太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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10話くらいまで強引かつトントン拍子で話を進めます。


2話:崩壊の兆し

 その日の授業が終わると一樹は、んっと伸びをした。

 さぁ放課後だと思いなんとなく木場祐斗に話しかけてみる。

 

「なぁ祐斗。これから遊びにいかね?」

 

「珍しいね。一樹くんから誘ってくれるなんて。どこか行きたいところでもあるのかい」

 

「そういう訳じゃねぇけどさ。最近、誰とも遊びに行くことないなって思ってな」

 

 祐斗を誘ったのは多分一番気兼ねなくいられる友人だからだろう。

 しかし、相手から返ってきたのは柔らかな断りだった。

 

「ごめんね。今日は部活のほうに顔を出さないとだから」

 

「そっか。なら仕方ねぇな」

 

 鞄に荷物を入れながら祐斗の返答に特に気落ちしたようすを見せない。

 元々ただの思い付きだ。断られたからと言って嫌な顔をするようなことじゃない。

 

 祐斗にまた誘ってねと言われておうよと返し、別れる。

 

 このまま家に帰るかなと思い、昇降口までよたよた歩いているとよっという声と共に誰かが後ろから一樹の背中を押した。

 

 振り返ると見知った顔がいた。

 

「なんだ桐生かよ。何か用か?」

 

「なんだとは失礼だなぁ。それに中学のときみたいに藍華って呼んでいいんだよ?」

 

「下の名前で呼んだことなんて一度もないよな!?」

 

 接触してきたのは同じ中学出身で共通の友人がいたことからそれなりに仲が良かった桐生藍華という女性徒だ。

 栗色の髪に左右が三つ編みにまとめられ、眼鏡をかけた比較的整った容姿をした女子。

 偶然同じ高校を受験し合格するも1、2年ともにクラスが別れて少し疎遠になっていた相手でもあるが。

 中々にいい性格をしており、人をからかうのが好きなのだ。

 

「で?ホントになんの用だよ」

 

「ん?別に用なんてないわよ。見知った顔がいたから声をかけただけ」

 

「あ~そうかい。そりゃどうも……」

 

 面倒そうに相手をする一樹に桐生は特に気にしたようすもなく話を続ける。

 

「白音とは一緒じゃないの?珍しいね」

 

「そんないつも一緒にいるわけじゃねぇよ」

 

 当然白音とも面識があり、仲が良い。

 というか、中学時代にあれこれと善からぬことを教えていて一樹の頭を抱えさせたことがある。

 

「えーそっかなぁ。私が見た限り週に3、4回は一緒に帰ってるでしょ?」

 

「同じ家に住んでんだからおかしくねぇだろ、つかその事周りに言ってないだろうな」

 

 一樹としてはお世話になってる手前で根も葉もない噂話に振り回されるのはゴメンだった。

 

「人のプライバシーなんて吹聴しないわよ。ま、あんまりあんたたちが一緒にいるんで二人が付き合ってるって噂話は持ち上がってるけどね」

 

 その噂話は知ってる。あんまりムキになると肯定してるみたいで無視しているが。

 だが日ノ宮一樹にとって白音にしろ黒歌にしろ自分を救ってくれた恩人であり、大切な家族だ。いつか二人に恩返しがしたいとは思ってる。

 

 

 桐生と別れ、昇降口を潜ると、聞き覚えのある声がやたらテンション高くしているのが耳に入った。

 

 気になって声の出所まで移動すると、そこには例の変態3人組と他校の制服を着た女子がいた。

 聞こえてくる声からどうやら3人組の1人、兵藤一誠に彼女が出来たらしい。

 それを残りの二人が膝をついて嘆いている。

 少し離れたところから見ていると黒髪の少女と目があった。

 向こうは、こちらに顔を向けて綺麗な微笑を浮かべているが一樹はその姿に違和感を覚えた。

 どこもおかしなところなど無いはずなのに何かが違うと感じる。

 それらを振り払うように一樹はその場を早足で通り過ぎて行った。

 

 

 

 

 校門を出てしばらく歩くと自分が冷たい汗を流していることに気付く。

 電柱に手をついて冷静になると自分の取った異常な行動に疑問を覚えた。

 

「俺、なんで……?」

 

 別段あの女の子が危険物を持っていた訳じゃない。

 不審な点などなかった筈だ。

 それでもアレと目があった瞬間、何故か不快感に襲われた。

 

「ハハ、なんて、馬鹿げた……」

 

 どの道関わることのない相手だと近くにあった自販機で買った飲み物を飲み干し、捨てた空き缶と一緒に頭の隅に追いやる。

 きっと疲れているのだ。今日はもう帰ろうと足を進めようとした時。

 

 低学年の小学生とおぼしき男の子が立ち入り禁止の看板を潜って古びた建物の中に入っていくのが見えた。

 

「おい!入ったらダメだって書いてあんだろ!」

 そう声を上げるが無視しているのか足を止めることなく入る。

 

「だぁ、もうっ!?今日は厄日かよ!!」

 

 一瞬迷ったがすぐに追いかけて連れ戻そうと古びた建物の中に子供を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

(悪いことしちゃったかな)

 

 木場祐斗は主であるリアス・グレモリーとその副官の位置にいる姫島朱乃の後ろについていきながら今日遊びの誘い断った友人について考えていた。

 

 木場祐斗にとって日ノ宮一樹は変わった友人だった。

 なにが?と問われればはっきりと言葉にできないが。

 木場祐斗が日ノ宮一樹と初めて話したのは高校入学した少し後にとある授業の班分けで一緒になったのが最初だった。

 それから徐々に話すようになり、今の付かず離れずの友人関係が続いているわけだが。

 そして何より、日ノ宮一樹と一緒にいる少女―――猫上白音の存在だ。

 彼女が真っ当な人間ではないことは初対面から判っていた。

 向こうも自分が真っ当な人間ではないと気づいているだろう。

 以前会ったときはお互いに当たり障りない挨拶をしただけだったが相手がこちらを警戒、と云うより脅えているように見えた。

 この事は主であるリアスには言っていない。

 猫上白音が明らかに自分のことを隠したがっていたように感じたこともあるし、彼女が人間ではないことはリアス自身既に知っているだろうと思ったからだ。

 もちろんなにかあれば責任は取るつもりだが。

 

「ここね。例のはぐれ悪魔が住み着いてる建物は」

 

 その建物は、いまは使われていない施設だった。

 5階の築50年以上の建物。使っている者は既になく、取り壊されていないここははぐれ悪魔が根城にするにはうってつけの場所だった。

 

「いい?部室でも言ったけど、できるだけ目標は生かしなさい。もしかしたら他のはぐれ悪魔の情報も持っているかもしれないから」

 

「承知していますわ」

 

「仰せのままに」

 

 最近この近辺で起きている失踪事件。それは複数のはぐれ悪魔が起こしている事件だと調べがついている。

 ただ組織的犯行ではなくバラバラに好き勝手に犠牲者を出していて、根城の特定が遅れてしまった。

 まして最近は堕天使もこの近辺に現れているという話だ。

 同じ学園で活動しているシトリー家の手も借りているがやはり人数が足りない。

 ここに本来もう1人いる筈なのだが、彼はとある事情で外に出せない。

 たった3人。敵の力、人数は未知数だがおそらく10以上ということはあるまい。

 緊張していないといえば嘘になるが、それ以上に主の命を遂行するという使命感が勝っている。

 建物の周りに張ってあった質の悪い結界(朱乃談)を潜り抜けるとはぐれ悪魔とおぼしき魔力が感知できた。だがそれよりも————。

 ゾッ!?と結界の内側に入ると3人の肌が粟立つのを感じた。

 感じ取った力の波動は悪魔にとって天敵とも言える聖の力。

 

「まさか、教会が介入しているの!?」

 

 リアスが驚愕と怒気の混じった声を上げる。

 基本この駒王町はグレモリーの管轄であり教会とは不可侵条約が結ばれている。

 もし教会の者がこの地を訪れるならまず管理者のグレモリーに話を通さなければならない。

 

「とにかく急ぎましょう!?教会と事を構えたくはないけど、場合によっては戦闘も有り得るわ‼二人とも、気を引き締めて!」

 

 リアスの言葉に頷き、聖の波動を辿ってその場所まで移動する。

 そして当の場にいたのは。

 

「い……つき、くん……?」

 

 祐斗は思わず眼に入った友人の名を呟いた。

 

 そこに居たのは、はぐれ悪魔と思しき複数の死体と子供を抱き抱えながら地に伏している友人の日ノ宮一樹と一部が燃えている建物。

 

 そして、右腕から制服と顔半分を血で汚した白に近い銀の髪を持った小柄な少女だった。

 

 

 

 

 小さな声でおじゃましま~すと言って中に入るとそこには如何にもチャラそうな格好をした男女が数名。

 だが—————。

 

(また!?なんだよこの悪寒!?)

 

 先程兵藤一誠の彼女?から感じたのと同種の悪寒が体から駆け巡った。

 相手側は一樹を見て一瞬ポカンとしていたがすぐに仲間内で話し始めた。

 

「おいおい!なんでここに獲物以外の奴が入ってくるんだ!マーク、もしかして結界が作動してないんじゃ!」

 

「作動している。つまり何らかの要因でこの少年は私の結界をすり抜けたというわけだ」

 

「破壊じゃなくてすり抜けたというのが疑問ね。見た感じ、ただの子供のようだけど」

 

 理解できない会話が続く。しかし一樹はなるべく相手を刺激しないように話しかけた。

 

「すみません、その子ともしかして知り合いでしたか?」

 

 肩を掴まれている子供を指して一樹はそう質問した。

 すると相手側は爆笑し始める。

 

「ハッ!!ホントにただの餓鬼じゃねぇか!お前の結界の腕も鈍ったなぁ、おい!」

 

「で、どうするの?このまま大人しく帰すわけにもいかないでしょう?」

 

 不穏な会話を始める三人を視界に収めながら一樹は子供のほうに意識を向ける。

 

(なんでさっきから微動だにしないんだ、あの子?)

 

 こちらに背を向けたまま微動だにしない子供を疑問に思いながらいつでも逃げられるようにする。

 

「まぁ、なんでもいいよなぁ!どうせ逃がしゃしねぇしよぉ!」

 

「は?」

 

 物騒な宣告に一樹はすぐに子供をかっ拐って逃げるように動こうとするも相手の豹変に呆けた声を出す。

 

 獲物を見つけた動物に似た獰猛な笑みを浮かべた男の背中に黒い翼が生える。

 それはまるでフィクションなどで見る悪魔のような翼。

 

 訳がわからず固まっていると男はこちらに飛んで来て避ける間もなくその拳を一樹の腹に突き刺した。

 

「だっ!?」

 

 そのまま吹き飛ばされると地面に着いて無様に転がり回る。

 殴られた腹と打ち付けた背中に痛みが走るがそれ以上に今の状況に混乱していた。

 それでも辛うじて理解できたのはこのままでは自分が訳も分からずに殺されるだろうという予想だけ。

 痛みに呻きながらどうにかして近くにあった台を支えにして立ち上がる。

 

(なんでもいい!とにかく、いまは逃げねえと!)

 

 だが、後ろを振り返った瞬間に殺されるのではないかという直感に身動きが取れない。

 

「オラ!もういっちょいくぜ!」

 

「こっの!!」

 

 迫ってくる敵に一樹は手にしていた鞄を投げつける。

 しかしそれはあっさりと弾かれて顔を鷲掴みにされた。

 

「おいおい。物は大事に扱えよ」

 

 相手の言葉に反応する余裕もなく、一樹は手を離させようとして敵の腕を掴んで離そうとするが、びくともしない。

 一樹は自身の頭部がミシミシと音を鳴るのを聴きながら着実に迫ってくる『死』の気配に脅えていた。

 

(どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?どう————!?)

 

 恐怖から負の思考に囚われていた一樹はふと思い付く。

 

(ああ、そっか————。モヤセバイインダ)

 

 瞬間、日ノ宮一樹の手から炎が上がった。

 

 

 

 

 猫上白音がその異変に気付いたのは帰宅してすぐのことだった。

 これは、本人には知られていないことだが、一樹には安全面を考慮して彼が危機に陥った時にわかるように術が施されている。

 例えば命の危機に瀕したときや、もしくは裏の世界に迷い混んだときなどに。

 白音は直ぐに姉から預かった護符を鞄から取り出す。

 それは妖術で作られた転移用の符だった。

 白音も妖術の覚えはあるが、そちらの才能はあまりなく、簡単な術しか扱えない。

 だから戦闘も体術と身体強化の術に焦点を絞って鍛えてきた。しかしこういう時になんでもそつなくこなす姉が羨ましく思う。

 

「待ってて、いっくん。いま、行くよ……」

 

 僅かな劣等感を即座に棄てて転移の符を発動させた。

 

 

 

 

 符によって訪れた場所は既に使われていない建物のようだった。

 そしてまず目に入ったのは右腕が焼け焦げている20代半ば程のガラが悪そうな悪魔。

 それから同い年くらいに見える女性悪魔に頬が痩せこけた30代に見える目付きの鋭い悪魔。

 そして、僅かに建物を点いている炎と地面に子供を抱えながら横たわっている大切な家族(イツキ)

 それを認識した瞬間、白音の中で怒りの沸点をあっさりと超えた。

 覚えている。

 建物が燃えている光景も。血塗れで倒れている彼の大切な家族も。涙を流しながら茫然と自分を抱えている彼を。

 それを厭らしい笑みでケタケタと嗤う悪魔。

 —————そして、なにもできなかった無力の塊だった自分。

 目の前にある光景全てが猫上白音のトラウマを刺激し、その怒りのまま力を奮った。

 

 

 

 

 

 

 

 これが夢だと気付いたのは目の前にもういない両親の顔を観た瞬間だった。

 現実感のない映画でも観ているような感覚で嘗ての日常が流れる。

 感情の起伏が激しくてどこか子供っぽいが、しっかりしている母。

 そんな母に頭が上がらないが、優しい父。

 そのふたりの顔を観て涙が出そうになった。

 茫然と立っていた自分の足になにかがあたった。

 視線を足下に動かすとそこには自分の足にすり寄っている小さな白い猫と少し離れたところにいる黒い猫だった。

 二匹は、以前怪我をしていたところを拾い、そのまま飼い猫になった黒と白の猫だった。

 その際、両親と一悶着あったが、珍しく頑固にワガママを言う自分に両親が折れる形で許可を貰った。

 飼ってみれば両親も大層可愛がり、特に小さな白い猫の方は自分に懐いて家にいる間はずっと構って欲しそうにしていた。

 その白猫を抱えあげてふと思った。

 ━━━そういえば、今この子達はどうしているんだろう?

 

 

 

 

 目を覚ますとそこは見慣れた自分の部屋だった。

 

「目が、覚めた?」

 

 声が聞こえて視線を動かすとそこには安堵の表情を浮かべた白音がベッドの横で椅子に座っていた。

 まだ冴えていない頭で気になったことを白音に問う。

 

「あの、子供、は……?」

 

 確か、男の腕を燃やした瞬間に走って子供の体を掴んだまでは覚えているが、そこから先の記憶はなかった。

 

「大丈夫。ちゃんと無事……」

 

「そっか……」

 

 今の一樹にはどうして白音が知っているのかと考えるところまで頭が回らずに、安堵の息を吐く。

 

「さ、また眠って。そうしたらまた、いつも通りの朝が来るよ」

 

 白音が小さく微笑んでそっと一樹の胸板に自身の頬を埋める。

 なぜかその姿が今しがた夢で観た白猫と重なった。

 

「無事で、良かった……」

 

 白音の声に眠気が増して一樹は再び夢の世界に意識を沈ませた。

 

 

 

 

 一樹が眠りに就いたのを確認した後に、白音は預けていた体を起こして部屋を出る。

 ざっと診た感じ、一樹の怪我は打ち身と擦り傷のみで、骨などにも異常がなかったのが幸いした。

 それくらいなら白音の拙い治療術でも快復が可能だった。記憶の方は、姉から預かっている呪符でどうにか誤魔化すと決めた。

 おそらく起きれば、学園を出たあとのことは殆ど覚えていないだろう。

 それでいいと思う。一樹が裏の世界に関わる必要はない。そんなことは、白音自身が認めない。

 

「守るよ、いっくん……。今度こそかならず。だから━━━」

 

 ━━━どうか、幸福な一生を生きて。

 

 祈るように。懺悔するように。猫上白音はただ1人の生涯の幸福を願った。

 

 それが届かない願いだと知るのはもう少しだけ先の話。

 

 

 

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