ルクスとアリシアの在学をかけた校内選抜戦の話は瞬く間に拡がり、放課後になる頃には、校内はその話題で持ちきりだった。
そしてその放課後の教室で、その騒動の中心人物達はーーー
「おいルクス。ヤバイことを思い出した」
その片割れであるアリシアは、もう片方であるルクスに小声で話しかけていた。
「え?」
振り向くルクスに、さらに小声でそれを告げると、ルクスも顔を青ざめさせた。
日が暮れる頃。
アリシアはルクスが依頼を終えるのを待ってから、共にそこを訪れた。
三和音のノクトと相部屋であるそこは、ルクスの最愛の妹ーーーーーアイリの部屋である。
中に入れば、制服姿のアイリひとりだけが、小さな机の前にいた。
「こんばんは。兄さん、アリシアさん」
これが無言の圧力と言うものなのだろうか。
挨拶以外何も言わず笑顔でいる彼女は、少し怖かった。
「そ、その、怒ってる?アイリ........?」
まさに、おそるおそるとルクスが尋ねる。
「怒ってませんよ?ええ、お二人はきっと、私に怒られたくてやってるんでしょうから、ここで私が怒ったら、ますます喜んでしまいますからね」
変わらず笑顔なのが恐い。
「おいルクス。言われてるぞ」
小声でルクスに言うが、
「あなたもですよ、アリシアさん」
変わらずーーーーーいや、何かオーラの増したアイリが笑顔で顔をこちらに向ける。
「すみませんでした」
やはりアイリには頭を下げるしかないアリシアであった。
「そ、その。ちょっとこの件は、いろいろあってーーーーー」
ルクスも弁明を図る。
「別にいいです。二人とも負けて、この学園を追い出されてしまえばいいんです。私の気持ちを知らないで危険な目に遭うより、そっちの方がよっぽど安心ですから」
と、小さく口を尖らせて、アイリは拗ねる。
「アイーーーーー」
アリシアが何か言おうすると、コンコンという軽いノック音と、
「アイリ、入っても大丈夫ですか?」
ノクトの声だった。
一瞬更に頬を膨らませたように見えたアイリだったが、すぐにいつもの様に戻ると、ノクトに声をかける。
「ええ、大丈夫ですよ」
すぐにノクトが入ってくるが、男子二人を見ると、
「No,大丈夫ではなかったようですね。私は急用を思い出しました」
そう言って出ようとする。
「ちょっ、ノクト!大丈夫ですって!もう終わりましたから」
珍しくアイリが慌てる。
だがノクトはその台詞を聞くと更にーーーーーいや、変わってないように見えるが、微妙に困った顔になり、
「終わった、ですか。とうとうアイリも遠い所へ行ってしまうのですね」
少し、しみじみした様子で、うんうんと頷く。
ルクスは首をかしげていたが、アイリは顔を真っ赤にさせると、
「終わったのは説教です!」
そう叫ぶ。
「Yes,わかっています。冗談です」
無表情でノクトは告げた。
「はぁ、ノクト。アリシアさんに何か聞きたかったのではなかったのですか?」
「Yes,そうでした。危うく忘れるところでした。」
そう言い、ノクトはアリシアに向き直る。
「と、言うことで、いくつかよろしいですか?アリシアさん」
本当にほぼ無表情のまま聞いてくる。
アリシアは内心苦笑い、ノクトには笑顔を向ける。
「内容にもよるけど、なるべく答えるよ」
「では、一つ目ですが」
早速とばかりに聞いてくる。
「先日、学園長室でセリス先輩に対し、前にも会ったようにしていましたが、そこのところどうなんでしょう」
なぜ事実確認を、どうなんでしょう、と聞いてくるのか疑問に思ったが気にしない。
「あ、それ僕も思った」
ルクスも乗ってくる。
ーーーアイリが耳を澄ませてることには気づかない。
「ここに来ることになった理由は言ったよね?」
いつしか話した記憶がある。
ノクトもそれに頷く。
「遠征の責任者に謝ろうとしたら、ラルグリス卿が出てきた、ってわけ」
「なるほど、それだけでしたか」
それだけ、と言うのに何か感じたが気にしない。
ーーーアイリが胸を撫で下ろしているのには気づかない。
「では、もう一つ、よろしいですか?」
やはり無表情で聞いてくる。
「どうぞ」
「バルゼリット卿との決闘の時のことなんですが」
少し一同に緊張が走る。
「砲撃からクルルシファーさんを守ったあれは何ですか?確か、特殊武装と言ってた気がしますが」
クルルシファーを守った光の壁のことだろう。
「そそ。特殊武装『逆鱗』。『ゼル・エル』に内蔵されていて、まぁ、強力な障壁発生装置と考えてもらえればいいよ」
アイリとルクスは知っているため特に変化はない。
ーーーノクトも無言のだから変化は見られないが。
「ですが、あれは剣から障壁が出ていませんでしたか?」
そう。機竜の標準装備の障壁発生装置は、その機竜の回りのみに自動的に発生させるものなのだ。
「ま、特殊武装だからね。あの障壁は『ゼル・エル』の装備からなら、何からでも出せるようになってる。投擲したダガーでも、弾かれた剣からでも。ーーー流石に自動じゃないけどね」
肩を竦めながら言う。
「Yes,答えていただき、ありがとうございます」
最後まで無表情だったノクトは頭を下げた。
「また何か聞きに来て。答えられる範囲で答えるよ」
「Yes,そのときは遠慮なく」
それを最後にルクスとアリシアはその部屋を後にした。
△▽△▽△▽△▽△▽
「それでは、校内選抜戦Aグループ二番ペア対、Bグループ一番ペアの模擬戦を開始する。互いに抜剣し、装甲機竜を装着せよ!」
校内選抜戦初日。
少々のいざこざの後に、リーシャとクルルシファー、フィルフィとルクス、アリシアは個人戦のみ、という風に決定された。
そして、ペア最初の試合はリーシャ、クルルシファーペア対セリスティア、サニアペアだ。
この試合はセリスがわざわざ一、二年に自分が出ると、宣戦布告をしていったものだ。
審判を務めるライグリィの声で、四人は一斉に機攻殻剣を抜き払う。
サニアはワイバーンを、リーシャはティアマトを、クルルシファーはファフニールを纏った。
二人は本気のようだ。
そしてーーーーー
「降臨せよ。為政者の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え、《リンドヴルム》」
言葉を失った。
その美しさもさることながら、迫力に圧倒された。
ーーーこれはうちの連中がぼろ負けするわけだ。
なるほど、と内心納得する。
それほどに実力が見てとれた。
そしてその危険性も。
「模擬戦、開始!」
戦闘が開始した。
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「戦闘続行不可能と見なし、三年生『セリスティア、サニア』ペアの勝利とする!」
ライグリィが模擬戦終了を告げた。
先の戦闘に対し、ルクス達が解析しているところだが、アリシアは別のことに驚いていた。
「どう思いましたか?アリシアさん」
アイリの質問に対し肩を竦める。
「......どう見ても学生の実力じゃあない」
率直な意見を述べる。
「攻略法は....見つかりましたか?」
ノクトがいつも通り、いや、いつもより緊張したように聞いてくる。
「この試合だけじゃ無理だな。手加減してた」
「なっ......」
ルクスを含めアイリや、あのノクトも驚いていた。
ーーールクスの隣のフィルフィは、そのままだったが。
「ど、どういうことですか?」
近くにいた別の生徒も耳を傾けているようだ。
「神装の発動も少なかったが星光爆破や重撃も最後まで使わなかった。彼女ほどの実力者が、その程度しか使えないわけではないはずだ」
「ーーー手を抜いていなければ、か」
少し大きめに言った声にルクスが続いた。
その声が、演習場から出ようとするセリスティアに聞こえるように。
ノクトのクルルシファーの呼び方がわからない....