朱乃以下数名がギャスパーの父親に会いに行って時、一樹はアザゼルと話していた。
「ヴァーリとあのリゼヴィムとか言うおっさん。手を組むのってあり得ないの?」
「……あぁ。ヴァーリは幼少の頃に父親に虐待を受けててな。それを煽ってたのがあのリゼヴィムだ。ヴァーリにとっちゃ、殺したいほどに憎んでる男の筈なんだが」
「なら、ヴァーリがそうしなきゃいけない理由が出来たってところね」
黒歌が欠伸混じりに発言する。
一樹は先程のヴァーリの様子が気になって腕を組む。
(あの時、何か俺のこと見てなかったか?)
自意識過剰かもしれないが、一誠ではなく自分を見ていた気がした。
しかし理由が不明な為、別のことに意識を割くことにする。
「吸血鬼、共倒れにでもならねぇかな。その隙にギャスパーの幼馴染みを拉致出来るかもしれないし」
「……恐ろしいことを口走らないでちょうだい。ここを何処だと思ってるの?」
吸血鬼の根城でとんでもないことをいう一樹にリアスが嗜める。
どこで耳が有るのかも分からない中で、態々火種を作らないで欲しいのだ。
「そんな事を言ってもさ。同盟つってもどうせ、向こう側はこっちと関わる気が無さそうだし。人間として言わせて貰えれば、消えてくれても全然問題ないなって」
悪魔などと違い、はぐれが出ても対処せず、自分たちの外の出来事には基本無関心。
そんな奴らの得になることをしてやる義理はないし、向こうも望んでいないのだ。
正直あの邪龍さえ居なければギャスパーの幼馴染みを強制的に連れ去って帰ってるところだ。
動けない事態に僅かな苛立ちを覚えていると、今まで黙っていた祐斗が口を開く。
「本音は?」
「ただめんどくさい。早く帰りたい」
「貴方ねっ!!」
リアスが一樹の耳を引っ張る。
周りが一樹の態度に呆れていると、アザゼルが口元をつり上げた。
「おい白音。一樹が何で早く帰りたがってるか知ってるか?」
「はい?」
「実は────ぐえっ!?」
何かを話そうとしたアザゼルに一樹がドロップキックで黙らせた。
「あんまり口が軽いと痛い目みますよ?」
「お前もずいぶん反抗的になったじゃねぇか。昔は可愛かったのになぁ」
蹴られた首を擦りながら座り直すアザゼル。
白音が一樹の上着を引っ張る。
「どうしたの?」
「後で話すよ」
一樹の答えに不満そうに眉を動かすが、答える気は無いらしい。
そうして過ごしている間に一誠たちが戻り、町を散策する許可が降りた。
「……やっぱ、日本食を海外で食べるとハズレを引くな」
「だからやめとけばって言った」
店で売っていた羊羮を食べ歩きする。
これならコンビニの80円の羊羮の方が10倍美味いと思いながら胃に入れる
「それにしても平和だよな。市民はクーデターの事を知らないって話、ホントなんだな」
「もしそうだったらこんな風に町を歩けない」
「そうだろうけど」
雑談しながら歩いていると、見覚えのある人影を見つけた。
「は?」
その人物を見た瞬間、頭が空っぽになり、思わず追いかける。
しかし、狭い路地に入られたところで見失ってしまった。
「どうしたの、いっくん?」
「なんでアイツが……」
もしも見間違いでないのなら、大変なことになるだろう。
「白音! 先生のところに戻るぞ!」
「え? え?」
走って一樹は来た道を戻った。
「マジかよ……どうしてこう厄介事ってのは重なるんだ」
一樹からの報告を聞いてアザゼルは頭を掻く。
リアスの方は懐疑的なようだ。
「本当にあの男だったの?」
「チラッと見ただけだったんで確証はちょっと」
「いえ、そうね。疑いが出たのなら警戒しておくに越したことはないわ」
それからしばらくして同じように町に出ていた一誠たちも戻ってくる。
何やらギャスパーがご機嫌な様子だった。
「聞いてください! マリウスさんがヴァレリーを解放してくれると約束してくれたんです! これで彼女を日本に連れていく事が出来ます!」
「……詳しく話せ」
ギャスパーの喜びに反してアザゼルは険しい表情をする。
何でも、マリウスにヴォレリーを解放するようにお願いしたところ、あっさりと了承されたらしい。
その話を聞いてグレモリー眷属は渋い顔をしていた。
彼ら、特に過去、アーシアの神器を抜き取られた事を知っている面々はその反応が顕著だった。
だからこそマリウスの約束の真意が理解できてしまった。
それをギャスパーに話して良いものか迷う。
最終的に無理矢理にでもヴァレリーを連れ出すことをギャスパーに内緒で決めると一誠がアザゼルに質問した。
「そういえば、アザゼル先生は何をしてたんですか?」
「ん? あぁ、ハーフヴァンパイアが所有する神器について調べていた。そして吸血鬼側にも危険事項なんかを教えたりな。理由は解らんが、どうも近年ハーフの神器所有者が増えているらしい」
吸血鬼側はそういうことを嫌うかとも思ったが、どうやら研究者たちはそうでもないらしく、興味深くアザゼルの言葉に耳を傾けていたようだ。
「英雄派の連中が禁手に至る方法を各地に流したせいで、その対応策を練らなきゃならん。今まで差別されていたハーフヴァンパイアが復讐しないとも限らないからな。ここも悪魔陣営と似たような問題を抱えているな」
そこから話しは先日会ったリゼヴィムの事へと移っていく。
冥界の悪魔側は今、リゼヴィムの出現で混乱中とのこと。
それだけルシファーの名は特別であり、これを機に各地で大人しくしていた旧魔王派の悪魔が動き出さないとも限らない。
故にサーゼクスも対応に追われて動けないそうだ。
話が一段落したところで天井にグレモリーの魔法陣が展開され、そこからベンニーアが落ちてきた。
「ぐおっ!?」
────一樹の上に。
再び一樹の上に落ちてきたベンニーアは、あっと声を漏らしてすぐさま体を退けたが、起き上がった一樹はベンニーアの両頬をつねって引っ張る。
「なんでまた俺の上に落ちてくんだよ。終いには本気でぶん殴るぞガキャア」
「
頬を引っ張られながら謝るベンニーア。
その手をまぁまぁと祐斗が外させた。
引っ張られた頬を擦りながら話し始める。
「向こうからこちらに繋げるのにちょいと手間どっちまいました」
すると続いて、エルメンヒルデが落ちてきた。
「きゃっ」
ただ彼女は着地に失敗し、盛大に尻餅をつく。
お尻を擦った彼女は恥ずかしそうに立ち上がると淑女らしい動作で挨拶をした。
「ごきげんよう、皆さま。お元気そうでなによりですわ」
誰もが先程の醜態を見なかったことにしようとする中で空気を読まない馬鹿が1人。
「おいアンタ。別に今さらドジっ子アピールなんて要らないんだぞ?」
「そんなアピールはしてません!?」
一樹の指摘に顔を赤くして反論するエルメンヒルデ。
空気を読まない一樹の頭をリアスが叩く。
「エルメンヒルデ。こちらに潜入していたのね」
「当然です。町で城への潜入ルートを決めかねていたところをベンニーアさんと合流出来まして。皆さまにお知らせすることがあります。マリウス・ツェペシュ一派は、近々聖杯を用いた計画の最終段階に入ると報告がありました」
最終段階。
その言葉を聞いてギャスパーは顔を引きつらせる。
「えぇ。ヴァレリー・ツェペシュから聖杯を抜き出して、この国を完全に制圧する気のようです。その際に高められた聖杯の力を用いて、この城下町の住民全てを弱点のない吸血鬼へと作り替える計画を発動させるようです」
弱点のない吸血鬼。
それはもう吸血鬼と呼べるのか。
しかしそんなことを論じている時間も惜しい状況だった。
神器を抜き取る。それを聞いてギャスパーに動揺が走る。
「そんな。マリウスさんはヴァレリーを解放してくれるって……全部、嘘だったの?」
そんなギャスパーの頭を一樹が掴んだ。
「イタッ! 痛いです一樹先輩っ!?」
「落ち着け。要は、そうなる前に間に合えば良いんだろ? それにもし聖杯を抜かれても、
「え?」
そこで一樹がリアスを見る。
「部長、もしも神滅具を抜かれた場合、残った悪魔の駒でヴァレリーって人を生き返らせるのは可能ですか?」
一樹の発言に全員がハッとなった。
リアスにはまだ、【
「そうね。神滅具持ちなら厳しいけど、ただのハーフヴァンパイアなら可能だわ」
「聞いたな? まだ何とかなるんだよ」
リアスの答えにギャスパーは表情を引き締めて一樹に頷いた。
それと同時に窓の外から光の壁のような魔法陣が展開されている。
「チッ! 先手を打たれたか! おそらくはカーミラ派の動きが察知されていたんだ! 俺が知っているのとは多少異なるが、アレは神器を抜き出す術式で間違いない!!」
苦々しい表情で断言するアザゼル。
時間はなかった。
「私はこれより外の仲間と合流します。貴方たちは脱出を!」
「この状況でも俺たちの介入を拒むのか? 向こうにはテロリストが付いてる。間違いなく邪龍どもが出てくるぞ」
アザゼルの言葉にエルメンヒルデはもちろんです、と答えようとするが、何かを考えるように瞑目する。
そして不満そうに口を開いた。
「我らが女王カーミラがそちらの貴殿方の援助をお認めになられましたわ」
何故援助される側が上から目線なのかが気になるが、どうやら好きに動いて良いらしい。
「ギャスパー・ヴラディが望むのであれば、貴殿方の同行を認めます。彼の補佐、護衛をお願いしますわ。手前どもは、元々ギャスパー・ヴラディを使ってヴァレリー・ツェペシュの行動を止めるのが目的でしたから」
この期に及んでこの態度。
だが今はそんな些細なことに怒りを覚えるのももったいない。
エルメンヒルデが去って行った後に、ギャスパーがヴァレリー奪還の決意を新たにし、仲間にそれを訴える。
当然この場にはそれを拒否する者は居らず。
そうして作戦会議をしようとすると、窓側の壁が盛大に破壊された。
「なんだっ!?」
それぞれが武器や神器をとりだす。
煙が晴れてそこに居た人物をアザゼルが呟いた。
「ヴァーリ……!?」
既に禁手姿のヴァーリが窓の外で停滞していた。
後ろには何らかの術式を用いてか、美猴とアーサー。そしてメディアもいる。
ヴァーリは兜の奥の瞳を一樹に定めて言う。
「日ノ宮一樹。一緒に来て貰おう」
「はぁ?」
ヴァーリの言葉に白音と黒歌が家族を守るような位置に着く。
「どういうつもりだ? リゼヴィムがこいつに興味があるみたいだったが、それと関係があるのか?」
「……日ノ宮一樹。来い」
アザゼルの言葉に答えず、苛立ちの混じった声で再度告げる。
視線が一樹に集まるが、本人は槍を構えた。
「誰が行くか、馬鹿馬鹿しい。悪いけど、作戦会議は移動しながらやってくれ。どうせ、ある程度は頭の中で算段ついてんだろ。こいつらは俺が何とかするわ」
「一樹先輩っ!?」
一樹の宣言にギャスパーが驚き、一誠が肩を掴んでくる。
「おいこのバカ!? なにカッコ付けてんだ! 相手はヴァーリだぞ! ここは俺も!」
一樹がその手を払い除ける。
「お前の助けなんているか。それに守るんなら、ギャスパーや部長たちの方だろうが。まだ面倒な敵の居るんだし、お前の出番はここじゃねぇよ」
さっさと行けとばかりにシッシと手を振る。
一樹の態度に美猴が鼻を鳴らす。
「俺っちたちを1人で相手にするって? そいつはちょいと自惚れ過ぎじゃねぇかい?」
「どうせお前ら襲ってくんだろうが! それに、白龍皇相手なら兵藤よりも俺の方が相性が良いと思うからな」
挑発か、それとも思い当たる何かがあるのか。
戦闘を開始しようとした矢先に左右に白音と祐斗が立つ。
「おい」
「さすがに彼らを君1人に任せる訳にはいかないからね」
「祐斗っ!?」
「部長すみません。でも彼は僕の大事な友人なんです。それに、剣士として、彼と剣を1対1で交えてみたい」
聖魔剣を手にした祐斗がアーサーを見据える。
「私の1番の優先はいっくんだから。それに、あのお猿さんには私も借りがある」
又旅の力を表に出すと美猴が面白げに口を歪めた。
ついで黒歌が後ろにいるメディアに問いかける。
「で? ここに居るってことは貴女も戦いに参加するの? なら、私が相手になるけど?」
「え!? いえいえいえ!?」
黒歌の指摘にメディアは全力で首を左右に振る。
その態度に誰もが違和感を覚えた。
(あんなかわいい反応する人だったか?)
一樹は疑問に思うが、どうせ対して知らない相手だ。新たな一面を見ただけだろうと思うことにした。
それとあることを思い出してコートを脱ぎ、アーシアに投げる。
「悪い。預かっといてくれ! 内ポケットに貴重品入ってるから!」
「えぇ!?」
コートのポケットには壊されたくない大事な物が入ってるのを思い出したのだ。
リアスとアザゼルは3人を見てどうするか迷っている。
「時間がありません、行って下さい」
「すぐに追い付くから」
祐斗と白音の言葉にリアスは決断する。
「分かったわ。私たちはヴァレリーの救出に向かう。貴方たちもすぐに追い付いてきて……行くわよ、皆っ!!」
激を飛ばし、移動させるリアス。
アザゼルはヴァーリを一瞬だけ見てから迷った末に3人に言った。
「死ぬなよ、お前ら」
「はいよ」
アザゼルもこの場から立ち去る。
今はヴァーリよりもこの事態を治める方が先決と判断して。
リアスたちが消えた後に、槍の柄で床を小突きながら問う。
「で? お前まで俺に何の用だよ。お前の爺さんの差し金か?」
「……」
沈黙を決め込むヴァーリに一樹は舌打ちする。
「そういや、オーフィスとか言う脳無しドラゴンも俺に用が有るんだもんな。禍の団に所属してるお前らとしちゃあ、そっちにも点数稼いどきたい訳だ。何だ。
嘲笑と挑発をするが、相手側に反応はなく、舌打ちする。
「まぁいいや。でもな、お前らの身勝手に振り回されるのもうんざりだ。お前らは────ここで潰す」
次回、白音と祐斗の覚醒回予定。