「まずはそうですね。ご壮健で何よりです、お嬢様。と言いたいところですがーーーーー」
先に戦闘したところから歩いて十数分後。
アルテリーゼに、学校の敷地からやや近い酒場に連れてこられた。
「級友の前だからといって、余計な気遣いはいらないわ」
アリシアをちらりと見て言ったアルテリーゼに対し、クルルシファーは素っ気なく言う。
「では、率直に。もう少し気をつけてください。あなたの身体は、エインフォルク家のものなのですよ?」
「なら賊に狙われるのも、名家の宿命だから仕方ないわね」
どこか不機嫌そうなアルテリーゼの言葉に対し、クルルシファーは皮肉を混ぜて返す。
アリシアもだがクルルシファーに言葉で勝てる人はいないと思う。
「寮の門限も近いから、手短にしてもらえると助かるわ。どうせ、あなたの用件はわかりきってるし」
「お嬢様がそのように不真面目なものですから、こうして私が来たのです」
クルルシファーの言葉に、女執事は強い口調で返す。
(なんだ?仲悪そうだな.....)
さっそく居心地が悪くなり、帰りたくなるアリシア。
そんなアリシアには気づく素振りもなく、会話を続けるーーーと思いきや
「ところでーーー、その男性はどなたなのですか?」
話の話題がこっちに向いた。
「私の恋人よ。素敵でしょう?」
アリシアは小さく会釈する。
「恋人?その少年が、ですか......?」
訝しげな目で、アルテリーゼが見てくる。
「ええ。彼は今、諸事情により士官学校に通っている私の級友。何か問題があるかしら?」
「ええ?そうですね。それは困りましたね。実はーーーーー」
「これはこれはーーーーー、私も見くびられたものだな?」
突然発せられた男の声に、アリシアも顔を上げる。
金の刺繍がはいった、赤い豪華な外套を纏った男が、アルテリーゼの背後に立っていた。
アリシアにはその男の顔に見覚えがあった。
「......バルゼリット・クロイツァー、.....何でこんなところに」
物凄く小さな声で言ったが、クルルシファーだけでなく、バルゼリット・クロイツァーにも聞こえていたようで、
「ほう?見ない顔だが、よく知ってるではないか」
そしてクルルシファーもようやく合点かいったようだ。
「まさかアルテリーゼ、あなたはーーーーー」
僅かに眉をひそめながら問う。
「ええ。誠に勝手ながら、明日に予定していた会食にてバルゼリット卿にお嬢様を紹介し、その場で婚約を交えていただくよう、私が話を進めておきました。ですがーーーーー」
「どうして相手の私が、その話を耳に入れてないのかしらね?」
呆れたような口調で、クルルシファーが問いかけると、
「このくらいしないと、お嬢様はまた理由をつけて逃げてしまいますから」
アルテリーゼは悪びれることなく、平然と返した。
「そう?でも残念だったわね。この通り今の私には、お付き合いしている男性がいるわ。」
クルルシファーに目線を向けられ、アリシアはしょうがなく立ち上がり、
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアリシア・レイヴンと申します。以後、お見知りおきを、バルゼリット卿」
礼をしながら、挨拶をする。
「アリシア.....?」
バルゼリットは何か思案するように呟き、そして、
「はっはっは!なるほど、エインフォルク家のご息女もやり手ではないか。これは無下にもできまい」
「なっ.......」
バルゼリットは笑った。
アルテリーゼが泡を食らったように驚き、そして椅子を鳴らして立ち上がる
「な、何故ですか!?」
叫ぶように問いかけた。
「アリシア・レイヴンと言ったら、女王陛下にその実力を認められ、軍で兵の指導教官を勤めている男の名だ。うちの者も何人か世話になったようでな。随分と好評だったぞ」
「お褒めに預り、光栄です。クロイツァー家の者達は、とても素晴らしい方ばかりで、私もいい経験をさせて頂きました」
満面の笑みを浮かべ、アリシアは言う。
そう。アリシアはこの男の家の者も何人か指導したことがあるのだった。
その態度を見たバルゼリットは不機嫌そうに鼻を鳴らし、アルテリーゼは、唖然としていた。
「まぁ、いいだろう。これからの世界は機竜使いとしての力と指導者としての力が、何より求められている。私もお前もそれを備えているとなると......そうだな。装甲機竜でひとつ勝負するというのはどうだ?」
バルゼリットは口許を弧に歪め、余裕を見せてくる。
「バ、バルゼリット卿、それはーーーーー」
アルテリーゼが、驚いてそう口走ったとき、
「確かに、ご息女に婚約の話は通ってなかったようだ。それは今回の件を取り付けたそなたの落ち度だ。しかし、ここで強引に婚約を結んだところで、彼女は納得しないだろう?オレの力量も見せておいた方が、その後の夫婦生活もうまくいくというものだ」
まるで旧帝国の考えが丸見えの台詞だった。
「わかりました。受けましょう」
アリシアは即答した。
アルテリーゼは未だに茫然が抜けない顔で、
「いえ、バルゼリット卿のお手を煩わせるわけには......」
納得いかないのか、そう口を挟みかけたとき、
「この際、あなたも決闘に参加してみたらどうかしら?」
クルルシファーが静かに、そう提案してきた。
「......どういう意味ですか?」
「当事者の私と、今回の件を持ちかけた責任者が高みの見物というのは、気分が悪いわ。どうせならお互い二体二のペアで、まとめて決闘をするというのはどう?」
「な、何を言っているのですかあなたは!?冗談もいい加減にーーーーー」
「まぁ待て、アルテリーゼ殿。オレは構わんよ」
バルゼリットが不適な笑みと共に、アルテリーゼを止め、快諾する。
「明日の会食は残念だがキャンセルだ。では、三日後の夜。決闘の場所は用意しておこう。それではな、指導教官殿?」
それだけ言うとバルゼリットは豪奢な外套をなびかせ、酒場を出ていった。
「お二人とも、自分たちが何をなされているのか、お分かりなのですか?」
諌めるような口調で、アルテリーゼが眉を上げる。
「私は承諾しただけですよ?大元の原因はそちらでしょう?その上、決闘も提案したのはそちらです」
アルテリーゼは面を食らったように、少し仰け反っていたが、体勢を立て直すと何か言おうとする。
「それがーーーーー」
「それより」
それに被せて、アリシアはさほど大きくはないがよく通る、威圧を込めた声で言った。
「あなたこそわかっていますか?ご自分が何をなされているのか。先程も言われましたが、私は軍の教官ですよ?そもそも、あまり実力を見せるような役職ではーーーいえ、見せてはいけない役職ですよ?それなのに決闘を申し込む、この意味がわからないような方ではないでしょう」
ほとんど脅迫に近い形で、アリシアは告げた。
数秒間苦い顔をしていたアルテリーゼであったが、その後すぐに立ち上がると、
「今夜はこれで失礼します」
それだけ言って、執事姿の女性は酒場を後にした。
その後、アリシアとクルルシファーの間に、奇妙な沈黙が流れる。
「門限が近いわ。今日はもう帰りましょう」
やがて放たれたクルルシファーの一言で、アリシアも帰ることにした。
ルビ振りめんどくさいです....