太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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3話分完成。あと1話書き終われば京都編終了。なんとかそこまでは終わらせたい。


95話:怪物、覚醒

「よぉ」

 

 現れた桜鬼に八坂は鋭い眼光を向ける。

 それにどこ吹く風とはがりに肩を竦めて無言の相手に桜鬼は話を続ける。

 

「そう眉間に皺を寄せるな。お前の会いたがっていた奴を連れてきてやったんだ」

 

 八坂が眉をひそめると桜鬼の後ろから現れた少女に八坂の顔色が変わる。

 

「九重……!?」

 

 桜鬼の後ろに立っていた九重は母に名を呼ばれても反応せず、その表情から感情が消されていた。

 

「堕天使総督の側に居たんで手が出し辛かったのだが、自分から態々単独行動してくれてなぁ。貴鬼(むすこ)が丁重に迎えに行けたというわけだ」

 

「九重を人質にし、妾を従えるつもりか……!」

 

 八坂の言葉を桜鬼は鼻で笑い飛ばす。

 

「言っただろう。この地はお前たちに染まり過ぎたと。霊脈を俺に馴染ませるまでに他の受け皿が欲しくてなぁ。お前なら色々と細工もされかねんが、この小娘なら丁度良い」

 

 悔しそうに唇を噛み、睨みつける八坂に桜鬼は愉しそうに笑みを深めた。

 

「コイツが呼んだグレモリーとかいう連中を始末する。霊脈を俺に移した後に試すには丁度良い相手だ。それが終わればお前のところに娘も帰してやる。もっとも、人格が残っていればいいがなぁ」

 

「貴様っ!?」

 

 とうとう堪え切れなくなり、戸の先に居る桜鬼へと飛び出す。

 しかし、突き出した爪は結界に阻まれ桜鬼に届く事はなかった。

 

「カッカッ! 今の消耗している貴様ではこの結界を破壊することすらできまい。まぁ、大人しくしていることだ」

 

 去って行く桜鬼を、八坂はその美貌を歪めて睨みつけ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、相も変わらず式紙ばかり。いい加減飽きてきたな」

 

 式紙の集団を殴り倒しながら一樹がぼやく。

 

「最上階までの辛抱、よ!」

 

 イリナがエクスカリバーで斬りながら一樹のぼやきに答える。

 

「というより、兵藤先輩とゼノヴィア先輩。この狭い中で敵を飛ばさないでください。危ない」

 

「し、仕方ないだろう! いくらアスカロンでもこれだけ歯応えのない相手では力加減が難しくてだなっ!」

 

 アスカロンを借りたゼノヴィアが戦車の剛腕で式紙を斬りつけると同時に吹き飛ばす。一誠も禁手化の状態で殴っているため加減をしている筈だが敵が吹っ飛び放題である。

 

「皆さん! 外から見た建物の構造上、もう少しで最上階の筈です! 頑張ってください!」

 

「ようやくか! 京都の妖怪たちを困らせてるバカ鬼を、俺がブッ飛ばしてやるぜ!」

 

 前方を走っていた一誠が道を塞いでいる扉を破壊した。

 

 広がっていたのは予想していた座敷などではなく、見渡す限りの一面の荒野。

 それを見た一樹が呆れるように放を鳴らした。

 

「いつもの擬似フィールドってやつか。大人気だな。まぁ、広くなる分は戦いやすくなっていいけどな」

 

 警戒しながら辺りを見渡す。すると、自分たちの上から何かに覆われ、影が出来た。

 

「んっ?」

 

 上を見上げると落ちてきたのは巨大な包丁のような刀を手にした巨漢の男だった。

 

「ハッハーッ!!」

 

 着地と同時に巨大な包丁が振るわれ、ギリギリのところで左右二手に分かれて回避する。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

 一誠が驚きの声を上げるのと同時に振り下ろした刃が直角に切り上げられ、ゼノヴィアに向かう。

 それをアスカロンで受け止めると落ちて来た男は不敵に笑い、距離を取って、得物を地面へと突き刺した。

 貫鬼と名乗った優男の鬼と違い、筋肉質な体型に戦国武将のような鎧を身に付けている。

 しかし、額にある2本の角は共通だった。

 

「ようこそ、グレモリーの眷属たちよ。歓迎しよう、と言いたいが、少しばかり早く来すぎたな。こちらの準備が整っておらん。さてどうしたものか……」

 

 顎に手を当てて態とらしく考える素振りを見せる敵にロスヴァイセが前に出て問う。

 

「貴方が、今回の事件を画策した方ですか?」

 

「腰抜けの女狐に政策に付き合うのも限界だったのでな。この地は俺がもらい受けることにしたわけよ」

 

「何勝手なこと言ってやがる! さっさと九重の母ちゃんや京都の妖怪たちを解放しろ!」

 

 噛みつくように怒りのまま叫ぶ一誠に桜鬼はくつくつと嗤う。

 

「威勢がいいな、小僧。だが、ようやく俺もここまで来て、はいそうですかと引き下がる訳にはいかなくてな。先ずはこの地の霊脈を利用して表側にいる人間(ゴミ)どもを排除する必要があるのでな」

 

「ゴミ、ですって」

 

 反芻するイリナに桜鬼はそうだ、と相槌を打つ。

 

「かつて、この地を巡って人間の術者たちと我らは対立していた。結果として表の世界は人間たちが治め、我らは裏へと引き籠り、霊脈を管理することで和平を結んだ。まったく持ってくだらん!」

 

「なにがくだらないってんだ!?」

 

「くだらんさ。今まで散々争っておきながら、和平協定? 八坂に至っては甥まで呪い殺されたというのに、奴らの口車に乗って当時の契約を守っている。所詮奴は(おんな)よな。犠牲を怖れ、勝ち取ることを知らん。だから八雲の協力があったとはいえ、人間たちに捕まるという醜態を晒すのだ」

 

 馬鹿にするように八坂のことを話す桜鬼。

 頭に血が上った一誠だがそれをロスヴァイセが制する。

 

「それで、貴方は一体どうするつもりですか?」

 

「決まっている。先ずはこの地の霊脈を操作し、表側に居る人間たちの生命力をこちらに運ばせている。向こうで、生命力の弱い人間は死人が出始めている頃だろうよ」

 

「なんてことを……!?」

 

 裏京都に侵入する前に聞いた人間が意識を失う事件はやはり彼らが関わっていた。

 このまま行けば京都に住む人間は間違いなく全滅する。

 

「何を驚いている。これは人間どもが妖怪たちにしてきたことでもあるのだぞ。今回はいわば報復行為よ」

 

「報復?」

 

 この場で唯一の人間である一樹が眉をしかめながら訊き返すと、桜鬼はそうだとも! と声を上げた。

 

「近年、日本角地を見ても、どれだけの妖怪がお前たち人間に住処を終われていると思う? 元より住んでいた妖怪たちを術者を雇い入れ追い出す。もしくは殺害する。そうして支配権を拡張してきたのが人間だ。四神を名乗らせていた奴らも元はと言えば日本各地で平穏に暮らしていたところを追われ、京都に流れ着いてきた者たちよ。なればこそ、人間たちを抹殺することにも協力しようというものだ」

 

 桜鬼の話を聞きながらどう反論すべきか迷っていると、ロスヴァイセが再び質問する。

 

「ですが、いくら何でも長年この地を収めてきた九尾の存在がなければすぐに全てを手中に収めることは不可能です。英雄派もだから八坂の姫を誘拐し、彼女を介してグレードレッドをこの地に呼び寄せようとした。だからまだ貴方はこの地の霊脈を完璧に支配下には置いていない。違いますか」

 

 ロスヴァイセの考察に桜鬼が感心したように目を細める。

 

「確かにな。俺がこの地の力を好きに使うには九尾の協力が必要不可欠だ。だが、八坂にそれをやらせてもどのような小細工をしてくるかわからん。だからこそ、代わりを用意したのだ」

 

 言って、指を鳴らすと、空中に立体映像(ホログラム)が映し出された。

 映し出された者の姿を見て一誠が声を上げた。

 

「九重っ!? なんで!? っていうかなんで裸ぁ!?」

 

 映し出されたのは一糸纏わぬ姿で磔にされた九重だった。

 

「余程母親が心配だったようでな。1人ここへと向かおうとしていたのを捕えてやったのよ。おかげで霊脈の扱いが大分楽になったぞ」

 

「くそ! 先生たちと一緒に居たんじゃないのかよ!?」

 

「どうせアザゼル先生が煙草でも吸ってる間に逃げ出したんだろ。たく、あのガキ。トラブルしか持ってこれねぇのか!」

 

 一樹が忌々し気に映し出された九重を見て吐き捨てていると何かに気付いたようにイリナがハッとなって一樹の腕を掴んだ。

 

「ダメよ一樹くん!? 君には白音ちゃんがいるんだから! いくら小さい子好きだからってそんなエッチな眼でみるなん────あいたっ!?」

 

 一樹がイリナにチョップで黙らせる。

 その眼はとても冷ややかだった。

 

「馬鹿かお前。あんなガキの裸なんて見て勃つわけねぇだろ。お前は俺を何だと思ってんだ!」

 

 手で押さえている頭に何度もチョップをする一樹。

 イタイイタイッ!? と叫び出したところで溜息を吐いて腕の動きを止める。

 涙目でだってーと抗議するイリナ。

 そのやり取りに声を上げて笑った桜鬼は少し考え始める。

 

「しかし先程も言ったが、貴様らが早く来過ぎた所為でまだ霊脈が俺用に調整するにはもう少し時間がかかる。だがせっかく来た客人を待たせるのもなぁ」

 

「遠慮なんていらねぇ! 今すぐアンタをブッ飛ばして! 九重や京都の妖怪たちも助け出してやるぜ」

 

 拳を握る一誠に桜鬼はまぁ、待てと制する。

 

「俺も今は集中したいのでなぁ。スマンが、別の遊び相手を用意させてもらおう」

 

 言うと、桜鬼は自分の親指を噛み切り、印を結んで地に手をつけた。

 

「口寄せの術!!」

 

 手から陣が広がり、何かが召喚される。

 現れたのは巨大な牡牛だった。

 息を荒くし、暴れまわる前兆のような荒々しさだった。

 

「俺が飼っている妖牛だ。コイツがしばし貴様らの相手をしよう」

 

 桜鬼が立ち上がるのと同時に牛が爆発するように突っ込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「賊めっ! ここから先は通さっ!?」

 

 向かってきた1人の妖怪が黒歌と目を合わせるとそれだけで意識を失い、倒れた。

 目が合うと同時に幻術を叩き込んで強制的に意識を奪ったのだ

 

「なるほど。外は式紙に任せて、主だった妖怪は地下を守っていたのね」

 

「ということは、地下に京都の妖怪たちが囚われているというのは真実味がありますわね」

 

 地下へと侵入したリアスたちは囚われている妖怪たちを捜索していた。

 次々と現れる妖怪たちを祐斗と黒歌が撃退し、たまにギャスパーが停止の魔眼で時間ごと止める。

 しばらく進んでいると黒歌が立ち止まり舌打ちした。

 

「やっぱり。敵も相当できるわね。めんどくさい術を」

 

「どういうこと?」

 

 ダルそうに腰を曲げる黒歌にリアスが質問する。

 

「つまり、ここの空間はある一定のところまで移動すると入口付近まで戻されちゃうのよ。術の起点を見つけるか、術者を倒すか。はたまた大火力で術そのものを破壊するか」

 

「……ここは地下よ。最後の選択肢をしたら、城が崩壊してしまうわ」

 

「そ、そうなったら僕たちここで生き埋めになっちゃいますぅうううっ!?」

 

 リアスとギャスパーの言葉に黒歌は分かってるわよ返す。

 

「術を破るだけならそういう手段も有るって話。ま、地下である以上、術の起点は私たちが触れられる位置に有る筈よ。もっとも、バレないように隠してると思うけど、頑張って探しましょ」

 

 パンパンと叩き、黒歌が起点探しを促した。

 

「しかし、そこまで厳重に守っているのなら、京都の妖怪たちと僕たちが接触するのを向こうは怖れているということですね」

 

「九尾を解放できれば形勢は一気に傾く可能性があるわけだしね」

 

 祐斗の問いにリアスが憶測を答える。

 少なくとも敵側に有利になるということはない筈だ。

 

 そうして辺りを探索していると、彼女たちに視線を向ける

 その視線が1人に定められる。

 

「なるほど。まだ未熟ながら、素晴らしい素質の持ち主のようですね」

 

 ギャスパーの影から人型の影が出現し、その首に手をかける。

 

「んぐっ!?」

 

「ギャスパー!?」

 

 リアスが叫ぶと塗料が落ちるように人型の影から見知った顔が現れた。

 

「貴方は────っ!?」

 

 それは、貫鬼と名乗った鬼の術者だった。

 

「ようこそ。グレモリーの悪魔たち。ですがここで足を止めてもらいましょうか」

 

「っ! ギャスパーを放しなさい!!」

 

 敵地で一瞬とはいえ気を緩めてしまった自分の迂闊さを呪いながらリアスが叫ぶ。

 その声に貫鬼は答えずに自分の人差し指を親指の爪で傷つけ血を流した。

 

「吸血鬼。それもこれ程の潜在能力を秘めた個体は珍しい。少しばかり、解放させてもらいましょう」

 

 貴鬼がギャスパーの口に指を突っ込み、無理矢理その血を飲ませた。

 

「あ────あ、あ、あ、あうあっ! あぁあああああああっ!?」

 

 瞬間、ギャスパーは自分の心臓が大きく鼓動を刻んだのを感じ、瞳孔が開かれ、意味を為さない言葉で叫び始めた。

 

「ギャスパーくんっ!?」

 

「みなさ……にげ……っ!?」

 

 その意味が伝わる前に、ギャスパーの魔眼は最大限────いや、限界を越えて発動した。

 発揮された拘束力はリアスたちの抵抗力を大きく上回り、時間ごと停止させる。

 貴鬼は呪術を込めた血をギャスパーに飲ませ、彼の中の力を暴走状態まで力を放出させている。

 

「なるほど。素晴らしい。しかし怖ろしい。私がこの距離で制御しなければたちまちここら一帯ごと停止していた。貴女は、危険だ」

 

 その光景を、硝子張りで隔てたように視認しながら思い出していたのはいつかの旧魔王派の魔術師たちに利用された時。

 あの時は、リアスと一誠の救援によって事無きを得た。

 だが今はリアスたちは停止し、一誠たちはこの場にはいない。

 ここは、自分が何とかしなければ、リアスたちを殺す手伝いをさせられることとなる。

 

(イヤだ! イヤだ! イヤだ!!)

 

 そう思っても神器も体も思うように動いてはくれなかった。

 

「先ずは、近くに居る剣士から消えてもらうとしましょう」

 

 すぐ後ろから強い力を感じる。

 このままでは仲間が────。

 

 ギャスパーの中で緊張が限界まで高まる。

 そうして、彼の中の殻が、ピキリと亀裂が入った。

 

「なっ!?」

 

 突然のギャスパーの変化に貴鬼は本能的に距離を取った。

 首だけを動かしてこちらを無表情で見るギャスパー。

 視界から外れたことでリアスたちの拘束が解かれる。

 

「なに、アレ……?」

 

 黒歌の呟きに誰も答えることが出来なかった。

 

『死ね』

 

 その呟きと共に辺り一面が一瞬で暗黒に包まれた。

 

「地下にかけられていた妖術をそのまま喰たべた!?」

 

 黒歌の驚きに皆が気を取られる暇もなく、ギャスパーから発生した暗黒が貴鬼へと襲い掛かる。

 それを妖術で喰い止めようとするが、紙壁のように意味を為さず、消し去られた。

 

『無駄ダ。オ前の力ハ、僕が全テ、喰ってヤッタゾ』

 

 その異様な雰囲気と常軌を逸した力に黒歌がリアスに問う。

 

「素質のある子だとは思ってたけど、アレ、単なるハーフ吸血鬼じゃないわよね? リアス・グレモリー。アンタ、いったい何を眷属にしたの?」

 

「ヴァンパイアの名門ヴラディ家がギャスパーを蔑ろにしていたのは、停止の魔眼ではなく、これを知っていたから? 恐怖から、あの子を遠ざけていたというの……?」

 

 リアス自身明確な答えを持たず、険しい表情でギャスパーの後ろ姿を見ていた。

 あらゆる妖術を喰らい、遂には貴鬼の腕に手をかける。

 暗黒で覆われた右腕は、初めから存在しなかったかのように消去された。

 しかし、そこまで。

 暗黒が胴体に届く前に、貴鬼はその場から転移して居なくなってしまった。

 

「あ、う────―」

 

「ギャスパーくん!?」

 

 敵が消えたことで気が抜けたのか膝から崩れ落ちるギャスパーに祐斗が駆け寄る。

 そこには先程の姿が嘘であったかのように静かな寝息を立てる後輩がいた。

 

「ヴァンパイアのヴラディ家には訊かなければいけないことが出来たようね。もっとも彼らが快く答えてくれるとは思わないけど」

 

 吸血鬼は悪魔を含む他種族を嫌い、悪魔以上に上下関係の厳しい社会だ。

 リアスが以前ギャスパーのことを質問した際も結局なにも答えは帰って来なかった。

 

 しばし沈黙が流れるが、朱乃が話を切り出す。

 

「とにかく、今は前に進みませんか? 妖術も解けたようですし、ここで立ち止まっていても仕方ありませんわ」

 

「……そうね。その通りだわ」

 

 ここで考えてギャスパーの答えが得られるわけでは無い。

 今やらなければいけないのは京都の妖怪たちを解放することだ。

 

 先へと進み、奥の間へと辿り着く。

 黒歌に何かの術がかかってないか調べてもらったがそれらしい術は感じられないことを確認して戸を開けた。

 すると、そこには────。

 

「これは……!?」

 

 そこには、信じられない光景が広がっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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