太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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3話:御伽噺の前日譚

「――――っがぁ!?」

 

 目を覚まして体を動かすと、日ノ宮一樹は痛みに呻くことになった。

 幸い、堪えられない程ではないため、我慢して体を起こす。

 

「つか、学校出てからの記憶がねぇんだが……?」

 

 どう記憶を思い返しても学園を出た記憶がなく、どう家に帰ったのか記憶になかった。

 痛みのせいでぎこちなく体を動かして一樹はベッドから起き上がるとリビングに出た。

 そこにはいつも通り、台所で白音が朝食の準備をしていた。

 

「いっくん、おはよう。体のほうは大丈夫?」

 

「いや、なんか体がところどころ痛いんだけどな?つか昨日どうやって家に帰ったのかも覚えてねえんだけど……」

 

 身に付けていたエプロンで手を拭きながら白音が判りづらいが困ったような表情で話始める。

 

「昨日、そこの階段で足を踏み外しちゃったみたいで。私が帰って来たときは階段の下で気絶してたんだよ?」

 

「マジで!?」

 

 一樹の驚きに白音は頭を縦に動かした。

 

「アザゼルさんがそのあとにお医者さんとか呼んでくれて。幸い、頭を打った様子はないけど軽い打ち身だけはあるから少し痛みは残るけど直ぐ引くって」

 

「そうなのか!?全然覚えてないんだけどな。でもそれなら後でアザゼルさんにも礼を言っとかないと……」

 

「うん。そうして、ね」

 

 それから白音が近づいてそっと一樹の頬に触れて、身近な者にしか判らないくらいの変化で不安そうな表情を浮かべる。

 

「あんまり、心配かけちゃダメだよ?」

 

「あ、ああ。わりぃな、心配かけた」

 

「うん」

 

 お互いに見つめ合う形になっていた二人に視線が刺さる。

 

「ジー」

 

 態と発音された声の方を向くとそこには黒歌がテーブルに肘を付いて手に顔を乗せた状態でニヤニヤとこちらを向いていた。

 

「いや〜朝から暑いわ〜!」

 

 素手でパタパタと扇ぎながら煽ってくる。

 

「あ、お姉ちゃんを気にしないで続けていいよ?」

 

 そこで白音が手を離して黒歌に近づくとその足を勢いよく踏んづけた。

 

「んにゃっ!?」

 

「バカやってないで早く座って。いっくんはどうする?今日は大事を取って休む?」

 

「いや、行くよ。体は痛ぇけど動かせない訳じゃないからな」

 

 白音の質問に一樹は腕をゆっくり動かしながら答えた。

 

「そう?無理しないでね」

 

「おう!」

 

「最近、白音のお姉ちゃんに対する扱いが雑になってる気がするにゃ~」

 

 それからいつも通りの朝食が始まった。

 

 

 

 

 家を出て、アザゼルと会った一樹は色々手配してくれたことに頭を下げてお礼を言った。

 アザゼルは「ま、何事もなくてなによりだ」と礼を受け取って急いでいたのかそのまま別れた。

 まだ引かない痛みに眉間に皺を寄せながら教室に着き、椅子に座ると木場祐斗が話しかけてきた。

 

「おはよう、一樹くん」

 

「おはよ、祐斗」

 

 いつも通りお互いに挨拶を交わす。そして、話を切り出したのは祐斗からだった。

 

「ねぇ、一樹くん。昨日のことは覚えてるかい?」

 

 祐斗の質問に少し考える素振りを見せ、あぁ!と思い出したように反応を示した。

 

「もしかして白音から聞いたのか?」

 

 その答えに祐斗の顔が強張った。

 

「実はそのことで話が━━━」

 

「いやぁ。昨日家のマンションで階段から転げ落ちたらしくてさ。学校を出てからの記憶が飛んでんだわ!」

 

「へ?」

 

「一応異常は無いらしいんだけど。体が結構痛くてさ!」

 

 顔をしかめながら説明する一樹に祐斗は彼が嘘を言ってるようには感じず、戸惑うがそれを表には出さなかった。

 それから災難だったね。などの言葉をかけると担任が入ってきたため自分の席に戻った。

 

 

 

 

 

 

 体を血の赤で染めた少女が振り向くと面倒だと言わんばかりに溜め息を吐いた。

 しかしこの場に現れたリアスたちを一瞥したあと、特に話しかけることもせず、一樹の元に歩き寄った。

 白音が一樹に触れると僅かに身動ぎし、生きていることが判る。

 それを確認すると祐斗には白音の纏う空気が僅かに弛緩したように感じた。

 

「で?この状況。説明してもらえるかしら?」

 

 自分たちに対してなんの反応も示さない白音にリアスが前に出て説明を求めた。しかし、相手から返ってきたのは簡素で曖昧な返答だった。

 

「さぁ?」

 

「さぁって……」

 

 馬鹿にしているのかと苛立ちが芽生えたが、それより前に白音が言葉を続けた。

 

「本当に私はなにも知りませんよ。今回はいっ――――日ノ宮先輩があのはぐれ悪魔に襲われていた所を助けただけです」

 

 既に生命活動を終えたはぐれ悪魔を指差す白音。

 

「そう。なら悪いのだけれど、少しお話に付き合ってもらうわ。色々とまだ聞きたいこともあるし。そうね、明日の放課後に—————」

 

「お断りします」

 

 リアスの誘いを白音は一蹴した。もちろんリアスからの威圧感が増す。

 

「そんな勝手が認められると思ってるの?拒否するならこの場で力ずくでも連れていって—————」

 

「今回私は身内の危機を助けただけですので。そのような尋問扱いをされる謂れはありません。それに—————」

 

 白音は一拍置いてから宣言するように続きを口にする。

 

「私は、悪魔が嫌いですから」

 

 そう言って懐から符を取り出すと、白音と一樹が突如光に包まれた。

 

「転移術式!?」

 

「待ちなさっ!」

 

 朱乃が叫び、リアスが引き留めようとするが、その前に二人と一樹が抱えていた子供は転移によってその場から消えた。

 

「つっ‼」

 

 悔しそうに顔をしかめるリアス。

 

「部長、どうしますか?」

 

 このまま足跡を追うか判断を仰ぐとリアスは首を横に振った。

 

「今は止めておきましょう。それよりこの場の後始末をするほうが先よ。特に—————」

 

 リアスは建物を僅かに燃えている炎を見る。

 

「この炎、間違いなく悪魔にとって天敵だわ。もし彼女がこの炎を操っているなら迂闊に仕掛けるのは危険かも知れない。少し、様子を見ましょう」

 

 そう決定を下すリアス。これが昨日一樹が気を失っている間に起きていた会話だった。

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。遅れました」

 

「ええ。それじゃあ始めましょう」

 

 部室に集まったリアス、朱乃、祐斗は昨日のことについてだ。

 

「一応、猫上さんを誘ってみましたが断られてしまいましたわ。無理やり連れていくわけにもいきませんし」

 

 いつもの微笑を浮かべているがその声は若干の申し訳無さが含まれている。次にリアスは祐斗に視線を向ける。

 

「彼も昨日の件については覚えてない模様です。彼とは一年近くの付き合いになりますが嘘はついてないかと」

 

「そう。あなたと日ノ宮一樹は仲が良かったのよね」

 

「そうですね。同性の友人と呼べるのは彼くらいです」

 

 苦笑しながら答える祐斗に、そう。と返してリアスは手にしていた資料を開く。

 

「二人のことを調べたのだけど、やはり怪しい点は見つからなかったわ。中学の時も成績は中の上から上の下。部活歴は無しで日ノ宮一樹は家庭の事情により親の知人が保護者としているのが気になるけど。それに―――」

 

「どうしたんですか?」

 

 一瞬口を止めたリアスに祐斗は首を傾げる。

 

「日ノ宮一樹のほうだけど、中学一年の終わり頃に暴力事件を起こしてるらしいの」

 

「暴力事件!?」

 

 リアスの言葉に祐斗が驚きの声をあげる。

 一年近い付き合いの中で彼が暴力を振う印象を持たなかったからだ。

 

「理由はわからないけど、学校の廊下で女生徒を押し倒した後に顔を何回も殴りつけたそうよ。その結果、その女性徒は歯を三本折られて頬骨にもひびが入れた。ちなみにその女生徒は事件後に転校したそうよ」

 

「それはまた随分と……」

 

 朱乃は不快そうに表情を動かす。同じ女として女子に手を挙げた一樹に思うことがあるのだろう。

 

「とにかく、警戒するなら猫上白音の方と資料にあるその姉ね。今回は私たちにとって利のある行動だったけど、次もそうとは限らないわ。それで祐斗」

 

「はい」

 

 呼ばれて返事をする。そして祐斗にはこれから何を頼まれるのか予想がついていた。

 

「申し訳ないのだけれど、あなたは今後、日ノ宮一樹の監視をお願いするわ。できることなら猫上姉妹の情報も探ってほしいの」

 

「わかりました」

 

「ごめんなさいね。あなたの友人を監視させるなんてお願いをしてしまって」

 

「いえ。気にしないでください」

 

 少しだけ友人である一樹に罪悪感を覚えたが、主の頼みを断るという選択肢は彼の中には存在しなかった。

 死ぬはずだった自分を救ってくれた主に報いるのみ。自分はリアス・グレモリーの【騎士】なのだから。

 そこでリアスが話を切り上げた。そして数日後にこの件とは別のことで頭を悩ませることになるとはリアス自身、想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

「日ノ宮くん!?」

 

 数日後、体の痛みが引いてやや上機嫌なまま学校の授業を終えて校舎を出ようとした時、女子に話しかけられた。

 その女子は同じクラスだが話したこともなく、当然親しい間柄ではない相手だった。というか一樹は名前すら憶えていない。

 それが今にも泣きそうな表情で話しかけてきて、一樹は内心、動揺しながらも表に出さないように気を使い反応を返した。

 

「どうした?なにか用か?」

 

「い、今ね!木場くんが兵藤くんを連れていったの!?」

 

「は?」

 

 なんでそんなことを俺に話すよ?と心の中で思いながら相手の話に耳を傾ける。

 

「あの木場くんが兵藤くんに汚されちゃう!?」

 

「なに言ってんだおまえ!!?」

 

 相手の言葉に引きながら一樹は若干声を上げる。

 兵藤一誠は確かに変態だが同性愛なんてことはないだろう。

 

「日ノ宮くん気にならないの?」

 

「珍しい組み合わせだとは思うけど……。ま、そういうこともあるだろ?なんで俺が気にするんだ?」

 

 女子から憧れの対象にされている木場祐斗と女子と一部の男子から嫌われている兵藤一誠とはこれまた面白い組み合わせだと思うがそれだけだ。気になるなら後日、本人に聞けばいいし、無理に知ろうとは思わない。

 

「そんな!?このまま木場くんがあのケダモノに穢されてもいいの!?恋人でしょ!」

 

「ホント、なに言ってんだよおまえ!?つかその発言はそろそろ殴って欲しいっていう合図か!?」

 

 女性徒の言葉に驚きと怒りの声を出す。

 

 この学園には頭の沸いている女子が多いらしく自分と木場祐斗がたびたびそういう妄想の餌食になっているのは知っていたが、ここまでストレートに言われたのは初めてだった。

 本気で殴りたい衝動に駆られるも一樹は大きく息を吐いて落ち着かせる。

 

「気になるなら本人に聞け!じゃあな!」

 

 もうこれ以上関わりたくないため話を切り上げてその場を後にした。

 これ以上話を聞いたら本気で手が出るかもしれない。

 

 

 それから数日後にハーレム王に俺はなる‼と叫んでいる兵藤一誠を見かけ、一樹はそれをとうとう頭のネジが完全に飛んだかと冷めた目線を送ったのはまったくの余談である。

 

 

 

 

 更に数日後。

 一樹たちのクラスではないが、転入生がやって来た。

 名前はアーシア・アルジェント。金髪碧眼の少々小柄で温和な雰囲気が印象の女子だ。

 日ノ宮一樹が彼女と会話したのは知人である桐生藍華の紹介を受けたからだ。

 

「アーシア、こいつがわたしの中学の時からの男友達で日ノ宮一樹ね」

 

 紹介を受けてアーシアは少しだけ緊張した様子だが笑顔を浮かべていた。

 

「は、はじめまして、日ノ宮一樹さん!アーシア・アルジェントといいます!よろしくお願いします」

 

 お辞儀をするアーシアに一樹は驚いたように目を見開いた。

 それにアーシアはなにか間違っていたのかと萎縮してしまう。

 

「あ、あの!どこかおかしかったですか?」

 

「あ、いや!日本語が随分達者なんでびっくりしたんだよ。ネイティブと遜色ないなって。日本での暮らしが長いのか?」

 

「そう言うわけでは……。頑張って勉強しました……」

 

 何故か気まずそうに顔を反らすアーシアに疑問に思ったが特に踏み込もうとは思わず、そうかとだけ答えた。

 

「ほら!一樹も自己紹介しなよ!」

 

「わかってるよ!ったく……桐生に紹介して貰ったように俺は日ノ宮一樹だ。クラスは違うけど困ったことがあったら相談してくれ。俺ができる範囲で力になるからさ」

 

 そう言って右手を差し出すとアーシアもお礼を言いながら嬉しそうに握手に応じた。

 

 

 

 

「いい人でしたね。一樹さん」

 

「でしょ?ぶっきらぼうなところがあるけど、面倒見がいい奴なんだよ。中学のときもアーシアみたいに外国人の子がいたんだけど、色々と面倒見てたしね」

 

「へぇ。そうなんですか」

 

 感心したように声を出すアーシア。

 握手をした後に一樹と話したが、愛想が良いと言うわけではないものの、力になるといったあの言葉に嘘は感じられなかった。

 なぜかアーシア自身の下宿先が兵藤一誠の家であることを話した時は顔を引きつらせていたのが気になったが。

 それと、気になったのが一樹と握手した瞬間、奇妙な感覚が襲った。

 何か、とても神々しいものに触れたような気がしたのだ。

 そう、まるで自分がまだ教会で聖女として活動していた時に一度だけお目にかかることのできた、天使長ミカエルさまにお会いした時と似た感覚。

 

(きっと気のせいですよね……?)

 

 結果として正反対の道を行くことになったが、物心ついてから自身を支えてきた教えとお世話になった教会系列の孤児院で過ごし、ふと思い出してしまったのかもしれない。

 心の中で結論付けて少しだけ険しい表情をしていたアーシアに気づいた桐生に笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 駒は集う。

 

 駒達は向かう。

 

 お伽噺の中心に

 

 くるくるクルクル踊りながら歌いながら。

 

 魂の叫びをスパイスに。

 

 彼ら彼女らはお伽噺を紡いでく。

 

 さぁ、次はどこの頁を捲ろうか?

 

 

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