咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『前向きな心』第二回戦副将戦

 後半へと折り返した副将戦。

 その立ち上がりは前半の親倍ツモから鑑みれば、随分と穏やかなものだった。前半戦終了直後、あの異様なまでの焦りからも見て取れるように、灼は随分と焦っているようだ。

 

 それぞれ、新しい東家には泉、南家には変わらず灼、西家には越谷の玉子が入り、件の劔谷副将、森垣友香はラス親、北家だ。

 

 東一局は、焦れた灼からの直撃、

 

「ロン! 2600」

 

 リーチをかけた直後の一発、不用意という他ないだろう。

 泉はそれを良いタイミングたど考えて、大きく深呼吸をした。今ここで落ち着かなければ、あの爆発的なペースに、今度は自分が巻き込まれるだろう。

 

(ここまで、劔谷の副将は異様に聴牌速度が早い、ただついているだけならいいけど、調子に乗ると本当に厄介なタイプみたいだ)

 

 続く東二局、東三局と越谷からの出和了りが続く。

 

「ロン、3900」

 

 東二局では二副露からの速攻、東三局では地味ながらも狙い撃つような平和和了り。

 

「ロンでー、1300」

 

 誰もそれに介入することは出来なかった。

 泉の手が悪い事もあるだろうが、阿知賀と越谷は不用意な打牌が目立った。恐らくではあるが、こういった舞台は初めてで、更に圧倒的に気負されている状況ゆえに焦りが生まれているのだろう。

 阿知賀はもう少し冷静なようだが、意識が劔谷を打つことに集中しすぎている。あれでは不用意に見える打牌も多くなるというものだ。

 

(プロとの特打ち、メンバーとの特訓、色々要因はあるやろうけど、ウチも随分強くなった。ウチの役割は、何としてでも点数を守りぬくこと、脇目もふらずにそれだけを目指せば、たとえこの場でも――)

 

 

 ――東四局、親友香、ドラ表示牌「西」――

 

(なんとかして、高い手を作らないと)

 

 ――灼手牌――

 一三③④④⑤⑨⑨8東東北(ドラ)白 ①(ツモ)

 

(このまま劔谷に速攻をさせたらマズイ、ただでさえ聴牌速度が尋常じゃないのに、そこに連荘が加わったら、最悪越谷が飛ぶことになる。……その時、私はどれだけトップでいられる確率がある?)

 

 灼/一

 

(何としてでも、突き放す、誰も追いかけてこれないくらい。そうしないと、私はハルちゃんに、なんにも返せないまま、夏が終わっちゃう!)

 

「ポン!」 「東」東東

 

 開始早々、灼はほとんど勢い任せに牌を叩いた。ここで和了らなければ自分が副将である価値がない、自分に何度も言い聞かせるかのように。

 

 灼/打三

 

 やらなくてはならないのだ。

 阿知賀で全国優勝をする、自分が最初にそう決めて、だというのに玄へ一歩負けてしまって、それではどうしてもダメなのだ。

 灼は前を見据えて考える、なんでもいい、この場を打開できるなら、なんでも――

 

 

 ――対する泉は、至って平常通りに卓を見据えていた。

 

(阿知賀が鳴いて、一萬三萬落とし、その後手出しで八索も落としとる、跳満和了りもそうやけど、なんとなく染めてることが多いなぁ)

 

 円依が言うには、灼もチカラを持つオカルト派の雀士なのだそうだ。まだ完成していないのか、酷くあやふやらしいが、少なくともモニター越し、牌譜越しに異常を感じることが出来たという。

 

(阿知賀が動いて、このタイミングやと越谷は何とも言えんな、ウチも手は安いけど……)

 

 泉/打東

 

 友香/打3

 

 灼/打六

 

 玉子/打中

 

(戻ってきた、ツモは白か)

 

 ――灼捨て牌――

 一三8六

 

 ――友香捨て牌――

 發北83

 

 ――玉子捨て牌――

 南1西中

 

(……だしてみよか)

 

 泉/打白

 

「ポ、ポン!」 白「白」白

 

 対面、灼が動いた。發と中は手牌の中にはないのだろう、満貫は確定したが、ドラの北が重ならない限り、それ以上高くなることもないだろう。

 

(……ずらされると、ちょっときついんとちゃう?)

 

 ニヤリ、と少しだけ笑みを劔谷へ寄せると、どうやらそれは正解のようで、劔谷は少し微妙な顔で盲牌だけで自摸切りしていた。

 

(聴牌どころか、一向聴すらいってないんとちゃうやろか、確かなことは言えへんけど、大分ペース乱されとるはずやし)

 

 既にどこだ誰のツモであったか、判別もつかないほどこの卓は異空間化している。灼の鳴きによる偶然ではあるが、どうやら亜空間殺法は劔谷へ有効なようだ。

 

(なら、手の遅い阿知賀やのうて、私が和了るのがベストやな)

 

 勝手な決め付けではあるが、もとより阿知賀とは敵同士、敵の敵といえども慣れ合いはしない。

 

(さて――)

 

 ――泉手牌――

 一二三七八⑤(赤)⑥⑦11235 1(ツモ)

 

 七巡目、順調に泉は聴牌、友香は未だあれから手出しが一枚であるから、聴牌はしていないと見える。あまりぱっとしない捨て牌だ、ドラが重ならない限り高い手ではないだろう。

 

 泉/打5

 

 別に、泉が聴牌した手出しに、五索を選んだことに深い意味は無い、他家を鳴かせるために白を切ったりと、大胆なことはしているものの、そのツモはあくまで手なりだ。

 

 リーチをかけずにダマを選択する。

 カンでも入ればともかく、今は打点よりも親に連チャンさせないことが重要だ。そのカンも、さすがにされたりはしないだろう。今は親に有利なことは絶対にすべきではない。

 

(当たり前に話やけど、焦れるとなにするかわからんのが人間や、もしここでカンするようなバカが居るんなら、見てみたい――)

 

「カン!」 55(赤)55

 

(おったー!)

 

 まぁ、それ自体はおかしな話でもない、最下位の越谷は打点を上げるためにも槓ドラは重要だ。

 

(……暗槓なら許そうおもっとったのに、何でよりにもよって大明槓やねん、態々面前の翻数と裏ドラ捨ててまで、槓ドラに賭けるのは馬鹿のやることやろ)

 

 確かにどうしても必要ならば、それは無理をした、程度で済むが、その無理が自分に帰ってくることも多々ある。賢い選択とは正直なところ言い難いだろう。

 実際、槓ドラが五索に乗るようなこともなく、苦々しい顔つきで越谷の副将は嶺上牌を自摸切りしていた。

 

 しかしそれは、

 

「チー!」 「②」③④

 

 灼の有効牌だ。

 

 灼/打北

 

 三副露からのドラ手出し、あからさまな聴牌気配、なるほどと泉は頷いた。

 

(筒子を引いたらその場でオリ、けど……)

 

「リーチでー!」

 

 先ほどのカン、そして灼のチー、二度もツモ番がずれたことで、友香への流れが若干戻ってきたようだ、有効牌を引き入れると、そのまま手出しで牌を切る。

 

 友香/打九

 

(なるほど、カンと染め手気配でこっちに迷彩がかかったんやな、まぁ、結果オーライや)

 

「ロン! 2000!」

 

 それを切り裂く泉の宣言。一気に緊迫した卓上は、音を立てて壊れていった。こうして、森垣友香は後半戦一度目の親を流されることとなる。

 

 とはいえ、それが友香にストップをかけたかといえばそうでもなく、南一局ではその直撃を取り返すべく、ツモ上がり、

 

「ツモ、1000、2000!」

 

「……む」

 

 親被りを受け、千里山は点数が開始直後のものへ戻ってしまう。少し泉が難しい顔をするものの、彼女のやるべきことは変わらない。

 安定した打牌で、振込を回避していく。

 南二局、南三局は、

 

「ロン! 3900」

 

 阿知賀と、

 

「ロン、5200でー」

 

 越谷から、それぞれ直撃を取る、ここまでほぼパーフェクトゲームで手が進み、遂には、

 

『さぁ、南四局、オーラスです。ここまで不動の二位を守り抜いてきた千里山がついに陥落、未だ振込こそないものの、劔谷の猛攻を止められない!』

 

『積極性が足りないってわけじゃないんだろうけどね、にしてもこの一年、タフすぎだろ、自分のポジションで千里山が三位に落ちてんのにさー』

 

 圧倒的なまでの闘牌。

 何者も寄せ付けぬ劔谷の副将は、遂に点数を114200点へと上り詰め。

 

「ロンでー! リーチ東一発は7700!」

 

『決まったー! トップを行く阿知賀からの出和了り、そして和了り止め拒否により連荘です』

 

 さらに爆発した。

 圧倒的なまでの闘牌、だれもがそれを止めようとした、されど、成功したのは一度だけ、信じられないほどの聴牌速度。ただでさえ早いとされる千里山の怜を軽く上回るほどのそれは、この副将において、あまりにもあまりな結果をもたらした。

 

 誰もが手を作らざるをえない、だれもが止めようとせざるを得ない、止めなければ和了られる、和了られ続けて搾り取られる。

 けれども、そうして無茶をしようとする度、振込自身が追い詰められていく。

 

『苦しげな阿知賀と越谷の表情、既に共に前半戦と併せ合計収支はマイナス二万点を超えています、このままでは残された点棒も危ういか』

 

『むしろ、私としては後半戦に入ってから、点棒が全く動いてない千里山の方が異常に見えるけどね』

 

 一応、2000の和了りこそしているものの、すぐに親被りで2000点を支払い、結局開始と変わらず、105100点を維持している。

 

『それにさ、千里山のあの子、劔谷のバカヅキをここまで二度も止めてるんだ。後半戦の親番でも、劔谷の子は千里山の子から直撃を狙っていたはずなのに、それが通らず安めのツモ上がりになってる』

 

『と、いうことは、この状況を打破できるのは、彼女一人だと?』

 

『うんにゃ? それいったら前半戦の南場で劔谷の親番を流したのは阿知賀の子だし、多分そのどっちかだろうね、まぁ、今阿知賀の子は絶不調みたいだけど』

 

 ここまで、前半戦ではしなかった一万点以上の放銃を灼はしている。厳しい状況だ、等しく一万点ずつ削られている越谷の方が、まだマシなのかもしれない。

 そんな状況は、阿知賀にとってそれ相応の足かせとなるのだ。

 

『守り方を知ってる、攻め方を知ってる。いい選手だよ、千里山の一年レギュラーは。千里山は劔谷と同じで副将大将を一年で固めてるんだけど、お互いその性質は間逆なんだよね』

 

 攻めに特化した劔谷の副将と、守りに特化した劔谷の大将。

 逆に、守りを得意とする千里山の副将と、逆転能力、果敢な攻めが得意な千里山の大将。

 

『この二校が、ここまで点差を同じにしている。それって、かなり面白いことじゃないかな?』

 

『それもこのインターハイの醍醐味ですね』

 

 二人の会話が終息を向かえる。

 その時だった、

 

「リーチでー!」

 

 ここに来て、友香がリーチ、一気に他校を引き離しにかかる。

 

『劔谷の森垣、跳満手をリーチ! これが和了られると非常に苦しい展開になります。現在チートイツをテンパっている二条泉、これを止めることができるかー!』

 

 ――友香手牌――

 二三四四①②(ドラ)③12345(赤)6

 

 ――泉手牌――

 四四八八③③⑤(赤)2299東東

 

 泉が友香の当たり牌、四萬を二枚とも抱えているため、友香は高めの三色でしか和了ることが出来ず、結果的に跳満手が確定している。

 ここに一発、ツモ、裏ドラが絡めば、倍満手にもなる劇物だ。

 

『しかし、二条泉ここで一萬ツモ、狙いすましたかのような当たり牌だ!』

 

『掴まされたかねー、しらんけど』

 

 泉はしばらく思考に意識を向ける。考えているのだ、この場面、友香の一発ツモに対して、一萬を自摸って来た理由を。

 そして、

 

 泉/打東

 

『おっと、ここでシャンテン数を一つ戻して一萬を止めた、しかし何故五筒を切らなかったのでしょうか』

 

『あれじゃね? 五筒危険牌だし』

 

『ですが、一萬は既に自分自身が一枚切っていますから、他を自摸ってもフリテンにしか――』

 

『――それにな』

 

 遮るように、咏が言った。

 

 ――友香捨て牌――

 9北白東西4

 ⑥七(リーチ)

 

 リーチ直前の牌を持って、裏筋となる赤五筒は、当たれば三翻以上が確定するためそう簡単には打てない。

 本命は七萬の周囲だろうが、それでも六筒にも警戒は必要なのだ。

 

『それに、あの子は解ってるんだよ、なんとなくな――』

 

 泉/ツモ一

 

『自分がそこで、何をすべきかを!』

 

 泉/打東

 

 コレにより再び聴牌。

 しかし先ほどまでの聴牌と、この聴牌は意味合いが全く違う。四萬は既に抑えているし、一萬も、既に河へ見えている一枚とともに、三枚が泉の視界から見えている。

 これで、友香の和了り目はほぼきえてなくなった。

 

 ならばどうなるか、ここまで幾度と無く劔谷の出鼻をくじき続けてきた千里山、二条泉が、最後に決める最大の一発。

 

「――ロン!」

 

 駆け抜ける風の如く、切り結ぶ剣戟のごとく、鮮やかなまでに泉は和了してみせた。 

 会場は、咏の解説と相まって、あまりにも鮮烈な和了りを、盛大な歓声でもって受け入れた。

 それは、第二回戦第二試合、副将戦終了を、告げるものだった。

 

 

「……ありがとうございました」

 

 ここまで健闘むなしく、大幅なマイナスで後半戦を終えてしまった灼が、悔しそうに挨拶をして、その場を去った。

 越谷も同様に、しかし灼と違うのは、次へ向かおうという執念だろうか。――牙を抜かれた獣は、もはや道化とすら言えず、ただただ惨めにその姿を晒すだけだ。

 

 ――一位:阿知賀女子。

 二年:鷺森灼。

 140800――

 

 ――四位:越谷女子。

 三年:宇津木玉子。

 32200――

 

 そして、対局室には二人の少女が残された。共に挑発的で、真っ直ぐな笑みを浮かべる少女だった。

 

「……対局感謝、楽しい時間でー」

 

 ――二位:劔谷高校。

 一年:森垣友香。

 117700――

 

 片や、それはこの対局室で、縦横無尽の大暴れをしてみせた、圧倒的なまでの上位者。

 

「こちらこそ……や」

 

 ――三位:千里山女子。

 一年:二条泉。

 109300――

 

 片や、この対局室で、頑なに自分の麻雀を貫き通した、その上で暴れまわる獣を仕留めた、挑戦者。

 

 そして、副将戦は終了する。

 それぞれ、悔しさと、嬉しさと、楽しさと、あらゆる物を思い浮かべた先にある、決着と言う名の舞台へと、それぞれの足で向かい始めた。




泉奮闘! プラス四万点というバケモノ収支で劔谷が頑張ったのに、三位に落ちたはずの泉が目立つ闘牌。
それでも怒涛の和了は止まらず、完全に劔谷の独壇場、泉はなんとか存在感を示した形。

次回漸く主人公の登場です。何故か最長の長さになったので、お楽しみにー。
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