無敗の最弱とその影は   作:まぐなす

32 / 37
32.その後

暗闇にいる

 

 

 

 

何も見えない

 

 

 

 

 

何も感じない

 

 

 

 

.......ん!

 

 

 

 

声が聞こえる

 

 

 

....り......ん!

 

 

 

 

暗闇に光が射す

 

 

 

........あり.....さん!

 

 

 

 

これは...俺を呼んでいる?

 

 

 

「アリシアさん!」

 

 

 

目を覚ましたそこはどこかの寝室だった。

僅かな潮の匂いと揺れる部屋から船の中のようだ。

そしてベッドの横には心配そうな顔をしたアイリがいる。

 

「大丈夫ですか...?」

 

アイリが何か言ってるがアリシアの意識には届かない。

 

 

 

「っ...!」

 

だが突如両腕に走った痛みに意識を覚醒させる。

 

「まだ傷が痛みますか?」

 

そこでやっとアイリの存在と現状が理解できた。

いつの間にか溜めていた空気を吐く。

 

「いや、大丈夫だよ」

 

アイリに微笑みかけ、痛む腕で頭を撫でる。

一瞬顔を赤らめたアイリは、だが直ぐにいつものように戻って、

 

「嘘をつかないで下さい。この怪我で痛くないわけがないでしょう?折れていたんですよ?」

 

アリシアの手を取りベッドに戻す。

更に視線の温度が下がる。

 

...あ、説教だ。

 

これから起こるであろうことを悟ったアリシアだったが、意外にもそれは起きなかった。

 

「今回は仕事で来たんじゃないんですか?それには私が言えることはありません」

 

思い出した。終えてはいるが、仕事で来たんだった。

 

「悪いアイーーー」

 

「ですが」

 

アイリに断りを入れて立とうとするも言葉を遮られる。

 

「......無理はしないで下さい。アリシアさんがこの国のため働いているのは、よく知っています。ですがそのアリシアさんとてこの国の一国民です。それ以前に私のもう一人の兄です。全部背負い込もうとしないで下さい...。それは兄さんや、あなたの悪い所です」

 

涙を溢しながらアイリが顔を上げる。

 

「辛いことがあれば言ってください。痛くても我慢しないで下さい。心配させるような隠し事はしないで下さい...。そう約束してくれるのでしたら、今は止めません」

 

アイリは確かな決意を涙ぐむ目に宿らせる。

 

 

あぁ...これか...

 

アイリを痛む両手で抱き締める。

 

「約束する」

 

その言葉にアイリも腕を回す。

 

 

 

 

 

静かな時が二人の間を通り抜けた。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

アリシアはすぐそばで眠る親友の顔を拝んでから痛む体に鞭を打ち、アイリに手伝ってもらい甲板へ出る。

 

「家族団らんの時間は終わったかしら?」

 

そこにアリシアの婚約者の姿があった。

 

「えぇ、お陰様で私に心配しかかけない兄の一人に首輪をかけれました」

 

どこか挑発したような物言いをするアイリと、その言葉に反応する婚約者。

正直に言ってとても居づらい。

 

「へぇ...私という女がいながら首輪をかけられたのね?アリシア君?」

 

黒い笑顔を向けてくる婚約者ーーークルルシファーは一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「べ、別に首輪を掛けられた訳じゃないぞ?ただ心配させないための約束をした程度だよ」

 

その言葉通りのはずだが、何故かアイリの後ろにダークなオーラが出現する。

それを見たクルルシファーは勝ち誇ったような顔をアイリに向けた。

 

「ふんっ...いいですねアリシアさんには、そんな綺麗な婚約者がいるんですから。私みたいなのはお呼びじゃないですよね」

 

そのままアイリは踵を返し、船内に戻って行った。

 

「........クルルシファー」

 

「ごめんなさいね。あの子には負けたくないから」

 

ある程度はわかってるつもりだが、事態は結構進んでいたようだ。

 

「そういえばあなたのいない間、いくつか面白いことがあったわ」

 

「ん?面白いこと?」

 

クルルシファーが少し思い出したように笑う。

 

「それも含めて全部教えるわ」

 

唐突な思い出話が始まった。

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

長い船旅の後、リエス島に到着した『騎士団』一同。

 

「まったく...、何やってるんですか?お二人とも」

 

冷ややかなアイリの目線の先には項垂れるルクスとティルファーがいた。

 

「No.これは全面的にティルファーが悪いと思います」

 

反論こそするもののアイリと似たような目をしてティルファーを見るノクト。

 

「学園長が間違えて持ってきていたお酒をティルファーさんが飲んで悪酔いしたとしても、はっきり断らない兄さんも悪いと思います」

 

そう、事は昨夜に遡る。

 

船で夕食を食べた後、ルクスの回りにはいつものメンバーが集まっていた。

 

「レイヴン卿も来れたら良かったんですが」

 

そう言うのは先日の終焉神獣の事件の後、男子生徒を認めた学園最強、セリスティア・ラルグリスだ。

 

「あれ?セリス先輩ってアリっち派だったっけ?てっきりルクっち派だと思ってたんだけど」

 

ゴホッゴホッ

 

むせる学園最強。

 

「私もそう思ってました。ですがティルファー、アリシアさんはその呼ばれ方は不本意だと思うのですが」

 

「えー、いいじゃん。愛称だよ、愛称」

 

「それで?セリス先輩はどっちにつくのかしら?場合によっては手を下さないといけなくなるのだけれども」

 

クルルシファーに細い目を向けられたセリスティアは目を反らしつつ、

 

「そ、その派と言うのが何を表しているのかはわかりませんが...、気になる、と言うのであれば、ルクスの方が...」

 

「なぁっ!?」

 

軽くガッツポーズするクルルシファーに対し、面食らうリーシャ。

 

「だ、ダメだダメだ!ルクスは私のなんだぞ!」

 

「リーシャ様のものになった覚えはないんですけど...、ていうか僕ここにいていいの?これ」

 

「いいんじゃないかしら?これを機に皆の気持ちを知っていっても」

 

いつの間にかビンを片手にレリィがすぐ後ろにいた。

 

「いや、ものすごく居心地が悪いんですけど...。それより何持ってるんですか?」

 

「ああ、これ?」

 

右手に持つビンをプラプラと振る。

 

「ちょっと前に知り合いに貰ったジュースよ。私はお酒飲みたいからこれはあげるわ」

 

「ジュース!?欲しい欲しい!」

 

そうしてティルファーは学園長の手からビンを奪い取り、持っていたカップにそれを注いで一杯あおった。

 

「ぷはぁー!おいしー!」

 

「そりじゃあ私はこれで、ほどほどにね」

 

そうとだけ言い残して学園長はどこかに行ってしまった。

 

「ねぇー!ルクっちも飲むー?」

 

「あ、うん、貰おうかな」

 

そうして注いでもらったそれを口に入れた瞬間、ルクスは悟った。

 

「ってこれお酒じゃないか!」

 

つまりティルファーは....、

 

「ね~、リーシャ様は~ルクっちのこと~、どう思ってるんですかぁ~?」

 

「ちょっ!酒くさ!近寄るな!」

 

酔っていた。

 

「ティルファー、それ以上は不許可です。水を飲んできなさい」

 

セリスがリーシャからティルファーを引き剥がすが...

 

「セリス先輩は~、ルクっちのどこが気になってるんですか~?」

 

ティルファーはそれをするりと避けた。

 

「わ、私の気になると言うのは別にそ、そういう意味ではなくて....」

 

「ほら~、素直になっちゃって下さいよ~」

 

そう言ってティルファーはぬるりとした動きでセリスの後ろを取った。

 

そして...

 

「えい!」

 

スカートを下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

セリス先輩、ダウン。

 

「以外と可愛い声出すんですね~先輩」

 

そうしてぬらりくらりと次の標的の元へと歩いていく。

 

「じゃあルクっちは誰が気になってるの~?」

 

「え、いや僕は誰とかは特に...」

 

「ほらルクっちも素直になろ~よ~」

 

ティルファーが手にしたのは三割程中身の残ったビン。

 

それをそのままーーー、

 

「むぐっ!」

 

ルクスの口に突っ込んだ。

 

「ーーーーーーー!」

 

「ほらほら~飲め飲め~」

 

「ーーーーーーー!」

 

声にならない悲鳴を上げるルクス。

 

「ぷはっ!何するのティルファー!」

 

「私はただルクっちを素直にさせようとしただけだよ~?さぁさぁルクっち!誰が好み~?」

 

「だから...僕...は...」

 

急激に回る酔い。

ルクス、撃沈。

 

 

 

 

「も~、ルクっちも素直じゃないんだから~」

 

そしてまたティルファーは目を光らせて...

 

「さて次はーーーむぐっ!」

 

後ろから羽交い締めにされてもがくティルファー。

 

「ーーー!ーー!ーーー!」

 

 

 

かくん

 

 

 

ティルファー、撃沈

 

 

 

「いい加減にして下さい、ティルファー」

 

その後ろには疲れた顔をするノクトが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあり、ティルファー、ルクスは二日酔いでダウンしていた。

 

「二人とも今日は休憩してて構いません。ですが明日からは皆の倍以上のメニューをこなしてもらいます」

 

確実に私怨の含まれた指示を出すセリス。

だが誰も反論することは出来なかった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

「それでその翌日には予想通りの地獄が二人を待っていたわ」

 

哀れむ目で海を見るクルルシファー。

その地獄は容易に想像がついた。

 

「その場にいなくて良かったと心底思うよ」

 

「私としては水着を最初に見てもらいたかったのだけども」

 

珍しく少し頬を膨らませる彼女はとても可愛らしかった。

 

「装衣とそんなに変わんないだろ」

 

水着というもの自体はアリシアは仕事で海に来たことがあったから知っていた。

 

 

 

 

 

 

「アーちゃん」

 

声の方を向くと、ルクスやアリシアに負けず劣らず包帯だらけのフィルフィがいた。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

流石にクルルシファーも察してくれて、黙認してくれている。

 

「ん、皆が看病してくれた、から」

 

「そうか」

 

だが、フィルフィは少し暗い顔をしていた。

 

「...レリィさんは王都に召集されたら、そのまま

審議に移ると思う。俺ができることは報告だけだが、お金も、そして何よりルクスとの繋がりがある。利用するためにも、保留にする、と思う」

 

「そう...」

 

だがあまり表情は晴れない。

 

「ルクスなら大丈夫だ。執政院もギリギリ可能なところを突いてくるはずだし、いざって時は俺も出る」

 

「...」

 

「大丈夫。なるようになるさ」

 

「...ん」

 

少しだけ明るくなった顔を上げた。

 

「じゃあね」

 

そうとだけ言って、フィルフィは中に戻って行った。

 

 

 

 

「これからどうするの?アリシア君」

 

波の音が風に流れる甲板。

 

「んー...、一足先に王都に戻ろうと思う。『厄災』使えばーーーあ、ワイバーン壊れてるんだった」

 

神装の重ねがけに『強制超過』更に戦陣を使い、ろくに障壁を張っていなかったため、ワイバーンは大破。

流石に国内であれば白き影竜の存在も認知されているので『ゼル・エル』で飛んで行く訳にもいかない。

 

「急がないといけないの?」

 

「...あぁ、俺が先に報告を上げておかないと色々と湾曲して伝わりかねない」

 

「それじゃーーー....」

 

「待て」

 

激痛に耐えながら左手でクルルシファーを制す。

耳をすますと微かにワイバーンの稼働音が聞こえてきた。

 

その音の方向ーーー船の進行方向を見ると、かろうじて二機のワイバーンが見えた。

そしてそのワイバーンは船の艦首甲板に降り立った。

 

「悪いクルルシファー、ちょっと支えててくれ」

 

クルルシファーに支えられながらアリシアは艦首甲板を目指した。

 

 




次もいつになるかわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。