その後、怜、玄の支援を受けた煌が1000の1600を怜から和了、再び再開された連続和了の後、前半戦は終了となった。
結果は
一位白糸台:132200
二位千里山:96300
三位阿知賀:90700
四位新道寺:80800
白糸台はその後も連荘を重ね、三万点以上の大量リードで後半戦へ望むこととなる。
千里山は東一局の満貫和了が命綱となり、原点辛さほどのマイナスもなく半荘を終えている。
前半戦唯一の焼き鳥となった阿知賀は、南三局にも通常の和了を目指したが、宮永照のカンで足止めをくらい、三位の位置につけている。
苦しいのはオーラスにて満貫和了を受けた新道寺だ。ここまで危なげない打牌だっただけに、この8000は大きく響くだろうか。
四者四様、涼しい顔をしているのは白糸台の宮永照唯一人、バケモノ二人に挟まれた怜は苦しそうに大きく呼吸をしているし、煌はオーラスの満貫振込が答えたのか、机に突っ伏してしまったままだ。
阿知賀の松実玄は、存在感こそ発揮したものの、点を稼げず、焼き鳥であることを悔やみながら、対局室を後にしていた。
後半戦は宮永照の“待ち”はない、前半戦ですら圧倒的でいた宮永照は、後半戦では更に歯止めがかかりにくくなる。
もしここで連荘が止められないのなら、各校大幅なマイナスは必至だろう。
そのことを実感しながら、怜は対局室の外で待ち受けていた、竜華にもたれかかる、そこまでやってきていたのは竜華と円依で、円依が何がしかの話があるようだった。
対局室からほど近い、モニターもある会場外の休憩所に
「大丈夫か? 怜ー?」
心配そうに、しかしどこか優しさに満ちた声で、竜華は膝元に横たわる怜へ声をかけていた。
怜が軽く片手を振ると、それを勢いにして起き上がる。あっという漏らすような竜華の惜し気な声。怜は若干寂しそうにしながらも、伸びをした。
「それで、円依。いきなりどうしたん?」
「いえ、ちょっといいですか?」
態々車椅子ではなく松葉杖で来ていたのは、怜へ耳打ちするためだったのだろう、何気ない動作で耳元へ近寄ると、在ることを怜へ告げる。
「……?」
竜華が小首をかしげて見守る中で、怜は百面相を繰り広げた。それもそうだろう、怜が円依に言われたことは、まるで自分を見透かされているかのようだったのだから。
怜が何かを了承したのか、首肯している様子を見て、円依は満足気に体を離しながら頷いた。
「それじゃあ園城寺先輩、後半戦もよろしくお願いします」
「円依まで回せばええんやろ? 簡単な話やん」
にかりと頷いて、怜もその場から立ち上がる。竜華も併せて席をたった。
円依が松葉杖にもたれかかって、片手を軽く怜へと示す。対局室へ向かう方向に、円依はいた。
互いににやりと笑い合って、怜はそれを撫でるように合わせていく。
決して重苦しくはない、リズムを刻むその音が、周囲へ軽く、響き渡った。
♪
それぞれ、起親は新道寺、南家は玄、西家に怜、そして――
『チャンピオンはラス親ですか、これは……荒れるかも知れませんね』
――宮永照が、北家に座る。
コレが意味するところを、誰かが飛ぶかもしれない危険があるということだ。それだけ照のラス親は、危険が大きい。
ただし、照自身が、言うまでもなく危険なのだが、それでもこの卓には松実玄もいる。
決して同等ではないかもしれないが、宮永照と台頭に渡り合う、松実玄がそこにはいるのだ。
最高の状態で後半戦を向かえることになる宮永照、相対するように、焼き鳥状態という苦しい精神的ダメージを負う松実玄、それでもその目には意思が宿り、まっすぐだ。
誰もが波乱を予感した。
このAブロック準決勝、何かが起こる、誰もがそれを、知っていた。
――東一局、親煌、ドラ表示牌「七」――
「ポン」 北北「北」
三巡目、玄の切り出した北を照が鳴き、ここで動く。後半戦の東一局には様子見はない、すでに照が動いているのなら、この局も、そうそうに終りが見えてくる。
(――わかっとる、ウチにもう止める手立てはない。せめて、ウチのツモが来ればよかったんやけど)
怜は予めそれを知っていた。当たり前だ。怜が見る麻雀は一巡先の麻雀、知っていることにより覚えるのは違和感ではない、納得だ。
玄の打牌はどこまでもわかりやすい、危険牌を排し、自身の放銃を避ける、その上で照の和了を支援しているのだ。
煌/打③
やっていることが、あまりにも自分や新道寺と違いすぎる。
玄がいる場所はあまりにも遠い、ただ一巡先を見るだけでは、自分の手牌と、周囲の河を相手に、ただ検討するだけでは怜は勝てない。
怜の一歩が、玄の万歩。
――負けたくない、絶対に、負けられない。しかし、そんな思いが、空回りしている。どこまでもただ我武者羅に進み続けて、結局は道を迷ってしまうかのように。
「ロン、2000」
照の和了。静かな波が、ゆっくりと沖から離れていくような、余りある大海が、すこしずつ消え失せていくかのような、
なんといえば良いのだろう、
なんと言って良いのだろう。
言い様もない不安。
隠し切れない疑心。
怜は、ゆっくりとそこに、浸かっていくのだ。
――続く東二局、再び阿知賀のサポートを受け、白糸台が新道寺から5200を和了、和了り幅を考えれば、次は四翻か、満貫か、どちらにせよ、作るのに手間がかかるのは変わらない。
次局、東三局は、そうそうに卓が、荒れることと相成った。
――東三局、親怜、ドラ表示牌『7』――
『さぁ、東三局に入り、いまだ宮永照を誰も止められない! あまりにも圧倒的な闘牌は、前半戦から続き、遂に五連続和了となってしまったー! このまま手が進めば更に苦境を強いられる、他校はどうなってしまうのか――!』
『現状、この東三局で宮永選手を止められうるのは、新道寺の花田選手と阿知賀の松実選手の二人、千里山の園城寺選手は、どちらかといえば、これまでの沈黙が響いていますね』
宮永照との対局は、対局が佳境にもつれ込むほど、他家の心に焦りが生まれる。自分が和了れない状況で、宮永照が点棒を奪っていく理不尽、焦燥感から打ち出す手は、すぐさま本人の振込を呼ぶ。
一般的に、インハイチャンプとの対局で重要なのは、精神的に余裕のある序盤にどれだけ照に食い込めるか、ということだ。
現状それが成されているのは、鉄壁のメンタルを誇る新道寺と、宮永照に匹敵するほどの力を持つ阿知賀の二校のみ。
千里山は、大きくその見を沈ませていた。
(――なんやな、まるで罰ゲームやわ)
そんな単純なものではない。
そんなあっけのないものではない。
けれども、怜はそれを“罰ゲーム”だと捉えた。
別に麻雀を冒涜しているわけではない、誰かの青春を、自分の青春を馬鹿にしているわけではない。
罰ゲームではあっても、
(これは、単なる理不尽やない、私の未熟があったからこその、必然! 罰ゲームっちゅうのはそうゆーもんや! だから、これは、私が悪い!)
言ってしまえば、単純だった。
間違っていることなど何一つ無い、自分のミスで、誰かに迷惑をかけたから、だから罰ゲーム、当たり前すぎて、しかたのないことだ。
そして、
(理不尽は、決してこんなもんやない!)
知っていた、怜は、そんな罰ゲームとすら呼べないものの存在を、あまりにも誰かを冒涜するような、理不尽。
そんな理不尽を、怜は知っている。
だから、だから自分は前を見る。
(――さぁ、今からそいつに目にもの見せてやるで! ウチの麻雀で!)
怜/打北
千里山の眼に活力が戻ったように思える。
玄は少しだけ、安堵したようにそちらを見る。宮永照は強敵だ、流れも支配も何もかも、あらゆる物を絶えず気にせず暴れて回る。
(でも、突破口はかならずある)
打点制限の事もそうだが、何よりもまず、照はオカルトを介さない。照自身のチカラは知らないが、周りのオカルトなど、照の前には、単なる有象無象の一つにすぎない。
だとすれば――そこに突破口がある。
(流れの影響を受けずに、チャンピオンは和了ってくる、でもこの卓で流れが死んだわけじゃない! チャンピオンに来るはずだった流れは、必ずどこかへ流れているんだ!)
それが、どこか。
玄の手牌をみれば明らかだった。
――玄手牌――
四五(赤)六七八八八(ドラ)355(赤) ⑥⑤(赤)⑦
(新道寺のヒトも、配牌は良かったみたいだけど、二度も振り込んで調子が悪いみたいだ、園城寺さんは、今はもう少しだけ、静かにしていて欲しいかな)
玄/打8
怜/打2
(手が進んだ、あんまり時間はかけられないよ……)
しかしそれは、照にとっても同じ事。
照自身は流れの影響など受けない、自摸る時はいつだって自摸るし、聴牌しているのなら、すぐさま和了が待っている。
だがそこに、手を加えられないわけでは決して無い。
(私は、宮永さんの流れを、読めないわけじゃない)
玄の流れを察知するチカラは、主にドラの察知からくるものだ、ドラの無いところにある気配を、微弱ながらも感じ取る、それを流れと読んで使っているのだ。
だから、照の流れは感じ取れないわけではない。
ゆえに解るのだ、有効牌が、なんとなく。――けれども、照は有効牌を使用できない。
ドラがない今に、四翻以上の手を作らなくてはならない状況、照が鳴けるはずもない。
本来ならばそれは必要ないのだろう、鳴かずとも、照は十分に高火力の手役を作ることができる。
だが、
(――それに、チャンピオンに流れがなくとも、その周りには、確かにあるんだ)
それを玄が、狂わせた。
五―六―七筒の鳴きにより、照のツモ番がずれた。別にずらしても照は和了ってくるのだから、それ自体に意味は無いように思える。
だが、違う。
ツモが変われば、中身も変わる。
現在調子を落としている千里山のツモ番、宮永照にも、影響が出ないはずがない。
――自摸切り。
照/打5
結果が、その自摸切りだった。
「……ポン」 5(赤)5「5」
(――聴牌)
玄の手が、チャンピオン、自分が目指す頂点を一直線に穿つべく、余りある速度で邁進する。
――実況室。
「チャンピオンの自摸切りを、阿知賀が鳴いたーっ! これは、これはまさか、和了ってしまうのか松実玄!」
「宮永選手の自摸切りは大きいですね、普段より手が進んでいないように見えます」
ぐっと拳を握る恒子をなだめるようにしながら、健夜はぽつりとそんな事を漏らした。
「と、いうことは、もしかするともしかしますか?」
「いえ、ですが宮永選手はどれだけ遅くとも、六巡目にはテンパイしています。――ほら」
――照手牌――
一一一四五六5688東東東 東(ツモ)
「これは、まさか――」
「えぇ、お察しの通りで間違いはないでしょうね」
『――カン』 東「東東」東
閃光が、跳ねて弾けて霞んで消える。照の右手が、閃光を伴って横へ薙がれた。気がつけば、彼女の奥にある、圧倒的なチカラの固まりが、彼女の右手へ収束している。
「チャンピオンのカンが決まったァ! 嶺上開花が決まれば、一気に満貫和了となるぞー!」
「宮永選手の嶺上開花、公式戦では一度も出していませんね」
「あれ? その言い方だとちょっとアレな――」
照/打南
「嶺上開花ならずー! さすがにそうポンポン出る訳ありませんよねー」
「……そうですね」
そして、
――対局室。
(さすが、さすがだよ宮永さん。確かにカンをすれば私の手は止まる。どうしても手は遅くなる。ここまで鳴いちゃえば、それもかなり解りやすくなるだろうね)
玄は、楽しげに対面の照を見る。相変わらずの鉄面皮、それなら、その奥には一体どんな顔を、どんな思いを背負って戦っているのだろう。
それでも、自分は負けるわけには行かない。決めたのだから、――ようやくここまで、来たのだから。
(でも、今流れは私にある。たとえチャンピオンでも、王牌の流れまでは操れない! ――絶対に闘いぬく、誰も飛ばさせない、その上で、私が勝つ!)
――新ドラ表示牌「六」
煌の牌が、卓を叩いた。現物、誰も無くものはいない――玄を、妨げるものは全くない。
(これで――)
「ツモ! 4000、8000!」
叩きつけた牌の隙間、チカラとチカラの狭間から、覗き得た瞳の姿は、まるで炎を宿したかのように、透き通っていた。
――阿知賀控え室。
「や、やった、玄が――」
「白糸台のチャンピオンを……止めた!」
憧と穏乃が、喜びに満ちた顔で、互いに手を叩き合う。今まで、照が打点の低い段階で、その手を止められたことは殆ど無かった、それを玄が、たった今やってみせたのだ。
「点数も原点にもどった、コレなら……」
灼もうれしさを隠さずに、ほころんだ顔でモニターを見た。腕組みをしてモニターを眺める赤土晴絵の顔も、若干だが安堵を覚えているようだった。
しかし、
『さぁ、波乱の展開で荒れた準決勝先鋒戦後半、ついにこの時がやってきてしまいました、チャンピオン、宮永照の親番です!』
それを遮るかのように、恒子の鋭い声が控え室全体を叩いた。――そう、まだ終わっていないのだ。
むしろここからが本番、宮永照は未だ頂上を行くトップであるし、この親で、照が連チャンしようものなら、玄の取り返した点棒も、また消えていってしまう。
『さぁ、東四局、スタートです1』
誰もがその親番に注目を寄せる。波乱が起こると知っているからだ。宮永照の圧倒的な姿は、それだけあらゆる物を、惹きつけるからだ。
そして、四者に囲まれたサイコロが、その数値を弾きだした。、
――東四局――
「ツモ、500オール」
――一本場――
「2100オール」
『二連続和了! 堅実な和了りながらも、圧倒的な聴牌速度からのツモあがり、他校を一切寄せ付けません!』
『新道寺の花田選手を二校がアシストする形ではありましたが、さすがに及びませんでしたね』
――東四局、二本場、親照、ドラ表示牌「南」――
(……誰も、止められない)
対局者として、宮永照とともに卓へと座る、花田煌は嘆息した。ここまで一度もいいところがない。
三人がかりで和了らされたことならあるものの、現状他の二人と違って、高い和了りなど見えてすら来ない。
――誰も追いつけない。宮永照に、インハイチャンプに。そんな中で、阿知賀の松実玄は、真向からそれを否定した。
止めたのだ、連荘を、倍満和了という、コレ以上にないほどのおまけを持って。
(追いつけないなぁ……)
阿知賀の少女も、インハイチャンプも、紛れも無いその高校を背負うエースなのだ。他に類をない、その高校の“最強”なのだ。
(それに比べて、私は単なる使い捨ての置物、飛ばないから居ないよりマシなんて、もはや笑いものにもなりませんよねぇ……)
自分のやっていることが、あまりに小さく見えて仕方ない。コレほどまでに、自分が小さく見えたことは初めてだ。
あまりにも、遠すぎる。
松実玄が、
宮永照が、大きすぎる。
(はは、なんというか、なっさけないなぁ)
疲れたような笑みで持って、煌は椅子に倒れこむ。限界だ。あまりにもレベルが違いすぎる、ここにいることが、とんでもない間違いのような気さえしてくる。
相手は同じ高校生なのに。
自分も同じ、全国まで駒を進めた雀士のはずなのに、
目を閉じて実感する。
――勝てない。
どうやったって、自分がこの卓で、勝つことなど不可能だ。絶対に、絶対に、絶対に、手を伸ばすことすらできないくらい、彼女たちは強いのだ。
それは変わることのない真実で、自分はそれに押しつぶされることしか――できないのだ。
(――まぁ、そんな事、最初から解ってるんですけどねぇ)
煌が眼を閉じていたのは、目を背けていたのは、ほんの一瞬のことだった。天井へ上向いた体が、一気に卓へと引き戻される。
気がつけば、自分のツモ番が回ってきていた。
(そうですよ、私は捨て駒、新道寺の先鋒なんて、単に運がいいからそうなっただけのこと)
ただ飛ばなかったから、
ただ先鋒に適していたから、
だから煌は先鋒になった。それ以外に意味は無い、それ以上の意味はない。新道寺女子という高校で、煌はそれだけの理由で、レギュラーを、先鋒を任せられているのだ。
(わかってはいるんですよ、私があなた方のような打ち方が、できないってことくらい。あがくことがどんなに意味のないことか、わかってはいるんです)
でも……だけど――だからこそ――ッッッ!
(だから――足掻かずにはいられない! ただそこにいるなんて死んでもゴメンだ、私は……私の信じる麻雀がしたい!)
煌/打北
玄/打1
怜/打發
(――ここだ!)
「ポンッ!」 發發「發」
――煌手牌――
一二三三四五七九⑧⑧⑨ 發發發
(……張った、久々の聴牌、あまりに時間が経ちすぎているかのように思えますね。――でも、一度逃したチャンス、再び手に入れられるのなら、これほどすばらな場所はない!)
煌/打⑨
(さぁ。勝負ですよ魔物の方々、私が見事、この聴牌で受けきって差し上げましょう!)
玄/打⑧
その時だった。それは、だれも予想のつかないものだった。
「――ツモ! 2200! 4100!」
怜が、再び白糸台の、流れを止めた。
やっぱり、すばら先輩はすごくかっこいいと思います。このヒトや末原さんのような、苦闘する凡人っていうのは、色々と好きですね。
かじゅなんかもそうでしょうか、かじゅはどっちかというと円依のようななんでもこなせるタイプに思えますが。
さて、先鋒戦終了まで、具体的に言うと明日までは連続更新です。今後はひとつの区切りごとに連続更新を行なっていく方針です。