太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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13話:特訓・前編

 人影が手にした獲物を振るって襲い掛かってくる。

 自分がなぜここに居るのか。なぜこの人影と対峙しているのか理解しないまま自分も手にしている槍を我武者羅に振るった。

 しかしひとたび振るわれた相手の槍は稲妻の如き速度で自身の身体に穴を空けていく。

 喉を貫かれて前のめりに倒れる。

 倒れた瞬間に人影が何かを言っていたように思えたが、それを聞き取ることは叶わなかった。

 

 

 

 息を切らしながらひたすら山を登る。

 既に大粒の汗が大量に噴き出して地面に落ちていた。

 背中にはあり得ない荷物を背負わせており、一樹は気で膂力を底上げしていなければ、一誠は悪魔でなければ歩くことさえ難しかっただろう。

 死にそうな顔で山を登る2人に対して同じ前衛組の祐斗、ゼノヴィア、白音は同じだけの荷物を背負いながらスイスイと山を登る。

 それが2人の矜持に罅を入れていく。

 祐斗に至っては、途中で山菜を採る余裕まであった。

 

「わかってたけどさ、俺らってダメダメじゃね?」

 

「言うんじゃねぇ。自覚してるだけに傷つくだろ……」

 

 オカルト研究部は現在、グレモリー家が所有しているという別荘に移動していた。もちろん、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームの特訓のためにだ。

 別荘に着いた頃には一誠と一樹は動く事さえままならずに床にへばりついていた。

 

 水を一杯飲んだ後、リアスにジャージに着替えるように言われてよろよろと動きながら着替えを取り出す。

 そこで木場が冗談めかして、

 

「覗かないでね?」

 

 と言ったのに一誠が殺すぞ!と叫んだ。

 

 前衛組は木刀を持って試合をしていた。

 組み合わせは一誠とゼノヴィア。祐斗と一樹で。

 白音は少し離れたところで禅を組んでいる。なんでも自然の気を集めているのだとか。

 

 

 ゼノヴィアは戦車(ルーク)になったことでさらに腕力が増したが逆に力加減が難しくなってしまい、一誠の身体を何度も吹き飛ばした。

 

「おわっと!?」

 

「やはり、急に腕力が増したことで調整が難しいな。下手をしたら木刀でも悪魔の身体を叩っ斬ってしまうかもしれん」

 

「怖いこと言うなよ!?」

 

 ゼノヴィアの剣を受け止めても体ごと吹き飛ばされてしまう。上手くいなそうにも一誠にそんな技術はない。ましてや攻撃を全部避けるなどできるはずもない。

 

「イッセー!剣だけを見るな!近接の戦闘はどれだけ相手の動きを予測できるかで決まる。体全体を見て敵の動きを予測しろ!相手が動いてから自分が動いても間に合わんぞ!」

 

「そんなこと言ったって!」

 

「遅い!」

 

「ぐわっ!?」

 

 胴払いを喰らって一誠は大きく吹き飛んだ。

 

 

 対して祐斗と一樹の模擬戦は一樹が力任せにに木刀を振り回して祐斗がそれを軽やかに躱し続けていた。

 

「ほら!野球のバットじゃないんだから、そんな大振りじゃ当たらないよ!」

 

「クソ!」

 

 躱されるだけでなく、祐斗の簡単なフェイントにいちいち引っかかって何度も木刀を手から叩き落とされた。

 

「まだまだ行くよ!」

 

「わかってる!」

 

 木刀を拾ってまた一樹は祐斗に向かって行った。

 

 

 

 その後、慣れない剣での訓練に疲れて一樹と一誠は休んでいた。

 一誠はゼノヴィアにやられた痣をアーシアに治癒してもらい、一樹はペットボトルのスポーツ飲料を飲んでいる。

 そして祐斗とゼノヴィアはお互いに木刀を打ち付け合っていた。

 

「やはり以前戦った時とは違うな!あの時にこの動きをされていたら負けていたかもしれん!」

 

「あの時は君の聖剣を壊すことばかり考えていたからね!今は堅実に戦わせてもらうよ!」

 

 ゼノヴィアの剣を避けるか勢いに乗る前に動きを止める祐斗。しかし、その剛腕から振るわれる剣は確実に祐斗の体力と精神を削っていく。

 だがお互いにその実力を認めているからこそ、剣を合わせることを楽しんでもいた。

 それを見ながら観客の2人は。

 

「なぁ、日ノ宮はゼノヴィアの剣、受け止められるか?」

 

「兵藤は祐斗の動きについてこれそうか?」

 

『……』

 

 互いの質問に互いに無言。それこそが2人の答えだった。

 

 

 

 

 

 剣での模擬戦を終えると別荘に戻って兵藤、アーシア、ゼノヴィアは朱乃から魔力の手解きを受け、一樹は白音からいつも通りに【気】の扱いについて習っていた。

 

 新人悪魔3人は魔力を集めて光の球体を作る訓練をしていた。

 最初にその課題を達成させたのはアーシアだった。

 

「で、出来ました!」

 

 神器による治癒の光同様淡い緑色の光球がアーシアの手の平の上にある。

 

「あらあら。やっぱりアーシアちゃんには魔力を扱う才能があるみたいですわね」

 

「むっ。私も出来たぞ。とりあえず、だが……」

 

 アーシアが綺麗に球体になっているのに対してゼノヴィアは若干トゲトゲした感じの光球だった。

 一誠も魔力自体はひねり出したものの、その大きさは米粒程度のもので、朱乃もあらあらと微妙な表情をしている。

 

 アーシアとゼノヴィアはそのまま次の段階。魔力を水や雷に変化させる訓練に移行していた。

 禅を組んでその光景を見ていた一樹はふと疑問をぶつけてみる。

 

「なぁ、白音。前から不思議だったんだが【気】と【魔力】ってどう違うんだ?」

 

「ん?急にどうしたの、いっくん」

 

「いや、見る感じさ、俺の【気】にしろ朱乃さんたちの【魔力】にしろなんか違うのかなって。俺が転移するときは魔力を使ってるらしいけど違いがいまいちわかんなくてさ……」

 

 首を傾げている一樹の言葉を聞いて一誠たちもそういえばと質問する。

 それに朱乃と白音はお互いを見合わせてから皆の質問に答え始める。

 

「まず言うと、【気】っていうのは生命力。もう少し詳しく言うと【気穴】って呼ばれる生命力を生み出す細胞から作られて様々な事象を起こすエネルギーなの」

 

「【魔力】は魂から作られ、そしてその大きさに応じて貯蔵されるエネルギーのことですわ。ただエネルギーの発生源は違くとも扱う際に使われる回路(パス)が共通ですから、熟練者でもない限り使い分けも難しいんです」

 

「え!?同じなんですか?」

 

「はい。ですから魔力と気を掛け合わせて大きな力を生み出す使い手もいますけど、これは高等技術に準じます。下手に使うと回路(パス)はもちろんのこと肉体も魂魄もボロボロになって最悪死に至りますわ」

 

「ですから大抵の人は片方かどちらかを完全に使い分けて使うのが基本です。ちなみに【気】は身体能力の向上や自己治癒能力の活性に優れていて【魔力】は火や水などの性質を変化させたり無機物を強化したりその他超常的な現象を起こすことに向いてます」

 

「ん?なら俺の炎って魔力のほうか?」

 

 一樹は指先から炎を出して聞くが白音は静かに首を横に振った。

 

「いっくんの炎は間違いなく気のほうだよ。回路(パス)が共通してるからか、本人の資質次第で気の性質を変化させられる人もいるって聞いたことがあるし」

 

「魔力で身体強化や治癒を行うのも基礎ですし。全体的にそういう傾向というだけでそこは人それぞれの向き不向きですわ」

 

「補足するけど、魔力は空になっても大事にはならないけど、気を限界以上に使ったら死ぬ可能性も高いです。実際、いっくんがコカビエルに放った一撃、あの後に姉さまに生命力を分け与えて貰わなかったら危なかった」

 

 白音の発言に一樹は顔を引きつらせる。

 

「マジかよ……」

 

「覚え、あるでしょう?あの時はホントに危なかったんだから。もっとも限界以上に気を放出するなんてそうそう出来ないはずなんだけど……」

 

 確かにあの時黒歌に触れられた瞬間、虚脱感が大分薄らいだがまさか命の危機だったとは。いや、確かにこれマズイなぁとは思ったが。

 

「さ。講義はここまでにして続きを始めますわよ」

 

 手を叩いた朱乃にそれぞれ自分の訓練を再開した。

 

 

 

 

 

 

「どりゃあああああああああ!!」

 

「遅いです」

 

 大きく振りかぶって振るわれた拳は無情にも空を切り、白音の肘打ちが一誠の鳩尾に直撃する。

 

「おぶぅっ!?」

 

「接近戦で動きを止めないでください。死にたいんですか?」

 

「ちょっ!?まっ!?」

 

 よろめく一誠に白音は容赦なく一本背負いを極めて地面に転がした後、その顔を目掛けて踵を落とそうとしたが、寸でで止める。

 鼻に当たるか当たらないかで止められた踵を除けて一誠を見下ろす白音。

 

「動きが大振りすぎます。そもそも基礎が出来てません。拳の振るい方、狙い方。足の動きにフェイントその他諸々。動体視力と反射神経は悪くないですが、悪魔に成りたてにしては、です」

 

 グサグサと突き刺さる正論に一誠は顔をしかめた。

 

「見ての通り私は体が小柄で力もさして優れていません。だから純粋な膂力なら兵藤先輩の方が上です。スピードはともかくですけど。それなのにこちらの攻撃が当たって、自分の攻撃が躱されるのはどうしてだと思います?」

 

「俺の動きが単純で読みやすいからです、はい……」

 

「そうですね。動作がいちいち大きくて相手から目を逸らさない胆力と少しの経験があれば格下でもまず勝てないと思います。さっきも言いましたが、そもそも基礎が出来てませんし。まずはそこから直しましょう」

 

 そこから立たされて、一誠は拳の握り方から振るい方、体重の乗せ方に腰の動きなどの基礎をひたすら叩き込まれた。

 

 ちなみにその間、一樹はひたすら筋トレを行っていた。

 

 

 

 

 

「美味ぇえええっ!?マジ美味ぇええええっ!?」

 

「もうちょい静かに食べろよ……」

 

「でも本当に美味しいね」

 

「うん、美味しいな」

 

 夕食時、出された料理は豪華なモノだった。

 朱乃の手によって作られた料理は今日1日過酷な訓練を終えた前衛組の胃を満足させるに足る量と質だった。

 

 祐斗が採ってきた山菜やリアスが釣った魚や仕留めた猪を使った料理。

 

「あらあら。おかわりもありますからたくさん食べてくださいね」

 

 空になった一誠の茶碗にご飯を盛る朱乃。

 一誠に限らず皆が箸を止めずにご飯を食べていた。

 白音も静かにだがすごい勢いで箸を進めているが慣れない大所帯なためか普段より抑え目だった。

 

「朱乃さん最高ッス!嫁に欲しいくらいです」

 

「うふふ。困っちゃいますね」

 

 頬に手を当てて嬉しそうにしている朱乃。それは嫁に欲しいと異性に言われたことが嬉しかったのか一誠だからなのかは計り知れなかった。

 

 そんな中で一誠の横で少しそわそわしているアーシアが居り、察した一樹が助け舟を出した。

 

「おい兵藤。このスープ、アーシアが作ったやつ、美味いぞ。飲んでみろよ」

 

「はぅっ!?」

 

「ん?このオニオンスープ、アーシアが作ったのか?」

 

「は、はい!!頑張って作りました」

 

 いきなり話題を振られてアーシアが驚いて体をビクッとさせる。そんなアーシアの様子に気付いた風もなく一誠は手元にあったスープを飲んだ。

 

「ど、どうですか?」

 

「うん!美味い!なんか、アーシアらしい優しい味がするぜ!」

 

 美味い美味いと言ってスープを飲む一誠にアーシアは顔を真っ赤にさせてこれで私も一誠さんのお嫁さんに、などと呟いていたが本人には聞き取れなかったらしい。それが良かったのか悪かったのか。

 

「いっくん。ごはんのおかわり、いる?」

 

「おう。もらうわ」

 

 白音に茶碗にご飯をよそってもらい、受け取る。その互いに気負いのない自然な流れに周りが少しだけ羨ましそうに見ていた。

 

 その後、ある程度皿の空になったのを見計らってリアスが今日の訓練について訊いてきた。

 

「それで、今日の訓練はどうだった?」

 

「眷属の中で俺が一番弱かったです……日ノ宮とは同じくらいです」

 

 最後に一誠と一樹が素手で模擬戦を行ったが結果は引き分けというより周りが止めた。

 理由として2人とも意地を張って降参しないからだ。

 一誠は人間であり後から入ってきた一樹に負けまいとしていたし、一樹は一樹でせめて一誠には白星をあげたいと意地になったいた。

 それでお互いどんどん容赦がなくなり、模擬戦の枠を越えた行為に及んだため、見ていた祐斗が止めたのだ。

 

「そうね。この中でイッセー、アーシア、一樹は圧倒的に戦闘経験が足りないわ。でも、3人ともそれぞれ無視できない長所があるのも事実。イッセーの赤龍帝の籠手によって強化されたパワーは強力だし。アーシアの聖母の微笑みでの癒しは私たちを何度でも立ち上がらせることができる。それに一樹の炎は悪魔にとって間違いなく天敵よ。それらを鍛えれば必ずライザーとのゲームで勝利への活路になるはず」

 

 説明するリアスに一樹は不思議に思って手を上げた。

 

「あの、部長……俺の炎が悪魔にとって天敵って……?」

 

「一樹の炎はただの炎じゃないの。その炎には悪魔にとって毒でもある聖なる力を宿している。ゼノヴィアのデュランダル程ではないにしろ、悪魔にとって有効であることには変わりないわ」

 

「へぇ……」

 

「とにかく、イッセーと一樹には最低でも敵から逃げる術と正面から戦う術両方を学んでもらう。時間がないからかなり駆け足になるし、きついと思うけど覚悟しておいてね」

 

「はい……」

 

「ウっす」

 

 そこで話を切り、皆を見渡すと笑みを作った。

 

「さ、食事を終えて食器を片付けたらお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから気持ちいいのよ」

 

 リアスの言葉に衝撃を受ける男子がひとり。言わずもがな、兵藤一誠である。もうこれでもかというほど鼻の下を伸ばしてだらしない表情をしている。さっきまでの思いつめた表情はなんだったのか。

 

「僕は覗かないよ」

 

「犯罪行為は独りでやれな」

 

「バッ!おまえら!っていうか日ノ宮!テメェマジで俺に棘がありすぎんぞ!!」

 

 突っかかる一誠をやり過ごしながら一樹は皿を片付け始めた。

 しかし次にリアスから衝撃の提案が出される。

 

「あら一誠。私たちと温泉に入りたいの?私はかまわないわよ」

 

「…………え?」

 

 リアスの言葉に一誠は目玉が飛び出すのではないかと言うほど大きく瞼を開けた。

 

「朱乃はどうかしら?」

 

「私もイッセーくんならかまいませんわ。殿方の背中、流してみたいかもしれません」

 

「ゼノヴィアは?」

 

「む、そうだな。この国では裸の付き合いというのもあるらしいし、郷に入っては郷に従えだ。こうして親睦を深めるのも悪くない」

 

「アーシアは?イッセーなら問題ないわよね?」

 

 アーシアは耳まで真っ赤にしながらも小さく首を縦に動かす。

 一誠の期待が高まる中、最後に問われた白音の答えは。

 

「絶っ対にいやです」

 

 僅かに眉を寄せて拒否の答えを出した。

 リーチがかかったところでまさかの転落に一誠は床に突っ伏した。

 そんな一誠をリアスと朱乃はクスクスと笑う。

 

「はい。それじゃあこの話は無しね。それじゃあ、いきましょう」

 

 おそらくリアスはこうなることがわかっていたのだろう。要は一誠はからかわれたのだ。

 しかし負けじとせめて覗きくらいは思う一誠に白音が釘を刺す。

 

「たしか、ミルたんさんでしたっけ?先輩の契約相手のひとり……」

 

 突然思い出したかのように虚空を見つめて白音が呟く。

 

 ミルたん。それは一誠の悪魔稼業での契約相手の1人で巌のような筋肉に巨漢でなぜか魔法少女になることを夢見る一度会えば忘れることのできない強烈な個性を持つ(クリーチャー)である。

 以前白音は悪魔稼業を手伝った際に会って、いきなり奇声を上げられた後に数々の魔法少女のコスプレをさせられたあげく、そのアニメ鑑賞をするという拷問のような時間を味わった。

 

「私、最近姉さまに幻術を習っていまして。もし覗いたら合宿中、ずっと自分以外がミルたんさんに見えるように術を行使します。それでも良ければどうぞ……」

 

「なん……だと……」

 

 白音の言葉に一誠は死刑宣告を受けた罪人のような絶望感を漂わせる顔になった。

 オカルト研究部の仲間は贔屓目無しに見ても美人揃いだ。種類は違えど彼女らを町で見かければ間違いなく誰もが視線を向けるだろう。

 兵藤一誠にとって彼女たちの存在は癒しであり、どんな苦行や苦境もその姿を見れば心と体に活を入れられる。そんな存在だ。

 それが、筋骨隆々の漢に見える呪い(げんじゅつ)に掛けられる。それは想像しただけでこの世のあらゆる地獄に勝る阿鼻叫喚の景色ではないだろうか。

 

「絶っっっっ対に、覗きません!ですからそれだけはご勘弁をっ!!!!?」

 

 床に頭をこすりつけて震え。涙を流しながら懇願した。白音はそんな一誠を一瞥すると興味を失ったように用意された女子用の部屋に入って行った。

 

「一樹くん、僕と裸の付き合いをしよう。背中、流すよ」

 

「その言い方止めろ。なんか最近、やたらスキンシップ取りたがらないか、お前……?」

 

 祐斗の発言に若干の恐怖を覚えながら一樹も風呂の準備に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔であるグレモリー眷属は夜こそ本番とばかりに夜中にも訓練をしていたが人間である一樹は流石に身体がもたないため、日付が変わる少し前に床に入った。

 しかし皆が訓練をしている時に自分だけ休むことへの後ろめたさと焦りで中々寝付けず、1杯だけ水をもらおうと部屋を出た。

 

「む?」

 

「あ……」

 

 そこには外から戻ってきたゼノヴィアだった。

 

「どうした?もう眠ってしまったかと思ったが」

 

 時計を見れば既に2時を回っている。とっくに寝ている時間だった。

 

「いや、ちょっと寝付けなくて飲み物でもってな。そっちは?」

 

「私も同じようなものだ。一誠の相手は木場がしているし、ひとりでは素振りくらいしかすることもないからな。一息入れに来た」

 

「そっか……」

 

 冷蔵庫を見るとそこには大きな容器に麦茶が入っていた。

 

「麦茶あるけど飲むか?」

 

「あぁ、もらおう」

 

「了~解」

 

 一樹はコップをふたつ取り出して麦茶を注いで片方をゼノヴィアに手渡し、相手も礼を言って受け取った。

 

 お互いが無言のままコップの中の液体が空になっていく。

 元々お互い進んで話をするほど仲が良いわけでもないし、話すことはなかった。

 そう思っていたら、ゼノヴィアのほうから口を開く。

 

「すまなかったな……」

 

「は?」

 

「覚えているだろう?以前、私が君と白音にとても酷いことを言ってしまったのを……」

 

「何の話してんだ?」

 

「……初めて会った時に言っただろう。白音のことを、そんな不浄な存在に関わらない方がいい、と……」

 

「?」

 

 そんなこと言われたかと首を傾げていると記憶がある時のことを思い出す。

 それは以前坂道で道を聞かれてすれ違い様に言われた―――――。

 

「あー!お前あんときの!?」

 

「今頃気付いたのか!?」

 

 今の今まであの時すれ違った少女が目の前のゼノヴィアだとは思っていなかったというより、あの後一晩経ってそれでその時のことなど綺麗さっぱり抜け落ちてしまっていたのだ。

 

「いちいちそんな細かいこと覚えねぇよ……」

 

 バツが悪そうに顔をしかめてゼノヴィアから視線を逸らし、宙を見つめる。

 

「てっきり、こちらに関わってこないのはあの時のことを怒っているからだと思っていたが……」

 

「いや、俺は基本的に自分から話しかけるタイプじゃないし。それに、ゼノヴィアとアーシアが2人で話していることが多いから男ひとりだと会話に入りづらいだろ」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 微妙な空気が流れる中、突如ゼノヴィアが噴き出した。

 

「どうした?」

 

「いや、なに。君と話すとき、少しばかり気を張っていた自分がバカらしくなってね。そうか、こんな簡単な誤解をしていたのかと」

 

 一泊置いてゼノヴィアが口を開いた。

 

「私は、今まで決まった人と決まった会話をするのが当たり前に育ってきた。だから今の生活が新鮮で驚きの連続なんだ。日々が目まぐるしくて楽しいと思う」

 

「そりゃよかったな」

 

「うん。だから、君ともこれからはちゃんと関わっていきたい。だから以前の私の失言を許してくれるか?」

 

 差し出された手を見て一樹は苦笑する。

 

「許すも何も、俺は忘れてたんだぞ?でも白音には……」

 

「彼女には、先程入浴時に謝罪した。気にしていないと言われたがね」

 

「なら俺から言うことは何もねぇよ。これからもよろしく」

 

 そう言って握手した。

 

 それにゼノヴィアはどこかホッとした表情を浮かべていた。

 そのあと使ったコップを片付けてまた床に入る。

 もうぐっすりと眠れそうだった。

 

 

 




本作品の独自設定で魔力は魂から作られる力。妖力も名前が違うだけで同じエネルギー。

気は生命力を変換した力。

エネルギーに変換する装置は共通なため、似たような事象を起こせる。

気は尽きれば例外を除いて死ぬ。

魔力は尽きても眩暈や意識の混濁はあっても直接死ぬ可能性は低い。
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