その気になれば、年明けと同時ということも可能だということ……!
というわけであけましておめでとうございます。
――東四局、親咲、ドラ表示牌「{4}」――
淡の振込から、一つして。東四局、咲の親番は、これで三度目となる。一度は親被りを許し、二度目は円依の速攻によって流され、そして。
この三度目の親番――連続和了は、後半戦から合わせても五回。手を付けられなくなった咲の和了が、ここに来てストップするとも思えなかった。
(――未だ、手は出せそうにない。か)
圧倒的なまでの加速を見せる咲に、円依は対応しきれてはいなかった。
過ぎてゆく局数、拡がってゆく点差。手も足も出ずにやられていくのを見守るしかない状況に、円依はそれを眺めていることしか許されない。
手を出そうともした、前に進もうともした。しかし、咲は更にその向こう側に居る。――宮永咲は絶対だ。ダレの手にも届かない。
しかし、だからこそ、
(それでも、私は咲に、挑んでしまいたくなる)
危険であることはわかっている。現状あの親被りを除けば、風越以外の他校と差を開くような打牌を円依は一度もしていない。大将戦、最後の闘牌、しかしそれを、円依は二位で、逃げ切ることも可能だろう。
しかし、それは千里山という強豪の名前が許してくれない。
それに、円依自身、咲に挑みたくてしょうがないのだ。
(――私の支配は、間違いなく咲にたいして有効だ。咲はこのバラバラの感触の中で、手探りで槓材を拾い集めなくちゃならない。しかもそれはよくて対子からスタートしなくちゃならない!)
手を完成させるにしろ、槓材を手牌に加えるにしろ、円依のチカラが作用する限り、咲は二回のツモを要して槓材を集め無くてはならない。
咲のチカラはどこまでも絶対的だ、配牌すべてがテンパイへいたり、リンシャンだけではない、それ以上の支配をも可能としている。
しかし、円依はそれを、堂々と真っ向から押さえつける力を持っているのだ。
(さぁ咲、“挑ませてもらう”よ、この親番、まだ――私のチカラは完成じゃない。だからこそ、この一瞬で、咲に挑める!)
かくして闘牌は始まる。――第一打、咲の打牌は、既に卓へと降ろされていた――――
――この時、円依の手は配牌五向聴、見るに耐えない最悪クラスの手牌である。国士にも迎えず、手の中にあぶれる字牌に、苦慮を思う配牌。
しかし、それは円依にとっては絶好の速攻手以外の何物でもない。
当然、打牌は好調、手の中の面子はぐいぐいとその存在感を増していく。
「チー!」 {横八六七}
そして同時期、咲の連荘を止めるべく、姉帯豊音も赤口を使用、速度に任せた手を進めることとなる。――ここに勝負を持ち込むことが出来なかったのは、大星淡。
支配によってバラバラにされた手は、彼女にひとつの可能性を示す。
それに対して、少しばかりのにらみ合いを、彼女は続けているのだ。
しかし時間は滞りなくハリを刻み、回転の止まりを知らない長針は――少しずつその回転を早めてゆく。
刹那が永劫に変わるのに、さほどの時間は要さない。意思が集中を、そして闘志をかき集めるのは至極当然のことだ。
強敵、絶対的な闘牌。手も足もでない自分。果たしてどこに、闘志を余らせる余裕などあろう。
否、全くもって否。
意識が流転する。時流に乗った人間の意識が、その流れに逆らいようもない。彼女たちは可能と許された行動を、制限時間に向けて加速して行く時の中でなさねばならない。
――円依の手がゆっくりとした浮遊を保つ、若干の思考の中にいくつもの選択肢を浮かべ、そのたびに眉間の皺は強固な思考の線へと変わっていく。
それは単純なものではないだろう。人がいくつもの選択肢の中を、綱渡りのように生きていくというのは誰しもの想像に難くない。
だからこそ、考えてしまうのだ。人は、あらゆる選択肢とその顛末を。さもしてみれば、もう人は止まれない。どれだけ時間が差し迫っていようとも、考えずにはいられない。
――手を止めて、円依は岐路に立つ。分岐する先はいくつもある。そのなかで円依は、先にもっともダメージを与えうる選択をとった。
――すなわち、咲の領域を侵すこと。
「ポン!」 {横六六六}
これにて一向聴、円依の手は、大きく前進することとなる。
無論、咲の手も早い、それでも円依のチカラを持ってするなら、彼女に一つの枷を与えることも可能だろう。――さらには、宮永咲は加速しない。
ここに至るまで、円依の支配を妨げる鳴きはない。
故に、ここで咲を討つ。
――いよいよ持って、その手は昇華へと近づいてゆく。積もった牌を手配の右側へ、端と右隣、隣接する牌を交差させ、持ってきた牌をそのまま掴んで払う。
剣を払うような動作は、警戒な打牌音を生む。円依は止まらない、一巡、――時がめぐった。
(――来た!)
円依/ツモ{六}
その機会は、偶然に任せたものだった。速度に合わせ咲を撃ち、更にはこのツモで決着をつける。できうる手ではあった。――咲の気配は、
――咲捨て牌――
{一九八西2④}
この、一牌によっている。
狙いは、あまりにも単純だった。
「――カン!」 {
その、領域を、侵す。
つまりは、咲が手にするはずだった、嶺上開花を狙おうというのだ。円依の待ちは③―⑥筒の形、咲の手牌からくる感覚と、それを支える円依の読みが、そこだ、と端的に告げている。
絶対の確信があったわけではない、しかし、ここ嶺上牌を食いとってしまえば、咲の手は間違いなく遅くなる。
ツモってくる牌がなんであれ、現物であれば四筒がある。ここで振り込むことはあり得ない。この親番に限ってしまえば、円依でなくとも、和了できる人物がいる。
――なれば、こそ。それが円依の選んだ“勝負”であり、挑戦だった。自信はなくとも確信はある。そんな一手、――だった、のだ。
最初のそれは、暗闇だった。
円依の体中を駆けめぐり、円依自身を覆うように広がった。天蓋のようだと、事態に追いつけない、混乱の思考で考えた。
意識が判然としない。今、自分はインターハイ決勝、その最終決戦に臨んでいるはずだ。いやさそも、自分は誰だ? 何を考えている? どんな姿で、そこにある?
一度ハマってしまえば、抜け出せない沼のそこ。思考という泥水が呼吸を、果てには命すら奪っていく。
自分がいるのはそんな、“呑み込まれた先”にいるのだと、そのとき気がついた。
――何かが、浮かび上がってくる。
存在忘れた沼のそこ、鋭利なナイフが泥を切り裂き、そしてそこ切っ先を鈍らせる場所。何者も寄せ付けないはずのそこに、気がつけば、何かがいる。
やがてそれは、円依という刃にとけ込んでくる。染み込んでくる。不思議と、感覚と呼べるものはなかった。気持ち悪いとも、オゾマシいとも思わせず。それがそも、役割であるように。
やがてそれは、円依を取り込みとかし始めた。――そこまでたどり着いてようやく、円依はそれを正しく理解した。
畏れだ。人が人である固めに持つチカラ、人が人であることを確認するための感覚。それだが喪われることへの畏れだ。
何もかもが消えて行く、溶けて失せて消えて行く。
自分の中から、あらゆる自分が食らいつくされる。
なくなる。
すべて――何もかも。
やがて溶けて、沼に呑まれて行くのだ。
「ロン」
咲の、宣告。
気がついたときには、それは現実とかし、円依に襲いかかっていた。そう、気がついたときには。
(……あ、れ? ……私、カンで咲の嶺上を喰いとったはず、じゃあ)
思考が回顧する。形を喪っていた感情を、ようやく立ち直った感覚を、確かめる。
立ち戻った、というの感情だけのものではないだろう。ようやく変えてきたのだと、記憶すらも言っている。
そのときだった。咲の宣言が木霊する。まるで、何かを円依に突きつけるように。
「――槍槓」
ことここにおいて、ようやく理解する。ようするに、悟られていたのだ、最初から。
(そっか、――ぶち抜かれたのか、私は)
思い返せば、理解が至った。豊音の鳴き、赤口。――そして、かくいう豊音からの喰い取り。そして――どれにしても、“そうである可能性”は十分にあったのだ。
「――18000」
・風越 『185100』(+18000)
↑
・千里山『86000』(-18000)
何を悔やむでもない。ただ、負けただけ。
それは円依の理解する最もたること、――負けたのだ、単身咲へ挑み、そして。
――東四局一本場、親咲、ドラ表示牌「{②}」――
――宮永咲の手は、あまり高打点になることはない。少なくとも通常の場合――嶺上開花を喰い取りの形で仕上げた場合、件の嶺上開花だけでは一翻、高い和了とはならない。
「普通だったら、ウチって咲が暴れる必要なんてないくらい強い……んだけどねぇ」
池田華菜、風越の次鋒を務める少女が、嘆息混じりに呟いた。――曰く、インターハイ決勝は地獄である――と。無理もない、久がそれに同調して笑う。
「そもそも、県予選決勝の時点で咲に“あれ”を使わせかけた人はいた。龍門渕の天江衣――彼女には、咲に食らいつけるチカラはあった」
――そう、たった今咲と戦っている、彼女たちのように。
しかし、それでも天江衣は咲に敗れた。“この”チカラを使わせることもなく。
「――あの方達は強い。間違いなく、天江さんを、三人がかりでなら抑えられるでしょう。それでも」
――宮永咲は、更にその上を行く。
『――ポン』 {横八八八}
単なる嶺上開花のみで、打点が著しく低い時。何がしかのチカラが働き、槓材が遠く、咲のてから離れることで、連槓による三槓子などの手が望めない時。
咲はいかに打点を稼ぐか。
――平時であれば、それは高速で半荘を流し、トップを維持するか、プラマイ0を完成させる方法を咲は取る。しかし絶対に負けられない時、相手が咲に追いすがるだけのチカラを意思を持っている時、咲はある方法を取る。
考えてみればアタリマエのことだ。
――ここにて、淡のテンパイ。その笑が、彼女の順風を思わせた。
咲はカンをする時、槓ドラを載せない。打点の上昇はプラマイ0を難しくするために、あえて槓ドラは意識的に載せていないのだ。
それは、咲が“負けない”打ち方をやめたあとも続いていた。
ほとんどは習慣づいていたこともあったのだろう、そうすることで他家にうまく手をやることもできたのもおおきい。――都合が良かったのだ、通常であれば。
しかし、咲の前に立ちはだかる壁は、それを許してはくれなかった。
そのチカラは、咲がもっとも超えたいと思った相手に対抗するために、作りあげたチカラだ。――とはいえ、それは咲自身が実際に戦った訳ではなく、あくまでそうなるだろうという予測の上でのことであったが。
槓材をチカラのブレによって押しやられ、それをかき集めるために、打点を落とさざるを得なくなった時、咲はドラに打点を求めた。
ドラの封印を、解いたのだ。
――かくして龍は飛翔する。
解き放たれた龍は、しかし、そのチカラを咲へ向けて振るうことはなかった。――当たり前だ。龍は咲に“ねじ伏せられる”運命にあった。それは如何様にも代えがたく、そして咲はあくまでも絶対出会った。
『――カン』 {
今の咲には、絶対に似たチカラが備わっている。それを持ってして、果たして龍は如何程であったか。当然龍は屠られた。
見るも無残に叩き伏せられた。
結果が――
――新ドラ表示牌「{七}」。
これだ。
無論龍とてやわではない。――一度きり、咲のそれは一度切りで店じまい、続くチカラは存在しない。
それでも、その力は絶対的だ。咲は、決して止まり用もない。
『ロン』
そこには、最強と呼べるものがいた。
だれよりも、強く。
だれよりも、圧倒を持つ、ものがいた。
『――24300』
・風越 『209400』(+24000+300)
↑
・白糸台『42300』(-24000-300)
宮永咲が、そこにいる。
♪
誰もが果てを目指すその戦いは、竜騎兵《ドラグーン》により、蹂躙された。各者、それと相対するものは、そこに焦りを感じ始めた。
宮永咲は止まらない。
そのチカラを、天にかざして地をえぐり、我が物顔で振るい続ける。止めなくてはならない。されどそれは止まらない。
炎を纏う灼熱の竜騎兵。咲に追いすがるものは、誰もいない。誰であっても許されない。
――ただ、
――――一人を、除いては。
ただ、一人。
一人だけ、これだけの絶対を前にしながら、その絶対に対して牙をむくものがいる。
竜をたぐるかのような堂々たる灼熱の下方。死角となる陰からそれを狙う刃があった。白銀を太陽無き陰の元できらめかせ、その喉元を狙う刃があった。
――瀬野円依。そう、呼ばれる少女が、そこにいた。
彼女は笑んでいた。誰にもそれが笑みであるということを悟らせない、湖を覆う薄氷よりも薄い、ベールの下のほほえみを、そっと口元に、浮かべていたのだ。
己自身が蒔いた種、その芽吹きを感じながら。
咲の新能力、ということでこんな感じになりました。
別に攻略する能力じゃないので一回きりですけど。これも一応個人戦フラグといえるのでしょうか。
さて、円依は一体何をしようとしているでしょう。