自分も成長しながら部員を導く存在、という感じにするつもりです。
そうなるといいなぁ(汗)。
魔法陣での転移を終えた先に見たのは見慣れた部室だった。
「なっ!?悪魔たちが直に転移してきただと!?」
しかしそこは敵のど真ん中だった。
占領された部室にはローブを羽織った魔術師が陣取っている。
急いで一誠は神器を装着する。
「ギャスパー!?」
リアスが叫ぶとそこには椅子に拘束されており、その足元には恐らく神器を操っているであろう魔法陣が展開されていた。
ギャスパーは泣きそうな表情でリアスと一誠に視線を合わせた。
そして視線が重なったと同時にその紅い瞳から涙が零れる。
「部長ォ……もう、嫌です……」
そんな彼の口から発せられたのは諦めの言葉だった。
「僕は、もう死んだ方がいいんです。生きているだけで周りに迷惑をかけるだけの存在なんです……この眼のせいで友達も出来ない……こんなの、もうイヤですぅ……」
泣き言を言うギャスパーに反応したのは一誠だった。
「ギャスパー!こんなことくらいで勝手に諦めてんじゃねぇ!今そいつらから引き離してやる!」
ファイティングポーズを取りながら叫ぶ一誠。
しかし、この場で下手に暴れるのも危ないと感じ、迂闊に動けずにいた。室内では一誠の火力は強力過ぎる。
そうして動けずにいるリアスと一誠に魔術師たちは嘲笑を浮かべる。ギャスパーの首筋にナイフを突き付けて。
「馬鹿ね、貴方たち。こんな危険な吸血鬼を普通に扱うなんて。やはり旧魔王派の言うとおりだったわ。グレモリーの一族は力の割に情愛深くて頭が悪いって」
「なんだと!?」
「本当のことでしょう?このハーフ吸血鬼を私たちのようにさっさと洗脳して敵の領域に放り込んで使い潰してしまえば良かったのに。如何に強力な神器を持つハーフ吸血鬼も、制御できなければ役に立ちようもない。そんなのだから私たちに利用された」
侮蔑を込めた冷笑。その態度に一誠は我慢できずに前に出ようとするが直前にリアスが手で制した。
「部長!?どうして!」
一誠の抗議にリアスは答えずその唇を動かした。
「ギャスパー。私はね、貴方が恐かったのよ」
発せられた一言にギャスパーはビクッと肩を竦ませ、一誠も驚きの表情でリアスを見る。
リアスが自分の眷属にそんなことを言うとは思わなったからだ。
「そう恐かった。貴方の神器じゃなく、貴方が私を見限るのが。ずっと不安だった。私は、貴方の主に相応しくないんじゃないかって。もっと優秀な主に貴方を預けるべきなんじゃないかって。ずっと悩んでた……」
まるで自分の罪を吐露するようにリアスはギャスパーに話しかける。
「貴方を一誠たちに任せたのもなんてことはない。ただ、私が貴方を傷つけるのが恐くて。自分が分不相応な主だって認めるのが恐くて理由をつけて貴方から目を背けていたの」
笑っちゃうでしょう?と自嘲気味に笑うリアス。
いつも悠然と構えていたリアスが自分のことでそこまで悩んでいたことにギャスパーは驚きに眼を見開く。
「でも、この局面に立ってようやく覚悟が決まったわ。貴方をあの封印から出してようやくスタートラインに立てたの!貴方に伝えたいことや教えたいことがたくさんあるのよ!だから答えなさい!貴方は本当にそれでいいの!!こんな奴らに利用されて仕方なく生涯を終える!それが貴方の望む結末!違うでしょう!!私に教えなさい!貴方が今ここでどうして欲しいのか!そして信じて!貴方の主であるリアス・グレモリーはその願いを叶えられる女であることをっ!?」
毅然と言い放つリアス。その言葉にギャスパーは言いようのない暖かさを覚える。
悪魔に転生するときに言われた。これからは私のために生きて自分が納得できる生き方を見つけなさいと。
見つからなかったのだとずっと思っていた。
でも違う。見つけようとさえしなかったのだ。
外が恐くて。他人が恐くて。全てが恐くて。何もかもから逃げて部屋に閉じ籠った。
そんな自分をリアスはまだ必要としてくれているのだ。
だから、今のギャスパー・ヴラディが言わなければいけないことは―――――。
「部長ォ……!イッセー先輩……!僕を、助けてください……!!」
クシャクシャな表情でボロボロと涙を流すその姿は見様によっては途轍もなく惨めでみっともない姿だろう。
それでもギャスパーは言葉にしたのだ。助けてくれと。
そのやり取りを聞いていた魔術師たちが不快なモノを観たように表情を歪めた。
「さっきからベラベラと悪魔風情がお涙頂戴などとっ!?」
ギャスパーに振り下ろされようとするナイフ。しかし—————。
「汚い手で、これ以上私の下僕に触れるな……っ!?」
その場にいた全員が凍り付くほどの殺意を込めた声音が鼓膜を震わせた。
そしてその瞬間、床からナイフを持った魔術師を目掛けて黒い魔力の刃が上昇し、その手首を切り落とした。
「え?」
何が起こったか判らずに僅かに呆然とするも噴き出した血から何が落ちたのか理解した。
「ぎ、ぎゃぁあああああああああっ!?」
叫ぶ魔術師の隙をついて一誠がギャスパーを椅子ごと奪還する。
そしてすぐに椅子を壊して自由にした。
「イッセー先輩……部長……」
「カッコいいところは部長に取られちまったけどな。お前も男なら女にあれだけ言われたんだ。ちったぁ男を見せろ!」
そう言って一誠は会談前にミカエルから贈られたアスカロンで自分の腕を少しだけ傷つけた。
「飲めよ。ドラゴンの力を宿してるという俺の血だ。部長はお前を助けた。なら、お前もその気概に応えて見せろギャスパー!!」
一誠の強い眼差しにギャスパーはコクンと頷いてその血を舐める。
その瞬間、言いようのない悪寒に襲われた。
気がつけば、ギャスパーはその場から居なくなり、代わりに、部室の天井を蝙蝠が舞う。
「吸血鬼の能力か!?」
魔術師のひとりが叫ぶと魔力の弾で撃ち落とそうとするが、地面から無数の影の手が伸び、魔術師たちを拘束する。
抵抗を見せるが魔術師たちは血と魔力を吸われ、徐々に床へと落ちていく。何より魔術師たちは神器により、時間さえも停止させられていた。
「イッセー先輩!今です!」
「任せろ!!」
言うや否や、一誠は魔術師たちに触れ、指を掲げると叫んだ。
「洋服破壊ッ!!」
それを合図に魔術師たちは衣服を全て破かれ、歓喜する一誠。
「どうだ!俺たちが揃えば最強だぜギャスパー!」
「はい!イッセー先輩!」
「そうじゃないでしょうっ!?」
リアスは部室に置いてあった一樹の私物であるツッコミ用のハリセンを2人に容赦なく振り下ろした。
魔術師を縛り上げて無力化したあと、リアスは部室に常備してあった毛布を魔術師たちに被せる。
流石に同じ女として素っ裸で放置するのは躊躇われたからだ。
「それにしても部長。さっきのギャスパーを助けた時に使ったアレ!凄かったですね!いつの間にあんなことが?」
興奮気味の一誠にリアスは苦笑して答えた。
「一応前からできたわよ。ただ魔力の遠隔発生と形態変化はそれなりに集中力を有するわ。そういった技術はむしろソーナの方が得意分野なのだけれどね」
単純な攻撃力ならリアス。精密操作ならソーナが得意分野だ。だがリアスとて精密な魔力の操作が全くできないわけではない。
バカスカ撃つだけなら銃と同じ。魔力の利点はその応用性なのだから。
ただ、時間と集中力がいるため、滅多に使用はしないのだが。
その為に嘲笑う魔術師たちの言葉を聞き流して意識の集中に費やしたのだ。
「ところでドライグ。オーフィスってなんだ?」
一誠は先ほど会談の場で名が挙がったオーフィスについて訊いた。
『オーフィスか。懐かしい名だ。奴は無限の龍神。神や魔王すら恐れた最強のドラゴンの一匹だ』
「最強?お前より強いドラゴンがまだいたのかよ!?」
『あぁ。ついでにもう一匹。オーフィスと同等の力を持つと言われる夢幻を司るドラゴンがいる。俺やアルビオン以上となるとそいつらくらいさ』
それでも、最強の二天龍と呼ばれた赤と白の龍より強い存在と聞いて一誠は震えあがる。ましてやその片側がテロリストの親玉を張っているのだ。
考えるだけでも身震いする。
それを振り払うように一誠はギャスパーに話を振る。
「そういや、俺の血を飲んでどうだ?」
「は、はい。一時的に力が湧き上がりましたけど、今はもう……」
「そっか。時間制限付きか。なら何か起きる前にまた俺の血を飲むか?」
『それは止めておけ、相棒』
一誠の提案をドライグがストップをかける。
「なんでだよドライグ。俺の血を飲めばギャスパーの神器の制御ができるだろ。なら————」
「急激に力を上げるということはそれなりのリスクがあるということかしら?」
一誠の疑問にリアスは自分なりの回答を出す。それにドライグは肯定する。
『そうだ。これ以上そこのハーフ吸血鬼に相棒の血を与え続ければどうなるかわからん。ある程度時間をかけて慣らしているならともかくこの短期間に血を与え続ければ、理性が飛び、ひたすらに血を求めるだけの怪物に堕ちる可能性もある。最悪、無理に器を広げた代償に器そのものが壊れかねん』
器が壊れるという表現に一誠とギャスパーの肩がビクッと跳ねる。
『とりあえず、今はアザゼルから貰った腕輪で対応しろ。後々を考えると今はその方が賢明だ』
ドライグの意見に3人は賛同した。
「さ。ギャスパーも取り返したことだし、早く皆のところへ戻りましょう!」
リアスの号令に一誠とギャスパーは頷き、部室を出て会談の場へと急ぐ。
しかし、旧校舎を出た瞬間になにかがリアスたちを横切った。
「だぁもう!!このスーツ高かったのにっ!」
吹き飛ばされてきたのは黒歌だった。彼女はボロボロになったダークグレイの上着を脱ぎ捨てる。
「ふふ。なかなかやるようですが所詮はこの程度。やはり真なるレヴィアタンたる私の敵ではなかったようね」
「ふん!オーフィスから力を貰っただけのくせに何を誇ってるんだか。そんなんだから現魔王政権にあっさりと敗退したのよ!」
「っ!?減らず口を!いいでしょう!そんなに苦しんで死にたいのなら望み通りにしてあげます!」
カテレアの自信を鼻で嗤う黒歌。そしてさらに彼女の纏うオーラが上昇していった。
時間は少し、遡る。
魔術師たちの力は少し前に戦ったライザーの眷属に比べればはっきり言って大したことのない相手だった。
「白音!」
「了解……!」
放たれた魔力の弾を一樹がいくつもの炎弾を生み出して相殺し、その合間を白音が突っ切って魔術師を無効化する。
黒歌同様、仙術を使用した白音の掌底は魔術師たちの気脈を乱し、魔力を練れなくすることで無力化、気絶させていた。
祐斗もその速度を活かして防壁を張られていない側面や背後を狙い、彼らを無力化する。ゼノヴィアはデュランダルの強力な波動を一太刀と共に放つだけで多数の魔術師を吹き飛ばし、無力化していた。
そしてゼノヴィアが取りこぼした敵をイリナが新調した【
言葉にせずとも即興で息を合わせられるのはお互いが相手の呼吸を忘れていないが故だろう。
しかし、問題はやはり数だった。
こちらが撃退するより早く多くの魔術師が投入されている。
現状ではこちらが圧倒していても体力の消耗だけは誤魔化せない。
早く敵の増援を絶たなければ押し込まれると誰もが考えていた。
だが精神的なアドバンテージを得ていたのは一樹たちだ。
それは少し離れたところで戦っている黒歌とカテレアの戦いが原因。
「にゃはははは!そらどうしたのかしら?そんな馬鹿正直な攻撃じゃあ私を捉えられないわよ!」
「クッ!?この畜生風情が!!」
「その畜生風情に手玉に取られてるアンタの頭はそれ以下なの?まぁ、【自称】真なるレヴィアタンじゃ私の相手はきつかったかしら?」
自称、を強調するとカテレアの美貌がこれでもかと言うほど歪む。
右手の宝剣と思しき得物を手に、黒歌はカテレアを翻弄していた。
攻撃を行えばそれが全て
「あ、それっ!」
宝剣と魔力障壁のぶつかる。しかし黒歌は前面に展開された障壁を飛越えるように3枚の札を投げる。
ボッとその札に火が点火するとそのまま札が爆発した。
「ゴホッ!?」
正面だけに障壁を展開していたのが仇となり、符の爆発が直撃する。しかし、1枚1枚の爆発は大したことはない上に、カテレアも障壁の内側は自分を魔力で覆っていたこともありダメージも軽微なのだが。
しかし、その蚊で刺すような戦法がカテレアを苛つかせている。
その戦況を見ながら一樹は安堵した。
黒歌の実力を直に見たことのない一樹だったが、これなら大丈夫だろうと思える。
その僅かな隙を狙ってひとりの敵が突進してきた。
今まで遠距離攻撃主体だった魔術師たちがいきなり接近戦に移行したことに驚くも、一樹はカウンター狙いで相手の肩を狙う。
「なっ!?」
その敵は軽々と一樹の槍を躱し、ローブの内側に潜ませていた棍で突いてきた。
寸でのところで避けるが横払いが続く。それを引き戻した槍でギリギリのところで防いだ。すると相手は嬉しそうに口笛を吹く。
「やるネェ!突きはともかく払いは防げないと踏んだが中々の反射神経だぜぃ!」
そう称賛すると敵は纏っていたローブを脱ぎ捨てる。
中から現れたのは魔術師というより爽やかなスポーツマンのような印象を受ける男。しかし、その眼光だけは鋭く、獰猛な野生動物を思わせる。
何より服装も洋物というより中華の物に近く、その頭に輪っかが填められていた。
「魔術師ってのは、遠距離専門だと思ってたが近接もやんのかよ……油断したな!」
抑え込んでいる敵の力が予想以上に強く、気を抜けば押し込まれると直感が告げる。
それどころか、敵は恐らく本気で力を入れていないとも感じた。
「悪いな。俺っちは魔術師じゃねぇぜぃ。ちょっくら面白そうな祭りがあるって聞いて便乗させてもらっただけさ!」
棍で槍を弾くとそのまま一樹の身体を蹴り飛ばす。
「いっくん!?」
一樹はすぐに態勢を立て直し、槍を構え直す。対して相手は手にしている得物を肩に乗せた。
「俺っちの名前は美猴ってんだ。お前さんの名前は?」
「聞いてどうするよ?」
「俺っちが名乗ったんだ。お前さんも名乗るのが筋だと思うぜぃ」
「……日ノ宮一樹だ」
「そうかい。それじゃあさっそく闘り合うとしようぜぃ!」
それを合図に美猴と名乗った男は一樹に向かって直進する。
鋭い突きが襲うも一樹はそれをなんとかして捌く。だが—————。
(どんどん速度が上がっていきやがる!)
こちらを試すように一突きごとに美猴の棍はその鋭さを増していった。
「嘗めんな!!」
一樹は一度大きく棍を弾くと跳躍し、槍を振るうと同時に無数の炎弾を落とした。
炎弾が美猴に向けて地面に落ち、土煙が上がる。
少しは喰らったかと考えたが土煙が晴れる前に向かってきたのは急速に伸びた美猴の棍だった。
「っ!?」
予想外の攻撃に脊髄反射で防御の姿勢を取るが根は僅かに上の方に外れ、安堵する。だがその刹那の油断が命取りだった。
棍はそのまま振り下ろされ一樹の肩から地面に叩き落とされる。
「甘いぜぃ……こんくらいで油断してたらすぐに死んじまうぞぉ!」
出て来た美猴は楽しそうに、そして不出来な生徒を注意するように告げる。
そこで2人戦闘に割って入る者が現れた。
「おっと!」
「白音!?」
白音の放った拳は美猴の棍によって防がれた。
「やるねぇお嬢ちゃん!ギリギリまで気配が読めなかった。それにこの感じ、お前さんも仙術の使い手かい?」
「……!」
白音は美猴の質問に答えず、攻撃を続行する。
白音の拳が気脈を乱し、内臓にダメージを与えるモノだと気づき、美猴は攻撃を躱す。だがもちろん一樹がそれを黙って観ている筈がない。
炎を纏った槍は美猴に向けて繰り出す。
「ハッ!2人がかりか!そういうのも悪くねぇなぁ!」
人数の不利を怒るどころか嬉々として受け入れる美猴。その姿が自分たちではそれくらいハンデがないと物足りないと言われているようで苛立ったがそんなことを気にしている余裕はなかった。
左右から攻められているのにも関わらず、美猴は難なく一樹と白音の攻撃を捌く。
打撃を繰り出しながら白音は美猴に問うた。
「美猴って言いましたね、貴方!もしかしてあの闘戦勝仏の————」
「当たりってとこさお嬢ちゃん!俺っちはあの孫悟空の血を引く猿の妖怪だぜぃ!」
「はぁ!孫悟空って、あの西遊記の!?」
「正解!!」
「ガッ!?」
いきなり明かされた日本でも有名な名に一樹の動きが鈍るのを見逃さず、振るった棍で押し退ける。
それが僅かな膠着になった。
「まさか東洋の妖怪までテロリストに加担してるなんて……」
「俺っちは仏になった初代と違って自由気ままに生きるのさ。美味いものを食って強い奴と戦う。それに都合が良かったのが【
「この戦闘狂……!」
美猴の言い分に白音は舌打ちする。
そして禍の団には三すくみからだけではなく東西問わず、人材が集まっている。それも現在進行形で。
白音は気を両の掌から螺旋状の球体である螺旋丸を作り出す。
そして懐から苦無を取り出した。
「貴方はここで私が捕えます」
「言うねぇ。その自信がハッタリでないことを願うぜぃ」
組織のいざこざなど興味が無いと言っていられる状況ではない。【禍の団】を放置しておけば人間界もどのような影響を受けるかわからない。
それこそ、本当にあらゆる神話体系での戦争すら在り得る。
白音と美猴は何を合図にするわけでもなく同時に地を蹴り、直進した。
その突風の如き突進の最中、白音は苦無を投げつける。
それを美猴は鼻で笑った。
こちらが苦無を避けるか弾く一瞬のタイミングを見計らって右手の渦をぶつけるつもりなのだろうと予測する。
(いいぜぃ!乗ってやるよ!)
ただ横に避けて一度距離を取ればいいがそれは美猴の頭の中で真っ先に却下された。
年下の女の子。それも自分と同じ仙術の使い手が真っ向から勝負を挑んで来ているのだ。それを正面から叩き潰さなければプライドが許さない。
「ホイヤァ!」
苦無を弾くために棍を振るう。しかし、それは途中で中断された。
それは、苦無の後ろにいた筈の白音がその苦無を手にして自分の目の前に現れたからだ。
(短距離転移か!?)
おそらく苦無自体が目印であり、それを目掛けての空間転移。急に現れた白音はまだ速度の乗っていない棍を苦無で押さえ、右手の螺旋丸を突き出す。
「今のは惜しかったぜぃ……!」
美猴は白音の手首を抑え込んで螺旋丸を封じた。
敵の反射神経と運動能力に苦い表情になる。
だが、美猴が今相手に取っているのはひとりだけではない。
「オ、ラァッ!!」
「と!」
背後から一樹が槍を振り下ろす。ギリギリで避ける美猴。
「はは!容赦ないねぃ!」
「ったりめぇだ!手早くお前を倒すんだよ!」
「ハッ!粋がいいねぃ!だがなっ!」
美猴が棍で一樹の胸を突く。
「っ!?」
「お前さんじゃ俺っちの相手はちょいと実力不足だぜぃ。伸びろ、如意棒」
そのまま伸びた棍により、校舎の壁へと押し出された。
壁へと激突したことで一樹の意識が途切れる。
「ッ!!」
内心でプッツンした白音は美猴襲いかかった。
「いいねぃ。今はお嬢ちゃんの方が楽しめそうだ!」
舌を舐めずり、獰猛な笑みを浮かべる美猴に対して白音は怒りでその幼い容貌を歪めていた。
そんな最中で黒歌の方も戦況が変わっていた。
戦況が有利だった筈の黒歌が徐々に押し込まれている。
その姿を見て白音の中で僅かな焦りが生まれた。しかし美猴はそんな白音を攻撃せずに離れた位置で戦うカテレアに呆れたような顔をしていた。
「オーフィスの蛇を使ったか。ったく。あんなのに頼ってちゃあ、底が知れるってもんだぜぃ」
いや、それは呆れていると言うより、落胆だったのかもしれない。
黒歌たちの方に意識が向いている白音に美猴が説明する。
「禍の団が無限龍を頭に据えてるのはあの女から聞いただろ?あいつらは自分たちがオーフィスの下に就く代わりにその力をちょいと拝借してるのさ。つまりはドーピングだドーピング」
棍を肩に乗せながら口元は笑っていたが眼光だけはつまらなそうにしている。
「なら貴方も……」
「おいおい見縊るなよ?俺っちが信じるのは自分で磨いたこの腕だけだぜぃ。神器使いみたいに生まれ持った能力ならともかく、あんな後付けのドーピング剤なんざこっちから願い下げさ」
嘘、ではないのだろう。
現に美猴はオーフィスの蛇を使ったカテレアを軽蔑するような視線で見ていた。
彼が望むのはあくまでも戦いの場ということだろう。
そんな風に話していると壁に激突し気絶していた一樹が、意識を取り戻して立ち上がる。
「お。もう立ち上がったのかい?しばらくは起き上がれないと思ってたがなぁ。思ったより頑丈みたいで嬉しいぜぃ。でもやっぱりお前さんじゃ俺っちの相手は務まらねぇ。下がってた方が身の為だぜぃ?」
美猴の言葉に反応せずよろよろと体を動かす。
向かってくる気か?と美猴は再び意識を一樹にも向けた。
たとえ力不足でも向かってくるなら相手をする。
その才をここで手折るのは惜しいと思うが、出会った時期が悪かったとしか言いようがない。
闘う覚悟を持つならばそれは誰であろうと等しく戦士と認める美猴の気質による理論だった。
しかし一樹はまるで焦点の合わない瞳でポツリと。しかし2人の耳に届かない程か細い声量で呟いた。
「頼むぞ、―――――」
そんな、知る筈もない名を呟いた。
美猴参戦。彼は一樹のライバルキャラのひとりと最初から決めていました。それに伴い原作より強化されるかも?