太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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108話:迷い

 ギャスパーの幼馴染みであるヴァレリーの下へと向かうべくリアス達は移動していた。

 その最中に先程からチラチラと後ろを気にする一誠にリアスは注意する。

 

「イッセー。いい加減祐斗たちを気にするのは止めなさい。ここは既に敵地なのよ」

 

「でも部長! 相手はあのヴァーリたちなんですよ!」

 

 白龍皇ヴァーリ・ルシファー。

 未だに底の知れないアイツらを、3人だけで相手をするなんて無謀だ。

 そこで黒歌がアハハと笑うとムッとなる一誠。

 

「なにがおかしいんすか!」

 

「んにゃ? イッセーが1番一樹と一緒に戦ってるのに分かってないなーって」

 

「分かってない?」

 

 リアスが話に割り込んでくる。

 

「イッセーは戦いで一樹の最も厄介なところって何処だと思う?」

 

「え? それは、その……やっぱりあの鎧じゃないですかね? 全然壊せないし、自動回復までするんですから」

 

 訓練での戦闘を思い返して答える。

 しかしリアスの答えは違っていた。

 

「そうね。確かにあの鎧は厄介だわ。あの子の炎もドンドン強くなってる。でもね、私はそういう表面的な能力じゃいと思うの」

 

 リアスはここ半年と少しでの一樹を思い返す。

 

「あの子の最も厄介なところは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)】でヴァーリ吹き飛ばした一樹は右目を押さえた。

 

(これでくたばるなんて思っちゃいないけどな……)

 

 ダメージくらいは通った筈だ。

 

「ヴァーリさまっ!?」

 

 近くで観戦していたメディアが叫ぶ。

 もしかしたら逆上してこちらに襲いかかって来るかとも思ったが、オロオロと狼狽えるだけ。

 その反応にはやはり違和感が有るものの、今は敵に集中する。

 

「あークソ。やっぱダメか……」

 

 舌打ちすると兜を破損させたヴァーリが立っている。

 

「この程度で俺を倒せるとでも思ったか?」

 

「思っちゃいねぇよ。だけどな、ぶっ倒れるまで叩き続けてやるけどな」

 

 強がりだ。

 同じ手がそう通じる相手じゃ無いことは承知している。

 槍を構える。

 その様子をヴァーリは冷たい瞳で見下ろす。

 

「思い上がりだ」

 

 ヴァーリの姿が消えた。

 

「こ、のっ!!」

 

 繰り出された拳を柄の先端で受け止めると槍を回してヴァーリの顎に矛先を斬り上げる。

 難なく避けられ、腹に1撃を入れられ、吹き飛ぶと、着地する前に踵で地面向かって蹴りを入れられる。

 地面に体が着く前に炎の翼を一瞬噴射させ、急激な方向転換をしつつ着地する。

 

「飛べ、(アグニ)よ!」

 

 炎の斬撃を飛ばすが、ギリギリ上の位置で避けつつ突進してくる。

 槍で1突き喰らわせようとするが、直前でバレルロールして鳩尾に喰らわさせる。

 

「つあっ!?」

 

 息を吐き終える間もなく次の攻撃が来る。

 魔力の砲撃をさっきとは逆に直に当てられ、押し飛ばされた。

 後ろに回られた事に気付き反応するよりも先に前後から砲撃を喰らう。

 

「がぁっ!?」

 

 衣服がボロボロになり、よろよろと立ち上がると、既に兜の破損を修復させたヴァーリがこちらを見下ろしている。

 

「これが、俺と君の力の差だ。理解できたのなら大人しく────」

 

「ナメんな」

 

 答え代わりに炎の球を投げると、あっさりと打ち消される。

 一樹の様子にヴァーリは呆れた様子で。

 

「そうか」

 

 一樹に突進してくるヴァーリ。

 

「仕方ねぇ、やめだ」

 

 そう呟いて槍を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成長速度。対応力と言っても良いわ。それが一樹の最大の長所だと思うの」

 

 リアスの言葉に一誠は目を丸くする。

 それにアザゼルが補足した。

 

「よく考えても見ろ。純粋な力なら禁手化したお前の方が上なんだぞ。それがなんで訓練でいつも互角に戦り合えてる?」

 

「えっと、それは。だってアイツ、こっちの攻撃をいつも受け流して来るんですもん。なんか、暖簾を殴ってるみたいで」

 

「それだよ。一樹の戦闘記録を見ると、戦えば戦う程に相手の動きを把握して食らい付いてくる。お前がパワーを上げて押し切るなら、一樹は動きを読んで対応してくる」

 

 戦いが長引けば徐々に喉元へと近づくのが一樹の長所だと。

 

「白音や木場も何だかんだで強くなってるしな。だから俺達は俺達の役目を完遂すんだよ」

 

 アザゼルの言葉にイッセーは躊躇いつつも後ろを向くのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァアアアッ!!」

 

 雄叫びと共に一樹はヴァーリの拳にカウンターを合わせて兜越しに殴り付けた。

 

「なっ!?」

 

 体勢を崩したのを機に、拳に炎を纏わせ、闇雲に乱打する。

 その途中に腕を掴んでへし折ろうとすると、ヴァーリに蹴り飛ばされた。

 

「クソッ!」

 

「……随分と動きが良くなったじゃないか」

 

「当たり前だ。槍を持ってるより、ぶん殴った方が戦いやすいに決まってんだろ」

 

 まだ槍を扱い始めて1年も経ってないのだ。

 手足の延長線上に扱うなど出来はしない。

 それでも多くのメリットが有っただけのこと。

 

「RPG風に言うやら攻撃力を下げて素早さと器用さを上げた感じだよ。もっとも、お前はゲームなんてしないかもしれないけどな!」

 

 こっちの方がヴァーリとは戦い易いと感じて特攻する。

 

「オラァ!」

 

 炎を纏わせた拳がヴァーリを襲う。

 何発かを腕で防御すると逆に殴り返す。

 互いに避けて防ぎ、攻撃を行う。

 一樹が背負い投げをして飛ばす。

 体勢を整えたヴァーリが舌打ちする。

 この短期間で日ノ宮一樹は明らかにヴァーリの動きに付いてきている。

 こちらの動きを、呼吸を、癖を。1撃1撃から学び取っていた。

 

 

『俺とやり合ってた時もドンドン強くなって行ったぜい。下手に時間を与えると、すぐに追い付かれるかも知れねぇぜい』

 

 この戦いの前に美猴が言っていた忠告を思い出す。

 普段ならば嬉しい誤算だが、今は厄介極まりない。

 

「どうした? やっぱり敵から力を貰わないと戦えないのかよ?」

 

「抜かせ」

 

 挑発を流す。

 まだ有利なのはヴァーリの方だ。

 この戦いでどれだけ対応力を上げようとも素の能力の差は歴然だ。

 

(このまま終わらせればいいだけだ!)

 

 ヴァーリは自身のオーラを集める。

 

「君の才能には驚いたが、次で決着を着けさせて貰う」

 

 膨大なオーラの流れ。

 それが一樹に向けられている。

 

『ロンギヌス・スマッシャー!』

 

 一樹の力をある意味信用して放たれた1撃。

 その力の奔流が避ける間もなく一樹を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリと一樹の戦いを観戦する黒い影。

 楽しそうにその戦いを見ている。

 

「さて。クロウ・クルワッハとの戦いも面白そうだと思ったが……」

 

 戦う相手に困るこの状況。

 どうしたものかと思案する。

 

「ヴァーリの小僧には借りがあるが、ガキの喧嘩に大人が出張るのもなぁ」

 

 状況を見守りつつ答えを出せずにいた。

 

「まぁいい。あの人間の小僧があまりにも相手にならないなら横からかっ拐うだけだ」

 

 もう少しだけ状況を見守る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリが放った砲撃は吸血鬼の都市を半壊させた。

 範囲を絞ったが、甚大な被害だった。

 尤も撃った本人はそんな事は気にも留めていないが。

 

「生きているだろうな、日ノ宮一樹」

 

 人間1人に放つには明らかにオーバーキルな1撃。

 手早く行動不能にするには最適な1撃だと思ったが。

 一樹を探そうと動くこうとすると、瓦礫が動く。

 この中から日ノ宮一樹が出てきた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 頭から血を流し、庇った腕は動かずに垂れていた。

 そんな状態で一樹は笑う。

 

「なんだこりゃ。ふざけてんのかテメェ……」

 

「なんだと?」

 

「さっきからだらだらと生温い攻撃だと思ったが、何を躊躇してんだよ……」

 

 アホらしいとペッと血を吐いた。

 はっきり言ってヴァーリの実力は一樹を大きく上回っている。

 過大評価ではなく、本来ならもっと簡単にヴァーリは一樹を倒すなり捕まえるなり出来る筈なのだ。

 それが出来ないということは、ヴァーリの中で迷いが生じてるということ。

 

「神器は、想いの強さがそのポテンシャルを引き出すんだったか? ドラゴン系なら尚更に……」

 

 くだらねぇと吐き捨てる。

 

「今のお前、迷いでブレブレじゃねぇか。だから神器の力も引き出せずに俺みたいな小物に手こずるんだよ。今もどんどん状況が悪くなる」

 

 心底可笑しそうに笑って断言した。

 

「もうお前、俺()()には勝てねぇからな?」

 

 捨てた槍を帰還機能で手元に戻す。

 そのことにヴァーリが疑問を持っていると一樹とは別方向から殺気を感じる。

 

「────!?」

 

 気配に反応すると、上から祐斗。後ろから白音が襲いかかっていた。

 

「ちぃっ!?」

 

 同時にかかってきた2人の攻撃を避ける。

 着地した2人が一樹に話しかけた。

 

「間に合ったみたいだね」

 

「いっくん、大丈夫?」

 

「あぁ。アーサーと美猴はどうした?」

 

「倒したよ。死んではいない筈さ」

 

 祐斗に続いて白音を首肯という形で答えた。

 その答えに驚いたのは他でもないヴァーリだった。

 

「大金星じゃねぇか。俺だけ情けねぇな」

 

 増援が来たことで一樹も精神的に余裕が出来て軽口を叩く。

 元よりタイマンに拘ってる訳では無い。

 遠慮無く世話になる。

 

「さてと。元々そっちが仕掛けてきたんだ。3対1だけど、文句はないよね?」

 

 確認するように祐斗が問う。

 尤も、拒否したからと言って引くつもりもないが。

 この状況にヴァーリは苛立たしげに奥歯を強く噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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