咲 -Saki- 千里山伝説   作:暁刀魚

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『彼女たちが願うもの』最終決戦Ⅺ

 長かった半荘が、終わろうとしている。

 熱く、どこまでも燃え盛るような暑さを持ち続けた、ひとつの夏が、終わろうとしている。少女たちの目指した最高の舞台、それが今、幕を引こうとしている。

 

 ――それを許されたのは、四名の少女たち。

 

 こと、ここにあるのはある両名、大星淡、姉帯豊音。彼女たちは、窮地に立たされていた。最後の際に、立っていた。

 ――故に、思う。

 この勝負、勝つのは自分だ。

 

 そのために、絶対に、負けられない。この瞬間、負ける訳にはいかない――と。

 

 

 ――南三局、親淡、ドラ表示牌「{2}」――

 

 

(最後――でも、その最後は、決して寂しいだけじゃない。だからこそ、ここで使う“私の最大”を、ここで使う)

 

 ――豊音手牌――

 {一一二九⑧⑨⑨⑨14799} {西}(ツモ)

 

(六曜がひとつ、全なる凶事の日。――『仏滅』。あらゆる災禍を引き寄せるチカラ。封されたものを、今、使うよ)

 

 ――豊音/打4

 

 

(――円依の支配が、戻りつつある。――今だったらいける、か)

 

 ――淡手牌――

 {一二三⑥⑨9東東西白發發中} {1}(ツモ)

 

(テル、スミレ、タカミ先輩。ノドカ。――見ててね、これが私の“勝利”になるから!)

 

 ――淡/打{⑥}

 

 

 白糸台、そして宮守、どちらも窮地に立たされた状況での最後のあがき、最終の粘りだ。――ここで求められるのは役満の直撃、もしくはツモアガリ。

 数百、数千という対極の中で、一度でも引き寄せれば至上の幸運と呼ぶべき、麻雀の究極到達点。

 

 あまりにも、最低条件と呼ぶには、狭すぎる門である。しかしなお、かの少女たちはそれを引き寄せた。彼女たちの勝利の意志がそれをこの瞬間、この対局に引き寄せたのだ。

 

「――ポン!」 {横一一一}

 

 ――淡/ツモ{九}

 

 ――少しずつ、二者の手が完成へと近づいてゆく。

 その思いが、形となって、卓の上へ顕現しつつある。

 

 彼女たちが浮かべるのは、笑みだ。――自身の持つ、絶対的な確信を浮かべた、絶対的な笑みだ。

 

 手を伸ばす、勝利のために。

 打牌が、一つ、二つと卓を踊る。

 

 どこまでも、どこまでも、永遠であるかのように対局が進む。

 

 ――――タン。――タン。タン。タン。タ、タ、タ――

 卓上に刻まれる牌のリズムが、少しずつ加速してゆく。止まらず、劣らず、ただ速度と化し、そのすべてを彫りつけてゆく。

 

 そうして、

 

 

 それが、

 

 

 ――結晶となる。

 

 

(――後少し――――後少しだ!)

 

 ――豊音手牌――

 {九⑧⑨⑨⑨11799} {9}(ツモ) {横一一一}

 

 豊音/打{7}

 

 

(和了る。和了る、絶対に! 絶対にこれを――!)

 

 ――淡手牌――

 {一二九⑨19東東西白發發中} {①}(ツモ)

 

 淡/打{二}

 

 

 宮永咲は感触していた。淡と豊音、両名の莫大な気配、円依の妨害により感じ取ることの出来なかったそれが、この瞬間には、そこにあるということを、感触していた。

 

 この半荘は、彼女たちにとって最後の半荘、そして彼女が“手を伸ばす先”に勝利があるのだ。その、最も大切なピースが、そこにあるのだ。

 

 それを先は、その手に平に握っている。――感覚が伝える、次の瞬間、自分は勝利している、と。

 

 ――咲手牌――

 {二三四4566888北北北}

 

(――次のツモ、北をツモって嶺上開花で和了る、そうすれば、白糸台と宮守は――これで終わりだ!)

 

 咲の手のひらに、槓材は宿る。

 手を伸ばすまでもない、咲は既に、最後のゴールを手のひらに収めようとしている。――降りてくる一つの鍵を、握り締めるだけでいい。

 

 ――淡と豊音、両者が望んだものがそこにはある。

 ――それを目指すのは、けっしてこの二人だけではない。

 

 

 ――咲が、淡が、そして豊音が――手を伸ばし、手に収め、請い願う。己が勝利を――恋、焦がれる。

 

 

 淡の、打牌。

 

 ――淡/自摸切り{⑧}

 

 淡自身が手を伸ばし、自身の手の平に、それを収めようとする。懸命に、手を振るう。

 

 

 ――その瞬間に、活目するものがいた。

 

 

 ――自身の瞳に、光を宿す、者がいた。

 

 

 ――誰もが望んだその牌は、その決着の終焉は、かくして、そのものの手により。

 

 

「――――――――ポォンッッ!!」 {⑧⑧横⑧}

 

 

 はじけ飛んだ!

 

 

 瀬野円依、開眼す。

 

 沈黙は、放たれた。自身の無茶、自閉の世界から再び卓上に舞い戻った一人の雀士が、爆発的な勢いで手を振るう。

 

 ――あっという間に、牌は卓の端へ激突した。

 それで、すべての流れが変わる。

 

 ――――それが、この局のすべてを変える。

 

 

 ――淡/ツモ{北}・打{東}

 

 

 ――咲/自摸切り{5}

 

 

 ――豊音/ツモ{九}・打{⑧}

 

 

 瀬野円依は、そこにいる。

 ただの沈黙を続ける人形ではない、敵をその短剣でえぐる、一人の人間として。

 

 

(――ここに来て、――――起きてきた! でもそれは、最後の戦いへの参加条件を満たしたに過ぎない)

 

 咲は、皆目する。あらゆる全てを、目の当たりにする。

 

 その上で、宣言するのだ。

 

 

(この局は、これでおしまいだ――!)

 

 

 ――咲/ツモ{8}

 

 スッと、その手が牌へと伸びる。いくつも掴んで、なぎ倒す。

 

「――カン」

 

 躊躇うことは、なかった。

 もとより、そんなつもりは、毛頭なかった。

 

 

「――ツモ、リンシャンツモ、800、1600」

 

 

 ――咲手牌――

 {二三四4566北北北} {3}(ツモ) {8裏裏8}

 

 

・風越 『168900』(+3200)

 ↑

・宮守 『55400』(-800)

・千里山『121500』(-800)

・白糸台『54200』(-1600)

 

 ――あっと、淡、豊音、二人の口から言葉が漏れた。

 

 終わったのだと、自分は負けたのだと、驚くほど早く、両者はそっと、理解した。

 

 

 ――淡はそっと、手牌を伏せた。

 熱くなる目頭を必死に抑えて、それを、周りに悟られないよう、椅子にもたれこんで天井を見上げる。――そこにあるのは、黒に塗りつぶされかけた星々だ。

 滲む目先は、不思議とそれを、綺麗だと映した。

 

 ――それでもまだ、淡は泣かなかった。まだ、最後の時ではないと、知っていたから。

 

 

 ――豊音は、自身が涙を流していることに、ふと気がついた。

 それからは、大変だ。流れる涙を何度も拭って、口元から、嗚咽を漏らさないよう必死に務めた。ふせられた目先にある点数表示板は、滲んで確かめることすら出来なかった。

 

 ――そんな豊音は、そっと牌を卓上の空白に押し込める。もうその牌に、自分が触れることはないのだと、感じながら。たった一度きり、許された勝利に、別れを告げながら。

 

 

 ――かくして、白糸台。宮守。両校のインターハイは終わりを告げた。

 

 トップ、風越との点差は十万点以上、これではトップどころか、二位の千里山にすら届かない。点棒は、これ以上増えても自身の結果を変えることはない。

 

 後は、残る二校の闘いを、ただ自身の矜持とともに見守るだけ。

 

 

 ――そう、残る対局は、これが最後だ。

 

 

 千里山女子と、風越女子、大将、瀬野円依と宮永咲、その対局が、残されるのみとなった。




次回、大将戦終了!
結果的にではありますが、円依と咲の一騎打ちと相成りました!

我ながら、凄まじく絶妙な点棒移動してるな、としみじみ。
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