「準決勝、とんでもなかったなぁ」
「だなぁ……さすがは全中チャンプってところか」
準決勝Bブロック決着、終始風越の一人舞台に、三校が追いかける形であった準決勝は、トップ風越女子、二位――宮守女子の結果で決着が突いた。
第二回戦最大の激戦区、永水シードを勝ち抜いてきた二つの猛者がそのまま決勝へと駒を進めることとなった。
「――前半戦後半戦、オールパーフェクトゲーム。三校全員焼き鳥、か」
「しかも最後は六万点もあった臨海女子と有珠山高校を飛ばしての終了、まだ千里山の方が聴牌もできるし、小鍛治プロ曰く“なんとでもなる”らしいから、マシだよな」
大将戦、それまで運んでいた試合が、一気に傾いた。何やらいつも以上の気合で望んだ風越大将が、二位の宮守女子を除く二校を同時飛ばしで対局を終えたのだ。
それはあまりにも一方的で手の付けられない闘いだった。
もはや気がつけば終わっていた、という他のない代物で、あの場で麻雀といえる麻雀を打っていたのは、宮守女子大将、姉帯豊音しかいなかったことだろう。
焦土。
跡形すら残さず、準決勝第二戦は、風越大将によって焼き払われた。
「――こうなると決勝戦はわからなくなってくるな」
「白糸台が鉄板かと思えば、準決勝は紙一重の二位抜け、副将戦までに阿知賀女子にまくられる、と来たもんだ」
「かと言って、千里山も次は危うい、……風越はそれくらい強いぞ」
先鋒、福路美穂子の観察力は誰の解説をとっても絶賛に値するものであり、ここまで一度としてマイナス収支に終わったことはない。宮守女子の先鋒との合わせ打ちにより、あの神代小蒔を封殺したのは記憶に新しい。
続く次鋒も、ここまで必ず二万点以上を稼いで帰ってくる宮守女子の次鋒、エイスリン=ウィッシュアートに食らいついている。
「先鋒も、次鋒も高い収支で半荘を終えることが特徴的……風越は中堅までに、全国クラスの高校を飛ばすことも可能なわけだしな」
「副将はあんまり大したことないけどな」
「そうか? 十分異常な打ち手だぞ? 俺の見る限り、第二回戦で永水を抑えたのは風越の副将だろうからな」
「その永水の副将も、期待はずれだったじゃねーか」
「……はぁ」
二人の記者、そのうち一人が至極残念そうに嘆息を突いた。あまりにも意味有りげなそれに、片割れが目ざとく睨みつける。
「そんなんだからお前は見る目がないんだよ、昔の全中で今のチャンプは素人だから、見る価値はないつったのはどこのドイツだ?」
「事実だろうがよ、最近の麻雀は運だけで強い気になってる奴がおおすぎんだ」
「…………はぁぁぁ」
もはやいうことはない、と男は話題を切り替える。
「善戦してるのは宮守女子だな、あのパーフェクトゲームの中、一度も振込がなかった。……もともと風越大将は責任払いでもないと、振込はないんだが」
「姉帯豊音……ね、あまり目立たない選手に見えるけど?」
「目立たなくはないだろーさ、第二回戦では姫松と永水相手に奮戦してる」
風越大将に、唯一ナイフを突きつけられたのは、恐らくこの姉帯豊音ただ一人だろう。はために見れば姉帯豊音は普通の雀士だ。
「第二回戦、オーラスで唯一、崩せる手牌でテンパイしていた。あそこで和了っていれば、なかなか風越にダメージだったんだろうけどな」
「……崩せる? 確かにオーラスで姉帯は張ってたが、逆転も望めないゴミ手じゃなかったか?」
「…………気づいてないのな」
両者の話題は、やがて宮守へと話が移っていっていた。今大会最大のダークホース、話題に登るようなダークホースは後二校、阿知賀女子と有珠山高校の二つがあったが、決勝に残ったのは宮守女子ただひとつ。
決勝という舞台をかき回す、潤滑油として期待を集めていた。
「先鋒、小瀬川白望は有力選手だな、あの福路と同等にやりあう打ち手、たしか第二回戦と準決勝の収支を合計すると、平になるんじゃなかったか?」
「だな、……風越福路にも言えることだが、とにかくあの観察眼は良い。みてて爽快だね」
決勝でもっとも期待が集まるのは、もちろん白糸台エースの宮永照。その宮永照を、この二人と園城寺怜ならばあるいは止められるのではないか、そう期待するのも無理は無い。
「宮守といえば後はエイスリン=ウィッシュアートか、全国和了率ナンバーワン選手、あの宮永照より和了ってるちゅうんだから異常というかなんというか」
「んー、あれだな、彼女の打ち方は美しい一枚絵を見ているようだ。華があって実にいい」
卓上に描き出される一輪花、そんな書き出しのインタビューを扱った雑誌があったな、と男はふと思い出す。宮守女子を県予選から支えるエースといえるだろう。
「中堅は鹿倉胡桃、他の四人に比べると、いささか地味だが……」
「おれはあの防御力が大好きだね、安手への差し込みなんかも巧い、ああいうタイプは非常に俺好みな打ち手だよ」
「聴牌気配が見えないっていうのが個人的には好きだね、手牌が写らなければ、画面越しでもそれが嫁取れないのもなかなかオカルトじみてる」
「それはオカルトかぁ? 何でもかんでもオカルト扱いするのは感心しないね、そもそもオカルトなんてもてはやすような価値もないんだ、初心者の馬鹿勝ちに理由を付ける必要なんてあるかよ」
両者の立場は真っ向に割れていた。単純なスタンスの違い、もしくはあえて真っ二つにすることで、議論を味のあるものにしているのかもしれないが。
吐き捨てるようにした男が、それを巻き取るように言葉の棘を少しだけ切り落とす。
「まぁ、オカルトなんて所詮そんなもん、よ。俺らはあくまでデータ上の甲乙をつけていればそれでいいのさ。信じる奴は信じればいい、見栄えがいいのは事実だしな」
「強い奴は強ければいいってことかね……ま、いいけどさ」
気を取り直して、閑話休題というやつだ。
「全国で目覚しい活躍を上げている選手を“県予選とのギャップ”っていう観点から比べた時、最も和了る選手は誰だと思う?」
「千里山の二条泉だな、予選での危なげのない闘牌は、全国の舞台なら、普通は崩れていくもんなのにさ、あの“負けない”強さは誰にもないね」
準決勝、第二回戦と、二条泉が座った卓には、圧倒的な支配者が存在していた。大立ち回りを繰り広げた森垣友香と明らかに格上である、各校副将の面々。
その中で、泉は水平ギリギリのプラス収支で、大将にバトンを回している。
準決勝ではトップとの点差が十万点になろうかという状況で、第二回戦では、鉄板千里山の三位転落という状況に直面して、それでもなお、点を守ることに終始した。
「その二条と同卓することになる宮守女子の副将――臼沢塞、決勝副将戦のキーマンである、と俺は睨んでるがね」
「あー、たしかになぁ、一回戦では去年の個人戦でいい成績残した副将を完封したんだったか?」
「それだけじゃないさ」
二回戦と準決勝、副将戦の勝者は他でもない、宮守女子の臼沢塞だ。第二回戦では二万点の収支トップ、準決勝でも宮守女子の収支を上に伸ばしている。大将戦、豊音が飛ばされなかったのも、塞の活躍がひとえに大きい。
「少なくとも、宮守女子の実力は本物さ、大将戦に至るまで、風越女子に“いい勝負”を維持できてるんだからな」
「だな、千里山は圧倒的だが、白糸台は少なくとも大将戦までは“いい勝負”だったんだ、となれば――解らないよなぁ」
「違いない」
楽しい時間だったと、両者は確かめ合うように言葉を交わした。
そして――
「来たぞ!」
彼らの近く、集まった記者団の一人が大声で叫ぶ。
「……さて、凱旋だ」
オカルト寄りのスタンスを持つ男が、ほとんど独り言のように、軽く言葉を口の中で転がす。
「今年度インターハイ優勝候補の一つ」
「――風越女子」
そこには、穏やかな風があった。そこら中を飛びまわる、勢いの良い空っ風があった。けして風向きを変えない直線的な風があった。あらゆる物を切り薙ぐような、鋭い風があった。
そして――
――それらの比較にならないほどの、圧倒的な暴圧が底にはあった。
先鋒、福路美穂子。
次鋒、池田華菜。
中堅、上埜久。
副将、南浦数絵。
「長野の代表的強豪校が、今年に入って超弩級の一年生をレギュラーに据えた。去年疾風怒濤の如く現れた、龍門渕を圧倒的な強さで打ち破った風越女子最強の大将!」
――それは、一人の少女によるものだった。
――先頭を行く上埜久と福路美穂子の二枚看板、そしてその後を追う池田華菜。風越の大将は、同学年である副将、南浦数絵とともにいた。
「インターミドルにおいて、圧倒的な成績を残し、三年連続全中チャンプとして君臨した中学生最強の雀士――」
その言葉の意味は、宮永照に勝利した――三年前のことではあるが、その少女は、現最強のインハイチャンプを、一度は越えてみせたのだ。
奇しくも、団体戦決勝その最後を締める大将は、その少女を除いては全中への“ここ三年の”出場経験がない。
未知の敵との、対決だった。
――覇気は十分、人智を超えた純粋な“強者”。
宮永照の妹にして、ある呼び名を持つ雀士。
「――――宮永――咲ッッッ!!」
そう、その名は『
風越から宮守へ、そしてまた風越へ。
ちなみに第二回戦は割と接戦、今回みたいな大暴れはありませんでした。需要があれば活動報告にでもまとめてみます。
ところで咲ちゃんがなにか恐ろしいモノになってもーた。