咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『花弁は背向に毒垂らす』最終決戦Ⅱ

 ――東一局一本場、ドラ表示牌「{8}」――

 

(ドラ盛りだくさんだよー)

 

 ――豊音手牌――

 {一三三九②③④35(ドラ)(ドラ)(ドラ)西} {西}(ツモ)

 

(対子手だけど、ここは速さ重視で行きたいな……)

 

 豊音/打{九}

 

 淡/打{一}

 

(当然のことだけど、大星さんは全然字牌きらないねー。まぁ)

 

 

 二巡目。

 

 ――円依/打{東}

 

 三巡目。

 

 ――円依/打{東}

 

 四巡目。

 

 ――円依/打{東}

 

(こーいう人もいるんだけどさ)

 

 開幕ダブ東払い、円依の捨て牌は異様に染まる。まるでこちらへの威嚇など意味が無いことを、最初から承知しているかのように。

 

(……何度か公式戦での牌譜を見る限り、準決勝でのアレを除けば、こーいう手を作る時の千里山はすっごく手が遅い。当然といえば当然だけど……自分から遅くしてるわけだしねー)

 

 だが、そこからの円依の捨て牌は、あまりにも凡庸その物であった。ダブ東を、全く別の字牌であったと考えるのなら、字牌の整理から中張牌に手を掛ける手作りである。

 ヤオチュー牌の多さも、タンヤオ手への移行だと考えれば、まったく意味のないものではない。

 

(そもそも、二枚目のダブ東は“自摸切り”だった。これはあれかな、あの子も人の子だったっていうことだろうか)

 

 楽観的な考え方ではあるのだが、そうであればあるほど、付け入る隙は見えてくる。――あの小鍛治プロが、円依のそれを人の御業だと落とし込んだ時のように、それに反して、円依を勝ちに対する強者と位置づけている時のように。

 

(――強いものは、必ず必要なときに、必要な手を仕上げることができる、か。多分、このダブ東もそうだろうねぇ……あれ、一般的なオカルトに即してるのかな)

 

 いわゆる、流れというものを、どうも円依は信奉しているらしい。恐らくこれも同じこと、流れが故に、{東}を暗刻で引いてくる。――いや、三枚の{字}牌を、すべて東にすることが、この場合の流れというものなのだ。

 

 ――静かな快音が響く卓上。

 

 現状、そこに大きな動きはない。豊音も、意識を円依へ向けながら、闘牌を続ける。

 

(――むむむ、聴牌)

 

 ――豊音手牌――

 {一三三②③④33999西西} {三}(ツモ)

 

 ――{一萬}は全巡まで生牌であった。加えて、{五萬}は切り出す直前に円依が切っていた牌。

 

(まぁ、宮永さんの安牌なわけだし、ここで聴牌しないわけには行かないかな……)

 

 まだ、リーチは書けない、先ずれば負ける。豊音のチカラはそう作用する。――豊音自身にはとうぜんそれは通用しないが、ジンクスとして、豊音は追っかけ以外のリーチは書けない。

 そして、

 

(まだ、これは慌てるような手牌じゃない)

 

 豊音/打{一}

 

 そして――

 

 

「ロン」

 

 

 その言葉は、豊音の心胆を、一直線に撃鉄で横殴りしたかのように、彼女の精神を衝撃で揺さぶるのであった――

 

 ――円依手牌――

 {一三四五⑤赤⑤赤⑤567白白白}

 

・千里山『131900』(+7700+300)

 ↑

・宮守 『77600』(-7700-300)

 

(あ、……え?)

 

 ――円依捨て牌(「」手出し)――

 {「東」東「東」9「二」「1」}

 {「⑤」北「赤五」東北「④」}

 

(う……そ、――いや、ほんとに、三色同刻を捨ててる。また四暗刻だったのに、それも切ってる――最初のダブ東が在ったから、今回も“惑わせる”ツモだと思ってたのに――誘ってたんだ、最初から!)

 

 恐らく五巡目の二萬も、最初から単騎で待つために、四萬を自摸った時点で切り捨てたのだ。ここまでの手出しで、あの巡目、序盤に切った牌の回りは、警戒も弱まる。

 

(――多分、狙いは宮永さんだったんだ、微妙に悔しそうな顔してるし……でも、私の打牌は完全に読まれていたはず――して、やられたんだ、準決勝のように――!)

 

「――7700は、8000です」

 

「……はい」

 

 豊音の表情が、悔しそうなものから、落胆へと変わっていく。コロコロと変わる心情が、彼女の豊かな表情に直結しているのだ。

 ある種、移り気な雲のように、そしてそれは、彼女の精神を、更に前へともっていく。

 

(――次は、負けない)

 

 誰よりも勝負――闘牌の世界にあこがれて、誰よりもまっすぐにそれを目指してきた少女。当然、そのこころは直ぐに元へと取り直す。

 水平に、ただ高く、速くと飛び回るのだ。

 

 

 ――東一局二本場、親円依、ドラ表示牌「{9}」――

 

 

(――あっちゃぁ、そううまくは行きませんかねー、やっぱり)

 

 嘆息混じりに、円依は手牌へ視線を何度も送る。端から端へ、舐め回しでもしているかのように、その目が手牌へと走り回る。

 

 ――円依手牌――

 {一三四八八①②⑨赤56東北白} {⑧}(ツモ)

 

(チャンタでも目指せといいますか)

 

 円依/打{北}

 

(――まぁ)

 

 円依/ツモ{④}・打{白}

 

(やってやれない――)

 

 円依/ツモ{3}・打{⑨}

 

(――こともない!)

 

 円依/ツモ{③}・打{①}

 

 

「――チー!」 {横二三四}

 

 

(――むぐっ!)

 

 円依/打一

 

 刹那の煌めき、神速の剣閃。鳴かれた――気がついた時には、既に円依の行動は終わっていた。知っている。淡はそれを、誰もがそれを知っている。

 正確無比なデジタル。円依の得意とする“第二の打ち方”。

 

(いきなり、気配が増した――!)

 

 歩い程度、淡はそういった気配を知ることができる。――小さかった円依のそれが、一瞬にして、明確な凶器となって淡の喉元へ突き立てられるのだ。

 

(で、でもこっちだってひかないよー、だ! さっきと同じだ、私だってチートイ聴牌してるんだから!)

 

 ――比べてみよう。

 円依のそれは、明確な刃の形をなしたとはいえ、今のそれは幻影に近い。いわば、砂上の楼閣、撫でれば消えるハリボテ舞台。

 対する自身は? 細い先端ながらも、人のあるには十分な、真っ直ぐな土台。

 無論、それは大きなものではないとはいえど、淡はすぐさまそれを、大きな物へと変えることができる。

 

 それが、淡だ。それが、円依だ。

 

 互いにゆずりはしないだろう、故に淡は、目前の円依を、認めないのだ。

 

 だが、目前の円依の姿は大きく、大きく膨れ上がってゆく。

 最初は体裁すら保てない、面子すらないちっぽけなものだった。それが、一瞬にして刃と呼べるまでになり、やがては明確な、形を持って襲いかかるのだ。

 

(――振り込めない、けど、避けられない……!)

 

 ツモってしまえばいい、和了ってしまえばそれでいい。横から――姉帯豊音からならば、直撃を狙うこともできるだろう。

 しかし、届かない。最速に近い力を持つはずの、淡がどうにも届かない。

 

 打牌。

 

 ――打牌。

 

 そして、――打牌。

 

 

 いつしかそれが、力任せな勢い任せに変じているとも、淡はちっとも気づかずに――

 

 

「ロン」

 

・千里山『138300』(+5800+600)

 ↑

・白糸台『70300』(-5800-600)

 

 速度で勝った、円依の和了。

 淡は至極悔しそうにしながら――豊音と同じだ――すぐさま、好戦的な笑みへと変貌させるのであった。

 

 ――白糸台控え室。

 

「……早い、な」

 

 菫の嘆息に似た言葉が白糸台の控え室を襲った。正確無比なデジタルに、ほとんど無駄ヅモはなく、喰いタン三色、赤一つまでつけて和了してしまった。

 

「多分……私より、早い」

 

「有効牌のツモは私以上、ですね」

 

 尭深と、和。現状白糸台で、もっともデジタル的な速攻を得意とする両者が、そう語るのだ。

 

「まぁ当然といえば当然か、副将の二条なんかは、アレより更に凄いデジタルをするし、家には更にその上が居る。……千里山の大将は、一人前でしかない」

 

「……けど、それだけじゃない」

 

 菫の頭を抱えるような言葉遣いから、おかしを摘んだ照の何気ない一言、

 

「デジタルを纏ったオカルトは手がつけられない……か」

 

「そんなオカルト、ありえないといいんですけど……」

 

 ――そこまで言って、ひとしきり話題がツキたのだろう、白糸台の控え室に平常の空気が戻る。つまり、切り替えていく。そういうことだ。

 

 ――千里山控え室。

 

「おっし三連続! トップももろたし、イケイケやな、円依のやつ」

 

「親番は捨てたくないんやろ」

 

 セーラが警戒な音をハネさせる。指を鳴らしたのだと、怜は感心しながら聞き入って、返答する。そのまま膝枕の上で寝返りをうちつつ、続ける。

 

「また早くなったんとちゃうか? あの手牌から喰いタン作るって、なかなかすごいで」

 

「たしかになぁ、ウチやってむりやわ、あんなん」

 

 竜華がそっと怜の髪を撫でながら肯定する。円依のオカルト在ってのこととはいえ、あそこまで思い切りよく手を作れるのは、羨ましい限りだ。

 

「いえ――」

 

 しかし、泉はそれに忠言するかのごとく、割って入る。同時にまた、浩子もタブレット端末をいじりながら続く。

 

「そういうわけやありませんよ、アレが円依の最高速です」

 

「……最高速? どーいうこっちゃ」

 

 セーラが反応し、問いかける。あの手は、通常からしてみれば最悪クラスの手、それを持ってこの速度――確かに、最高速という形容に違和感は浮かばないが。

 

「あー、なんていうか、円依のツモって私達が最悪、って思うツモがよく来るんですよ、裏目を引きやすいって感じで」

 

「データ的にも、目を背けたくなるツモがよくあるんですわ、ほらこのとーり」

 

 浩子がタブレットを円依の牌譜へと移動させ、竜華に手渡す。怜が起き上がり、セーラもまた立ち上がって後ろに回った。

 

「……ほんとや、地獄モードしかないやん、これ」

 

「せやけど、和了りなんかはいつもの円依やな」

 

 捨て牌も、ツモも和了りも円依らしい、異様に染まった“結果の牌譜”。

 結果論の正解だけに彩られたそれは、ツモだけを見れば見ていられないほど残酷なものだ。

 

「円依が一番早く手を作るのって、今回みたいな配牌五向聴の状況なんですよ、――よくあるでしょ? 手牌は最悪で、全然聴牌できへんのに、なんだかんだ手牌はそれっぽい形になってくる、とか」

 

 麻雀あるある。

 それで聴牌などしようものなら、リーチをかけて、追っかけで両面が辺張に負けたりするのだ。大概一発ツモであるから更に最悪という他ない。

 

「円依の場合、手牌が悪い時はツモが絶好調なんです。それをうまく利用して、今回見たいな早上がりを作るんだ、って言ってました」

 

「デジタル的な知識で、正解を出して、更に無駄ヅモが失くなる、これが円依の最高速――言ってしまえば限界なんですわ」

 

 タブレットに食い入っていた三者が、三様の反応を見せる。楽しそうにセーラと怜が笑みを浮かべて、竜華は心配そうに、モニター上の円依を見る。

 ――つまり、現在の円依はデジタルという観点からみれば、全力で前傾姿勢の対局をしているということだ。

 それは、円依の下家、宮永咲の様子に不穏を覚える材料となった。

 

 宮永咲の様相は至って平穏、――風すらない水面のような、不気味な静けさを保っているのだ。恐らく、あの少女は現在まったく全力を出していない。

 攻め時すら、持っていないのだ。

 

「……なんや、怖い」

 

 竜華はふと、千里山の控え室に爆弾を投下するかのような面持ちで、不安げな視線を晒す。モニターに向けたそれは、微動だにする様子もなかった。

 

「ここまでは、順調や。満帆といってもええ。けど、だからこそ怖い。風越の大将、あの子が――このまま、黙っているとは思えない……」

 

 それは、千里山の代弁者だった。

 竜華の言葉は、彼女だけに抱かれていたものではない、だれもがそれを、感じ、思っていたことだ。

 

 故に、

 

 千里山の控え室には、どうとも取れない言葉の群れが、そっと渦巻き、拡がってゆくのだった――――

 

 ――対局室。

 

 

 ――東一局三本場、親円依、ドラ表示牌「{6}」――

 

 

(ここまで、そう、ここまではいい。……三本場、か――四連荘、そこまで許してくれるかな?)

 

 円依の嘆息が、思考の中まで広がっていく。――ムリもないことだ。しかし無理と諦めるには少しばかり速すぎることだ。

 ――咲とて、一人の雀士なのである。しかし彼女のもつ雀力は、彼女をよく知る円依でも――彼女をよく知る円依だからこそ、警戒するしかないチカラを持っている。

 

 咲は強い、そしてまだまだ強くなれるだろう。故に、昔の咲を知る円依は、咲が如何に強くなったかというところに恐怖を覚える。

 かつての咲と、今の咲。

 彼女が強くなったことは、身にしみてわかっている。

 

 東発、最初の一局。あそこで咲がとった行動は、咲にとっては本当に何気のない事だった。躊躇いのない思考時間からそれもわかる。

 だと、するならば。

 

(昔の咲であるならば、アレは策略のウチとしていたはずだ。――策すら練る必要がないというの? 今の私は――)

 

 あんな行動を起こすのであれば、咲は間違いなく迷っていたはずだ。――正確に言えば、考えてから、躊躇わず実行していたはずだ。

 そのくらい昔の咲は勝負に対して自信を持っていた。そしてそれの本質は、今も変わっていないのだ。

 

 だが、今の咲は驚くほど静かだ。

 

 ――誘っている、のだろう。しかし円依には、その誘いがなんであるのかわからない。何を狙いとしているのかわからない。

 

(それは、咲だって同じはずだ。私が咲の考えを読めないのと同じように、咲だって私の誘いに気付くはずがない。そう――その、はずなんだ)

 

 しかし、

 

 けれど、

 

 だと、いうのに。

 

 円依の怯えは、とどまらない。

 

 

(……なんでこんなに、咲の誘いが恐ろしいんだ――!)

 

 

 それが、円依と咲の、差でもあるかのように。

 

 円依は――苦闘する。トップという立場にたってもなお、三連続和了という絶好のスタートを切ってもなお、拭えない、何度拭っても、何度拭ってもこびりついてくる(・・・・・・・・)

 

 どうしようもなく、まとわりついてくる。

 

(でも、だったら――私はもっと、咲から逃げ伸びればいい、咲の手が届かないくらい、逃げてしまえばいい――気を取り直そう、そろそろだ、もうそろそろ――)

 

 ――円依手牌――

 {二三四五五六⑤⑥⑦56(ドラ)(ドラ)}  {7}(ツモ)

 

 

(――聴牌だ!)

 

 

 そうしてから、他家の手牌を見て回す。咲に気配はない、聴牌はないだろう。それに五萬は生牌ではない、咲の大明槓は責任払いというルール上、もっとも警戒すべき行動だ。

 ――直撃と同等のそれは、単なる嶺上開花よりも、一人の個を削っていくのだ。

 

 そして、今この状況ではそれがない、ありえない。ゆえに、考えるべきは他家との兼ね合い。

 

(この“中庸的な感じ”は白糸台の聴牌か、――ほぼ毎回聴牌してない? まぁ、脅威ではあるけど、ここで考慮する必要はない、六索は現物だ。となると――)

 

 ――豊音捨て牌――

 {北9白東4二}

 {③①1六}

 

 こいつだ――円依の視線が、敵意満面に豊音の元へと向かう。気がついているのかいないのか、顔を上げると、すましたまま首を傾げた。

 一瞬かぎりの交錯。円依に許された、薄氷の挑発。

 

(聴牌……してるな、この感触は。となると待ちは{六萬}周りだろうか、嵌張払いの時点で一向聴であることを考えると――{九索}払いはブラフだな、それにこの一局、七―八―九……上の方が嫌に高い)

 

 打牌、否、円依はそっと目を伏せる。思考だ、頭のなかで研ぎ澄まされていく、円依の思考がナイフのように鋭く、一直線に伸びていく。

 

(――よし。やってみる、価値はある)

 

「――リーチ」

 

 円依/打{五}

 

 

 ――その瞬きの刹那。円依は、おぞましいという感触を、生まれて初めて、体感した。

 

 

「――――――――ッッッッ!」

 

 声にならない絶叫、まるで体中を得も知れぬ虫が這いずりまわるかのような、感じたこともない感触が、体中を、背筋を、円依という存在のあらゆる部分を駆けまわった。

 

 それを、感覚だというのに、円依はその時、数秒の空白を要した。

 

 そこに自分がいるのだという。それが現実に、自分を襲っているのだという感覚を、円依は確信したくはなかったのだ。感じていたく、無かったのだ。

 

 呼吸が、荒い。

 上家、大星淡が覗きこんでくる。大丈夫だと、目だけで語った。――語りきれる、訳がなかった。

 

 感覚を、正常へと正していく。ようはそう、気のせいだ。感覚の迷い、円依の中で何かがうったえかけて、円依自身が、それに対する拒否反応を見せたのだ。

 

 そう、それだけのこと。

 何のことはない、それだけのこと。

 

 

 それ以上でも、それ以下でもない。在ってたまるか、在ってなるものか。

 

 

 ――溢れだしたのだ。

 正常に正された感覚が、円依にそれの真実を告げる。

 

 円依の体中、あらゆるところから、それが――アイリスの花弁が広がっているのだ。

 

(――ま、さか)

 

 恐怖が故か、円依は体の軋みを感じた。かすれ合う古びた木細工の様に、重苦しく、金切り声のような音を上げる。――目をやるだけの、その仕草。それを“重い”と感じたのは、果たしてこれが初めてだろうか。

 

(――咲……あんたが…………ッッッ!)

 

 

 そうして、気がついた。

 

 

 なんとなくだが、少しだけ、溢れだした花びらの、正体をそこに、見た気がした。

 

 ――目線の先には、一輪花が花を散らして吹き荒れていた。可憐であり、絢爛である。そして同時に――人が人生という項目の中で、加えるはずのない物を、与えるそれが、そこにある。

 

 

「通らば――リーチ」

 

 

 豊音/打{2}

 

 動いたのは、姉帯豊音。円依の思考、その本来の場所に、座しているはずの人物だった。

 そう、本来であれば、円依は豊音のチカラ――円依はその名を知らないが――先負を用いて、一発ツモを狙っていたのだ。

 それが、なぜ、どうしてこうして、こんなことに、なっている。

 

 結論は、求める必要はない。

 

 

「――カン」 {222横2}

 

 

 咲が、動いた。

 溢れる。円依の視界が、アイリスの紫が覆うのだ。――これを、この正体を、円依は感触で、知っている。――美麗? 華美? いや違う。そう、これはそう。

 

 

 ――毒。

 

 

 咲/自摸切り{1}

 

 ――新ドラ表示牌「{七}」

 

 

 円依を侵す、必殺の毒。

 

 抗うことも、嘆くことすらも出来ずに殺してしまう――甘美にして、背徳の――――毒にして、他ならない。

 

 

「ロン。――――16900」

 

 

 ――裏ドラ表示牌「{八}」

 

 ――豊音手牌――

 {(ドラ)九九九(ドラドラドラ)⑦⑧(ドラ)34赤57(ドラ)9} {(ドラ)}(和了り牌)

 

・宮守 『95500』(+16000+900)(供託+1000)

 ↑

・千里山『120400』(-16000-900)(供託-1000)

 

 宮永咲。

 彼女の咲かす毒の花弁は、背向にそれを垂らして刺すのだ――――




おぞましいと思う円依の描写、なんか色々ノリノリになって頑張りました。
ちなみにアイリスは毒花です。なんかすごい毒らしいです。

さて、次回の親番は咲さんです。……次回の親番は咲さんです!

とりま闘牌のミスも修正しました。何を思ってこんな和了りにしたんだ自分は。
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