どうぞ.....
「随分冷え込むなー.....」
校内選抜戦があと数日というところまで近づいたある日。
アリシアは三和音に頼まれ、学園敷地内の夜間見回りをしていた。
だがいつもと違うところが一点。
それはーーー
ーーー髪を下ろしているところだ。
三和音によればここ数日、変質者が学園敷地内で確認されている。
そのため数少ない男子生徒に頼んできたのだろう。
三和音に確認を取れば、ルクスも見回りをしているのだと言う。
ーーーそのとき、三和音の三人が少し目をそらしたのをアリシアは見逃さなかったのだが。
そうして歩いていると、向こうから栗色で長髪の少女があるいてきた。
人気が少なくなっているとはいえ、学生が歩いてることは珍しくはなかったが、何か気になることがあり、ついぞ二度見してしまった。
少女はその視線に気付き、顔を伏せてしまった。
そのまま通り過ぎようとしたが、それに気付いた。
「ぷっ......く、くっくっく.....」
アリシアは笑いを堪える。
その声に気付いたのか、少女が振り向く。
「いやー、うん。よく似合ってるよ。かわいいよ........アイリに報告しなくちゃ」
「ストーーーップ!」
少女が急に大声を出す。
「どうしたの?俺今から親友の妹に会いにいかないと.....」
「ねぇ!?わかってるよね!?わかって言ってるよね!?」
少女が詰め寄ってくる。至近距離から見ても美少女にしか見えない。
「あっはっはっはっはっは。そんな趣味があったのか?ルクス.....ちゃん?」
「そんなわけないじゃないか.....」
その少女ーーー女装したルクスが項垂れる。
三和音にルクスのことを聞いたときに、目をそらした理由がよくわかった。
ルクスが似合ってる以上に、美少女にしか見えないからだ。
正直アリシアもそれに気付かなかった限りわからなかっただろう。
「でもよくわかったね。クラスメイトでさえ気付かなかったのに」
少し行ったところのベンチに座り、ルクスと話す。
「ん?ああ。俺以外に二本も機攻殻剣を持ってるやつなんて一人しかいないからな」
「ああ....なるほど」
ルクスも理解したようだ。
そう。女装していてもルクスは、ワイバーンとバハムート両方の機攻殻剣を腰に下げていたのだ。
「まあ、バレてたらお前が、明日から学校で女装ルクス君って言われるだけだからな。バレなくて良かっただろ?」
「それでも複雑だよ.....」
ルクスは頭を抱えていたが、はっと顔を上げると、
「って、何でアリシアはそのままなの!?」
再度詰め寄ってくる。
アリシアは髪を下ろしているだけで、制服は男子用のままなのだ。
「さあ?制服の余りがなかったとかじゃない?」
「り、理不尽だ....」
また頭を抱えてしまう。
「ま、頑張ってね。ルクスちゃん」
そう言い、アリシアは立ち上がる。
「そのちゃん付け止めてもらえると嬉しいかな...」
ルクスの呟きを背に、アリシアは立ち去る。
ルクスをそのままにし、アリシアは見回りを再開する。
だがほんのちょっと歩くと、後ろから悪寒を感じた。
アリシアは直ぐに後ろを向くと、さっきいたベンチの方に駆ける。
先程のところに戻ると三つの人影を確認した。
ひとりは美少女ルクスちゃん。
ひとりは後ろ姿だが、身長、体格から男性、つまり変質者と見える。
そして最後の一人。
半身を黄金の機竜に覆われた少女。
その悠然とした姿、鮮やかな金髪、底無しに深い翡翠の瞳には見覚えがあった。
ここ、城塞都市に来る前に王都で一度出会った騎士団団長。
セリスティア・ラルグリス。
「ぐっ.......う!」
アリシアからはよく見えなかったが、男の喉元にはセリスティアのもつ刺突剣が突き付けられていた。
だが男はポケットから球体を取り出すと地面に転がす。
パン!
という軽い音を立て弾けたそれは、白煙を上げる。
そして男はそれに紛れるように、少女たちと反対にーーーアリシアの方に走ってくる。
終始顔だけは後ろを、セリスティアたちの方を見ていた男は途中、短剣を懐から出すと、後方へなげる。
「危ないッ!」
聞き覚えのある、ルクスの声がし、男がようやく前をーーーアリシアを確認する。
一瞬、目を見開き男は拳を振り上げる。
「どきな!お嬢ちゃん!」
そして、叫び声。
「逃げてくださいッ!」
セリスティアの声を聞きながら、降り下ろされる拳を、アリシアは横にずれ、掴み、投げ飛ばす。
「うおっ!」
男は背中を打ち付けたが、直ぐに体勢を建て直し立ち上がると、走り去る。
アリシアは舌打ちすると、その男を追った。
▽△▽△▽△▽△▽△
その翌々日。
昼になり、珍しくリーシャのいないルクス、クルルシファーと共に少し早い昼食を取っている。
そこでルクスの馬鹿話を聞かされた。
裸のセリスティアにマッサージをしたこと。架空の女子生徒ルノを作り、セリスティアとデートを取り付けたこと等。
「もはや、才能だよなぁ.....」
アリシアの呟きにルクスは過剰なまでに肩を震わせる。
「むしろルクス君は、わざとやってるように思えるわね」
クルルシファーも追撃する。
「あれはしょうがなかったんだよ.....」
ルクスがぼやく。
それにアリシアとクルルシファーは笑いが溢れるが、
「ルクっち!アリっち!ここにいたの!?」
息を切らしたティルファーが駆けてくる。
「その呼び方、やめてくれない?」
アリシアの頼みも虚しく、ティルファーは顔を上げると、
「ちょっと大変なんだよ!セリス先輩が、学園長に君ら二人を退校させるように、直談判してるらしくて、リーシャ様がそれを止めにいっててーーー」
と酷く焦ったように言う。
その言葉にルクスは立ち上がる。
「アリシア」
ルクスは驚いていても真っ直ぐな目をアリシアに向ける。
「はぁ。行くか」
アリシアも腰を上げ、ルクスと食堂を後にした。
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「だから、ルクスとアリシアの編入に問題などないと言っている!元はわたしの提案だが、学園長にも話を通し、正式な手続きを踏んだのだ。今更退校なんてーーー」
ルクスとアリシアが学園長室に入ると、リーシャがセリスティアと向き合い、言い合っている。
そして、二人がルクスとアリシアに気付く。
「お前ら、何でここにーーー!?」
驚くリーシャを気にせず、ルクスは扉を閉め、アリシアは数歩前に出る。
「お久しぶりです。ラルグリス卿」
アリシアはセリスティアに礼をする。
セリスティアは数秒間アリシアを黙視した後、アリシアの隣まで進んだルクスに目を向ける。
「あなたが旧帝国の元王子、ルクス・アーカディアですか?」
一呼吸の間を置き、値踏みするような視線で問いかける。
「私の留守中に、何度か学園の危機を救っていただいたことは感謝します。ですが男性であるあなた方は本来、ここにいてはいけません」
あくまでも譲る気はないのか、悠然と言い放つ。
「ラルグーーーーー」
「セリスティア先輩。僕からあなたにお願いがあります」
何か言おうとしたアリシアに被せてルクスが言った。
「バルゼリット・クロイツァーが請け負うはずだった、
学園長室内の一同が息を飲む。
セリスティアは一度息を吐く。
「私は例の討伐依頼を受ける予定ですが、終焉神獣は私一人で倒します」
ある意味、予想通りの一言だった。
「ではまだ、僕たちは学園を去れません」
だが、ルクスの言葉もアリシアは予想通りだった。
「......どういう意味ですか?」
セリスティアは怪訝な顔で問い質す。
「僕とアリシアを終焉神獣討伐に同行させていただきたいからです。ラルグリス卿」
ここまで完璧に『威厳のある四大貴族』だったセリスティアは、初めて動揺の色を見せる。
「一学生にこの危険な任務を依頼するのは、我が国の軍の弱さを示すものとなりますが、だからこそ、依頼を請け負うあなたには万全の状態で挑んでいただきたい、そう思ってのことです」
アリシアも付け加える。
「あなた方の実力がただならぬことは聞いています。ですが、私はあなた方を認める気などーーー」
やや険を帯びた声で、セリスティアが言う。
それに対しルクスが口を開こうとするとき、
「二人とも、ちょっと落ち着きなさい」
レリィが苦笑いを浮かべて、仲立ちに入る。
「まとめると、男の子二人は『セリスさんが幻神獣の討伐、及びその同行』、セリスさんは『ルクス君の退校、及び同行の拒否』」
二人は頷く。
「でも生徒たちの意見も半々なのよ。すぐに今のお話の決着をつけるのは、難しいんじゃないかしら?」
そこでレリィの浮かべた笑みを、アリシアは見たことがあった。
「三日後から始まる校内選抜戦ーーーその結果次第で今回の論争に決着をつける。ということでどう?」
レリィのその提案に、今度あの笑みを見たら絶対に逃げようと誓うアリシアだった。
遅くなってすみません。
次回からは校内選抜戦です。
あと、あまりルノ視点はないと思います。