咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『疾風』副将戦Ⅱ

「咲さん、咲さん」

 

 ――何時の事だっただろうか、確か、五月の大型連休に、インターハイチャンピオンである宮永照と出会ったことで、紛らわしいからと妹を咲、と名前で呼ぶようになった頃のことだったはずだ。

 南浦数絵は、ふとした疑問から、咲にある問いかけをした。

 

 何事かと数絵に視線を向ける咲は、その時は確かレギュラーの皆と卓を囲んでいたはずだ。自分だけは別の卓から戻ってきた帰りで蚊帳の外。楽しそうな半荘を外から眺めていたのだった。

 くるくると回転する椅子を操って、咲は麻雀を打つ手を止めていた。丁度、自身の打牌を終えたところだった。

 

「咲さんは、なぜそんなに強いのでしょうか」

 

 ド直球ストライクというべき問だった。――その時の咲の順位は、二位と奮ってはいなかったが、それを数絵は咲なりの打ち方なのだと知っていた。

 咲以外の皆が難しそうに頭を抱えて何かを考えているのも、印象的である。

 

「えっと、私の強さとか、人に伝えるようなものじゃないと思うな」

 

 数絵さんもそうでしょ? と咲は問い返す。オカルトのチカラ、当然それは咲が持つ、咲だけの――ワンオフのものだ。故にその強さはどれだけ絶対的であろうとも、それを他者に伝えることは出来ない。

 

「それは……そうですが、私は咲さんが、ただチカラだけで闘っているとは思えません、本気の咲さんも、今のような咲さんも」

 

「…………まぁ、それはそうかな」

 

 でしょう、と数絵は身を乗り出した。咲が半分体を引っ込めながら、卓の方へと向き直る。もとより意識はしていたのだが、行動を起こそうと牌に手をかざすのだ。

 

「それ、カンです。――嶺上開花、九十符一翻は、2900です」

 

 流れる動作で、牌を開け放つ。――大会同様の責任払いというルールでもって、振り込んだ華菜が両手で顔をおおいながらうめいた。

 

「……そうねぇ、今みたいなプラマイゼロって、最初からできてたわけじゃないでしょ?」

 

 対面、上埜久が口を挟んできた。咲もそれを気にせず首肯でこたえる。後ろからの数絵の視線に、耐え切れなくなったのだ。

 

「はい、えっとこの打ち方は、小さい頃、勝っても負けても損するハメにあってた時に、負けないようにってやり始めたことなんです。……お姉ちゃんには不評だったんですけど」

 

 まぁそれはそうだろう、と誰もが納得する。数絵は照と面識があるし、それ以外の面々も、対局の姿勢から、彼女がどこまでも麻雀に真摯であることは知っていた。

 

「他にも、中学の頃の先輩に、絶対にトップを取るんだ、っていう麻雀をする人がいて、その先輩と競い合ってるうちに、いつの間にか勝つための麻雀も、打てるようになってました」

 

 咲は虫も殺さないような性格でありながら、時折自身の闘志をむき出しにすることがある。――自分の中の、麻雀で勝ちたい、楽しみたいという気持ちを隠さない時がある。

 今この時のように、それを誰かに伝えようと、言葉を紡ぐときもある。

 

「だからね、数絵さん。私は思うんだ、強くなるために必要なことは、スタート地点だって、だれよりも前に進むための、きっかけなんだって」

 

 ――それがどんな小さなものであれ、

 それがどんな、単純なものであれ、

 

 人の心が前を向いている限り、きっと強く慣れるのだと、その下地が、咲や数絵の持つ“チカラ”であるのだと、

 

 

「だから、麻雀を、楽しもう。どんな事でもいい、自分がやりたいことを、一緒に添えて」

 

 

 咲は、笑った。

 花のような笑みは、白く、柔らかな雪のようだと、数絵は思うのだった――

 

 

 ♪

 

 

 ――東四局一本場、親塞、ドラ表示牌「九」――

 

 

「ロン、8000」

 

 臼沢塞。

 第二回戦、準決勝。二度の対局で、南浦数絵が苦渋を飲まされた敵。南浦数絵が、初めて明確に“敵として越えたい”と思った相手。

 チームの中にある競い合う形ではなく、単純な激突、真っ向からの対決で、乗り越えたいと思ったその敵、それは今、数絵の打牌に反応し、自身の親にて、和了を決めた。

 

(――もとより東場は、流すか守るか、の二択だったが、これはまた……それすらさせてもらいないとは)

 

 八巡目、ダマからの出和了りである。筋引っ掛けであることを考慮して更に、数絵の手にはドラ対子が備わっていた、指して攻められるような打牌ではない。

 無論、それは数絵自身の自戒には当てはまらないことなのだが。

 

(この東場、なんとしてでも終わらせる。できることなら軽傷で――いえ、確実に、勝ちに、行かなくてはね!)

 

 南場に入れば、そこから先は南浦数絵のフィールドだ。それが誰であろうと、たとえこれまで二度も敗北を味わった、臼沢塞であろうと、打ち崩して見せる。

 それが数絵のチカラ、本分だ。故に数絵は、局を進める、己のが全てを託した自身の独壇場へと足を踏み入れるために。

 

 ――そして、次局。塞の親二本場。三連荘だ。

 

 

「――ツモ」

 

 

 だが、塞の天下も続かない、ここに来て、和了したのは原村和。塞の顔が苦しげに歪む、ムリもないことだ。

 

(――ほとんど、コンビ打ちじゃない……!)

 

 この和了、それをアシストしたのは紛れもなく上家、二条泉だ。四巡目の時点で自身のツモが和了れないことを悟ったのだろう、塞が先行する卓上に、原村和を載せたのだ。

 泉の席順は塞の下、和の上、塞のツモ順をずらし、しかも和に対して最大限のサポートが取れる、絶好の場所にある。

 

 故に、既に泉は三副露、ここに赤が二枚絡んでいるのだから、和だけでなくこちらもまた脅威である。

 

(とはいえ、これで南入か。これまでみたいに、稼げるといいんだけど――っ!)

 

 塞の左手側、南浦数絵の方面から、一流の風が頬を凪いだ。無色に近い圧迫を保つ風、力任せではない、無鉄砲でも決してない。それはチカラの奔流、つまるところ“あまりにも強大なチカラが溢れだした痕”なのだ。

 故に、それはさして大きなチカラではない、ただ、それを表す元が、いささか大きすぎるのだが。

 

(――来た)

 

 それを塞は肌で感じ取っていた。塞が得意とするのは敵性の察知、それにより、泉や和には無かった異常性を、南浦数絵から受けてとったのだ。

 

 この感触は、これが五度目の事になる。第二回戦、準決勝、塞は何度もこれを受け止めてきた。後はそれを、自分に向けられた支配に蓋をして、塞いでしまえばおしまいだ。

 

(ラス親、最後の親で必ず潰す……せめて、胡桃の分位は点棒もって帰りたいもんだね)

 

 そして南場、南浦数絵の巣食う場所。

 止まることの無いレールが、ひとつの扉を過ぎ去ろうとしていた。

 

 

 ――南一局、親泉、ドラ表示牌「8」――

 

 

 泉の手は配牌三向聴、悪くとも、良くともいえない標準値。

 

(なんや、支配ゆうてびくびくしとったら、配牌はこんなもんかいな。……そういえば、他家の配牌にまで干渉してくるタイプは珍しいゆうとったな)

 

 となれば、問題はここから、と言うことなのだろうか。正直なところ、支配を相手に正常な勝負が出来るか、泉はその問いに、素直に首を横へ降る必要があるのだ。

 配牌の手つきで少しだけ悩みながら泉は牌を切る。まずは必要の無い役牌から。ヤオチュー牌が極端に少ないこの手は、まずそこから手をかけなくてはならないのだ。

 

 そこに――

 

「ポン」 白「白」白

 

 数絵の鳴きが、絡まった。

 

(……速攻? おかしい、風越の南場女は手を遅くしてでも打点を求めてくる、って船久保先輩が言っとったし、事実こーいう役牌対子は自分で重ねるまで温めるタイプやったのに……)

 

 それぞれが、無難な打牌を終えてゆく。鳴き直後、数絵の手出しもヤオチュー牌、それぞれが字牌などの整理に追われ、泉の二打目も含めた一巡が終わる。

 卓は、最初の鳴きがかすれて消えるほど、静かな流れにそって動いた。唯一の流れは、数絵が放った小明槓、泉はこれを、速攻の打点を符ハネで補うのだと、読み取った。事実それは揺るがない。

 そして、

 

(ふむ、無駄ヅモばっか、か。親が東発になった時点で諦めとったけど、この局は捨てるしかあらへんな。……でも感触はできるだけ確かめたいわ、まだ一段目、後二巡は推したいところやな)

 

 泉、七打目。

 

 ――数絵捨て牌――

 ⑨西四7七①

 

 少しばかりの逡巡、

 

(早そうなのは解るけど、萬子は安い。あんま風越は奇にてらった捨て牌はせんから、この二萬は通るはず……)

 

 泉/打二

 

 既に三巡目の四萬手出しから、四萬回りの手は既に完成している――二―三―四や三―三―三の形だ――を想定してのこの打牌、萬子の通りは比較的良いし、聴牌にも、マダ少し足りないように見えた状況。

 放銃を避けるつもりはなかったが、さりとて当たるとは微塵も思っていなかった牌に、しかし数絵は動いた。

 

「ロン、5200(ごんにー)

 

 ――数絵手牌――

 二三四五⑤(赤)⑥⑦5(赤)67 2(和了り牌) 白白白白

 

「……はい」

 

 泉が応える。

 同時に、少しだけ意外そうに目を細めながらも、それを集中するような睨みへと変え、泉は数絵の顔を覗きこむ。――何気ない顔つき、和了に対しても、まるで当然であるかのように、澄まし顔で対応していた。

 

(――三色の目を潰してノベタンに移ってる。五六七の順子に六七七と七萬。ここから、アンタみたいなタイプは三色を考えないわけ在らへんのに……そこまでして、速さが欲しいんかいな)

 

 懐から、ナイフを隠し持つかのような、泉の力強い瞳を持っても、数絵は微動だにしなかった。――半荘は、続く。

 

 続く南二局、続けて速攻。二鳴き。

 中途、若干無駄ヅモが続くも、和からの直撃を数絵が和了、泉の顔がいよいよ険しいものとなる。与えられた情報に、己の最大限をもって処理をかけているのだ。

 

「ツモ! 1000オール」

 

 南三局、数絵の親。

 再び速攻、淀みのない速度で持って、更に一本場まで――

 

「ツモ、900オール」

 

 高らかな和了が卓に響き渡る。

 

(――やられた……っ!)

 

 険しさを増す泉の顔、これにより、怜たち三年全員がつないだ原点が、割れた。

 一時は自身に迫ろうか、抜き去ろうかとしていた原村和も、おとなしく、そして同率に並んでいる。しかし、この状況、果たして最上といえるだろうか。

 

(風越の一人浮き、それだけはなんとしてもさけなアカン。無理やっちゅうのは承知のうえ、それでも、私のせいで円依に負けて欲しくはない!)

 

 ――かくして、南場は南三局。

 第二回戦、準決勝。数絵は何度も臼沢塞に苦渋を飲まされてきた。しかしここにきて、この和了。――とどまることはあるのだろうか。

 南場の主、南浦数絵は、そのあまりあるチカラでもって、副将として並び立つ、三者の喉元に――喰らいつくのだ。

 

 

 ――南三局二本場、親数絵、ドラ表示牌「西」――

 

 

(……なるほど、――ねぇ)

 

 塞の顔に、少しずつ笑みが浮かび始めていた。それは挑発的な仮面のようで、しかしその実態は歓喜に近い勝利へのものだ。

 一度塞いだ。それによりツモを防ぐことは出来たものの、速さ故に出和了りまでは防げなかった。

 二度塞いだ。とはいえ、これは仲間たちとの練習でもわかっていた通り、若干ツモに悪影響を加える程度にしかならなかった。最終的には、安目をツモ和了されて塞は和了することが出来なかった。

 ここまで、和了のチャンスは二度、そのどちらも、“速度”で数絵に上を行かれた。

 

 準決勝の後半戦から、何度か見られた光景だ。――速度で塞を封殺する。それがきっと、数絵の考えた答えなのだろう。

 

(面白いねぇ……ほんと、面白い)

 

 この半荘、塞の配牌は決して悪くない。東四局、前半の終了直前にも、一度、二度和了を決めている。三度目は速度で上を行く和と泉に先を越されたものの、今日の自分は“異様に調子がいい”部類に入る。

 

(……配牌、一向聴。そう、それだったら…………)

 

 一時の間、塞は手牌をそっと伏せた。自身の視界を遮るように、“塞いで”しまうかのように。そしてそれを開く時、塞の瞳に、自身以上のものが点った。

 開眼。

 チカラあるものの、熱波の証である。

 

 

 ――そして、

 

 

(速さが私のチカラを振り切るというのなら、私にだって考えがある。――追いつけばいい。その速度に、食らいついてしまえばいい!)

 

 闘牌が、始まる。

 

 ――塞手牌――

 三五七②⑥⑦⑨4668西白

 

(……極端にヤオチュー牌の少ないタンヤオ手。鳴けば直ぐにでも和了できそうな手、ヘッドが弱いのが微妙だけど――)

 

 塞/ツモ②・打西

 

 ――塞/ツモ5・打⑨

 

(ほら、ほら、ほおら、良い感じになってきた。良い感じになってきた!)

 

 塞/ツモ六

 

(――!? そう、そっか。なら……)

 

 ここで、塞は一度手を止めた。五―六―七の三色、それが見えてきたのだ。

 

(さて。まずは、ここから)

 

 塞/打三

 

 三色の手を進み具合を見ても、聴牌という面からみても、最良の打牌。ここで、塞は少しだけ手を止めた。――気にかけるのは、ここまで静かな一年の二人。

 

(千里山の打牌がさっきから異様だ。大将の牌譜ではよくあることだけど、まるで何かを確かめるような――まさかね)

 

 考えても、わからないことだ。

 わからないのなら、考えても意味のないことだ。少なくとも、塞は今までそうやって麻雀を打ってきた。シロの迷いも、エイスリンの配牌も、胡桃の黙聴も、豊音の六曜も、塞に取ってみれば意味のないこと。ただ、仲間たちは強かった、それだけが確かな事実としてそこにあるのだ。

 

(……さぁ、聴牌だ。これで勝負――勝たせてもらうよ!)

 

 塞/ツモ5・打8

 

 タンピン三色、四翻は満貫クラスの手。塞はこれに対してダマを選択。今は数絵へ波が揺れているとはいえ、ここに来ての塞がかけるリーチは、他家の手を縛るものだ。

 ここで塞が欲しいのは打点ではなくトップの座。オーラスが待っているのだ、まずは満貫直撃でそのための流れを作りたい。

 そしてそれに必要なのが、この和了り、高め三色。

 

 ――数巡、静かな河の流れが続いた。しかし、動きが出るのは必然とも言える状況だった。

 

 泉/打⑧

 

(……安目!?)

 

 それは迷いのない切り出しだ。これに対して、塞の打てる手は二つ、和了るか、見逃すか。前者であればここで早々に南三局、数絵の親を流すことができる。逆に後者であれば、今後の和了が期待できるようになる。

 山越しの五筒、出るのであれば、おそらく出る。

 結果――

 

 塞はそれを見逃した。ちらりと見やる泉の顔は、少し下にうつむき伺えない。ただ、そこに挑発めいた感情や、嘲笑めいた感情がないことは、見て取れた。

 

 そして、塞が自摸切り、泉が並んで二筒を切り出した。――そこで、数絵の手が止まる。

 

 見やったのは泉の捨て牌。極端に中張牌へよった手牌、しかし序盤のヤオチュー牌処理からチャンタ国士の線は消えている。

 よって――恐らくは七対子であろう手。

 捨て牌から、和了は読むことが出来ない。七対子とはそういうものだ。しかし数絵は少しだけ考えて、牌を切る。

 

 数絵/打⑤

 

 中筋だった。たとえそれが七対子でなかろうと、この牌であれば早々当たることはない。二筒八筒の切り出しから、あるとすれば筋引っ掛け、それ以外にはないと言うまでに、可能性が消え失せていた牌だった。

 

 しかし、

 

 

「ロン」

 

 

 塞がいた。

 突然ふって湧いた偶然に、迷うこと無く手牌を倒した。――数絵の顔が驚愕に歪む。ほんの一瞬、感情が鉄仮面のような数絵の能面に、大きなヒビを叩きつけたのだ。

 

 三度のことか、塞の顔が笑みに近くなる。

 勝利の余韻ははたして、歪みない感情の渦に巻き込まれ、いつしかとけて消えて行くのだった――

 

 

 ――オーラス。南場最後の局面にして塞の親番だ。ここに来て、泉は塞の感触を大きく感じられるようになっていた。

 気配が大きいのだ。調子の良さが恐らくあるのだろう。

 

(三年生、残された最後の対局。取れる選択は二択やな。――死力を尽くすか、何も出来ない木偶に変わるか。宮守女子は全員が三年。そして――全員が前者や)

 

 面倒な話。

 最後の一年という言葉にかける思いを、泉はしらないわけではない。しかし同年代に強烈な存在がいた中学3年目のインターミドルと、今年のインターハイは同一には見ることが出来ない。

 加えて、このオーラス、泉の手はすこぶる悪い。

 

 ――いいがゆえに、悪い。

 

 配牌の面では開始時から二向聴ドラ三つと申し分はない。しかし手にある風は全てオタ風。字牌も役牌も、この局面では意味を成さない。

 ……故に、追いつくことが、できなかったのだ。

 

「ツモ、500オール」

 

 速攻。速攻。超速攻。

 そうしてそのまま、何の感慨もなく、対局は一本場へと写ってゆく。

 

 

 ――オーラス一本場、親塞、ドラ表示牌「北」――

 

 

(やっぱ、相対してみて解る。支配っちゅうのは他家に悪意のあるツモをさせる。テンパっていたはずの手も、和了っていたはずの手も、ボロボロのゴミ手に変える。セやけど、麻雀は絵合わせのゲームや、必ずどこかで“和了れる選択”ができる)

 

 これまで、他家への放銃を恐れ、泉はおとなしい打牌しか出来なかった。無論それは一部の例外もあるが、配牌の良かった時など、最初から配牌オリ一直線だ。

 

 それが逆に異様であるのだが、出来がった捨て牌を見て、泉は悪い気はしていない。円依のようだとどこか心のなかでクスリと笑うのだ。

 そして、このオーラス一本場、全員がほぼ一列に並んだような状況。ここをのがせば、この半荘、泉が戦ってきた意味は消え失せる。

 南場攻略。その第一歩として、泉は打牌を選ぶのだ。

 

(――自分にとって都合の悪いツモ、例えば無駄ヅモだとかは、そうそう生まれへん。手の揃ってきたときは、要らない牌は増えてくる、けどそれは揃ってきたその時や。出来上がってない時は、そうやない)

 

 膨大な情報量の外にある、大きな大きな壁としての“限界”一から九の数牌に、東南西北白發中、七色の字牌は合わせて三十四の数、限られた種類しか、麻雀には牌がない。

 故に、その最終に、たどり着く打ち方をすることができる。

 

(聴牌は――できる。間違いなく、できる。私のツモが、それをさっき証明した。南場の鬼、アンタの喉元、悔い貫かせてもらう――!)

 

 ツモ、対子だ、これで二つ目。

 更には両面塔子を切り裂いて己の配牌をそこへ引き寄せる。七対子、泉が行う最終手段。――続けざま、三つ目の対子。此処から先は、根気との勝負だ。

 

(一般的に、対子三つの愚形手牌は、配牌の中でも最悪クラスの手といえる。支配はそんな最悪を引き寄せるチカラがある。故に、ここまでならば、どんな手牌でも直ぐにたどり着く。後は――)

 

 次なる。――ツモ。

 

 ――泉手牌――

 一二二四六⑧⑧⑨57西西北 ⑥(ツモ)

 

 ここで泉の打牌は四萬、迷うこと無く、嵌張を引き裂く。

 

「――チー」 「四」三五

 

 ここで、和が動いた。泉の手牌に感じる違和感を読み取ったのか、はたまたそれが彼女の急所出会ったのか――恐らくは両者であると、泉は考える。

 この手牌、和は間違いなく七対子を想定して打っているはずだ。国士を匂わせるタメ、ここまで泉は全ての打牌を中張牌としているが、まだ巡目は一段目、さして警戒が必要とも思えない。

 

 和と泉の、二人の手が卓上を行き交う。和も泉も、その思考速度故に打牌までの時間は速く、短い。自然と、卓上には幾つものうでが行き交うように、交錯する腕が踊った。

 釣られるように、四者の打牌が速度の高みを階段のように駆け上がっていく。

 自分の思いも。

 自分のツモも。

 信じられる、形で持って。

 

 

 ――最初に動いたのは、起親、千里山の副将、二条泉。

 

 

「――リーチ!」

 

 つきだした、牌が河を大きく揺るがす。それは波だと、誰がともなくしっていた。膨れ上がる水面、爆発を待つ水風船のように、極度の緊張が急激に膨張する。

 

「――ポン」

 

 和も動いた。泉の放つ、赤五索をポンで引き上げ聴牌、泉に肉薄を迫る。――互いに、南場の支配下に己を置いている。ツモ和了は、せいぜい泉が期待できる程度だろうか。

 

 南場、沈み切っていた二者の行動に、それぞれが動いた。数絵も塞も、一向聴から聴牌への手を回しながら完成させていく。

 和のベタオリを引き寄せないためだ。

 

 かくして、“勝負”はひとつの大極を向かえる。

 前半戦、折り返しをかざる最後の和了は――

 

 

「ツモ! 1700、3300!」

 

 

 二条泉から飛び出した――

 

 

 ♪

 

 

『前半戦、終了――!』

 

 光の宿る対局室は、緊張からの静寂は消え失せていた。

 一半荘、激しい闘いを終え、それぞれがそれぞれの反応を見せる。顕著なのは、チカラの使用に体力を要する塞の姿だろう。

 椅子に体を預けながら、気だるそうに大きく深呼吸をしていた。

 

『――副将戦、派手さはありませんでしたが、順位変動が幾度か飛び出す好ゲーム! 収支トップで半荘を折り返すのは、現在最下位の白糸台高校、原村和!』

 

 実況、福与恒子の声は対局室にも響いていた。よく通る鐘のような声、チカラとはりを持ったソプラノボイスが、四者の聴覚をくすぐっていた。

 

 ――四位:白糸台高校。

 一年:原村和。

 93900――

 

『三位には終始二位の臼沢塞。二度の活躍はどちらも終盤。杭を残すような存在感を見せつけました!』

 

 ――三位:宮守女子。

 三年:臼沢塞。

 98400――

 

『――二位には、大きく収支を減じた風越女子、南浦数絵が座ります。しかし、中盤でみせた追い上げは見間違いではない、ポテンシャルは秘められています!』

 

 ――二位:風越女子。

 一年:南浦数絵。

 101800――

 

『トップは手堅い守りと勝負強さで頂点へと返り咲いた二条泉、――千里山女子!』

 

 ――一位:千里山女子。

 一年:二条泉。

 105900――

 

 後半戦、それぞれの思惑を秘めた闘牌の行方は、四者、それぞれの手に委ねられた――




副将戦は少ない話数でヴォリュームを増やしつつ、実際的な文字数を減らしてさっさと大将戦に回そうとしているのですが、やっぱり長いですね。
次回は通常ヴォリュームですが、その次は全員分の見せ場があるので、Ⅰよりも、長くなる可能性があります。

点数表は省略、和、南場焼き鳥にも関わらず現在の収支トップです。おお強い強い。
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