無事受験も終了したため、再開します。
他作品も追って更新していきます。
これからも不定期ではありますが、どうぞ『最弱無敗とその影は』をお願いします!
「.........」
薄暗い空間に話し声が響く
「....いか?こいつを使え」
「これは...毒....ですの?」
片方が獰猛な笑みを浮かべ、暗闇に白い犬歯が鈍く光る
「あぁ、ヘイブルグのイカれた奴らに開発させた。こいつは傷口周りの細胞を汚染し回復を妨げるものだ。無理矢理止血しても、後から勝手に傷口が開くようになってる」
「それでもし生き延びても後から大量出血...ということですわね」
クックック...と、不気味な笑い声が漂う
「あぁ...これで奴を...『天敵』を...殺せ」
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「死ぃぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」
演習場に男の怒号が飛ぶ。
「叫び声上げるのは良いとは言ったが、教官に対してどうなんだ?その言葉は」
呆れながら剣を受けるアリシア。
「普通に雄叫びでいいんでないですか?ギオン」
少し特徴的なしゃべり方のシアニス。
「いや、何か叫ぼうとしたらこれが出たから...」
上官に死ねと言ったのは戦闘狂ギオン。
「最初にその言葉が出る辺り性格が滲み出てるな」
「別にいいじゃないですか!今はこう言っても変な疑惑かけられなくて済みますし!」
「まさか前もそれでやろうとしたんで?」
「そうだよ!そしたらお前今何を企んでる?なんて剣突き付けられるんですよ!」
「俺も結構剣突き付けたい気分なんだが...」
「今も前もあんま変わってないでやすね...」
これは二年前の様子。
あの頃はーーー、
「あの頃は何も考えずにバカできたんですけどね」
隣には俺を王都まで連れてきてくれたシアニス。
「...全て終わったら、またそうなるさ」
マルク、カンナが戻り、今はレリィの判決待ちをしている。
と言ってもそんなにすぐには出ると思ってないからシアニスと訓練をしていた。
ギオンは一足先に上がって行った。
「判決...どうなるとお思いでやすか?」
差し出してくるタオルを受け取り少し思考する。
「多分...保留。あっても執行猶予付きだろう」
「な...遺跡の件は他国との兼ね合いもあるんでやすよ!?打ち首ですら甘い罪のはず...!」
結構食って掛かって来た。
こんな言い方だが打ち首を望んでないことを俺は知っている。
「まぁ、普通であればそうだろうがな」
一度息を吐く。
「恐らくルクスに対する手札にするつもりだろう。首輪に加え、罪を消すだの言えばルクスはほぼどんな命令だって受けるはずだ」
「なっ...」
開いた口が塞がらない、と言ったようだが...
「ルクスはそういうやつだ。そして執政院もそれを知っている...使わん手はないだろうな」
「そんな...」
やはりシアニスの様子が少しおかしい。
「どうした?随分気に掛けてるようだが?」
少したじろいだ。
そして昔を思い出したように少し幼い顔でぽつぽつと喋り始めた。
「帝国時代から軍にいましたが、僕はある程度まで母に育てられて来ました...。その時母は僕に、貴族とは国を守る盾であり、軍人とは敵を倒す槍であると教わり、それを憧れながら軍に入りました。ですが...」
「帝国の圧政か...」
「はい、そこには僕の憧れた軍の、貴族の姿はどこにもありませんでした。そんな時クーデターにより帝国は滅びました。そして思ったのです、今度こそ僕の憧れた国を支える人が見れるのだって」
「だがそれもまた幻想だった、と」
「はい...僕は思うんです。他人を脅し自らの利益にする人よりも、自分の守りたい物のため自分の持つ全ての物を犠牲にしてまで守る人の方がかっこいいって。...そういう意味では軍よりも士官学校に僕の憧れた物はありそうですけどね」
少し頬を赤らめ照れ臭そうに微笑む彼を、だがアリシアは笑い飛ばすことはできなかった。
「...一区切り着いたらお前の城塞都市行きを考えておこう。そこで自分の見たい物、自分の目指す物を存分に見つけろ」
「...っはい!」
一瞬戸惑った彼は、だがすぐに大きな声で返事をした。
彼はもう一度自らの求める物のための一歩を踏み出すだろう。
それとーーー、
「レリィさん多分奥手だからな、大変だぞ」
爆弾を落としてやった。
「ちょっ...えっ!?教か...何知ってるんですかーーー!?」
「はっはっは、ある程度のことは把握してるのだよ貴君」
演習場には男の笑い声が響いていた。
▽△▽△▽△▽△▽△
判決が出た。
罰金及び禁固十年だったが予測通り一考の余地ありとし、一時釈放となった。
そして全竜戦も予定通り出場しろとのことだ。
あとから聞いた話だが、表立って他国にはバレてないらしく、そのまま隠し通そうとしたらしかった。
そのことをギオンとセルビアに伝え、そのまま生徒たちを護送してくるように命令しておいた。
早ければ今日の昼頃には到着するはずだ。
休息日ってわけではないが部隊が動いていることだし、仕事として迎えてやろうと思っている。
が、そんなことは思いつつも毎朝の日課は忘れない。
そうしてランニングを終え素振りをしようと剣を持った時、シアニスとマルクとカンナーーー今こっちにいる部隊のみんなーーーがやって来た。
そして、ビシッと音の出そうな程勢いよく敬礼する。
「「「おはようございます!」」」
「あ、ああ。おはよう」
突然の態度に戸惑いを隠せないアリシア。
そもそもこいつらは最低限の礼しか普段はしないのだ。
の割に今回のこの気合の入り用であるため、何か用事があったっけ?と思考を巡らすも騎士団が王都に来ること以外思いつかない。
そうだったとしても、この気合の説明はつかないのだが。
「「「少々お願いしたいことがございます!」」」
「お、お願い?」
ここまで言われてアリシアにも分かって来た。
先日のシアニスとの会話や、ここ数日の訓練からするとーーー、
「「『神速制御』を教えて下さい!」」
隊長であるマルクを除いた二人が息を合わせて頭を下げてくる。
「自分には『強制超過』をお願いします」
マルク自身も自分の要件を言い、頭を下げる。
はあ、とひとつ息を吐く。
「...お前たちは他の奴と比べても頭を抜いて強い。特殊な部隊に入れられてるから当然と言ったら当然なんだがな」
アリシアは一人一人の顔をよく見ながら、言葉を紡ぐ。
「《強さ》というものは、ある種の薬みたいなものだ。正しく使えば人を救い、国を救い、自分の望むことに近づける。だが一歩間違えば人を殺し、国を壊し、自分自身をも苦しめる。それはーーー分かっているな?」
最後少し殺気を込めて語尾を強くし、一同を睨みつける。
だが三人は少し緊張した顔で、しかし大きく頷いた。
「お前たちはすでに《強さ》を持っている。それなのに更なる《強さ》を今求めているのは何故だ?」
わざと腰に下げていた機攻殻剣をならす。
「自分たちは、教官には全く勝てません。ですがその教官でさえ終焉神獣に対し苦勝でした。今王国は反乱軍を含め、不穏な空気に包まれています。これから何が起こるかわかりません。でしたら!国民を、ひいては国を守るために、今できることをしようと、城塞都市の二人を含め皆で話し合った結論です」
マルクはそう締め括った。
シアニスとカンナも真っ直ぐこっちを見る。
その目は、かつて民のため国をひっくり返した少年の目に似ていた。
「...いいだろう。お前を一段階強くしよう」
アリシアはそう言うと剣を抜いた。
アリシアの部隊について少し補足を
現在、アリシアとマルク・ファンネルの二人ともが隊長と呼ばれてますが、アリシアはどちらかと言うと総隊長的な立ち位置です。他の仕事等でアリシアのいない時はマルクが、いる時はアリシアが隊長になる、といった具合です。