咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『一人舞台』決勝先鋒戦Ⅵ

 ――東二局二本場、親照、ドラ表示牌「{⑧}」――

 

 

 そして続く二本場、怜がついに動いた。照がなくよりも速く、二つの副露を晒して叩く。――他家が要領を掴んできたのか、照が鳴ける牌が少ない、というのも大きい。

 

 とはいえ、それがそのまま和了りに直結するかといえば、とんでもない。

 照はすぐさまその直後に鳴きを入れ、他家の手牌を縛る。

 

(――一巡先が見えてる分、手を進めることはできる。せやけど一巡先の改変後や、一巡先以降の事がわからない以上、完璧やない。やってなかなかキッツイわ)

 

 怜/打{7}

 

「ポン」 {77横7}

 

 怜の打牌に照が反応する。

 

 照/打{③}

 

(――二副露? さっきまで、副露は一回やったのに、態々ここで速度をあげてきた?)

 

 不可解な鳴きだった。三者が三様に顔をしかめる。特にこれが初見である白望が顕著だ。――やもしれば気づいているのかもしれない。照のチカラ、その詳細に。

 

 だとすれば、身内という情報源がない状態での察知は、末恐ろしいものがあるが、とかく。

 

 照は更に、白望から飛び出した牌を鳴き、これで三副露。

 手牌が薄く短くなった。

 

(――なんや? 何が狙いやねん、この鳴きは――!)

 

 怜は美穂子や白望のような手牌を見抜く力はない。しかしここで計算ができないほど、凡人をやっているわけではない。

 照の連続和了には打点制限がある。一度三十符一翻を叩けば、次はそれ以上、最低でも四十符が必要となる。それを踏まえた上で、盤面を見なおした時、照の異様が見えてくる。

 

 ――怜手牌――

 {三三三赤⑤⑥⑦⑧} {横八七九} {横東東東}

 

 ――照手牌――

 {■■■■} {横333} {横777} {横四五六}

 

 その上で、この状況。

 照の手はリンシャンなどのレア役を望まない場合、タンヤオを付ける必要がある。対々和はないし、三色や同刻の目はきえている。

 この状況から照が打点制限をクリアするには、槓材かダブ東、もしくはドラが必要だ。

 

 つまり――

 

 

 ――つまり、と美穂子は思考する。

 

(ダブ東は消えている、園城寺さんの手元に東があるものね、加えて通常ドラの目もない、考えられるんのは槓材による符ハネか、赤ドラ二つの手牌――のみ)

 

 照はその鳴きによって、自身の手をほとんど晒しているといって良い。

 

(考えられるのは赤ドラの対子と未完成の面子。もしくは赤ウー含みの対子と、赤ウー含みの面子構成。更に可能性としては低いけどリンシャンバックの待ち)

 

 既に晒されたポンからの加槓は考える必要がない。なぜなら美穂子が三索を、美穂子の観察が正しければ、白望が七索を抱えているのだ。

 更に赤五筒の対子も考えられない。怜の癖を鑑みる限り、あそこには間違いなくドラがある。赤ドラだ。

 

 よって考えられる照の手牌は、

 

 ――{五赤五赤⑤■}――

 

 というような、形に限られる。生牌は警戒する必要はあるが、この状況ではほとんどの牌が安牌だ。更に、照の捨て牌も以下のようなものになっている。

 

 ――照捨て牌――

 {⑧③白五6④}

 {北南}

 

(宮永さんの当たり牌は五筒、五索、六筒、七筒、このどれかにほとんど絞られた。だったら、この東二局で連荘を終えれる。けど、一体何を考えているの? この状況で、一体宮永さんは何をするつもりなの?)

 

 不可思議な打ち筋、美穂子の心に数多もの疑心暗鬼が生まれては消えていく。意味を持たないものから飛躍し尽くしたしろものまで、

 幾重にも分岐する思考の最中、美穂子は“それ”に気が付かない。

 

 舞台上から伸びる一筋の光。

 宮永照の、操り糸。

 

 それはまさしく、絶対的な強者が、マリオネットを動かしているかのように、踊らされる者たちは、それに気付くこともなく対局に没入する――

 

 白望のツモ、顔をしかめて手出しの一索。どうやら、当たり牌を掴んだようだ。

 少しずつ、少しずつ照の手が狭まっていく、本命の怜への差し込みもいかように行かないものの、少しずつ進捗はあった。

 

 終局に少しずつ近づいて、白望が牌を掴んで頭を押さえるように手を添える。ここまでやってわかるが、思考を回している時の仕草だ。とすれば――

 

「これ、かぁ……」

 

 極度の緊張にまみれたような声を漏らして、白望は牌を自摸切りする。やっと掴んだのだ。

 

 白望/打{⑧}

 

「……ロン、2000は、2600」

 

 こちらも張り詰めた空気に疲れを覚えているのだろう、若干のタメを持って、手牌が倒された。

 ゆっくりと、しっかりと。

 それが天下に、顕にされた。

 

 

 ――東三局、親怜、ドラ表示牌「{西}」――

 

 

(――あれから、色々考えてみたけど、宮永照の狙いは、ウチが和了ることやないやろか、……うん、やっぱりそれや、――“和了らされた”んや。ウチはチャンピオンに、彼女の舞台の手のひらの上で――!)

 

 少しずつ怜の顔が驚愕に染まって行く。配牌を終えながら、怜はそれを少しずつ飲み込んでいったのだ。それほどまでその事実は、衝撃を伴って怜の元へ、現れたのだ。

 

(宮永がウチを脅威だと認識しとる状況。加えて宮永の“舞台廻し”は、想定を超えた和了によって崩壊するという事実)

 

 さらに言えば、宮永照の一人舞台は照が想定した和了であれば、その舞台が崩れないという特性もある。それを加えて考えれば、あの和了は自身の手を晒すことによって、他家に危険牌を知らせ、振りこませないようにしていたのだ。

 自身の連続和了による打点制限を挙げないために。

 理由は語るまでもないだろう、三翻までは十分逃げ切れる、しかし四翻まで手を伸ばせば、ほぼ間違いなく怜に追いつかれてしまうのだ。

 

 舞台廻しは照のみが恩恵を受けるわけではない、極めて限定的だが、怜もまた、舞台廻しの恩恵をうけるのだ。

 

(支配によって無駄ヅモを引かせるっちゅうことは、それだけ“自摸切りが増える”っちゅうことや、なにせその牌や、いらん牌なんやからなぁ。……そして、そんないらない牌が他家から溢れるような状況になれば――どうなるか)

 

 簡単な、話だ。至極簡単で、とてもとても当たり前の話だ。

 怜の視点から通常よりも他家のツモが透けるのだ。言うまでもなく、自摸切りはすなわち他家が積もってくるはずの牌なのだから。

 

 怜は自摸切りであれば他家のツモが解る。しかし通常であれば多いのは自摸切りではなく、むしろ手出しだ。

 そうなれば怜は他家の手牌を知れなくなる。結果的にそれが何であるか、のちの手出しで判ずることもできるが、それは他家も同じ事。

 

 舞台廻しの状況か、その制限がほとんど解除される。鳴きを駆使して手牌を手繰れば、他家のツモを思い通りに自分の手中へ収めることも、不可能ではない。

 

 宮永照にとって、園城寺怜は天敵以上の存在だ。どれだけ圧倒的なチカラがあろうと、怜はその喉元を正確についてくる。そんな相手に、照は手中に収めるという選択をとった。

 白望の差し込みも、そのひとつ。

 

(アレはすべて宮永の想定通りや、現在のトップである宮守に、少ないながらも打撃を与えた。宮永の狙いは他家に潰し合わせることで、舞台を維持したまま自分だけをプラスに持って行く事!)

 

 よくそこまで至ったものだ、怜は自分自身にそう簡単しながら結論づけた。ヤモすれば、他家の手牌に足元を掬われかねない状況だ。特に怜は分析というチカラがない、単なる凡人でしか無いのだ。

 もし照に暗がりから斬りかかられたとして、どう気付こうというのだ。

 

 しかし、気づいた。

 わかってしまった。

 答えを、怜は答えを知ったのだ。

 

(――させへん。そんなこと、絶対にさせへん!)

 

 勝機はある。怜の手牌は何ら工夫のないタンヤオ手、喰い断で流すには絶好で、打点を上げるにはとにかく厳しい、そういった手牌だった。

 これならば照の速度に追いつける。鳴きの形もとにかく柔軟、対子嵌張両面対子、辺張その他なんでもありのこの手牌、逃すわけには行かない。

 

 それに、と怜はもうひとつ、希望を見出す。

 

(一番鈍いうちだって気づいたんや、ほかの二校が、気づかないはずもない)

 

 風越の先鋒、福路美穂子は照の舞台廻しを、知ることのできるものが身近におり、更にその身近は、ある種魔物とすら言って良い、絶対のものだ。この状況は織り込み済みで間違い無いだろう。

 そして宮守の先鋒、小瀬川白望も同様だ。彼女にはオカルトじみた鋭い直感を有している。ここまで幾度と無く照の舞台廻しが使われている以上、感じ取るものはあるだろう。

 

(三体、一。勝負やチャンピオン、その舞台――ウチらが壊したるから、ちーとまっとれ!)

 

 気合を知れなおして、怜は打牌を選択する。

 時間の流れが、集中によって乱れ始める。やがてそれらは怜の袂へと擦り寄って、怜は、それをそっと手のひらに載せ、握り締めるのだった――

 

 

(是が非でも千里山を和了らせたい状況、かぁ……一巡目でチャンピオンに鳴かれちゃったから、こっちも飛ばして行かないとなぁ――)

 

 手牌と卓上においた視界を、縦横無尽に行き来させながら、白望は懸命に思考を回していた。

 三巡目、照がひとつ副露して、既に舞台は発動している。

 

(無駄ヅモ……風越が危ないところ切ってるし、ここで鳴かせても千里山のツモは風越に行く……いや、それじゃだめか)

 

 上家、風越は中張牌の中央を切り裂いて、怜の手牌に滑りこませようと手出しを試みた。白糸台に対する鳴きの危険もあったが、それでも通した一打は、しかし無意味に消えて、霧散してしまった。

 ならば自身も無茶をすべきか、白望は考える。

 

(あそこで千里山は鳴かなかった。わざと……だろうなぁ、あの下家から順子はなけないし、多分そういうい事だろう)

 

 白望/自摸切り{②}

 

 怜、これをスルー。その後自分のツモに周り一切反応を示すこと無く、山の牌へと手を掛ける。それを手元に引き寄せて、一時逡巡して牌を手出しする。

 

 直後、風越、美穂子のツモを怜がなく。更に一巡回って、

 

(――白糸台のツモ、手出し)

 

 白望は迷わず打牌を選択する。――いや、迷った上で一瞬で判断する。明確な答えは、迷うには少し的確すぎた。

 そんな白望のそれに反応して、すぐさま怜が手牌を晒す。二副露――これで追いついた。

 

 しかし直後。

 

「チー」 {横六五七}

 

 風越決死の手出しを照が副露、すかさず怜の真横に並んだ。

 白望と向い合って座る両者の視線が交錯しあい、白望は思考し手を止める。

 

(――…………)

 

 意識が万遍なく空白に染まってゆく、自分の中にある感情が、白熱するかのように暖かさを持つ。

 ゆっくりと、ゆっくりと熱が体を包み込み、白望はそれに浮かされるように牌を選ぶ。

 

(……………………これ)

 

 白望/打{6}

 

 それを、怜が鳴く。三副露、そして聴牌気配。

 

 直後――照の手が大きく風を伴って突き出された――

 

(――来るっ!)

 

 彼女故の焦りだろう、闘気漏れだした風の軍勢が、一気に卓上を駆け巡り、牌を手元へ手繰り寄せる。

 一瞬だけ、照の表情が変化して――元へと戻る。

 

 風を伴った打牌。

 聴牌だ。

 

 怜と、照。二人の手が、共に並んだ。

 

 

(――チャンピオン、あんたは確かに、高校生最強の雀士かもしれへん。それに足る実力も、実績も残してきた)

 

 ――照、自摸切り。

 

(ウチからすれば、アンタは雲の上みたいなもんや。どうしようもなく高い存在。せやけどあんたはウチに“追いついた”。ほんの些細な違いやろうけど、それでも、ウチはアンタを、“追い越した”!)

 

 ――怜、自摸切り。

 

(千里山はウチだけやない、竜華も、セーラも、泉も――円依も。誰も彼もが最強や。つまりウチは、アンタを倒せば最強を超えられる!)

 

 ――照、自摸切り。――怜、自摸切り。

 

(この勝負――もろたで、チャンピオン。なにせ今のウチは、ただ最強なだけやない)

 

 ――照、自摸切り。――怜、自摸切り。――照、自摸切り。――怜、自摸切り。――照、自摸切り。――怜、自摸切り。――照、自摸切り。

 ――そして。

 

 照が、白望が、美穂子が、怜が。

 モニター越しの観客が、実況が、解説が、白糸台が、風越が、宮守が、千里山が――竜華が、セーラが、泉が、円依が!

 その瞬間を、

 その刹那を、勝利とみなす――――ッ!

 

 

「――――――――ツモォッッ!!」

 

 

(“ウチら”は、アンタに噛みつけるほど――強い!)

 

 曝された手牌。

 ちっぽけな、打点、しかしそれでも――それは、だれもがそれに歓喜して、だれもがそれに興奮して、そうしてエられたそんな一歩だ。

 そう、まさしくそれは。

 

500(たったの)オール(いっぽ)……!」

 

 とても大きな、一歩であった。




尺の都合などから今回に回したはずのこうどなさしこみ()がミスってたので、合わせてこちらも投下します。
書き溜めが付きそうなので次話はかなり遠くになりますが、しばしお待ちを-。

今回は点数表は(面倒なので)ありません、次回もありません。次々回もありません。
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