咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『それぞれの勝利』次鋒戦Ⅵ(終)

 少しだけ、華菜は考えていた。

 かつて華菜は先輩である上埜久に問いかけたことがある。確か『どうして久はアレほどまでに強いのか』というようなことだったはずだ。

 華菜にとっての強者は二種類存在する。咲や衣、あるいは南浦数絵のような人の理解を超えた先にある強さ、そして華菜が目指す人が人としての極致にたどり着いたが故の強さだ。

 

 人智の頂点にある強さ、身近なところでは、福路美穂子の強さがそれだ。風越を引っ張るキャプテンとして、美穂子はとにかく強かった。

 そしてもう一人、上埜久も同じ事。そして華菜がその問いをぶつけたのは、久の方だった。

 

 キャプテンを困らせたくない、という思いがある。しかし華菜が惹かれたのは久のイタズラっぽい底の無さだった。

 華菜は久に対して、無敵に近い感覚を抱いていた。美穂子にすべてを受け入れてくれる優しさを感じていたように。

 

 それが故の問いかけだった。

 

 それが華菜のすべての始まり。今、この場で闘う意義を、前へ進むという華菜の意思。

 それはきっと、華菜の旅の――始まりだった。

 

 

 ――南一局、親エイスリン、ドラ表示牌「西」――

 

 

『そうねぇ、まぁ別に大した違いはないんじゃない? 貴方だって私と同じ風越のレギュラーじゃない』

 

 ――卓上には既に展開され始めていた静かな河の流れが見えた。

 先行するのは恐らく菫だ、第二打から手出しの中張牌、華菜の手はこの時点で三向聴であるから、追いつけるような感触はない、今回も、他家に和了られてしまうだろう。

 本命が菫、そして対抗馬が、続けて中張牌を放った竜華というところか。

 

『いやいや、そうはいってもあたし校内ランキング三位ですし、咲の連続プラマイゼロ記録も破れてませんし』

 

 エイスリンは、相変わらずよくわからない。彼女の速さは脅威であるが、気配の薄さがさらなる恐怖だ。聴牌に気づかず振り込んだ、そんな状況が、果たしてどれだけあっただろう。

 これまで、エイスリンとの対戦回数は二回、どちらも大量リードを許し、自分はギリギリのプラス収支が精一杯だ。

 現状も、卓上で最も点を稼いでいるのはエイスリンである。それはゆるぎのない事実なのだ。

 

『それを行ったら、私だって咲の記録を破れてないわ? 美穂子だってそうじゃない』

 

 しかし、現状この卓を支配し突き動かしているのは、清水谷竜華だろう。特に後半戦においてはエイスリンをかき回し、ここまで二連続の和了を続けている。

 手ごわい相手だ。しかしそれでも華菜は、自分がそれにかなわないとは、どうしても思えないのだ。

 

『でも、あたしはまだ二年ですし、咲みたいに特別じゃないですし……』

 

『それでも、私と貴方に明確は違いはないと思うわ?』

 

 少しずつ思考の中の自分と、記憶の中の自分が一致していく。そうだ、少しずつ思い出してきた。

 久が華菜に言ったこと、この半荘が始まる前に、投げかけた一つの言葉、そしてもう一つの“宿題”。

 

『……納得出来ないみたいね。そうね、そうだ、いいこと考えた。一つ宿題を出しましょう、期限は私達が引退するまで』

 

 ふと、思考にふけっていた自分の体が、ガチガチに固まっていることに華菜は気づいた。長時間意識を集中させていたのだから無理もない。

 かるく首を振りながら、少しずつ体を解きほぐす。やがて溜まっていたチカラがどっと、疲れとして自分の体に押し寄せた。

 

 思わぬ気怠さは、やがて華菜の体から大きな息を吐き出させた。長く、深く、重苦しいものだった。

 

『――考えなさい、私と貴方、この二人の間に、果たしてどれだけの違いがあるのかってこと』

 

 ぼーっと、視線が宙を行く、一瞬だけ天井からもたらされる光の群れへと向いた視線、引き戻し卓上へと舞い戻ると、どうやら丁度上家が打配したところだったようだ。

 

 タン、と、勢いのある音が聞こえてくる。どこまでもまっすぐで、自身にあふれたものだ。

 

 華菜はもう一つだけ呼吸を繰り返すと、すぐさま自身のツモへ手を掛ける。そのまま迷うこと無く打牌を選択、親であるエイスリン、そして竜華共通の現物を、両面塔子を切り崩した。

 

 直後、

 

「ツモ! 2000、4000!」

 

 竜華が打牌を手元で叩いた。脈絡のない一索単騎、菫の捨て牌から、彼女が聴牌しているのだとすれば待ちに選んでいるだろう牌。

 

(やってることは単純だ。覚悟があれば誰だってできること……なんだろうな、千里山の次鋒がやっていることは)

 

 牌を開けられたポケットに押しこめながら、華菜は一人思考する。南一局は捨て牌が二段の切り返しにいたろうかというところで終了した。

 そして対局は南二局へ向かう。

 

 そんな中、華菜は一人、考えていた。

 

 それは違和感、見落としをひろおうとする意識が示した、ひとつの答え。華菜の思いが――この決勝卓で、芽生え始めた意識が生んだ自分なりの結論。

 

『華菜、私たちはね、旅をしているの。迷い、悩んで選びとる。それはきっと旅をするのと同じなのよ?』

 

 何時か、どこかで話された、久の言葉を思い返す。

 きっと華菜の悩んできたことが――この決勝が華菜の旅を終わらせるのだ。ようやく、わかってきた。千里山の次鋒が教えてきたのだ。

 

 

 それは、華菜の旅路の終着点、ようやく迎えた、安息の場所――――

 

 

 ――南二局、親菫、ドラ表示牌「5」――

 

 エイスリン/打西

 

 菫/打6

 

 竜華/打⑨

 

 打牌の音が、軽快に響き渡る。そして、

 

(――張った)

 

 ――三巡目のことである。

 

 ――華菜手牌――

 ⑦1356(ドラ)6(ドラ)77789東東 8(ツモ)

 

 開局早々から、ドラ二つの混一色直前の配牌、そこを何の無駄ヅモもなしに聴牌へと進ませたのだ。

 

(すっごい良い感じだ。――うまく行きすぎてるのが、怖いくらい)

 

 七筒を手に込めて、さてこれを曲げるか、と考える。マダ三巡目、ここまで切ったのはすべてヤオチュー牌、混一色を読まれようものがない。

 しかし、曲げずとも自摸れば跳満は約束されている。ここでただ曲げるのは、いささか安直ではないか?

 

(と、いや――理由はいくらでも作れるけど、あたしはこれを曲げないね、ダマで行く……ここまでの負けを取り戻すためには、これ以上は望めない!)

 

 この状況、エイスリンよりも速く聴牌し、かつ高い手をはることが出来た幸運、それを活かすためには、これ以上を望んではいけない、望む必要がないのだ。

 

 ――それは数局前のこと。

 ――その時、千里山の清水谷竜華は北を自摸れば四翻という手を作り上げていた。それをエイスリンを叩くため、大明槓という形で崩したのだ。

 ようは、同じ事。これはエイスリンを叩くための措置であり――

 

 華菜/打⑦

 

(やっと、一つだけわかったことがある。先輩は意地悪だけど、すっごく真っ直ぐだ……愚直なくらい、誰よりも前を見てる)

 

 どこまでも人を前へ引っ張って、どこまでも人を惹きつける、そんな少女が見せる、少しだけ意地悪な笑み。

 誰かを魅了するチカラがあった。自分はそんな姿を、羨ましいと思ったのだ。

 

 そして、越えたいと、共に歩きたいと思ったのだ。――誰もを受け止める、一人の先輩を、抱きしめてしまいたいと、思ったように。

 

(――あたしには来年がある。|もっとあたしは強くなれる。あたしはあの人を“越えられる”!)

 

 菫/打5

 

 エイスリン/打二

 

 そして――打牌を行う少女に、華菜は少し、視線を向けた。

 

(この半荘でわかったことがある。――あたしはもっと強くなれる。宮守も、白糸台も、強い――けど、決して倒せないわけじゃない!)

 

 それは、千里山の次鋒、竜華がやって見せたように。――決して不可能ではないだろう、少なくとも、華菜は竜華の打ち筋に、決して無茶を感じなかった。

 

 そして――千里山。

 

 純粋な強者。恐らくは、自分の目指す上埜久や福路美穂子と同じ場所にいる者。

 華菜は彼女に、負けていないと思った。次は負けない、とも思った。

 

(今はまだ、かなわないかもしれない。けどもう少しすれば、あたしはもっと強くなる。そのための努力は惜しまない、今は勝てなくても何時かはきっと勝ってみせる!)

 

 ――それは、一種の妥協点とも言うべきものだった。

 ただ強さを求める。それは当たり前のものだ。人として目指してしかるべきもの。しかしそれに、華菜は一時の着地点を定めた。

 今闘っているのが、池田華菜という個人ではなく、風越女子というチームに一人だと、完結させた。

 

 ――竜華の手が滑る。自摸った牌を、ノータイムで手牌の右端へ加えると、手出しで牌を切り出した。

 

 竜華/打⑦

 

 華菜の手が、打牌を終えた竜華のそれと交錯する。クロスするように端と端でつながった手のひらは、華菜の手が、前へと進む。

 ツモ、そして盲牌。それだけでわかった――二索だ。

 

 リーチをしていれば一発ツモの倍満、いや一索を切って両面待ちにすれば平和が付く、それなら曲げて倍満にしてもいい。

 この巡目なら自摸ることも可能だろう―ーそんな思考が一斉に頭の中へ流れこんでくる。

 

 だが、華菜はそれを置き去りにした。

 躊躇うこと無く、牌をくるりと回転させる。

 

(――この半荘を、できるだけ無傷に終わらせるには、これ以上の失点は許されない。だったら、あたしは――これでいい!)

 

 諦めのようで、しかし決意に満ちた華菜の顔は、ただひたすらに前を向く。待ちかねるように目を鋭くさせる、菫と軽く目があった。

 

 ――エイスリンを攻略できるように、菫とて、攻略することは可能だろう。それは果たして、ちょっとした無茶で通る話だ。

 

 ニヤリと、笑みを浮かべると、華菜はすぐさま牌を手の中で転がした。軽快にスピンが加わる二索は、その姿を卓上へと晒し――

 

 

「ツモ!」

 

 

 華菜の声が、高らかに響き渡った。

 

 エイスリンは呆けたように、菫は少しだけ苦々しげに手牌を倒し、竜華は穏やかな笑みで、それをそっと、見守っていた――ー

 

 

 弘世菫は思考する。

 

『――皆は、楽しい? 白糸台で麻雀を打っていて』

 

 少しだけ前のこと、照にそんな事を問われたことがある。その時は、誰もそれに答えを返すことはなかった。いや、正確には返したのだ。しかしそこに二の句はなかった。

 なぜ? と問う照に答える明確な物を、菫をハジメとした仲間たちは、持ち合わせていなかったのだ。

 

 理由は単純、考えたことなどなかったことを、答えようはずもない。手にしたものを失うことなど想像するはずもない。

 

 照は何を思ったのだろう、県代表程度の実力しか無かった白糸台を全国最強クラスにまで押し上げた立役者、彼女は果たして、何を麻雀に込めてきたのだろう。

 

(あいつはどこまでも、麻雀に対して真摯で、前向きな奴だったからな。……誤解していたのだろうかな、私は、照を)

 

 今の白糸台麻雀部は、照が一から作ったものと言っていい。照は圧倒的な強さを持っていた。そんな照が麻雀部の頂点として、誰にも好かれる存在であるのは――照の麻雀が他者を潰すこと無く肯定されているのは――照が仲間を始動する立場において、仲間たちを劇的に成長させてきたからだ。

 特に、レギュラーを張る菫と尭深は、その典型といっていい。照魔鏡は他者の本質を見抜く、それを利用した照の指導は、眠っていた菫と尭深の才能を開花させるに至った。

 そして――

 

(私はそんな照を、照自身だと、誤解していたのだろうか)

 

 照は敗北して帰還した。絶対的な頂点が、その翼を手折られたのだ。――今、白糸台は危機に立たされている。

 照を攻めるのは愚者のやることだ。なにせ今まで、白糸台は照の劇場によって成立していたのだから。

 

 ――だから、菫は己を恫喝する。先っぽまで絞り出した感情の群れを、己の中へと向けるのだ。

 

(――分からない。結局この半荘二回でも、照の問いに答える言葉は見つからなかった。だが――)

 

 わからないことは多い、考えてもたどり着けない答えが沢山だ。それでも、それでもと、菫は思う。

 

(この半荘、私自身が射抜かれ、射抜くことの出来ないものもいて、ついには私の射程を速度だけで越えてしまったものまでいた。驚かされることばっかりだ。私はマダ、前へ進むことができるだろうな)

 

 ふぅ、と一つだけ息を吐きだして――それから、菫は牌を卓へと叩いた。

 

 

(そんな麻雀を、私は楽しくないなんて、絶対に思えない!)

 

 

「――――ツモ! 1000……2000」

 

 格して、南三局は終了する。

 続くオーラス、華菜の二翻ツモ和了で、状況は一本場へ移ろうとしていた。

 

 

 ――オーラス、親華菜、ドラ表示牌「東」――

 

 

 ついに大局は決しようとしていた。長きに渡った闘いは終息し、闘いの後には、少しだけ静かな風が流れる。

 エイスリンは、そんな中にいる自分を想像じていた。

 

 ――少しだけ寂しいと、そっと思った。

 

 ここまで、仲間たちとともにいるために、エイスリンは麻雀を打ち続けてきた。ただ高みを目指すというのではなく、そうすることで、ずっと長く仲間たちと関わり続けるために。

 それも、もう終わろうとしていた。

 

 ――それは悲しい、とても悲しいことだ。

 

 だが、時間は過ぎゆくということを忘れない。絶対にその瞬間はやってくる。――ならばとエイスリンは考えた。

 その一瞬を、自分の手で幕引く事はできないだろうか。

 

 結局それは、この瞬間に達成されようとしていた。

 五巡目、倍満手聴牌である。

 

 エイスリンは迷わずに牌を振るう。最後に残された字牌、役牌の白。それを卓上へと、放ったのだ。

 

 

「――カン」 「白」白白白

 

 

 ――状況が完全にシンクロする。

 先刻、全く同じ状況で、オタ風の役牌をカンされた――千里山の手牌がそれを成したのだ。

 

 ――理解している。自分がこの手の鳴きに弱いことくらい。それを補うためのチカラも、この場では通用しないことくらい。

 それでも、エイスリンはすぐさま気を持ち直す。

 聴牌はしているのだ。一発でのツモが消えたとして、何が問題在るというのだ。引けばいい、引き直せばいい。

 そうやって結論づけて、鋭く竜華を睨みつける。

 

 ――そうして、気づいた。

 

 自分の感情の中に、負けたくないという思いがあることを。勝ちたいという衝動が自分を支配していることを。

 ――ここで上がれば、エイスリンは文句なしのトップ終了。それを成すには、最大の敵は間違いなく千里山だ。

 

 事ここにいたって思い当たる。千里山が己にとっても、最大に近い敵であることを。――ここにいたって、決勝の舞台で持って、最後に相手をする存在であることを。

 

 エイスリンは、牌を自摸る手に力を込めた。ただおのが思いを先に込め、自分の中に浮かんだ、勝利という欲求をかき消すために。

 

 

 ――笑顔で、仲間の元へと帰るために。

 

 

 竜華はふぅ、と一つ息を放つ。ちょうど現在、華菜が打牌を終えたところだ。――竜華の鳴きによってずれたエイスリンのツモは、やがてさらなる竜華の鳴きで、華菜へとずれた。

 一発こそ竜華が止めたものの、それがエイスリンのもので出会ったことには変わりない。

 

(全部、終わる。誰から和了ろうと、この手を和了ればウチがトップで半荘は終いや)

 

 もう、終わってしまうのだ。

 なんとなく、竜華はそれを意識した。感傷もなく、悲愴もなく、ただそれを事実として受け止めた。

 

 華菜は振込を避けた。現物で回して勝負を避ける。やがて菫も一鳴きをし、流れが変わった。

 恐らく、だれも引く気はないだろう。菫も、ここにきて直撃ではなく、ツモ和了を狙うようだ。

 ごく単純な雀力では、菫のチカラは華菜を超えうる。自分が負けているとは思わない、けれどもそれが絶対であるとも限らない。

 

 加えて先鋒戦のように、これは単純なめくり合いではない。故に、ここで勝利しうるのは、勝利と呼べるものを得る資格があるのは、ただ和了りを愚直に目指したものではないのだ。

 

 既に四者は聴牌の気配を見せている。後は、己のツモと、河と、そして相手を見比べながらの、針に糸を通すような闘いだ。

 ゆっくりと、静かに――しかし言葉にはならない圧迫感をもって卓は進む。

 

 ダレの手にも許された勝利。この卓は、だれもがその力を振るい、全く同一の場所にたった闘いだった。

 故に、その勝者はだれでもある。それぞれが、己の勝利を手に、最後の一歩へ向かうのだ。

 

 

 ただ、その中で、唯一そこに執念という概念を竜華は持ち込んだ。トップを守る、ただそれだけを意識して、牌を握る手に力を込めた。

 

 

 そして――そんな折、華菜の表情が大きく歪む。引いたのだ。ひかされたのだ。当たり牌を、濃厚かつ、危険な匂いの漂う牌を。

 

 少しだけ考えるようにして、やがて華菜は覚悟を決めたように嘆息する。

 

 そして、それを振り上げる。

 ゆっくりと、牌が――卓上に――――舞い降りるのだ――――――――ッ!

 

 

 音。

 

 

 チカラ故の、音。それはきっと、終わりを知らせる、鐘に似ていた。

 

 

「――――ロン、1900」

 

 

 宣言したのは、竜華であった。

 ――格して、波打つ海のような次鋒戦、静かでもあり、荒れ狂うものでもあり、そんな激しくも、儚くも、壮大なまでの大局は、終わりを告げた。

 

 

 ♪

 

 

 ――評するのであれば、この卓に明確な勝者はなかった。

 

 ――一位:千里山女子。

 三年:清水谷竜華。

 103400――

 

 トップである竜華は、しかし僅差ではあるものの、この次鋒戦の収支最下位である。しかし彼女の目的はトップを守ることであり、後半戦開始から、一気に点数を引き戻したのもまた事実。

 それはきっと、彼女だけに許された、勝利だったのだ。

 

 ――二位:宮守女子。

 三年:Aislinn Wishart

 102100――

 

 二位に付けたエイスリンは文句なしの収支トップだ。誰にはばかることもない次鋒戦の勝利者。しかし最後は、竜華の安手に対して勝利することを選んだか何より、倍満和了は回避されている。結局のところ、完全な勝利とは、彼女の手にすら許されなかった。

 

 ――三位:白糸台高校。

 三年:弘世菫。

 100400――

 

 エイスリンに真正面から立向居、結果弘世菫は二位の収支を掴んだ。エイスリンの一人浮きこそ許す形になったものの、混戦する状況で、原点の位置へ付けているのは、決して無駄ではないだろう。

 

 そして、

 

 ――四位:風越女子。

 二年:池田華菜。

 93600――

 

 池田華菜は、この半荘で最も前に進んだ者である。それを人間は成長とよび、華菜にとっての勝利とは、できうる限り最低限の被害でもって、中堅である上埜久にバトンをつなげてしまうこと。

 そして同時に、自分に中にある成長を、認識し直すことなのだ。

 

 長い戦いがあった。その中で、華菜は強者と戦い合った。けっして互角ではなかったけれど、自分の全力で、華菜は少女たちに向かい合ったのだ。

 

 それが、この結果。

 一人沈みの状況であれ、一万点以上の失点はなく、トップとの点差もまた一万点を割っている。

 

 殆どの物が、横一列に並ぶ状況。

 それぞれが、それぞれの勝利を手に自身の仲間たちが待つ。控え室へと帰還する。

 

 

 ――格して次鋒戦は終わりを告げた。それぞれが託した思いと勝利をその胸に、中堅戦が、始まろうとしていた――――




華菜の“妥協”は、色々と詰め込んだ次鋒戦の集大成です。
点数的には地味ながら、(菫さんは微妙だけど)それぞれの勝利、として次鋒戦は決着です。

中堅戦はもっと派手に行きます。先鋒戦、次鋒戦と膠着していた戦況が、一気に動いていくわけです。
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