「今日はこれから、私とデートして欲しいの」
「え、あ、はい。行きましょう」
恋人役をし初めて数日。女性との付き合いなんて皆無だったアリシアも随分慣れた。
そして、授業後。すぐに来たクルルシファーはデートのお誘いをした。
反射的にOKを出していたが、後から思うととても恥ずかしかった。
しかも回りからは黄色い声が上がっており、クルルシファーは平然と、アリシアはバレない程度に、そそくさと教室から去っていった。
△▽△▽△▽△▽△▽
「さて、残念ながら俺はこっちに来てから1週間しか経ってない身。どこにも連れて行けるような所なんて、知らないよ?」
今はクルルシファーと並んで町を歩いている。
行った通り、アリシアは1週間前に城塞都市に来たばかりであり、こっちに来てからもあまり外出はしなかったため、女性を連れていけるような所など知っていなかったのだ。
「残念ながら私もあなたには期待してないわ」
分かり切っていながらもひどいと思う。
そうして数分歩いて行くと、美麗な看板と彫り物の飾りがついた、大きめの洋服屋にたどり着いた。
「さ、行きましょう?」
クルルシファーが入って行ったため、後に着いていく。
ーーーそして一時間。
「......って俺の服だったんだな」
そう。ここで購入したのはなんとアリシアの服だった。
「安心した。試着した限りでは礼服もなかなか似合っていたわ。さすがは、軍の指導教官様ね。」
他人事のような笑みを浮かべ、クルルシファーが返す。
「いやでもーーー、流石に払ってもらうのは.....」
男としてのせめてもの威厳が......。
「気にしなくていいわ。私が自由に使えるお金の範囲だから。たいした額でもないし」
さらりと言う辺り、やはり彼女もお嬢様なのだと、改めて思い知る。
アリシアも少なからず給料は貰っていたが、大半はルクス達の借金返済に当てていた。
こんなことになるなど思ってもいなかったため、生活に必要な分しか残していなかったのだ。
などと、話していると.....
「.....ッ⁉ 危ないッ!」
アリシアは叫ぶと同時に、クルルシファーへ抱きつくような形で、身体を押す。
直後、鞭のようなものが高速で伸び、何もない空間を巻き取った。
同時にーーー
「動くなよ、上から仲間が狙ってる」
ローブを纏った男が一人、ナイフを突きつけてくる。
屋根の上にはドレイクが3機。
一つ舌打ちすると、アリシアは剣帯から機攻殻剣を外し、地面に置いた。
クルルシファーも両手を上に上げるが、
「どうにかして、隙をつくって貰えないかしら?機竜召喚したいわ」
小声で言ってきた。
アリシアは小さく頷く。
そしてーーーーー
「ぐふっ......!」
アリシアは目の前のローブの男の腹に、右ストレートを見舞った。
ドレイクは驚いたように一瞬動きを止め、そして機竜息銃を構える。
だがアリシアはそのローブ男の首もとを掴むと、空に掲げる。
ーーーその男を盾にするようにして。
流石にドレイクは発砲しなかった。
隙としては十分以上だろう。
「ーーー転生せよ。財貨に囚われし災いの巨竜。遍く欲望の対価となれ、≪ファフニール≫」
「デートの邪魔をした借りは、返させて貰うわ」
そうとだけ言うと、クルルシファーの機竜ーーーーーファフニールが素早く動いた。
一動作が一秒にも満たない、標準を定める間もない恐るべき早撃ち、そして、三方向への発射にも関わらず、異常な速さと正確さで、全てのドレイクを打ち緒とした。
だが決して、賊の動きも悪い訳ではなかった。
つまりーーーーー
(あれが、財禍の叡智......)
以前リーシャより聞いていたファフニールの神装だろう。
間近でそれを見、その恐ろしさを垣間見た衝撃に、呆然としたいた。
そして気付いた。
「あ」
右手で持っているローブだが、中身がなかった。
急いで周りを見回すと、ナイフを片手に走り去る男が見えた。
だがその先には、細身の女性が立っていた。
「危ないッ!」
咄嗟に、後ろの白い機攻殻剣を抜こうとしたがーーー、
「助けなら、必要ないわ」
「え......?」
真顔のクルルシファーに、そっと手で制止される。
「随分と治安が悪いのですね。この国はーーー」
キンッ!
静かに女性が呟いた直後、賊のナイフが宙を舞った。
「動かないでください。手もとが狂いますから」
その場で尻餅を着いた男は、長剣の切っ先を喉元に突きつけられる。
女性の持つ長剣の表面には、無数の銀線が走っているーーー機攻殻剣だ。
そして、その女性は顔を上げた。
「ご無沙汰しております。お嬢様」
その言葉に合点がいった。
つまりこの女性こそーーー
「ええ、彼女はエインフォルク家の執事、アルテリーゼ・メイクレア。私の様子を見に来た、エインフォルク家の従者よ」
「場所を変えてもよろしいですか?ここは話をするには不向きです」
アルテリーゼと呼ばれた女性は、そう静かに申し出る。
遅れてやってきた警備兵ーーーーー面識はないーーーーーに事情を話し、賊を引き渡すと、アリシアとクルルシファーは、アルテリーゼの後に従った。
すべきことが山程ありますが、なるべく早め早めに出そうと思いますので、気長にお待ち下さい。