現在、四者は完全な団子状態とかしていた。東四局での満貫和了により、宮守が一歩図抜けてこそいるものの、トップと下位の点差は、五千点にも届かない。
勝利を狙える状況に、全員が並んでいる状態。しかし、その中でも最も際立っているのは、現在最下位を行く風越、南浦数絵だろう。
彼女には、南場において他家の手を縛り、自身の調子を上げる、そんなチカラを持っている。これは他家にはないチカラだ。精々が宮守の臼沢塞がそのチカラを塞ぐ受動的なチカラを持っているということだけだ。
状況は南場、起親であった数絵の親番、南一局の開始直後だ。それぞれの配牌はよくもなく、悪くもなく、期待を持てるのは、精々が数絵の配牌程度だろうか。
だが、“それで十分”。
数絵にしてみれば、誰よりも速く、誰よりも前に進める手牌であることは自明の理、そして泉と和――デジタルの申し子二人は、数絵の速度に、ついていくことは出来ないのだ。
(――私の後ろにいるのは、咲さんだ。私は咲さんのようには強くない、けれど、彼女に歯がたたないほど、弱いというつもりはない)
今年度の風越はレギュラーとそれ以外の部員において、絶対的な差がある、と言われることがある。美穂子に久といった二枚看板は当然として、宮永咲に、特待生の池田。そして南浦数絵。
この五名は、歴代風越においてすら、最強とされる五人だ。
チームとしてのチカラも、一雀士としてのチカラも、風越を代表するチカラを彼女たちは持っている。
その中の一人、チームの実質的な五番手として、数絵は今、ここにいる。
実際の実力で言えば、数絵は華菜とどっこいどっこいだし、久にも、美穂子にも届かんというような、いわばどんぐりの背比べに近い状態にある。
それでも、数絵はその四人の中で、自分が最もチカラが足りていないことは自覚していた。何よりも、実感として。
――全国の舞台は大きい。自分の力は、その全国に通用する、それでも絶対ではない。
ここにいる者たちは皆そうだ。全国有数のプレイヤーでありながら、頂点には届かない、そんな強さ。
この場所で、しのぎを削るということは、きっとそういうことなのだ。
「――ポン」 8「8」8
ドラの八索。これで、聴牌だ。
塞の顔が、しまったというふうに歪む、しかし、そこには同時に疲れが見えていた。――恐らくは塞いでくるだろう。それも、捨て身で。
――第二回戦、準決勝、と直に塞と戦って、数絵はなんとはなしに、塞のチカラが塞自身の体力を大きく削ることに気がついていた。
そして、それが彼女の制約となっていることも。
(まずは、抑えた――そういっていいわね)
対面からの鳴き。それが大きく意味するところは“ずらし”という一言にほかならない。流れを操る半オカルト型の雀士が、これを眉唾もので手を出すように、数絵もまた、目前のドラに飛びついた。
自身のツモを“喰わせる”ために。
原理としては簡単なこと、現在塞のツモは数絵の支配における影響下はない。加えて彼女はこの半荘、前半戦から合わせて調子のいい時に満貫を和了るという、イメージに焼き付くような和了りを繰り返していた。
それが、この局でも通用するのなら、塞の流れは、現在最高クラスと言えるレベルにあるのだ。
それを“利用した”。
塞のチカラは作用してから“最初のツモ”にまず作用する。これは何度かの対戦で数絵が身にしみてわかっていることだ。
つまり、塞は流れにまで作用するチカラは持っていない。喰いながしのような形には、対応できない。
無論、次巡からのツモは数絵のもの、テンパイ時に喰い流したツモ以外は、すべて塞がれるのだ。だが、この一巡だけは違う。流れによって数絵のながした“塞がれた数絵のツモ”が塞の元へ行く。
それは、まさしく、川の流れに手を加えたがゆえに、泳ぎゆく魚が、全く別の場所へと、消えて行くように――
(チャンスは一巡。この一巡だけは平常通りのツモができる。もし、そこで上がれるのなら)
数絵が考えたのはこの一瞬をつく、河の源泉が流れだす、山が一度崩れる瞬間、その一瞬のみに、数絵はかけたのだ。――現在の手は、南と白のダブルバック、どちらを和了っても、この手は満貫の手になるだろう。
――無論、それはたやすいことでは決してない。
当たり前だ。どれだけ調子が良かろうと、それはあくまで人のツモ。数絵やあの県予選での少女のように“絶対的な幸運”は伴わない。
故に、賭け。
たった一つの、賭け。
(私は、負けるつもりはない。“宮守の”の幸運と、卓上の“流れ”、どちらが卓を制するか。さぁ、決着を付けましょうか――)
巡は再びめぐりゆく。和の打牌――数絵に警戒を見せるのだろう、現物を切り、自身の巡目を終える。そして――数絵は、塞のツモを手に取り、その瞬間。
自身の手を覆い尽くさんかというほどの汗が、牌を滑らせるのを感じた。
あ――と、声を漏らす間もない。
山からこぼれた牌は、姿を晒すこと無く卓上へと落ち、数絵はそれを再び手にする。
(――どうやら、少し緊張しているようね)
心の奥底にある、感情という感情を、勝利への渇望へ変える。意識を一つに束ね揚げ、体にまとわりつくプレッシャーから、自身を直接、開放させる――
そして。
牌の表面を、自身の指で、いちどだけなぞった。――それで、十分だった。
手の中から牌が滑り落ちる感覚がする。無論、そのとおりだ。――その牌には、“何の引っ掛かりも存在しない”のだから。
「ツモ――! 4000オール!」
高らかと宣言した数絵の顔に、笑みが灯る。
(私は――咲さんのように強くはない。でも、だからこそ、私は咲さんへ、最高の状態でバトンを繋ぐ、義務がある――!)
南場の開始は、そうしてスタートするのであった。
――南一局一本場、親数絵、ドラ表示牌「西」――
――最初に扉をくぐった先にあったのは、今までに見たこともないような光景だった。一番近いのは、多分阿知賀の子ども麻雀クラブ。けれども、それも“この光景”には、全く届かない。
――原村和が白糸台麻雀部の門をくぐったのは、照と初めて邂逅してから数日たった後のこと。久しぶりの麻雀にブランクを感じ、調子を取り戻すためにこもっていたネット麻雀から、リアルの麻雀へと、意識をきりえた時のこと。
一本場、数絵の親番。先ほどの親満和了により、数絵がこの半荘二回で追っていた負債の半分は取り払われた。逆に、和はここまで築いてきた点棒を、先の臼沢塞が和了った満貫ツモとともに、失ってしまったことになる。
さもありなん、和のチカラは現実に即したもの、デジタルの極致などと呼ばれてはいるが、今の和の打ち方は凡夫に満ちあふれている。
泉のような泥臭い闘牌でも、数絵のような一本線の外れた闘牌でもない。
ごくごく平凡な、一人の人間としての打ち方だった。
勝つために麻雀を打ち、自身の手牌と、周囲の河をにらめっこで比べながら、麻雀を打っていく、そんな凡夫の闘牌。それが今の和の打ち方だ。
ただ、そんな凡夫と彼女の違いを記すとすれば、それは彼女が、徹底的なまでに強者であるということか。――単なるボンクラではない、人が人のまま到れる境地の一つとして、誰であろうが切り払う。そんな英雄じみた打ち方を、和はこの場でしているのだ。
――麻雀部には、総勢数十人の部員が卓についていた。圧倒される光景だ。強豪白糸台の麻雀部は、そうやって、高い高い山として、和の前に立ちふさがるのだ。
そして今、和の手元には牌がある。リアルの、質感を伴った牌。――数カ月ぶりに握った牌は、とても、とても重かった。
それを――今。
高速の右腕が、己の思考と同様に、眼にも止まらぬ速度で打牌を行う。
和の手には、仲間たちと築きあげてきた研磨の集大成がある。――和の仲間、白糸台のレギュラーは、だれもかれも、おかしな打ち方をするものばかり。
そんな中で、和は何度も麻雀を打って、打って、打ち続けた。
その結果が、今ここにいる自分だ。――照は和を麻雀部へ誘った、導いてもくれた。しかし、このレギュラーの座は、紛れもなく和のモノだ。
――不思議な打ち手の筆頭、照や淡を始めとして、直撃をとことん狙う菫やオーラスに高確率で役満を和了る
尭深。だれもかれも、和からしてみれば“ありえない”打ち手だった。
(――南場がどうとか、そんなオカルトありえません。……ですが)
それでも、そんな中で打つ麻雀は、和のかけがえのない思い出となった。奈良でも、長野でも、同じ事。仲間たちと切磋琢磨して打つ麻雀は、とても楽しいものだった。
和の手牌はすこぶるいい。そしてそれは、“聴牌にまで進んだ”。和の執念に寄るものか、はたまた必然に約束されたものなのか。
結局、和はそれがわからない。わからないから――楽しいのだ。
(そうやって、牌を相手にする百面相は、こんなにも楽しいものなのですね)
――イメージの中に、仲間たちが浮かぶ。和が卓へと座って、照がその後ろに立っている。淡が和に抱きついて、菫と尭深が覗きこむ。
和の打牌を、楽しそうに眺めているのだ。
人との交わり、本物の牌。和を構成するすべての思いが、今、和はとても愛おしく思える。守りたい、育みたいと、否が応にも思わせるのだ。
「――ツモ」
それはきっと、青春とか、黄金とか、そんな素敵な呼び方をするものなのだろう。
そんな素敵な思いを、サせてくれるものなのだろう――
――南二局、親泉、ドラ表示牌「北」――
(原村が、和了った。……よくあることや。人の思いが、人の重圧を越えていく。よくあること、そう、よくあることなんや)
感慨深げに、泉は言葉を漏らす。
和の感情が数絵の支配を振り切った。何度となく、それを泉は知っている。円依は、そういった支配の打ち手であった。同様に、泉はそれを、真っ向から何度も立ち向かってきた。
(気がつけば、前半戦でなんとかもぎとったトップも、もう手の届きそうにないところにある。収支もいつの間にか最下位や)
そうしてみれば、気が付けばこんな状況。泉は、どうしようもない苦境に立たされていると言えた。
(まぁ、自慢やけど私。全然負ける気セえへんやけどな)
手牌は凡庸。
あくまでドラもない。塞の様に支配を抜ける裏ワザもないし、和のように和了れるかもわからない。
それでも、泉はその手を仕上げていくのだ。
(私がこの場所にいること、これが最後であること、あんま意識したことは、ないんやな。先輩たちとの麻雀がこれでおしまい、か)
ツモ――自摸切り。
(来年からは船久保先輩が部長になって、エースは……円依やろか。来年は船久保先輩もっとつようなるし、三番手として、私は後輩を引っ張っていくんやな)
――自摸切り。――ツモ。――自摸切り。
(……あかん、そんなんじゃアカン。全ッ然違う。確かにそういうのはこれから私が千里山を背負っていく上で大切なことや。でも、今はそうやない。今はまだ、未熟で半熟な一年坊や)
ツモ――そして、手が止まる。
それだけではない、視界が、泉の感情が、大きく開け放たれるのを、彼女は感じていた。
(だったら、私が、今、考えるべきは何か――円依のことや!)
瀬野円依。
泉の同級生にして、もっとも越えたいと思う、憧がれと志向を抱く相手。そして、共に歩んで――時には、守ってやりたいと、思う相手。
二条泉の、大切な人。
円依は昔、自分が嫌いだった。しかし、それが事故によって“どうでもよくなった”と円依は言った。しかし、事故だけでは円依は変わらなかった。誕生日の日、泉が初めて円依の家を訪れた時。円依は焦燥しきっていたはずだ。
そして、それはあの夜に、少しずつ変わり始めていることだ。
どうでもいい。
そう言い切るのは、単純ではない。それでも、円依はたとえそれが強がりであれ、かつての友人、上埜久に言い切ったのだ。
そして、その円依が大将戦――自身がもっとも一緒に卓を囲んできた相手、最も親しく“在った”相手との半荘に臨もうとしている。
だったら、今、泉のできることは何か。
開けた視界は、それの答えを教えてくれる。
四巡目にして――初めての手出し。
泉の手が、少しずつ雪解けから開放されて、野に放たれるのを泉自身が感じていた。
(円依とともに、あるために。円依がそこにいることを、私が最初に肯定するために。――合わせる顔、ッ注文を、つくっとかなアカンなぁ!)
ツモ――手出し。
ツモ――手出し。
ツモ――
「リーチ!」
たった四巡、それだけの間に、いちどの無駄ヅモもなく、泉は聴牌へと持ち込んだ。そしてその手は――止まらない。
「ツモ! ――メンタンツモ。―――――一発。3900――――――――オール!」
それが、きっと手向けであると、泉はだれかにそう告げた。
誰かはそれを黙って受け取り、泉の手をとり走りだす――
♪
――南二局一本場、ドラ表示牌「西」――
この局、聴牌を果たしたのは、泉、数絵、塞の三人。
リーチをかけたのは数絵のみであったが、塞に泉も染の気配が大きい。現状それを和は躱す他ないのだが――
(安牌が、切れましたね)
無理からぬ事だった。三人の打牌はどれも和に手を差し伸べてはくれない。ハイテイ一巡前にして、和の手が行き詰まるのは当然の成行と言えた。
ならば、誰に振り込むのがもっとも無難か。
考えて、考えて、ひとつの結論を和は持ち出す。
(貴方にだけは――和了らせませんよ、二条さん)
親の手は、最悪に近いものがある。そのために、和はそれとの勝負を避けた。
それは奇しくも、和がもっとも負けたくないと思う相手への、意趣返しにもなっていたのだ。――二条泉へのあてつけ、そんな感情の行き先を、和は打牌してから気がついた。
「ロン」
数絵の手が開かれる。リーチのみ、しかし今は南場、彼女のホームグラウンドだ。
「――裏三、8300です」
結果として、和は満貫を振り込むこととなった。――しかし、それが結果としては最善だったのだ。残る二人はそれぞれオヤッパネに倍満と、和を完全に喰らい尽くすまでの手を、作り上げていたのだから。
――続く南三局、親の塞が一気に動いた。二巡目にして。
「ロン、5800」
和からの出和了り。和の優位は一気に崩れ去ってゆく。結果としては、無理からぬ方法で。
更には一本場、泉が和了を狙う塞へ肉薄、ほぼ満貫といえる手を、塞からの直撃に突き刺した。
かくして、オーラス。最後の一局。
サイコロを回そうと伸ばした和の手。――少しだけ震えているのに、和だけが気がついた。
♪
長い半荘だった。
結果として満貫以上の手はお目見えしなかったものの、全員が何度もトップを取り合うシーソーゲーム。現在その勝者としえるの、和と、泉、この両名出会った。
終盤調子を落としたものの、点を稼ぎ続けた和に、食らいつこうとする泉。
泉が考えたゲームメイクは、結局かなわなかったものお、しかし思わぬ形でそれは成されようとしていた。
「チー!」
そのオーラスを、泉は即座に流そうとしていた。現状、風越は大分大きな負債を追っている。和の止む負えない放銃が重なったことにより、四者の収支はほぼ横並びに近い状態に重なったが、しかし。
(――風越の支配が……閉ざされていない?)
ここで、泉は気付く。疾うの昔に限界は着ていたのだ。――塞の体力はさほどあるわけではない。数絵の支配は宮守の大将のように大きすぎる力というわけではないが、それでも、自身が支配から抜け出すためにチカラを使った回数は第二回戦からこれまで、頻度を増し続けている。
無理もない、自身の調子は右肩上がり、されど同卓者の実力もまた、それに追いつかんとしていたのだ。
いくら支配を振り切ろうとも、他家もまたそれに追いついてくる。思いの強さが、他家の支配へ対する抵抗力を増させているのだ。
それは、泉と和がそれぞれこの後半戦、南場で和了を見せたことにも起因している。
特に前局、泉は塞のかの風越中堅のような地獄単騎で、塞の懐に潜り込み、直撃をもぎ取っているのだ。
このオーラス。塞は限界に近かった。
そしてそれを、泉は塞の捨て牌からしった。
宮守はもう、限界である。
(こんなん、病弱な園城寺先輩をみたいで、――やってられへん!)
故に、即流し。
和への対抗として、選んでいた打牌を切り替える。――今この瞬間、鳴きを控えていた両面塔子を、鳴いて役牌バックでの聴牌と相成った。
そして――
(……危険牌!?)
泉の手に、それが訪れたのは、一巡後の事だった。
それは現在、宮守の支配を脱した風越が、順当にテンパイした場合の当たり牌、それもドラ――危険牌であり、最後を決める牌である。
これは、切れない。絶対に。
泉はそこで、それを降りた。結果――
(暗刻……役なしやから、和了れへん…………!)
役牌となっていた、対子をそのまま切り出した。一巡目、数絵が切っていた牌なのだ。
(……おわった、か)
ドラは既に四枚見えている。
ならば後は、数絵の和了を待つのみだ。
(前哨戦。なんとなく、そう言われるのが解る気がする)
次鋒戦。
中堅戦。
副将戦。
宮永照という全国最強の化物が座る先鋒戦を除いた三戦は、風越と千里山の前哨戦である、とそう呼ばれることがあるのだ。
結果は、このとおり。四ツ巴であったはずの対局は、すでに二者が脱落していた。
結果を残したのはこの二者、つまり和と塞の二人であるのだが、最後の最後、大将戦へバトンを繋ぐその一局に残されたのは、泉と、数絵、たった二人であったのだ。
(後は野となれ、山となれ……)
ツモ、単騎待ちとはいえ、手を引き寄せた。タンヤオドラ三、最後の手。
単騎待ちという形成上、数絵に振り込むことはありえない。
和も、塞も、もう、降りている。
(――そうやな、“最後の勝負”や)
自分の中に思い募った言葉を、泉は形として吐き出した。小声、その場に居る誰もが、それを聞き取れないほどの――
「勝負――!」
打牌。
技巧はいらない。勝負師としての打ち方を自認する自分が、数絵にこうして、追いついた。
数絵の支配は聴牌を不可能とするわけではない、鳴きによってずらすこともある程度可能。
しかし、それ故に――
泉は今その場所、数絵との決戦を望める舞台へと居るのだ。
泉と、数絵、両者の手が交錯する。
それはやがて、ひとつの結果となって現れて――
「ツモ!」
自身の勝利を、顕にさせるのであった。
♪
かくして、決勝戦、“前哨戦”は終わりを告げた。否、四度の最終決戦が、今この瞬間終了したのだ。
あとに残るのは、たったひとつだけ。
インターハイという舞台に、許された、頂点という名を、もぎ取ってゆくだけ。
それを託されたのは各者四名。
『ついに、ついにこの時がやってまいりました。激闘の副将戦、点棒を守りきり、トップを行くのは風越女子。つづく千里山、そして宮守と白糸台のホープと最強!』
実況。福与恒子の声が会場どころか、日本中に木霊する。日本中のありとあらゆる人間が、その一瞬を待っていた。
――それは、極々単純に、麻雀を知らずとも見るものや、麻雀を熟知しているがために、食い入るように惹きこまれるものまで、様々だ。
最後に託された四者に向けて、あらゆる視線が、向けられている。
『王者白糸台。厳しい状況ながらも、最後を飾る大将は、最強と呼ばれたインハイチャンプが白糸台にのこした新たな希望。大星淡――!』
――四位:白糸台高校。
一年:大星淡。
80600――
『深く、遠い里の中、新たな強者がここ、インターハイの決勝へとやってきた! インターハイにてその名を刻む新規精鋭、宮守女子の大将は、姉帯豊音――これまで、二度に渡り全中チャンプに食らいついてきました!』
――三位:宮守女子。
三年:姉帯豊音。
89500――
『その足が向かう先は果たして何処か、関西最強の名門校、千里山女子が突如として据えた大逆転劇の立役者! 瀬野円依が、決勝の舞台へ向かいます』
――二位:千里山女子。
一年:瀬野円依。
112200――
――そして。
――一位:風越女子。
一年:宮永咲。
117700――
『彼女こそが最強、彼女こそが絶対。インターハイ史上に残る、“準決勝での”二校同時飛ばし、かの臨海女子すらくもなく退け上り詰めてきた、インターミドル前年度チャンプ、風越女子大将――』
その少女の目は、赤く、紅く“何か”に染まっているように見えた。灼熱に身を委ねるかのように、稲妻に鋭く眼を光らせる。
もしそれを、ひとつの強さと呼ぶのなら、そこに敗北は、ありえないかのように見える。
少女の在り処は、人と呼べる場所にはないのだと、そう思えた。
『宮永――咲!』
彼女こそ、魔物と評するにふさわしいのだと、誰かが声高に、唱えるのだ。
♪
――そこにあるのは、きっと闘志だ。
半荘を終え、自身の控え室に帰ろうとする、二条泉が足を止めた。そこには一人の少女が居るのだ。
瀬野円依。
インターハイ決勝、最後に姿を見せる、四人の少女のまた一人。
「――お疲れ様」
彼女の纏うチカラの群れとは裏腹に、彼女の声は、あまりにもやさしい。泉を思いやってのものだった。
「収支トップおめでと」
「ほんとなら、あれを和了れればよかったんやけど」
「いいよ――私が代わりに、勝ってくるから」
自信満々だ、というふうに泉は笑う。
泉の結果は勝利と呼ぶにふさわしいものだっただろう。しかし、それで泉は満足しない。あのまま、自身が失点出会っても、和の打点が維持されていればよかったのだ。
とはいえそれは成されない。
「むしろ、風越がトップになったおかげで、私は咲に勝つ必要が出来た。――やる気が出るってもんだ」
「そっか、それは僥倖」
だというのに、円依の顔には一寸の曇りもない。――当然だ、お膳立ては十分、相手は風越、さりとて手の届かない場所に相手はいない。
現在、円依は咲を、真正面から拝める場所に、立っているのだ。
「さて、半荘は後二回、きばっていこか」
「当然さぁ――だから」
円依が、再び前に歩み出す。泉が同時に、それに応える。両者の姿が重なった時、円依はためにタメた言葉を、言い放った。
「撃ち落とせばいいんでしょ? ――風越を!」
それ以上の、言葉はなかった。
それ以上が――ありえなかったのだ。
こんな感じになりました。その内ここも切り替えたい気はしますが。
次回は大将戦、次回は大将戦でございます!
色々有りましたけど、楽しかったなぁという今作の所存。このまま完走を目指していきたいところです。