太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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1話:少し前の彼と現在の彼

「さむい……」

 

 あと数日で年を越そうというある日、少年は公園で独り、寒さに震えていた。

 どうしてかと問われれば、家に上げてもらえないからとしか言いようがない。

 少年には血の繋がった家族が既に亡かった。

 理由は火事だったらしい。

 らしいというのは少年自身当時の記憶が曖昧で気がついたら病院で目を覚まし、なにがなんだかわからないまま親戚を名乗る父方の妹である伯母に引き取られた。

 そして伯母が少年を引き取ったのは決して親族の情ではなく、少年の両親が残した多額の保険金によるお金目当てだった。

 それから少年の地獄のような日々が始まった。

 元より定職にすら就いてない伯母は少年と一緒に預けられたお金を使い込み、もしくは男に貢がせて生活していた。

 そして男を家に連れ込む日は基本家に入れてもらえず一晩過ごすのが当たり前になっていた。

 伯母に対して何かしらの情が少年にあるわけではないが、どうしていいかわからず、言われるままに誰にも見つからないようにかまくらのような形をした公園の遊具の中で過ごす。

 ただし、今は真冬だったこともあり、薄手の長袖のシャツとジーパンでは流石に凍死しかねない。

 どうにかしようにもお金はなく、頼る相手もいない少年には自分が凍死しないように祈りながら夜を越すしかないのだが。

 そうして身を縮こまらせていると、声が聞こえた。

 

「君、大丈夫?」

 

 遊具の隙間から話しかけてきたのはとても正反対な二人の女の人でした。

 片方はおそらく10代後半から20歳の長い黒髪の女性。

 もう片方は白にも見える銀髪の少年と同じ年くらいの小柄な少女。

 

「いえ、なんでもありません」

 

 そう言って以前伯母に言われた通りその場から離れようとします。

 しかし、その場を離れる前に女性の手が少年の腕をつかみました。

 ビックリして動けないうちに黒髪の女性は少年の服を捲し上げた。

 そして服の下にあったのは無数の痣や煙草を押し付けられたおぼしき痕。その他にも多数の痛々しい傷痕でした。

 それを見た黒髪の女性は眉間にシワを寄せ、銀髪の少女は顔色が少し青くなった。

 

「これ、どう見ても故意に付けられたものだよね?なにがあったかお姉さんに教えてくれない?」

 

 目線を合わせて話しかける黒髪の女性。しかし少年は掴まれた腕を振り払う。

 

「なんでも、ないですから!もう家に帰らないと」

 

 嘘を吐いた。いま家に帰ってもきっと伯母は入れてくれないだろう。むしろまた暴力を振るわれるに違いない。

 だから今日は別の寝床を探さないといけなくなった。

 しかし―――。

 

「よっと!」

 突如女性が少年のお姫様だっこの姿勢で持ち上げた。

 

「な、なにを!?」

 

 混乱する少年に女性はにゃははははと笑う。

 

「まあまあ。これも何かの縁だと思ってちょっと付き合いなさい」

 

「姉様ナイス」

 

「え?え?」

 

 訳がわからないまま連行されたのはとあるマンションだった。

 椅子に座らされて呆然としている少年に黒髪の女性はコートを脱いで反対側の椅子でだら~っとテーブルにうつ伏せている。

 反対に銀髪の少女は台所で鍋の乗っかったコンロに火を着ける。

 状況を飲み込めず唖然としていると、銀髪の少女がどうぞと食事を持ってくる。

 出されたのはカレーライスだった。それにサラダも付いている。

 遠慮して手をつけない少年に銀髪の少女がスプーンでカレーをよそうと

 

「食べて」

 

 そのままやや強引にカレーを少年の口に突っ込んだ。

 んぐっと驚いていた少年も口の中に入ったカレーを反射的に飲み込む。

 

「……おいしい」

 

 それから少年は堰が外れたようにカレーを貪り喰う。

 思えば、ここ数日まともな食事を採ってなかったのを思い出した。

 食事を終えると緊張が解けたのかポツリポツリと自分のことを話始めた。

  2年くらい前に家族を亡くして伯母に引き取られるもまともに養育されてないこと。

 逆らえば殴られて、機嫌が悪いときにも暴力を振るわれ誰かに話したら更に酷いことをされるのではという恐怖から誰にも頼れなかったこと。

 思い付く限りを吐き出すようにやや支離滅裂になりながらも自分のことを話した。

 そして最後に。

 

「だれか、タスケテ」

 

 そう呟くと完全に緊張の糸が切れたのか眠ってしまった。

 眠った少年を布団の上に寝かせると姉妹はテーブルに向かい合うように座っていた。

 

「懐かしい匂いがするな~って思ったけどまさかの再会だったね。それにこっちのことに巻き込まないように距離を取ってたのにまさかこんなことになってるなんて……」

 

 黒髪の女性は頭を掻いて大きく息を吐く。

 

「白音はどうしたい?」

 

 白音と呼ばれた銀髪の少女はわずかに目を閉じたが迷いなく自身の意見を口にした。

 

「……私は、この人を助けたい。あのとき私たちを救ってくれたこの人を。力になりたいです、黒歌姉様」

 

 真っ直ぐと姉を見据える妹に黒歌はそうねと笑う。

 それから携帯電話を取り出してどこかに電話をかけた。

 白音は布団の上で寝ている少年の横に座り、その手を握る。

「気付いてあげられなくてごめんね。でも、今度は私たちが……」

 その続きは口にせず、白音の頬に一筋だけ涙が流れた。

 

 

 

 

 翌日、少年が恐る恐る家に戻るとそこには二台のパトカーが停まっていた。

 そして聞こえてきた伯母の怒声に身を縮こまらせる。

 家の中からは警官に押さえられながら出てくる伯母の姿だった。

 伯母はこちらに気づくといつも少年を怯えさせた表情で。

 

「アンタ!今まで育てやった恩を忘れて余計なこと!!」

 

 こちらに向かって来ようとする伯母は警察に押さえられながらパトカーに乗せられていく。

 訳がわからず呆然としている少年に残った警官が近づいてきた。

 

「君が日ノ宮一樹くんだね」

 

 ぼっちゃりとした優しそうな男性警官に一樹は戸惑いながらもはい、と頷いた。

 そのまま一樹は警察署へと案内され、伯母との生活について訊かれた。

 一樹はそれを包み隠さずに話すと話を聞いていた女性警官が目に涙を溜めてもう大丈夫だからねと肩に手を乗せられた。

 

 

 

 

 それから数日伯母が捕まり、住む宛がなくなった一樹は施設に移すことになると話がまとまりかけた時に一樹を引き取りたいという人物が現れ、面会することなった。

 その人物は―――。

 

「ヤッホー。思ったより元気そうね」

 

「お、お姉さん!?」

 

 現れたのはあのときの黒髪の女性だった。

 

「あの、もしかして伯母さんのことをどうにかしてくれたのは……」

 

「う~ん。実際に色々動いてくれたのは私の仕事の上司だよ。私は相談しただけ」

 

「それでもありがとうございます。いざこうなってみると身体が軽くなった気分です」

 

 まだ陰が残るもののその表情はどこかすっきりしていた。

 

「それで、私たちと一緒に暮らす話、考えてくれた?」

 

「……どうして、そこまで俺に良くしてくれるんですか?」

 

 一樹は答えを返す前に質問した。

 警察への連絡だけならともかく、引き取るというのは少し、粋すぎな気がしたからだ。

 

「実を言うとね、君のお父さん、日ノ宮一真さんには以前お世話になったことがあったの」

 

 父の名前を出されて一樹は目を見開く。

 

「だからその子供の君に恩返しがしたいの。もちろん、この話を受けなくてもかまわないよ?自分でいうのもなんだけど、怪しいしね」

 

 そうして差し出される手に一樹は戸惑った。

 きっと客観的に観れば旨すぎる話で断るべきなのだろう。

 だが―――。

 

「よろしくお願いします……」

 

 寒さに震えていた自分を見つけてくれたこの人を覚えている。

 それだけで心が安心を覚えていた。

 差し出された手をおずおずと握る。

 それに黒歌は笑みを深めた。

 

 

 

 

 この選択が後に少年の運命を大きく変えてしまうことになる。

 それが日ノ宮一樹にとって幸運だったのか不運だったのかこの時点では誰にも判断できないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————懐かしい夢を見た。

 目覚ましから鳴り響く不快な音を止めて日ノ宮一樹は目を覚ました。

 少しばかり昔の夢を見たせいか目覚め自体はスムーズだったが、代わりに僅かな頭痛を感じた。

 

「くそっ!もう5年以上前の話だってのに……!」

 

 悪態をつくがすぐに深呼吸して気持ちを落ち着ける。

 こんなささくれた気持ちのままいまの家族と朝を過ごしたくなかった。

 

「うっし!起きるか」

 

 制服の上着以外を着て部屋から出る。

 すると味噌汁の良い匂いが漂ってきた。

 リビングから見える台所で調理している少女が見えた。

 

「おはよ、白音」

 

「……おはよう、いっくん」

 

 振り向いて挨拶したのはこの家の次女で今年高校生になった猫上白音である。

 5年程前に出会ってから殆ど伸びてない身長(自己申告では3㎝伸びたらしい)。正直、昨今の小学生だってもう少し身長があるだろうにと思う体格に童顔から町を歩いては良く小学生に間違われている。

 

「……いまなにか失礼なこと考えてた?」

 

「ソンナコトナイデスヨ?」

 

「……次はないからね?」

 

「イエスマム!」

 

 ビシッと敬礼する一樹。これはいつものやり取りである。

 

「あ~。さっぱりしたにゃあ~」

 

 風呂場から黒髪の美女が出てきた。

  ―――半裸で。

 

「ぶふっ!?」

 

 一樹は飲んでいた冷たいお茶を吹き出し、白音は手にしていた味見用の小皿を落としかける。

 黒髪の美女、黒歌はそんな二人の反応に気にしていないのかそのまま冷蔵庫を開けて、買い置きしてあるパック牛乳をがぶ飲みする。

 黒歌の格好はそれはひどいもので、下に黒の下着を穿いているだけで胸はタオルを肩から垂らして辛うじて隠しているだけ。

 一樹は顔を赤くして目を背け、白音は無表情ながら若干目を細める。

 

「ちょっ!?姉さん服着なよ!?」

 

「ん~?着るよ~。これ飲んだら」

 

 牛乳を飲み干してパックをゴミ箱に捨てるとそのまま自室に向かう。

 黒歌は前からああいうだらしない格好で家の中を彷徨くときがある。

 ここ最近はそうしたことがなかったから油断していた。

 

「いっくん……鼻の下伸びてるよ」

 

「いや、ホント、すみません……」

 

 横から冷たい視線を向けてくる白音に一樹は謝罪する。

 その後に二人で朝食の準備をして、終わった頃に服を着た黒歌が出てきた。

 

「お~!今日も美味しそうだにゃあ~!」

 

 目を細めて嬉しそうに食卓に座る。

 いただきますと手を合わせて食事を採る。

 白音は無表情で行儀良く黙々と食べている。

 逆に黒歌はガツガツという表現が似合いそうなほど豪快に食事をしている。

 一樹はその中間といった感じだ。

 黒歌がたまに話題を出して二人がそれに答える。

 主な話題は朝のニュースについてや学校での話題などだ。

 そしていまも。

 

「最近、この近辺で行方不明者が多いよな」

 

 ニュースで駒王町の見覚えがある場所が映されてここ十日間で既に四人の行方不明者が出ていることを放送されている。

 

「そうね。一樹も危ないからあんまり遅くなっちゃダメよ?図書館で勉強してるのは良いことだけど」

 

「わかってるさ。それに人通りの多い場所選んで歩いてるから多分、大丈夫だよ」

 

「そう?なら良いけど……」

 

 朝食を終えて洗い物を済ますと丁度良い時間になった。

 

「それじゃ、そろそろ行くか」

 

「……うん」

 

  制服の上着に袖を通して玄関に向かう。

 

「いってらっしゃ〜い」

 

 ひらひらと手を振って送り出す黒歌。

 マンションの一室から出ると見知った顔と遭遇した。

 

「アザゼルさん、おはようございます」

 

「……おはようございます」

 

 会ったのは同じマンションに住み、黒歌の仕事の上司だというアザゼルという男性だった。

 見た目、30過ぎほどの美形。少し、チンピラっぽい風体だが気さくで話しやすく、面倒見も良いのか、黒歌に引き取られた当初の一樹をなにかと気にかけてくれた人でもある。

 

「おう。お前らいまから学校か?」

 

「ええ。ゆっくり行こうと思って少し早めに出ようかと」

 

「そうか。ま、頑張れや」

 

 当たり障りのない挨拶と会話をして別れる。

 ゴミを出して学園まで特に会話をせずに進み、一樹と白音も別れた。

 教室に着くと、友人が登校していたので挨拶する。

 

「うっす、裕斗」

 

「おはよう、一樹くん」

 

 教室に着くと既に居た友人に挨拶した。

 

 木場祐斗。

 高校に入ってから出来た一樹の友人だった。

 一年のとき同じクラスになってなにかと気が合い、たまに休日で一緒に遊びに行くくらいには交流がある。

 そして本人たちの預かり知れぬ話だが学園の女子たちからあらぬ妄想の的にされていた。

 

「一樹くん、今日の宿題やってきた?」

 

「当たり前だろ。古文の見木沢の奴、宿題忘れた奴にいちいち嫌み言ってくるだろ?相手にするの面倒だからきっちりやってきたさ」

 

  宿題提出のノートを広げて見せる。

 

「そういうお前は?まさか忘れてきたのか?」

 

「まさか。ちゃんとやってきたよ」

 

「デスヨネ」

 

 この木場祐斗という生徒。顔良し。頭良し。運動良し。性格良しで天は二物を与えずという言葉に唾を吐いてるような男子だった。

 そんなわけで女子からは人気があっても男子、特に一部からは物凄く嫌われてたりする。

 一樹本人としては少し天然な部分はあるが比較的に付き合いやすい友人といった感じだ。

  雑談をしていると廊下の向こうから大きな怒声が飛んできた。

 

「コラァ!!逃げるな!!」

 

「今日こそシメ上げてやるわ!!」

 

「絶対に逃がすなぁ!!」

 

 その怒声の数々に一樹はあらかた状況を理解した。

 というかこんな騒ぎを起こすのはこの学園で決まっている。

 

「またアイツらか……毎度毎度懲りねぇな」

 

「ホントにね」

 

 この学園には変態三人組という問題視されている学生がいる。

 その生徒のせいでただでさえ元女子高で男子は微妙に肩身の狭い思いをしているのにそれに拍車をかける馬鹿共だった。

 なにせ彼らとくれば。

 

 ・学園内の女子更衣室の覗き。

 ・教室でエロ本やエロDVDを広げる。

 ・平然と猥談を始める。

 などの女子から嫌悪される行動を取り続けて自分たちがモテないのはイケメンのせいだと宣っているのだ。

 正直、何故未だに退学にならないのか不思議である。

 

「ま、俺には関係ないな」

 

 そう思って一樹は教員が来るのを待った。

 

 

 

 

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