旅の御伴は虎猫がいい 作:小竜
飛行船がたどり着いたのは、入口すら見当たらない建物のてっぺんだった。
受験生たちがざわつく中で、豆みたいな頭をした人が話し始める。
「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです」
私はまぶたをこすりながら、話を聞こうと努力をしていた。マイコーに至っては、人の頭で寝ている始末だ。
私の隣にはゴンとキルアがいる。キルアはしゃんと立っているが、ゴンはうつらうつらしており、――危ないっ! 倒れるっ!
膝からかくんと崩れそうになるのを、私は掴んで支える。
「ったく、しっかりしなさいよ」
「ああ、リン。ごめんね……」
「ちょっとだけでも床で寝てたら? あとで内容も教えたげるし、起こしてあげるから」
「いや、でも、それは悪いよ……」
そう言って横にならないゴンは、相変わらず今にも寝そうで……。
仕方ないので私に体重を預けさせつつ、支えてやることにする。
ゴンが嫌がる様子はない……、っていうか寝息が聞こえるし、今度は完全に寝てるよね? 私に寄りかかって寝るのは悪くないってか?
私はゴンを横目で見る。まったくもって、困った弟だ。こんな調子で3次試験を突破できるのだろうか。
ゴンの寝顔を私はじ~~~~~~っと眺める。
子犬が眠っているような、あどけない寝顔がある。
……なんだか心が落ち着くなあ。
はっ! いかんいかん、つい和んでしまった。
ゴンがここまで眠いのも頷ける話だった。
おじいちゃんとのボール取り。最初こそゴンチームと、私らチームにわかれてゲームに興じていた。だが、そのうちおじいちゃんに挑発され、4人掛りで勝負する羽目になったのである。
どうにかおじいちゃんを追い込む場面もあったが、結局ボールはとれなかった。あの人のことだ。少しずつギアを変えて楽しんでいたに違いない。
「さて試験内容ですが、試験官からの伝言です。生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間です」
☆ ☆ ☆
「なんで、あんたがついてくるのよ」
「そりゃババアがゴンをおぶってるからだろ? ほら、オレにゴンを渡せよ」
三次試験が開始され、私は眠っているゴンを背負って歩いている。塔の屋上のどこかに、出入り口があるはずだが見つからない。
そんな私にキルアがついてくるのだった。
「ゴンが起きちゃうでしょ。静かにしなさいよ」
「なんで渡さないんだよ。テメー、ゴンをどうにかするつもりだな?」
「そんなつもりがあったら、とっくに塔の端から捨ててるわよ……」
キルアの疑いの眼差しを流しつつ、私は屋上を捜索する。キルアがあーだこーだと噛み付いてくるが、私は眠いので相手をする元気がなかった。
そんな時、しゃがみこんで床に手を触れる受験生がいた。やがて受験生は床を開けて、姿を消した。
キルアが機敏な動きで、その床まで駆け寄る。あまりにも動きが滑らかで、水面に波紋すら広げないと思える足音だった。
受験生が集団で走っているときは気付かなかったが、彼の足音は静かすぎた。
私はキルアの後を追う。
受験生が消えた床に触れてみる。だが、ピクリとも動かない。
どうやら下に降りるための隠し扉があるが、通れるのは一度のみらしい。
キルアが舌打ちをして立ち上がる。そこで私はふと気になったことを尋ねてみる。
「キルア。あんたすごいわね。眠くないの?」
「数日なら寝なくても動ける訓練してっから平気なんだよ」
「うっわ、なにその変な訓練は?」
「うっせえよ。オレだってやりたかない訓練だったよ」
「足音もすごく静かだけど、それも訓練のおかげ?」
寝ぼけた脳に一つの記憶が蘇る。ジンとあちこち回っている時にも、似たような足音をした人と出会ったことがある。
その人の仕事は……、名前は……、ええと……。
「キルアって、殺しを請け負う仕事とかしてるの?」
「なんだよ、テメー」キルアが少しだけ動揺を見せた。「なんでわかったんだよ?」
「昔、ジンが戦った人で同じような足音の人がいてね。確かシロ……、シル……」
キルアは一度だけ深い溜息をついて、
「シルバ、だろ?」
「そうそうっ! シルバさんだ!」
「それ、うちの親父だぜ。なんだよ、親父の知り合いかよ……」
「いや、知り合いってほどでもないけど。私の父親とシルバって人が戦ってるのを見たことがあってね。いやあ、あれはすごかったわ」
ジンとシルバの闘い。今、思い出しても興奮するほど激しかった。お互いの目的を果たすためには相手が邪魔で、始まった戦いは3時間経っても決着がつかなかった。結局、時間が掛かりすぎてジンの方が目的を失ったので、おひらきとなったのだが。
「キルアのお父さんて、めちゃくちゃ強いのね」
「うちの親父と対等に戦えるなんて、そっちの親父もすげえじゃん」
「まあね、なんて言ってもジンは世界最高のハンターだからね」
「……は? ジン? どっかで聞いたな?」
キルアが首を傾げる。そんな姿を見て、自分の発言のまずさに気づいた。
しまったー! 私ってば、間違いなくジンって言葉にしたよね? ゴンを背負っていることをすっかり忘れてたっ! もしかして、聞かれた? 聞かれちゃった?
「ゴンの親父がジン……だろ? その人も確かすげえハンターで……。そんでもってリンの親父の名前は――」
「ちょっとキルアっ! そそそそそ、それ以上は待って! 今は言わないでっ!」
悪気のないキルアの言葉を、私はあたふたしながら遮った。
内心で汗をだらだらと掻きながら、私は背中にいるゴンの様子を確認する。
すやすやすや。……どうやら寝ているようだ。
キルアが説明しろと視線で訴えてくる。
これは流石に話さないと納得しないかも。いや、そもそもゴンにだって、隠す理由もないのだけど。
どうしても言い出せなかったのだ。
「あんたの想像の通りよ」私はゴンの寝ている気配を伺いつつ、キルアの耳元へと顔を寄せる。「ゴンには隠してるんだけど、私はこの子の姉なの」
「やっぱりそうか……。なんで、隠してるんだよ。言ってやればいいじゃんか」
キルアの厳しい口調が突き刺さる。
「色々あって、ゴンとは昨日初めて会ったのよ。どんな顔して『あんたの姉だ』って言えばいいのか、わからなくて……」
私は空を仰ぎ、素直な気持ちを口にする。
つい少し前までは殺しちゃおうかとか考えてたけど、ゴンはとっても純粋で良い奴だった。
ゴンが私の弟という事実を改めて噛み締める。ジンをゴンに取られるかもしれない不安は、今となっては微塵も感じない。ただなんとなく、ジンとゴンと私とで仲良く過ごせればと、そんな風に思える。
だが、一方で不安もあった。
私が姉と言うことで、変わってしまうことがあるとするなら?
ゴンを放っておいて、私だけが父親と暮らしていたのだ。自分はどうして一緒にいられなかったのか。ゴンがそう思ってもおかしくない。
その思考にたどり着いて、初めて気づく。
私はゴンに嫌われる未来を想像して、おびえているのだ。
何回も殺そうかと考えていた相手を想い、嫌われたくないと考えるなんて。
なんと自分勝手なんだよ、私ってやつは……。
「だからさ、とりあえず内緒にしといてくんない?」
「ちっ、わかったよ。その話は俺と、……お前だけの秘密にしといてやるよ」
相変わらず目つきは鋭いキルアだが、敵意の色うかがえない。
「そのかわり約束しろ。言えるようになったら、いつか必ずリンの口からゴンに話してやれよ。あと、ゴンの前でも今までどおりにしとけ。姉ちゃんが、情けない顔を見せんな」
予想外のキルアの申し出だった。弱味を握ったことを、チラつかせてくると思ったのだが。
「ありがと」私はキルアを前にして顔をほころばせた。「あんたって、いい奴なのね」
「はんっ! 別にいい奴じゃねーし!」
キルアのふわっとした髪を、私は思わず撫でてしまった。
「おい、気安くさわんな」
キルアはムッとしながらも、私の手をやんわりとよけるだけだった。
「ああ、ごめんごめん」
私は苦笑しながら謝る。
「そういうあんたは、兄弟とかいるの?」
「オレのことはどーでもいいだろ?」
「なんとなくだけど、妹か弟がいそうな気がするけど」
「ついにボケの始まりか? オレの話を無視すんなっての」
話を強引に続ける私を前にして、キルアはやれやれと頭を掻いた。
「クソ兄貴が2人、あとは妹が2人いる」
「そりゃ大所帯ね。あ、でもやっぱり妹とかはいるんだ」
「なんでわかった?」
「あんた、寝てるゴンを心配したり、なんだかんだで面倒見がいいんだもの。頼りになるお兄ちゃんって感じ」
「んだよそれ……。つーか、オレの話はどうでもいいだろ? ほら、さっさと入口を探すぞっ!」
ぷいっとそっぽを向くキルアがいる。
一瞬だけ、キルアの頬がうっすら赤く見えたけど、気のせいかな?
「おーい、ゴン、キルア……。ちょっと来てくれよ」
一次試験でヒソカに担がれていたサングラスの男が、声を掛けてくる。金髪の美男子も一緒に近寄ってきた。
サングラスの男は、私に気づくと言葉を続けるのを躊躇する。
「そいつは大丈夫だよ。オレの知り合いだから。リンって言うんだ」
キルアが、そう言ってくれる。
「それではちょうどいいな」金髪の美男子が言う。「私とレオリオは5つの隠し扉を見つけた」
読んでくれた皆様、今日もありがとうございます。
タイトルに悩みつつ、やっぱりこれしか思い付きませんでした。ちょっとしっくりこないけど。
次回「クラピカとエロリオさん」
スケベなあの人が、光臨いたします(ぇ)
また次回、お会いできたら嬉しく思います。
それでは(^^)/