太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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25話:会談開始

 数日後、ギャスパーが引きこもってしまった。

 

 あれからギャスパーの神器制御は僅かばかりだが向上を見せていた。

 まだ粗いながらも任意で目標だけを停止させることに成功していた。

 そんなわけで次の段階として一誠と一緒に悪魔仕事の外回りに出かけたのだが、その相手が若干濃かったらしく、委縮して能力発動。そのまま戻ってきてしまった。

 流石にまだ見ず知らずの他人に会うのは難易度が高かったらしい。

 

「出て来いよギャスパー!そんなとこに引きこもってもしょうがねぇだろうが!」

 

 扉をガンガン叩きながら一樹が中にいるギャスパーに話かける。

 

「ふぇええええええええっ!?」

 

「ダメだこりゃ……アイツの神器が制御できない理由って器うんぬんより本人の気概なんじゃねぇか、たくっ!」

 

 悪態ついて最後に扉に軽く蹴りを入れる一樹。

 

 リアスからギャスパーについて粗方情報は得ている。

 ギャスパーは吸血鬼の名家と人間との混血。

 ただ、悪魔社会以上に純血主義が蔓延る吸血鬼社会で混血だったギャスパーは腹違いの兄弟たちからもいじめられて過ごしていたらしい。

 しかし人間界でもバケモノとして扱われ、居場所がなかったという。

 それも時間停止の神器などを持っていたためちょっとした拍子に相手を停めてしまい、さらに孤独を深める結果となる。

 そうして吸血鬼社会からも人間社会からも居場所がなくなったギャスパーは路頭に迷い、吸血鬼ハンターの手にかかったところをリアスによって悪魔として転生した。

 言われてみれば確かに相手側からしたら不用意に自分が止められるのは良い気分がしないだろう。

 しかし—————。

 

「逆に逃げ道があるのが良くないのかもな」

 

 ポツリと一樹が呟く。

 

「どういうことかしら?」

 

「失敗してもこうして引きこもってほとぼりが冷めるまで閉じこもっていられる場所があるから甘えが生まれる。心の隅で、神器の制御せずに独りで居た環境に慣れすぎちまったからそのままでもいいと考えちまう。そうした考えを捨てさせない限り同じことの繰り返しかもなって話ですよ」

 

 人というのは必要ならば必死でそれを得ようとするものだ。

 それは就職だったり。あるいは資格だったりと。本当に必要に感じれば努力するものなのだ。

 しかし、今回ギャスパーの預かり知れぬところで封印の解除が決定され、済し崩しに神器の制御を強要された。

 彼からすればこれまで独りの環境が長すぎて神器の制御ができなくても最終的に元の鞘————つまり、目の前の部屋に戻ればいいと思い込んでいるのかもしれない。

 今まで周りとの関わりが必要でなかったが故に。

 

「なにより他人とぶつかるのを怖がり過ぎて、神器の制御の訓練をしているというより、周りに怒られないために話合わせてるだけなんじゃねぇかとすら思えるしな。アイツ見ていると」

 

 勿論このままでよくないのは本人とてわかってるだろう。しかし、今までが大丈夫だったのだからと思考が逃げの方向に走ってる感じは否めなかった。

 

 一樹の論に皆がそれは違うと言おうとするが、口に出すことはできなかった。

 だが、苦渋の表情を浮かべる周りに一樹は言い過ぎたかと思って居心地が悪くなり「ちょっと頭冷やしてきます」とその場を後にした。

 

 一樹が場を離れた後に沈黙が漂う中、朱乃がリアスに告げる。

 

「部長、そろそろサーゼクスさまとの打ち合わせがありますわ」

 

「少し、待って貰いましょう。ギャスパーをこのままにしておけないわ」

 

「いえ、部長は行ってください。ギャスパーは俺たちがどうにかします!」

 

「イッセー……」

 

 一誠の力強い言葉にリアスはどうするか迷う。

 眷属の問題と会談のセッティング。どちらが大事かと問われれば後者だ。

 身も蓋もない言い方だがギャスパーの問題は一朝一夕でどうにかなる問題ではない。しかし会談の打ち合わせでもしミスが起こればこれまで以上に三すくみの間に溝を作るかもしれない。

 だが、それで自分の愛する眷属をほったらかしに出来るほどリアスは達観してはいなかった。

 しかし重ねて一誠は進言する。

 

「ギャスパーは同性の後輩です。こういう時は男同士で腹を割った方が話が進むかもしれませんし。だから任せてください!」

 

「……わかったわ。それじゃあギャスパーをお願いね?」

 

「はい!」

 

 力強い返事を返す一誠にリアスは微笑んでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスたちから離れた一樹は自販機で買った飲み物を口に入れながらさっきの自分の発言に自己嫌悪へと陥っていた。

 

(あそこまで言うつもりはなかったんだけどな……)

 

 どうやら自分は思った以上にギャスパーの言動にイラついていたらしい。

 一誠ほど熱心ではなかったがそれなりにギャスパーの神器制御の訓練に時間を割いていた一樹はすぐに弱音を吐いて泣き喚き逃げようとする半吸血鬼に攻撃的な態度を取ってしまった。

 

「なによりアイツを見てるとなぁ……」

 

 嫌なことを思い出す。

 

「ギャスパーくんを見てると?」

 

「うおっ!?」

 

 突如現れた祐斗に一樹は肩を跳ね上がらせた。

 いつも通り爽やかな笑みを浮かべながら祐斗も自販機で飲み物を買ってそれに口づける。

 

「いいのかよ?ギャスパーのところに居なくて……」

 

「今はイッセーくんが説得している最中だよ。他のみんなは小休止かな」

 

「そっか……」

 

 飲み終わった缶を捨て、一樹は大きく息を吐く。

 

「随分イラついてたみたいだね」

 

「まぁな……」

 

 嫌なことというのは泣き喚いても解決しない。それで許されるのは幼子だけだ。

 しかしギャスパーの過去を顧みるにもう少し言い方があったかもしれないとも思う。

 

「どうすっかなぁ……」

 

「とりあえず今、イッセーくんが話をしてくれてるし、戻ってみたら?女の子たちは別室で待機してるから男子だけになるし」

 

「そうだな」

 

 このまま向き合わないというわけにはいかない。なんにせよギャスパーと話をすることは必要だった。

 

 

 

 そう思って部屋に戻ってみると—――――。

 

「ギャスパー!俺は俺の神器を使って部長や朱乃さんのおっぱいに倍加の譲渡をかけるんだ!」

 

 何やら心底くだらないことを力説している一誠に一樹は眼を細めてその尻に蹴りを入れた。

 

「なにすんだよ!?」

 

「なに大声で馬鹿なこと口走ってんだテメェは」

 

 体勢を崩して四つん這いになる一誠を見下ろす

 尻をパンパンと叩きながら立ち上がると真面目な顔で話し始めた。

 

「まぁいいや。ちょうどいい。それよりここに居る皆に話があるんだ」

 

「なんだい、イッセーくん」

 

「実はもう少しギャスパーの神器の制御が上手くいったら試したいことがあるんだ。お前らにも協力してほしい」

 

(嫌な予感しかしねぇ……)

 

 それでも耳を傾けて一誠の提案を聞く。

 

「俺の譲渡を使ってギャスパーに倍加をかける。そして停止してる間に俺は女の子の身体を触りたい放題だ!お前らには—————」

 

「みなまで言うな、兵藤。わかってる」

 

「おぉ!日ノ宮!お前もついに理解してくれたか!!」

 

「警察に連絡してお前をブタ箱に放り込む準備は任せとけ」

 

 親指を下に向けながら宣言する。

 

「ちげぇよ!!それならわざわざ時間を停める意味なんてねぇだろうがっ!!」

 

「じゃかぁしい!!俺たちや後輩までお前の犯罪行為に加担させんじゃねぇよ!」

 

 お互いに拳を突き出すとお互いの頬へと同時に拳が届く。

 互いに手加減していたため倒れることはなかったが、次はお互いに力の押し合いが始まった。

 そんなふたりを見てギャスパーはアワアワと震え祐斗は仕方ないとばかりに苦笑する。

 

「イッセーくん。僕は出来る限り皆の力になりたいと思ってるけど、ちょっと自分の力について真剣に考えようか。ドライグが泣くよ?」

 

『相棒の友人は良いやつだなぁ』

 

 すすり泣くドライグの声が聞こえた。

 

「うるせぇイケメンども!俺はお前らと違ってモテないんだぞ!だったらそれくらいの役得があってもいいだろうが!!」

 

「なんだその金がないから無銭飲食してもいいだろ的な理屈!だいだいお前に彼女が出来ないのは日頃の行いであって容姿云々じゃねぇだろ!恋人持ちが全員美形だと思うなよ!」

 

(最初から言うつもりはないけど、アーシアさんや朱乃さんのことは口にしない方が正解かな。下手に自覚させると軽い火傷じゃ済まなそうだし……)

 

 祐斗の内面に気づかずに一樹と一誠の間でしばし拳を交えた罵り合いが続き、お互いに息を切らせ始めた頃に終わりを迎えた。

 

「なんでこんなことに……」

 

「知るか!クソッ!!」

 

 一樹は立ち上がるとギャスパーに近づいた。

 

「おいギャスパー……」

 

「は、はぃいいいいいいっ!?」

 

 突然近くまで近づいて名前を呼ばれ、委縮するギャスパー。それは先程までの殴り合いによる恐怖もあるだろう。

 そんなギャスパーに構わず両頬を一樹は引っ張り始めた。

 

「ちょっ!?いきなりなにやってんだお前!」

 

「ギャスパー。はっきり言って俺はお前が嫌いだ」

 

 静かに。しかしはっきりと言葉にした。

 それを一誠が止めようとしたが祐斗が割って入る。

 

「能力が暴走したり自分の不都合が起きると泣き喚いて逃げるお前が鬱陶しい。なにより昔の自分を思い出して腹が立つ」

 

 昔の自分。それが一樹はギャスパーに過去の自分を重ねていた。叔母にいじめられ、何も言えず、ただ誰かがそのうち助けてくれるのをジッと待っていたあの頃に。

 

「でも、お前がその神器をなんとかしたいってんなら出来る限り協力する。同じ部活の仲間だからな」

 

 そして一樹は助けてもらった人間だ。だから同じように身近な人間が困ってるなら力になる。それをしないのは卑怯だとも思うからだ。

 だが仲間だからといって無理に好きになる必要もない。むしろ取り繕って嫌いな相手と無理に仲良くする方が不誠実だ。

 だから一樹は一誠と無理に仲良くしないし遠慮もしない。嫌いな相手は嫌いでいいのだ。

 

「お前はどうしたい?そのままでいいってんなら俺はもうお前に干渉しない。だけど、お前が本当に神器をどうにかしたいってんなら手伝う。俺が言いたいのはそれだけだ」

 

 引っ張っていた頬を放した。

 痛そうに両頬をさするギャスパー。

 そして涙声で一樹の問いに答えた。

 

「ぼ、僕は、ずっとこのままなんて嫌です……!友達を停めるのも、誰かに迷惑をかけるのも、嫌だよぉ!」

 

 涙混じりに、それでも一樹を正面から見てギャスパーは答えた。

 

「……わかった」

 

 一樹はそんな後輩を見て、少しだけ柔らかい声で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 次の休日。一誠が別件で呼び出されている間、他の眷属たちはギャスパーの訓練に付き合っていた。

 ボールを投げながら、一樹は祐斗に訊く。

 

「しかし、兵藤はなんで呼び出されたんだ?会談の関係?」

 

「今回の会談に当たって各勢力が交戦しないという証しとして三勢力がそれぞれの組織に贈り物をしてるらしいよ。僕もその件で聖魔剣を他勢力に送ったしね。その関係で教会からイッセーくんに贈り物があるらしいよ」

 

「へぇ」

 

 投げているボールを任意で停止させる訓練は少しずつ進歩を見せ始めていた。

 それは暇を見ては匙がこちらに来てくれていることも理由のひとつだろう。

 彼がギャスパーの神器の力を吸い取ってくれているおかげで余計な力が入らず、徐々にコツを掴みつつある。

 

「ん?」

 

 そんなことを思っていると一樹の動きが僅かに鈍った。

 

「ご、ごめんなさいぃいいいいいい!?また停めちゃいましたぁああああああっ!?」

 

「あぁ、いいよいいよ。訓練なんだから。失敗しないなんて考えるな!数を熟して自信を付けろ!」

 

「はいぃいいいいいいっ!?」

 

 神器の停止が解除されると続けてボールを投げ始める。

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、貴方たちは【神の子を見張る者(グリゴリ)】側として会談に出席するということね」

 

「まぁ、そうなるんですかね……」

 

 アザゼルが部室に来たことを知らされた後に一樹は今回の会談でアザゼルと共に出席することを伝えられた。

 その時に白音からも補足が入り、黒歌はあくまでもアザゼル個人に雇われており、正確には神の子を見張る者の一員ではないこと。白音も一樹もあくまで黒歌の身内という立場でしかないこと。

 白龍皇が堕天使陣営である以上、黒歌もそれに近い位置にいるのは予想していたので本人たちがそうするというのならリアスにそれを妨げる権限はない。あくまで2人は部員であり、協力者なのだから。

 

「わかったわ。お兄さまには私から話を通しておくわね」

 

 しかしリアスの中で若干の淀みのようなモノは拭いされなかった。

 短い間ながら2人とはそれなりに親交を重ねていき、信頼関係も構築されつつあった。

 もしこの会談が最悪の結果となれば、2人はどうなるのか。今更彼らが敵になる事態など考えたくもなかった

 

(それに、お兄さまが言っていたことも……)

 

 一樹の両親である日ノ宮夫妻を殺害したのは悪魔であると。

 当の事件についてサーゼクスから教えられることはなかった。

 それはリアスのためなのかそれとも一樹を何らかの事情で慮ってのことか。

 わからないがそれがリアスが一樹との距離を測りかねる原因になっていた。

 本当は全て知った上でここに居るのではないか?

 本当は悪魔に復讐するつもりなのではないか?

 そんな考えが頭に浮かぶ一方で、いままでの時間が嘘ではないと思いたいからこそ足を踏み入れるのに躊躇してしまっている。

 

 結局どうすればいいのか、リアスには答えが出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会談当日。グレモリー眷属全員は部室に集められていた。

 

 日ノ宮一樹と猫上白音はここにはいない。彼らは堕天使の陣営として今回の会談に挑むからだ。

 言葉に出さずとも皆がそのことに一抹の寂しさを覚えている。

 特に一樹と仲の良い祐斗や、白音と仲の良いアーシアなどは特に。

 

「それじゃあ、行くわよみんな」

 

 それを察した上でリアスは気丈な声で全員に声をかける。

 今回は三勢力の重要な会談だ。

 駒王学園の外には悪魔、天使、堕天使陣営の使者たちが一触即発の空気で待機している。

 もし会談が決裂ともなればこの学園、曳いては町が戦場になることもありうる。

 そう説明された全員に緊張が走る。

 

『み、みなさぁああああん!?』

 

 その中で現在段ボールを被っているギャスパーは部室に留守番だ。

 神器を使いこなせていない彼がもし会談で粗相を働くことを考えての処置だ。リアスとしてもギャスパーひとりを部室に置いていくのは心配だったがこれは仕方ない。

 

「ギャスパー!とりあえず菓子やらゲームやらは置いてくから、これで時間を潰せ!」

 

「は、はいぃいいいいいい!?」

 

 そんな2人を見て、一誠の面倒見の良さに全員の頬が緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 リアスがノックをし、扉を開ける。

 中を視界に映すとそこには豪華なテーブルを囲うように三勢力のトップが座っており、その後ろに付き人が控えていた。

 

 悪魔側はサーゼクスとセラフォルー。そして給仕としてグレイフィア。そして先に部屋に入ったソーナとその眷属たち。

 堕天使陣営はアザゼル。その後ろに白龍皇ヴァーリと黒歌。それに一樹と白音が控えている。

 これらの出席は予想されていたため驚きはなかったが、天使陣営にいるある人物に一誠とゼノヴィアの目が開かれた。

 

「イリナ……」

 

 ゼノヴィアがかつての相棒の名を呟く。

 天使陣営は天使長のミカエルにガブリエル。そして聖剣使いの紫藤イリナがこの場に参加していた。

 イリナの方もゼノヴィアたちと目を合わせるがそれも一瞬ですぐに俯いてしまう。

 

「来たねリアス。用意された席に座ってくれ」

 

「はい」

 

 促されるがままにリアスとその眷属もひとりひとりが席へと腰を下ろす。

 

「それではこれより三すくみのトップ会談を始める!」

 

 魔王サーゼクスは静かに。しかし厳かな声音で歴史的会談の始まりを宣言した。

 

 

 

 

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