今アリシアは演習場でワイバーンを纏っている。
だがいつもと違うところが一点。
それはーーー
ーーー髪を下ろしているところだ。
「それでは、今日は二週間後に行われる校内選抜戦へ向けての、実技訓練を中心に執り行う」
ライグリィ教官の凛とした声が、広い演習場に響いた。
別に髪を結わえるためのゴムをなくしたとかではなく、訓練内容に不満があるわけでもなく、ライグリィに苦手意識があるわけではない。
問題はその横だ。
「......本日は王都の軍より、三人の機竜使いが臨時講師としていらしている。皆、この機会を逃さず、しっかり学ぶように」
ライグリィは微妙な表情で、三人を紹介する。
別に紹介に問題があるわけでもない。
問題なのは当人たちの方だ。
「ほう。やはりここに来て正解でしたな」
何を隠そうコイツらが、アリシアが士官学校に来ることとなった原因の三人組なのだった。
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「おい貴様!そんなぬるい動きじゃ、戦場だと的にしかならねえぞッ!?ふざけてるのか?あぁ!?」
「どうした!?もうへばったのか?その程度で機竜使いが務まるとでも思ってるのか!」
「甘えてるんじゃねえぞ!人に教わるな!自分で考えてやり直せ!」
それは、普段の演習とはまったくの別物だった。
開始から十数分。
観客席にいるアリシアは頭に来ていた。
イライラを隠そうともせず、それを見ていた。
「ーーー隣、いいかしら?」
背後にいたクルルシファーにも気づかない程、アリシアはキレていた。
クルルシファーは無言を了承と判断したか、隣に座る。
「どうやら、知った顔のようね」
流石クルルシファー、鋭い。
「...よくわかったな」
「今のあなたを見ていれば、リーズシャルテさんでも分かるんじゃないかしら?」
心を読んだかのように平然と言ってきた。
「......俺がここに来ることになった、問題起こした三人組だ」
クルルシファーに目を向けずに告げる。
「あら?だったら感謝しないといけないかしら?」
流石に冗談だと分かってても、形容しがたい気持ちになる。
「......」
反応に困っていると、クルルシファーは立ち上がり、
「冗談よ。そろそろ行きましょうか?わたしたちも」
アリシアは一息吐くと、
「......そうだな」
そう言いクルルシファーと一緒に演習場に戻った。
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「キャアアッ!?」
アリシアとクルルシファーが演習場に戻り、訓練を再開しようとしたとき、それは起こった。
「はははっ!やはりこの程度か!」
一人の女子生徒が撃ち落とされ、上空から勝ち誇ったような声が降ってきた。
「危険な真似はやめていただきたい!」
ライグリィが強い口調で諫めようとする。
「ライグリィ殿こそ、過保護はやめていただこうか?我々は軍の厳しさを、こうして覚えさせてるに過ぎないのだよ?」
「くっ......!」
ライグリィは悔しそうに歯噛みする。
「ちょっと、いい加減にしてください!こんなのーーー何の訓練にもなりません!」
いかにも生真面目そうな少女が、そう言って立ちはだかると、
「ほう、さすがは新王国の体制で甘やかされて育ったお嬢様たちだ!ははははは!お前ら、今日の放課後は全員補習だな!」
厳つい顔の男が哄笑し、他の男たちもつられて笑う。
「では、わたしがーーーーー」
その少女が武器を構えようとしたとき、隣から伸びた手で誰かがそれを制止した。
「あなたたちに人を教えれるような人格があるとは思えませんが」
アリシアだった。
「先程の発言には、軍の厳しさだとか言ってましたが、ここは士官学校ですよ?軍ではありませんよ?」
男たちは、驚いたように仰け反り、そして食って掛かった。
「ほお?だが、これから軍に入る奴等が大半だろう?ならば今教えてたって損はないはずだろ?お嬢様?」
あえて挑発するように男はそう言った。
「それに俺らに人を教えれないだと?笑わせるな。どうやってそれを証明する?」
「それでは勝負でもしましょうか?あなた方三人と」
その言葉に男どもは顔に汚い笑いを浮かべた。
「二言はないな?お嬢様?」
その笑いを隠すことなく別の男が更に続く。
「だが俺たちは出ずっぱりで戦っていたから、お前より疲弊している。故に、お前の機竜に重量の枷を付けさせて貰うが、構わないな?」
その問いにアリシアが頷くと、男どもは顔を見合わせ、演習場の隅にあった重しを、アリシアのワイバーンに取り付け始めた。
そこでアリシアは観客席にルクスを見つけた。
そのルクスは苦笑いしていた。
そして口が動く。
ほ、ど、ほ、ど、に、ね
と。
アリシアはそれに少し方をすくめて返事をした。
するとちょうど重しをつけ終わった。
「くっくっく。これで対等だな?じゃあ始めようか?」
男たちが笑い、演習場にいた他の生徒たちを端まで下がらせる。
女子生徒たちは何か言っているようだが、気にしない。
そして、ライグリィに一つ目配せをして、
「模擬戦・開始!」
戦闘が開始した。
††††††††††
ひとまずアリシアは機竜息砲で弾幕を張る。
だが、流石に一応は軍人なだけはある。
それを全て防ぎ切った。
アリシアはワイバーンで地面を走り、ワイアームの元に辿り着く。
そして、高々と剣を振りかぶり、振り下ろす。
それを余裕を持って回避した相手は直ぐに詰め寄り、一閃。
だがアリシアはそれを飛んで回避しそのまま一回転。
回転のエネルギーと増えた重量を余さず剣に乗せて、剣を振り切った格好のワイアームを障壁の上から叩き切る。
すかさず飛び、飛来した銃弾を避け、防ぎ、いなす。
そして、演習場の端から機竜息砲を撃ってくるドレイクにダガーを投擲。
直ぐに弾幕を張りながら飛んで接近。今度はコンパクトに一振り。
すぐさま、中空にいるワイバーンからの射線を切り、ほぼ密着状態で剣を振るう。
追加された重量を生かし、押し切る。
だが、アリシアの振りが一瞬遅れた。
そこへ鋭く突きが放たれるも、剣の上に足を乗せ、踏み台にし、またも一回転。
ワイバーンの足がドレイクの肩口に命中。ドレイクは吹き飛ぶ。
すぐに中空のワイバーンの方へとーーーーー
パァアン!
「キャアアッ!」
アリシアの随分上を飛んだ光弾が、観客席に届いた。
「うあっ.....!」
観客席に障壁を張っていた生徒の一人、ティルファーが直撃を受けて体勢を崩す。
「おっと済まないな。中々当たらないんで先読みしたんだが、外れてしまったよ」
白々しく男が言う。
「あ........やらかしたね」
ルクスが何か言っていたが、アリシアの頭には全く届いていなかった。
「いいか?かわすなーーー」
「『厄災』」
ーーー男はいつの間にか落ちていた。
「勝者!アリシア・レイヴン!」
ライグリィのその言葉を聞いて、男たちが強張るのが見て分かった。
そこでアリシアは髪を戻し、機竜を解除した。
「さて......言い訳はあるか?」
とても、とても低い声で睨みながら言う。
「こ、れ....は.......」
三人組はそれ以上何も言わなかった。
「除名も覚悟しとけよ......!」
男どもは魂が抜けたように演習場を後にした。
「お疲れ様」
笑顔でタオルを渡してくれたクルルシファーに心が弾んだのはここだけの話だ。