな他校を相手に、にやりと笑みをにじませる。

 

(せやったら、この場で勝つものは誰か、……簡単な話や。これは単なる意地の張り合い、どれだけ自分をつっぱれるかの戦い、つまり――)

 

 第一打、セーラは考えること無く牌を選択する。

 

 セーラ/打西

 

 

(……一番、意地っ張りな奴が勝つ!)

 

 

 東四局、憧の親番、その速攻が栄え、連荘かと誰もが思った。しかしその予想を覆し、セーラが意地の跳満ツモ、強さを魅せつけた。

 その後も、両者の叩き合いが続く。

 

「ロン! 5200!」

 

 符ハネを利用し、憧が打点を叩きだしたかと思ったら、

 

「ツモ、2000、4000」

 

 セーラが一発ツモでゴミ手を満貫にすり替えてくぐり抜ける。

 それだけでは止まらない、セーラの出和了り、阿知賀のツモ上がり。中堅戦前半は、この二校の完全な叩き合いとなった。

 

 前半戦を終えて、それぞれの収支は、

 セーラ+15200

 憧+9700

 その他二校はマイナスで、後半戦へと折り返すことになる。

 セーラが一歩図抜けているものの、和了率は阿知賀が圧倒的に上回っている。結局、何が決着を付けるのか、フタを開けるまで解らないのだ。

 

 

 ♪

 

 

 そんな二校の爆発をよそに、劔谷高校、部長の古塚梢は苦闘していた。一応前半戦でも安手を和了っているものの、それが彼女の流れになることはなく、なんとか焼き鳥を回避したという程度。

 越谷など見ていて鬱蒼としてくるものだが、劔谷は見ていてただですら生々しい、好調の二名に押された不調の一名、どうしても不満が募る。

 

(なんで――)

 

 ――梢手牌――

 一二六七八⑦⑦⑨235(赤)78 一(ツモ)

 

 なんで、そこなのだ。

 なんでそんな自摸しかできないのだ。

 

「……っく」

 

 梢/打一

 

 

「ロン、12000や!」

 

 

 愕然とする。

 何故だ、何故和了れない、何でここで掴まされる。何でここで待っている、なんで、なんで、なんで……!

 

 ――セーラ手牌――

 一一二三四五(赤)六七八九789 一(和了り牌)

 

 リーチ直後の最初の自摸が当たり牌、まるで掴まされているかのようで、梢はその顔を歪ませる。

 

(――和了らないと)

 

 ぐっと、唇を噛み、苦渋をこらえる。どうにかして後半戦、立て直したこの状況で、そのすべてを失おうとも、耐える。

 何としてでもこれを、耐える。

 

(……絶対にッ! 和了らないとッ!)

 

 自分がここで頑張らないと、副将以降を任せる、一年生に示しがつかない。伝統を守ることと変えること、そのどちらもを成し遂げると、自分は決めているのだから。

 新たな風に、追い風を。

 梢が、常々考えていることだ。そうして、実行に移してきたことだ。

 

 けれども、焦れば焦るほど、手が鈍る、どれだけ自摸が良いはずでも、それを自分で鈍らせてしまう。

 負ければ負けるだけ、人は後ろへ後ろへ引きずり込まれていく。

 自分と言うなの深淵へ、不和と言うなの最奥へ――

 

(……解っている。そんな事、解っている!)

 

 梢は、大きく頭を振って深呼吸をした。そのたびに、思考から自分というものを抜き去っていく。

 今この場に、古塚梢は必要ない。

 劔谷の中堅、点をつないで浮き上がる、バトンの要で――アレばいい!

 

 

 それは、南一局の事だった。

 親の、古塚梢が爆発した。

 

「ツモ――3900オール!」

 

 ダマテンからの高得点、先ほどの跳満振込で沈んでいた点数を、ほとんどすべて取り返す。

 それどころか、

 

「ロン! 7700は8000!」

 

 連荘により、点数をほぼマイナス一万点へと戻していた。

 劔谷高校、強豪と呼ばれ、全国でその力を振るってきた伝統の麻雀部、その部長が、ここに来て爆発する――

 

(あまりにも負けが続いて、心がどうにかなりそうなとき)

 

 それでも、突出することはなく、三つ巴としての構図に、戦いの場が変わっただけだ。未だ沈む越谷を差し置いて、他家三人が、壮絶な稼ぎあいを演じる。

 それだけのこと、そう、それだけのこと。

 

(もうだめだって、諦めて全部を放り出しそうになったとき)

 

 そして、オーラス。

 

(必要なのは、前向きになろうとする意地じゃない)

 

 親は千里山の江口セーラ、ドラ表示牌は「3」。

 

 

(――泥沼にはまっていく意地を、叩きなおすことだ!)

 

 

 ――梢手牌――

 一九①②③⑧1東南西北白發

 

 その手牌から、梢は単なる風圧だけではない何かを感じた。それは、かつて強豪とされる、各校の“特殊な”エースと立ち会った時に似ている。

 けれども、それはどちらかと言えば、自分という存在が引き込んだ、真っ向からの流れに感じる。

 

(――いけるか?)

 

 無理だとは、思わない、できるとも、思わない。

 いけるか? そう考えた。

 それも、少し違う。正解は――こうだ。

 

(……やって、やる!)

 

 梢/ツモ⑨

 

 ――観客席で、歓声が湧いた。梢は、何一つ迷わなかった。

 

 梢/打⑧

 

 

 そして、数巡後、憧は。

 

(劔谷の部長。……すっごい嫌な予感がする。これってやっぱ国士だよね。だったらあたしのすべき事って……)

 

 現在、憧の収支は+11800点。

 これでもし、国士のツモ上がりをうけたとしても、プラス収支で半荘が終わる。直撃を受けなければ、苦しい状況では決して無い。

 

(十分に稼いだ、とは千里山の江口セーラがいるから言えないけれど、もしここでこの人が国士を和了るなら、私は今すぐにオリを選ぶべきだ)

 

 当然とも言えた。親はセーラ、もしここでセーラに役満の親被りが直撃すれば、収支はギリギリマイナスといったところになる。

 千里山との点差を考えるなら、ここはオリる以外に選択肢はない。

 ……簡単なことだ。

 

 

 憧が決断したと同時刻、セーラは、

 

(不味い、マズイマズイマズイ! 和了れへん、聴牌できへん自摸れへん、うそやろ、ここに来て役満なんて、上がれるわけないやん)

 

 セーラ/ツモ9

 

(っく、切れんところ、これやといつになったら聴牌できるか解らへん!)

 

 セーラ/打3

 

 その一打は、くしくも憧のオリと同じ選択。

 両者のスタンスは、まったくもって対照的ながら、それでも行き着くところは同じだった。

 意地を張り合ったこの戦い、まっさきにそれを見据えた、劔谷が勝利することになる。

 

 

(は、はった)

 

 ――梢手牌

 一九①②⑨19東南西北白發 北(ツモ)

 

(まだ、六巡目、絶対に自摸れる。大丈夫だ、絶対に大丈夫……)

 

 梢/打②

 

「っ! ポン!」 ②「②」②

 

 そこで、セーラが動く、それは果たして意味があっただろうか、梢の視点からは、セーラの河に、中張牌があふれていることしか判別できない。

 恐らく、国士を警戒しての形だろうが、そこから二筒を鳴いて、果たしてツモをずらす以外の意味はあっただろうか。

 

 行ける、と梢は確信した。

 阿知賀は既にオリが見え見えだ。手牌が数巡目からすべて中張牌になっている。千里山は、もはや手すらぐちゃぐちゃになってはいないだろうか。

 

 セーラ/打4

 

 よくよく見れば、ほとんどセーラの捨て牌に筒子がない、染め手だろうと判断して、梢は自信の次の自摸を手に取る。

 

 ――ゾクリと、体の中で何かが震えた。

 

 

「――ツモ」

 

 

 それは、実感となって、そこに在った。

 和了り宣言を終え、一息だけ呼吸を整える。――自然と浮かんできたのは、笑顔で共にいる、仲間たちだった。

 

 

「8000、16000です」

 

 

 こうして、中堅戦は決着した。

 

『ちゅ、中堅戦、終了――! なんと、三度目の役満が、このAブロック第二試合から飛び出しました!』

 

 観客席は、興奮のまっただ中だった。

 あの圧倒的だった玄の闘牌とはまた違う、意地と執念の役満和了、少しずつ完成していく十三枚に、観客の熱気が高まり続けていたのだ。

 爆発するように歓声が和了り、そこは役満一色へと染まっていった。

 

 

 ――こうして、第二回戦第二試合も、折り返しを迎えた。

 

 

 ――四位:越谷女子。

 一年:水村史織。

 54300――

 

 ――三位:劔谷高校。

 三年:古塚梢。

 74800――

 

 ――二位:千里山女子。

 三年:江口セーラ

 109100――

 

 ――一位:阿知賀女子。

 一年:新子憧。

 161800――

 

 越谷は、早々に会場を消えた。少しだけ目には、涙が見えた。

 そうして、劔谷は、ほっとした表情で、対局の礼を二者と、消えた越谷へと向けた。その表情には、安堵の笑みが漏れていた。二位の千里山との点差はおよそ四万点。未だ道のりは遠い。しかし彼女は副将達を信じているのだ、コレで十分だと、解っているのだ。

 続けてその場を去ったのは、阿知賀の新子憧だ。その表情には喜びも、悔みもない。ただ、千里山を沈めることの出来た事実、それを実力で成し得なかった事実、それを受け止めていた。油断はない、誰の目から見ても、彼女はセーラに比肩しうる強者だった。

 

 対局室に、セーラ一人が残された。最後は苦しい展開になった。せっかくの稼ぎもコレでパー、もう少しやれることはあっただろうと、今更ながらに反省する。

 それでも自然と達成感が胸から生まれた。上を見上げる。――既にセーラ達を照らしていた光の群れは、用を済ませて去っている。あの光に、自分は手を届かせることが、出来たかどうか。

 よし、と一つ気合を入れると、セーラは先程対局室から消えていった対戦者達を追い越すような速度で持って、かけ出していった。

 

 激戦の後には、さらなる戦いの予感が残った。

 

 ――そして副将戦。

 四校の戦いも、一気に終盤へと、向かっていく――




中堅戦はあっという間ですね。
まぁ、基本的にセーラと憧の実力差が少しだけ縮まってますよ、という話なので、こんなものです。

次回副将戦、やっぱりあの子は本作でも大暴れするんでしょうか。

収支表

→ポジション 先鋒 次鋒 中堅 副将 大将
↓高校

1阿知賀   玄  宥  憧  灼  穏乃
      1537  1580 1618
      +537  +18  +38
2越谷    ソフィ花子 史織 玉子 景子
      717   770  540
      -283  +28  -230
3劔谷    美幸 澄子 梢  友香 莉子
      698   540  748
      -302  -183 +208
4千里山   怜  竜華 セーラ泉  円依
      1048  1110 1091
      +48   +37  -9

ところで中堅の収支が間違ってることに気づきましたが、面倒なので大将戦にて修正します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。