「それで決闘、『鍵』に関しては、何の成果も得られなかったわけですか?ワイバーンを大破させてしまっておきながらーーーーー」
学園に戻り、一通りの処置を行ったアリシアは、アイリの部屋を訪れていた。
ノクトはおらず、アリシアと二人きりなのをいいことに、アイリの説教が始まった。
アリシアはアイリの前で丸まっており、アイリは鬼の形相でアリシアを見下ろしている。
「いやほんと.....すみません」
アイリに対しては謝る他ない。
「私が怒っているのは、アリシアさんが何も反省をしてないことですよ。ただでさえ、遺跡は危険なのに、また無茶をしてーーーーー」
まだ続きそうだ。
と思っていると、急に声が小さくなって、
「また......またいなくなっちゃうかもって....心配しているんですよ.....」
あまりよく聞こえず顔を上げる。
(あれ....?なんか既視感.....)
と、思っていたが、もう遅い。
いつしか、視界に捉えたのと同じ色。
しかし、それを理解するよりも早く、アリシアは体を起こし、姿勢を正す。
アイリは既に元に戻り、よくわからない、といった風に首を傾げていた
ーーーーーーーーーーが、
アイリは急に、かあっと顔を真っ赤にさせると、
アリシアの視界が反転した。
「さ、最低です......」
平手打ちされたのだと理解したときには、アリシアは意識を失っていた。
そしてその薄れ行く意識の中で思い出されたのは、
ーーーーー白だった。
▽△▽△▽△▽△▽△
視界にとらえたのは、滅び、荒れ果てた廃墟。
無数の瓦礫が転がるその中には、大きな影が三つ。
一つは機体の大きい、上部付近には長く大きい二つの影。
そしてその後方には、それよりは小さいが、ワイバーンよりは少し大きい。
ーーー強化汎用機竜。それも陸戦型。
そして最初の大きな機体の目の前に、倒れている大きいが細身の機体が見えた。
続いてーーー安堵。
機体が見えると言うことは、まだ負けてないと言うことだ。
それを確認すると、自らが両手に持つ剣を平行に並べ、切っ先を大きな機体に向ける。
そして発射。
だが着弾の寸前にその機体は素早く後退した。
「何者だ!?」
機体の主から叫び声が聞こえる。
「どう、して......」
細身の機体の主が唖然として呟く。
「ーーーーーすまん。遅くなった」
そこには光をも切り裂く純白の剣竜がいた。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
アリシアが目を覚ますと、そこにはルクスとリーシャがいた。
その二人から事情とアイリからの伝言を聞いた。
「無茶はしてないでくださいね」と。
そして、ルクス達に一つお願いをすると、『厄災』で町外れまで猛ダッシュ。
町外れで『ゼル・エル』を纏いここまで飛んで来たわけだ。
「違う!私はもう、あなたを巻き込むつもりなんてなかった!」
クルルシファーから竜声が届く。
「何故、『ゼル・エル』を纏って来たの!?それじゃ、あなたの正体までーーーーー」
遺跡調査でワイバーンは大破。
ルクスから借りる手も考えなくもなかったが、バルゼリットのアジ・ダハーカについてとある仮説を思い付いたため、『ゼル・エル』を纏ってきたのだ。
そして、クルルシファーの前に、左手の剣を投げ、突き立てる。
「決闘相手のアリシア・レイヴンだ。現時刻をもって、決闘に参戦する」
アリシアは心意を込めて宣言する。
「純白の神装機竜.....? 彼は、一体ーーーーー」
アルテリーゼは困惑したように呟き、双剣を握りしめる。
「ハハハハ!ハッハッッハァ!」
バルゼリットが哄笑する。
心底愉快そうな表情で、アリシアを睨み付けた。
「これはこれは、見誤っていたぞ。てっきり逃げるものかと思っていた。たかが、女ひとりを助けるために正体を明かすとはーーーーー。予想以上に愚かな男のようだな、『白き影竜』とは」
「ーーー『白き影竜』!?まさか、こんな少年が......!?」
アルテリーゼも動揺して叫ぶが、アリシアは微動だにしない。
「いや、噂通りの『英雄気取り』だとも言っておこうか?無意味な真似はよせ。怪我と疲労を押して戦ったところで、この女は何もお前に接してきた利をあたえんぞ?」
確かにアリシアの機体は僅かに傾いている。
クルルシファーはその指摘に内心、歯噛みする。
「断る。バルゼリット・クロイツァー」
アリシアは動じることなくバルゼリットを睨み、告げる。
「何.....?」
「お前に測られるほど、俺も落ちているわけではない」
そして剣を両手で持ち、飛びかかるため、前傾姿勢をとる。
「お待ち下さい!」
ゴウッ!っと、突風を巻き起こして、アルテリーゼがアリシアに飛びかかる。
「バルゼリット卿は、お嬢様との戦いで消耗しています。これは二対二の正式な決闘です。まずは、私がお相手致しましょう」
陸戦型強化汎用機竜《エクス・ワイアーム》の質量と強化された膂力を最大限に生かし、アルテリーゼは双剣で、『ゼル・エル』に斬りかかる。
意表を突いた、一瞬の出来事。
そして決着も一瞬だった。
着地したアルテリーゼは、しかし、すぐに転んだ。
「なッ......!?これはーーー!?」
アルテリーゼの纏うエクス・ワイアーム。
その右足が半ばより切れていた。
『神速制御』によるカウンターの一閃は、その足を切り落としていた。
「まだ、終わっていない!」
アルテリーゼは持っていた双剣を地面に突き立て、それに寄りかかり、キャノンを構える。
「アルテリーゼ殿」
穏やかな声で、背後からバルゼリットのアジ・ダハーカが、その肩口に手をかけた。
直後、エクス・ワイアームから光が消える。
そして解除された。
「ここはオレに任せていただきたい。今のあなたでは勝ち目はないでしょうし、何よりーーー彼に手加減された時点で、勝負はついている」
「.....くっ!」
アリシアがエクス・ワイアームの破壊を片足に留めていたのは、彼女のプライドを慮ってのことだ。
と言うのもあるが、あまりバルゼリットに情報を与えたくなかったのもある。
そして、バルゼリットと向き合う。
「ふん....来るか?白き影竜?」
アリシアは返事をせず、ファフニール程のスピードで突進する。
そしてバルゼリットの直前で方向転換。
先程より早い速度で、目で捉えられても、反応できない速度で背後から斬りかかる。
だが、アリシアの剣がアジ・ダハーカの装甲に当たる寸前、三重の光の壁に阻まれる。
そして、戦斧が頭部目掛けて振り下ろされる。
「アリシア君!」
クルルシファーの悲鳴が聞こえるが、アリシアは中空へと逃れていた。
「ほぉ、流石に不意打ちでは、顔色ひとつ変えんか」
その言葉が終わる前にアリシアは、再度斬りかかる。
今度は最初から先程の速度で、左からの水平切りと見せかけ、上から切り落とす。
だがこれも、三重の光の壁に阻まれた。
そして、陸戦型の重量を生かした、戦斧の切り落とし。
またも直前に中空へと逃れた。
「ああ、やっぱり。俺の嫌な予感ってのはだいたい当たるんだよなぁ」
「ほう。負け惜しみでも言うつもりか?」
嘲るようにバルゼリットが言う。
「はっ....。それは自分に言っているのか?バルゼリット・クロイツァー」
「今の攻防を終えてもそんなことが言えるとは、お前はよっぽどの楽天家のようだーーー」
「それかお前の機竜の種がわかったから、だろ?」
一瞬バルゼリットが顔色を変える。
だがすぐに戻った。
「聞いてやろう。言ってみろ」
「アジ・ダハーカの神装《千の魔術》は他の機竜のエネルギーを奪い、触れれば神装をも奪うことができる。そうだろ?」
バルゼリットが険相を浮かべる。
「ほう、なかなかいい読みだ。いつから気づいていた?」
だが、顎を上げ、あくまでも強者として言う。
「遺跡調査のとき、お前がわざとらしく、ファフニールに触れ、直後からクルルシファーの様子がおかしくなったからだ。そして最後の戦斧の投擲。あれは明らかにおかしかったからな」
「ハハハハハ!」
バルゼリットは笑う。
「だが、わかったところで貴様は所詮、オレには勝てん」
ふいにアリシアを睨み付けると、左肩のキャノン、双頭の顎を既に身動きの取れないクルルシファーに向けた。
「その女の手足が多少不自由になろうが、俺はちっとも構わんのでな」
嘲笑うような声と同時に、砲撃が放たれる。
「ーーーーー」
クルルシファーが声にならない悲鳴を上げる。
「《
ドウッ!
大気が爆ぜた。
だが砲撃はクルルシファーには当たっていなかった。
クルルシファーの前に突き立っている剣の前に、アジ・ダハーカのものより複雑な模様を描く、光の壁が展開していた。
「なっ......」
バルゼリットは絶句していた。
「旧帝国のやり方はよく知っているよ。バルゼリット・クロイツァー」
「ちぃっ.....」
バルゼリットは舌打ちし、右肩のキャノンも放つ。
だがそれも光の壁に阻まれた。
何度も意味のない砲撃を行う。
だが結果は変わらない。
「貴様ッ......!何をした!」
堪えきれないようにバルゼリットが叫ぶ。
「ふん。俺の特殊武装だ。残念ながらお前のそれじゃ突破できねぇよ」
バルゼリットは絶句していたが、すぐに俺を睨み付け、戦斧を構える。
「貴様あぁぁぁぁぁ!」
足の車輪を猛回転させ、急接近してくる。
アリシアはそれをギリギリまで引き付けて、やはり先程と同じ速度で避け、上から剣を振り下ろす。
「ハッ!」
そして先程の雄叫びは何だったのか。
バルゼリットは哄笑し、三重の障壁を展開した。
そして俺の剣が障壁に当たる前に、バルゼリットは戦斧を振り始めた。
今までとは違うタイミングで降ってきたその攻撃に、だがアリシアは目を少し見張るだけでそのまま振り下ろす。
そして、激突。
アリシアの剣は三重の障壁に。
だがバルゼリットの戦斧はーーーーー
「『逆鱗』」
アリシアの前に展開された、さっきと同じ光の壁に止められていた。
そして、そのまま拮抗する。
だが、
「...ッ!」
アリシアの光の壁が押され始めた。
そして気付く。
それが≪千の魔術≫によるものだと。
そして悟る。
近接戦は不利だ、と。
だが今不用意に下がれば、押しきられかねない。
下がることもできず、また押しきることもできず、アリシアはその場に留まる。
「ーーーどうして、戦うのよ.....」
不意にクルルシファーが呟く。
クルルシファーは気付いている。
彼が何故か手を抜いていることを。
それ故の疑問。
「私は!あなたを、利用していただけなのよ!?最初からそのつもりで、近づいたのよ!だからこれ以上は、責任も義理も....あなたが感じる必要はないのよ....」
その声は徐々に消えゆく。
「だからもう、諦めて.....。あなたは誓ったんでしょう。アイリさんと、ルクス君と、その彼が守ろうとした理想とする国のために戦うんでしょう....?」
血を吐くような思いで、クルルシファーは言葉を紡ぐ。
「私にとって、あなたはただの道具だったわ。だからあなたにも、そう言って欲しいの.....。そう最初から割り切ってくれたら、『もしかして』なんて、期待せずに済むから。こんな思い、しなくて済むからーーー」
ぽたり、と。
クルルシファーの頬を、堪えきれなかった一滴の涙が伝う。
ーーーーーそして、静かに、その言葉は流れた。
「お前は言ったな。俺は、俺らの理想とする国のために戦うのだ、と」
アリシアはそのままの状態で続ける。
「今!俺の描く理想の国には!」
目前のバルゼリットを睨む。
「笑顔のお前が!必用なんだよ!」
『ゼル・エル』が小刻みに震える。
それは剣竜の怒りか。
はたまた、哀しみか。
「ーーー勝負だ!バルゼリット!」
そして遂に、白き影竜はその本性を表す。
その場にいたはずの純白の剣竜はバルゼリットの後方に、剣を両手でもって、振りかぶっていた。
「チィッ....!」
バルゼリットは舌打ちするが、剣を掲げたアリシアの前に、ファフニールの特殊武装《竜鱗装盾》が現れた。
そしてその後ろに三重障壁。
「俺は、あの話を聞いて決めた!」
目に見えない速さで剣を振り下ろす。
「絶対に、その笑顔だけは守ると!」
ビキイィイイィッ!
崩壊を告げる不協和音が、夜の協会跡地に響き渡った。
「ーーーなッ!」
反応できない速度だったが、絶対の防御を誇る、ファフニールの竜鱗装盾と三重障壁があった。
だがそれを易々と吹き飛ばした。
そして肩口に触れた、刃の接点から、崩壊が広がる。
そしてアジ・ダハーカは触れてはい方の肩口と頭周辺が一部残るのみとなった。
「さて、命は.....取らないでおこうか?」
見下ろし、アリシアは告げる。
「.......くッ!ハハハハハハッ!」
バルゼリットは醜悪な笑みを浮かべて、笑った。
イイィィィイ!
残ったアジ・ダハーカが耳障りな咆哮を上げる。
「ハハハハハハッ!これでお前も終わりだ!『王国の覇者』が負けてはならないのだよッ!」
だがアリシアはただ、冷徹に見下ろすだけだった。
「言っただろう。旧帝国のやり方はよく知っている、と」
「くくく、ではーーーーー」
と、バルゼリットが、何か言おうとした瞬間、
「やはり、こうなりますか、バルゼリット卿」
そこに、一匹の竜がいた。
見るものを圧倒し、畏怖を抱かせる破滅の象徴。
バハムートを纏ったルクスが両の手に数人ずつ、強化汎用機竜を持っていた。
「お前の私兵とはこいつらか?随分頼りになる連中だな」
さらに、ティアマトを纏ったリーシャが、エクス・ワイバーンを空から投げ捨てた。
「ほ、他の連中はどこへーーー!?」
「アーちゃん。大丈夫だった?」
バルゼリットの声を、間延びした声が上から被せた。
「な.....!」
その声の主、フィルフィは装甲の解除された数十人の私兵を引きずって現れた。
「残念だが貴公の奸計は全て聞かせてもらっていたよ。バルゼリット卿」
更に、ワイバーンを纏ったシャリスが現れる。
その横にはティルファー。
そして、
「Yes,私のドレイクの傍受機能で、会話を拾い、全て、連れてきた軍の方々に、確認していただきましたのでーーー」
「う、ぐ......う!」
「終わりだな。バルゼリット・クロイツァーよ」
アリシアの威圧を込めたその言葉に、バルゼリットは気絶した。
アリシアは装甲の解除されたクルルシファーに近づく。
「帰りましょう。俺たちの学園に」
「.....ええ」
今度こそ、笑顔のクルルシファーとともにその場を後にした。
あっ5000文字.....。
多くなってすみません。
次回でクルルシファー編終了!
その次はセリスティア編!
あ、セリスティアはルクっちガールズなので悪しからず。
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