無敗の最弱とその影は   作:まぐなす

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33.船上で

艦首甲板に二機の機竜と三人の男女が降り立った。

その中の一人の男が口を開いた。

 

「こちらは新王国軍所属、マルク・ファンネル!貴艦の所属を示し、責任者を出せ!」

 

すぐに中から一人の女性が出てきた。

 

「王立士官学園『騎士団』遠征責任者、レリィ・アイングラムです」

 

「...!」

 

五人の軍人全員が息を飲むのがわかった。

そして先程の男が剣をレリィに向けた。

 

「無許可の遺跡探索を行ったのはお前たちだな?」

 

レリィは小さく頷いた。

 

「セルビアはこの者を拘束しろ、カンナ、ギオン、シアニスは船内を改め、学生はここに集めろ」

 

「待って!生徒たちは関係ないわ!」

 

「それを判断するのはあなたではありません」

 

有無を言わせぬ男の発言にレリィは何もできない。

他の四人の男女がそれぞれ行動を起こす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルク・ファンネルの命令を破棄する」

 

 

 

 

 

その場の皆が声の方を向いた。

 

そこには蒼髪の女性に支えられた、ボロボロな女顔の軍人がいた。

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

甲板に向かったアリシアとクルルシファーを待っていたのはアリシアの部隊の五人だった。

隊長のマルク・ファンネル、副隊長のセルビア・リーリル、ワイバーンを駆るシアニス・ベールヌイ、部隊一の破壊力を持つギオン・ゲルギウス、正確無比な射撃能力を誇るカンナ・マルテム。

 

その五人とレリィが先程声を出したアリシアを見ていた。

 

「「「隊長!」」」

 

部隊の者たちは通常は呼び方を自由にし、部隊で動く時のみ、『教官』呼びを禁止している。

 

「隊長...その怪我...!」

 

何を思ったか、俺の包帯を見て警戒を強める五人。

 

「待て待て、早まるな、この怪我は終焉神獣との戦闘だ」

 

「終焉神獣と戦ったんですか!?」

 

部隊一の戦闘狂のギオンが食って掛かる。

 

「まぁ、弱ってはいたがな、無事討伐した」

 

五人がどよめく。

 

「あの隊長がそこまでなるなんて...終焉神獣の強さがよく分かるわ」

 

「でも討伐するのは流石隊長だな」

 

「ん?怪我したのは終焉神獣との戦闘時だが、怪我自体は自爆だぞ?」

 

「「「「え?」」」」

 

五人が面食らう。

 

「あー...ここ来る前にセルビアから『強制超過』を教えてくれと言われたが、この怪我こそそれによるものだ。まぁ多少無理した結果だが。セルビアも、これから習得しようとする奴らも知っておいてくれ。『強制超過』はひとつ間違えるとこうなるとな」

 

「り、了解」

 

「本題に移ろう。シアニスは俺を連れて王都へ戻れ。マルクは上陸次第、レリィ・アイングラムのみを連れて王都へ、他三人はこのまま士官学園まで生徒を護送。着いたらカンナは俺の元へ報告に来い。ギオン、セルビアはそのまま学園に残れ。選抜戦に出れるなら生徒を王都まで連れて来い」

 

それぞれに指示を出す。

 

「動いて大丈夫なんですかい?隊長」

 

心配するのは連れてくシアニスだ。

 

「怪我に甘えてる訳にもいかんし、いざって時は『厄災』使う」

 

「あんま無理しないで下さいよ」

 

「はいはい」

 

「移動には機竜を?」

 

報告の任務を承けたカンナ

 

「ワイアームも馬もそう変わらん。機竜には乗るな」

 

「了解」

 

陸戦型のワイアームのため、使う必要性を感じない。

 

 

 

 

 

 

「これは何事だ!?」

 

 

任務の確認をしていると、中からリーシャが出てきた。

後ろにはセリス、アイリ、ノクトも続いている。

 

五人はすぐにリーシャに対し、頭を垂れる。

 

「俺の部隊だ。予定を変えた。詳しくは隊長のマルクに聞いてくれ」

 

マルクが立ち、礼をする。

 

「行く...んですか...?」

 

アイリが心配そうに声を出す。

 

「大丈夫、またすぐ会えるから」

 

頭を撫でるとアイリは引き下がった。

 

「シアニス」

 

呼ぶと機竜の手を出してくるのでクルルシファーに助けてもらいながらそこに乗る。

 

「ああそれと、彼女は成り行きではあったが一応俺の婚約者だ。手を出したら...地獄を見せる...!

 

残った男勢二人に釘を刺す。

 

「それは...洒落になりませんね」

 

「じゃあ任せたぞ」

 

そのままシアニスに抱えられ、船を飛び立った。

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

「全く...忙しない人ですね、ほんと」

 

 

「全くです。若いんだから遊んでればいいものを」

 

遠い目をしてアリシアを見送るアイリに同意するギオン。

 

「まぁ隊長はそういう人なので...。それよりも少し事情を説明してほしいのだけれども...」

 

 

「では僭越ながら私が」

 

そう言ったセリスの説明を四人は途中、驚愕しながらも静かに聞いていた。

 

 

 

「...そのお嬢さんの件、隊長は黙認と言う形を取ったのね?」

 

セルビアの確認に一同は無言で頷く。

 

「なら私たちは何も見ていない、聞いていないことにするわ。報告義務はあっても知らないことは報告しようがないからね」

 

「それを私王女の前で言うのはどうかと思わなくもないが...、こちらとしてもそっちの方がありがたいからな、私も何も見なかったことにしよう」

 

「それもまた国民の前で言うのはどうかと思いますけど...」

 

「では皆何も見てないということで」

 

「「「賛成」」」

 

皆の同意が得られ、この件は終了となった。

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

「...部隊でのアリシア隊長?」

 

アイリを筆頭に『騎士団いつものメンバー』が部隊のカンナに軍でのアリシアの様子を聞いていた。

 

今マルクはセルビアを連れてリエス島の確認に行っていた。

残るはギオンとカンナなのだが、強気そうなギオンには声を掛けにくかったのだろうか、カンナに話しかけていた。

 

「そうね...この人以上があるなら教えて欲しいって言いたいわね。人としても、軍人としても」

 

「「む...」」

 

お二方程面白くなさそうな反応をする。

 

「訓練は厳しいけどひどいというものでもないし、プライベートでは優しくしてくれる」

 

「「むむ...」」

 

「前の教官はセクハラとかあったけど、アリシア教官は全くない」

 

「「むむむ...」」

 

「おいおい、可愛らしい女性二人が物凄い形相になってるぞ」

 

蚊帳の外から見ていたギオンが声を掛ける。

やっとその形容し難い顔の二人にカンナが気がついた。

 

「...どうしたの?」

 

「...いえ」

 

「...なんでもないわ」

 

不服そうに答えるアイリとクルルシファーお二方。

そんな二人にカンナはーーー、

 

「ならどうしてそんなひどい顔をしているの?」

 

天然なのか。

 

「あははははははははは!流石だぜカンナ!あははははは!」

 

「...何よ」

 

今後はカンナが不服そうに声を出す。

 

「その二人は...隊長がカンナに取られるんじゃないかって心配してるんだよ...まぁ、嫉妬だ」

 

ギオンは笑い過ぎで途切れ途切れに真実を口にする。

 

「...そう。なら安心して。隊長子供っぽいから。私子供は好きだけど恋愛対象じゃないから」

 

それを聞いて三人は安堵の息を吐いた。

 

「なぁ、そっちでの隊長はどうなんだ?」

 

流れるようにギオンが入って聞く。

こうぬるりと会話に入れるのはギオンの特徴だろう。

 

「そうね...残念ながら教官としての彼は見れてないけど、強くて優しくて子供っぽい...まさにその通りね」

 

「まぁ少し無理し過ぎなところが悩みの種ですけどね」

 

「苦労してんなぁ...」

 

「私としてはアリシアの強さの秘訣を知りたいのですが」

 

アリシアトークに口を挟んだのはセリスティアだ。

 

「隊長の強さ?隊長自身は才能って言ってたけど...」

 

「才能...ですか」

 

「でも、『個人的には才能よりも努力のできる人間が強いと思う』とも言ってたわ」

 

「そう...なんでしょうか、私は逆な気がしますけど」

 

「『才能のみだと器用貧乏になりやすく上を目指そうとしなくなる上、新しい発見に行き着かないが、努力ができると言うのは他のものにも適用できるし、何よりその過程でより強力なものに行き着く』だとさ」

 

「なるほど、それには納得できます」

 

「それと『たまに無邪気になること』とも言ってたわ」

 

セリスが面食らう。

 

「無邪気...?」

 

「あーそうそう、無邪気ってのは別の角度から物が見れて固定観を捨てやすいらしい」

 

「なるほど...無邪気...無邪気...」

 

セリスが自分の世界に入り込む。

 

「まぁセリス先輩の場合、発言等無邪気すぎる点も既にありますけどね」

 

「なっ...」

 

ノクトの言葉に笑う皆。

 

そこにはもう激闘を匂わせるものはなかったのだ

 


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