太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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34話:地獄への片道切符

 一樹は迫り来るいくつもの鋼糸を避けながら対戦相手との距離を詰めたり離れたりしていた。

 

「そんなことじゃ、いつまで経っても攻撃できないわよ!」

 

「うっせぇ!こっから巻き返すんだよ!」

 

 対戦相手の紫藤イリナの使う擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の能力は厄介で、今まで戦ったことのないタイプだったこともあり、苦戦を強いられていた。

 見え辛く、無数に枝分かれした鋼の糸は一樹の集中力を散漫にさせるには十分な要素を備えている。

 これが実戦なら大火力で圧倒するという案もあるが、あくまでも模擬戦。一樹は火力に制限を。イリナは急所への攻撃は極力避けている。

 アーシアがいるため余程のことがない限りは大丈夫だろうが、念には念を入れてだ。

 

 イリナの戦闘は一言で言えば上手い、だ。

 炎を使った遠距離攻撃をおこなっても祐斗の速度で避けるのと違い、細かく、最小限の動きで上手く避けられてしまうため、大した意味がない。それも炎を出す隙を突いて攻撃するために迂闊に出せない。

 ゼノヴィアのようなパワーでも祐斗のように速度でもない。こちらの動きを読み、尚且つ相手の虚を突く戦法を取ってくる。

 

「そこっ!」

 

「やべっ!?」

 

 イリナの聖剣が一樹の足に絡まり、転倒させられる。起き上がろうとしたときには既に遅く、首にも聖剣の糸が絡みついていた。

 

「勝負あり、よね!」

 

「あぁ、降参だ」

 

 ウインクして勝利宣言するイリナに一樹は手を挙げて降参のポーズを取った。

 

 グレモリー邸に滞在している間、一誠はヴェネラナが用意してくれた教師たちに冥界や悪魔社会について勉強している。

 それで暇だからとリアスに相談して体育館くらいの大きさがある訓練場を借りていたわけだ。

 

 それから観戦していたゼノヴィア、裕斗、白音を交えて反省会を行いっているとリアスと朱乃が呼びに来た。

 これから、冥界の観光を行い、その後に若手悪魔同士の会合があるのだとか。

 一樹、白音、イリナはリアスの眷属ではない為、入れないが、途中で黒歌とアザゼルが合流するらしい。

 

 

 冥界と言っても街並は多少SF色の強い近代都市と言った感じでそこまで差異は感じない。かつての魔王が住んでいた現在観光名所で旧首都のルシファードという街だ。

 観光名所になっているだけあり、人の賑わいは相当なものだった。

 人と全く変わらない見た目の者も居れば角や翼の生えた悪魔や動物などの頭部を持つ者。

 多種多様な悪魔が存在している。

 それでも言葉が通じ、商品を買うためにお金を払い、物を渡される。その光景は人間の世界と大差ない光景だった。

 

 途中でリアスに熱狂する悪魔たちには驚かされ、本人は涼しい笑みで手を振っていた。

 聞けば、リアスは魔王の妹やその容姿で冥界でも絶大な人気があるのだとか。

 

 若手悪魔の会合の会場に着いた際にリアスたちと別れ、入れ違う形でアザゼル、黒歌と合流した。

 

「白音!一樹!会いたかったわっ!!」

 

 会って早々に黒歌が2人に抱きつく。

 

「姉さま苦しいです……」

 

「まだ2日と経ってないだろうに」

 

「いや~。アザゼルの傍に控えながら延々と興味のない話を聞かされるのも退屈でさぁ……」

 

「俺だって退屈だったよ!ったくこれならシェムハザの奴も連れてくるべきだったか?こういう話し合いはアイツの方が得意だしな」

 

 あ~かたっ苦しかった、とネクタイを緩めるアザゼル。

 何故かアザゼルがスーツを着ているとホストにしか見えないなと感じたのは内緒である。

 

「若手悪魔の会合はかなり長いから、部長は姉さんたちと合流したらグレモリー家に一足先に戻ってもいいって言ってたけどどうする?」

 

「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうぜ。若手悪魔の会合なんて俺らが見れるわけで無し。ここで何時間も暇を潰すなんて出来ねぇっての」

 

「そうそう。和平を結んだばかりで仕方がないけど向こうだと何につけても監視の目が合って気疲れしちゃったわよ!リアス・グレモリーの家ならある程度そこは緩い筈よね」

 

 どうやら2人とも余程落ち着きたいらしい。

 

「わかった。なら列車の人に言ってくるよ」

 

「おう頼むぜ!」

 

 手をひらひらさせるアザゼルに一樹は苦笑して向こうに足を運んだ。

 そこでさっきから黙っていたイリナに白音が珍しく話しかけた。

 

「どうしたんですか?紫藤先輩」

 

「えぇ。ちょっと今日の観光で色々と驚いちゃって」

 

「?」

 

「教会では悪魔はとにかく滅するものって教えられてたんだけどね。でも今日の観光で冥界の街を見て回って思ったの。あぁ、人間の街と変わらないなって」

 

 店があり、客がいて、賑わう人々。

 それは人間の世界の観光地と然したる違いを感じさせない。そしてイリナの言葉は白音に取っても考えさせられるものだった。

 極端に言えば、白音にとって悪魔とは奪いに来る者、だ。

 理不尽なまでに傲慢であり、自分たちが世界の中心だと思っている。だが、リアスを始め、悪魔と親交を深め、今日の観光を機に白音の中で悪魔に対する印象に若干の変化が起こっていた。

 

 月並みな言葉だが、悪魔にも良い悪魔がいる。リアスやソーナのように。そう考えるくらいには今日の観光は新しい発見に富んでいた。

 

 そんな白音の頭に黒歌が手を置く。

 

「ま、一方から与えられた情報じゃ見えないこともあるってことよね.それに気づいただけでも大したもんよ」

 

「だな。駒王学園の三勢力の若手を一か所に集めたのもそういった誤認の解消にあるからな。それに冥界に関しては誤解も多い。お前たちがそれに気づいたんならこの旅行にも意味があったな」

 

 そう言って笑うアザゼル。そこで一樹が戻って来た。

 

 

「言ってきたよ。白音やイリナも戻るんだろ?」

 

 名前を呼ばれてイリナはふと疑問に思う。

 

「ねぇ、どうしてイッセーくんだけ苗字で呼ぶの?」

 

 イリナの疑問に一樹は首を傾げる。

 基本一樹はオカルト研究部の面々を名前で呼ぶ。中学時代からの友人という桐生も姓名で呼ぶが、これは中学時代の名残らしい。

 

 その質問に一樹は何言ってんだお前、と言わんばかりに不思議そうに返した。

 

「俺と兵藤は同じ部活に所属してても別に友人でもないしな。当然だろ?」

 

「え?」

 

 一樹の答えにイリナは固まった様子を見せる。

 

 日ノ宮一樹にとって、兵藤一誠というより、変態三人組は唾棄すべき対象だった。

 教室で猥褻物を広げるならともかく、女子更衣室の覗きなどは1年の頃、男子に多大な迷惑をかけた。

 まだ、一誠たちが犯人と断定されていない時、男子はとても居心地の悪い思いをしたものだ。

 その影響を逃れたのは女子に対する王子様的存在の祐斗くらいだろう。

 むしろ当時は裕斗に覗かれたいといった雰囲気だったが。

 

 そんな事情を知らないイリナは頬を引きつらせて固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、シトリー家とのレーティングゲームが決まったか」

 

 リアスたちが戻った後に若手悪魔の会合の話を聞いたアザゼルはそう呟いた。

 若手悪魔の会合の前にあった顔合わせでちょっとしたイザコザはあったものの行事が始まれば問題なく進行した。

 一部の件を除いて。

 

 若手悪魔最強と言われるサイラオーグ・バアルは魔王になると宣言し、リアスはレーティングゲームの各大会で優勝することを目標にすると宣言。

 そこまでは良かったが、次いでソーナが発言した夢は古参の悪魔にとって笑いの種にされる。

 

 ソーナは身分、階級問わず受け入れるレーティングゲームの学校を作りたいと言った。

 冥界には今までレーティングゲームの学校は在ったが通えるのは基本、上級悪魔の子供たちのみ。

 だからソーナはそういった特権階級だけが通える学校ではなく、広く受け入れる学校の設立を目指すと進言。

 

 だが現在の老悪魔たちはこれを笑った。

 そんなものを設立する意味はないと。

 シトリー家の次期当主は夢見がちだと。

 

 結果としてはその場にいたセラフォルーが怒って古参の悪魔を黙らせたがリアスの意見としては魔王である姉が介入したことで古参の悪魔たちの心証はかなり悪くなってしまっただろうという。

 

 そこでサーゼクスがひとつの提案を出した。

 それはリアスとソーナの対戦。

 これに勝てばソーナの評価が上がり、夢に近づく可能性を提示して。

 何せ、リアスは伝説の赤龍帝を始め、多くの規格外と呼べる眷属を有している。

 対してソーナは悪くはないが平凡な、面白みの薄い眷属構成。

 これでソーナがリアスを倒せば彼女の育成能力は認められ、学園設立も多少は現実味を帯びてくるだろう。

 当日のゲームには他勢力の者も招待され、観戦されるらしい。

 

 

「レーティングゲームまで凡そ20日間か。それまでにどれだけ鍛えられるか」

 

「修業、ですか」

 

「当然だろ。お前らは揃いも揃って強くなる素質はピカイチだがまだまだそれに振り回されている。目の前に目標が出来たのは良いことだな。遠い目標を闇雲に追いかけるより、目の前に目標がある方が気合が入るだろ」

 

 アザゼルの言葉に一誠は言葉を詰まらせる。

 

 一誠は上級悪魔になってハーレムを築くという目標はあるが、それはまだまだ遠い道程だ。それより、目の前に迫ったソーナたちとのレーティングゲームの方が気が引き締まる。誰だって負けたくはないのだから。

 

「俺の中でお前らの訓練メニューはある程度決まってる。そのためにお前らには専門の先生をサーゼクス経由で頼んであるしな。一樹や白音も含めてお前らを鍛える」

 

「でも、俺たちだけ堕天使総督のアドバイスを受けるなんてなんかズルいですね」

 

「あ?別にお前らだけ贔屓するわけじゃねぇよ。契約上、俺はあっちの神器使いの面倒も看なけりゃならんしな。もっともゲームが終わるまでは当然お互いの情報は秘匿させてもらうがな」

 

 アザゼルが学園に赴任する条件はグレモリー及びシトリー眷属の神器を正しく成長させることだ。ここで一誠たちだけアドバイスを得られるのは不公平だろう。

 

「なにより、どうせなら少しでもレベルの高い戦いが観たいしな。俺はどっちが勝とうが負けようが面白いもんが観られりゃ満足だ!」

 

 そう言って声を上げて笑うアザゼルにグレモリー眷属の面々は息を吐く。

 自分たちの勝負を娯楽扱いされているのだ。仕方ないかもしれないがはっきりと口に出されるとそれはそれで思うところがある。

 

「まっ、ゆっくりできるのは今日までだ。明日からビシビシ行くからしっかり休んどけよ!」

 

 アザゼルがそう締めくくると丁度グレイフィアが入って来た。もしかしたら話の区切りまで外で待機していたと邪推するのは余計だろうか?

 

「皆さま、温泉の準備が整いました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッ!やっぱ冥界と言えば温泉だよなぁ!それもグレモリー家が所有する温泉とくりゃ、名泉も名泉だろ!」

 

 上機嫌に湯に浸かりながらお猪口で日本酒を飲むアザゼル。

 一樹、裕斗、一誠も頭にタオルを乗せて緩んだ表情で温泉を楽しんでいる。

 

「一樹くんは温泉とかよく入るのかい?」

 

「そうだなぁ。姉さんが温泉好きでゴールデンウィークとか長期休みに入ると旅行で入るな」

 

「そ、それってまさか混浴……ッ!?」

 

「んな訳ねぇだろ……つか温泉と言ったらそれしか思い浮かばねぇのかテメェは」

 

 一誠の発想に呆れているとアザゼルが一樹に近づいてきた。

 

「お~い一樹。これ飲んでみろよ。中々の上物だぜ」

 

「お、いただきます!」

 

 そうしてお猪口に注がれた酒を飲む。

 

「へぇ~。日ノ宮って酒飲め……なにやってんだ!?」

 

「はぁ?」

 

「心底不思議そうな顔すんな!お前まだ未成年で高校生だろ!?」

 

「自然と飲んだね、一樹くん」

 

 あまりにも滑らかな場面で流しそうになったがお酒は20歳からだ。

 

「固いこと言うな。ここは日本じゃなくて冥界だぜ?それにこういう時にハメ外しても罰は当たらんだろ」

 

「いや、でも……」

 

「いや~。高校の合格祝いに冗談で飲ませたらハマったらしくてな。それからたまに飲ませてやってたらいまじゃ、日本酒やビールは勿論、洋酒や養命酒もイケる口だぞこいつ?」

 

 今更だがこの堕天使総督様は本当に教師なのだろうか?

 

「普段から覗きやら何やらで犯罪行為に及んでるお前に説教されても説得力ないだろ」

 

「ぐぅっ!?」

 

 アザゼルの養護と一樹の反論に何も言えなくなる一誠。その時、入り口付近でウロウロしている人影を見つけた。

 一誠は溜息を吐いてその人影に近づく。

 

「なにいつまで入り口でウロウロしてんだよ。温泉なんだから入らなきゃだめ……」

 

 だろ、と続けようとしたときにギャスパーの姿を見て一誠は固まってしまった。

 

 身体が細く女顔で普段から女装しているため忘れがちだが、ギャスパーは男子である。それが何故か胸元にバスタオルが巻かれている。

 それがひどく一誠を戸惑わせる。

 

「お前なぁ!そんな位置でタオル巻かれたら色々と変な想像をしちまうだろぉ!!」

 

「い、イッセー先輩が僕をそんな眼で……!?」

 

「とうとう守備範囲と変態度がそこまで進化したか……」

 

「そんなわけあるかギャスパー!日ノ宮も黙れぇ!!」

 

 ツッコまれてそれ以上口には出さなかったのは酒を飲んでご満悦だったからだろう。

 それから一誠がギャスパーを無理矢理温泉に叩き込んだ。

 

「いやぁあああっ!?熱い、溶けちゃうぅうううううう!?イッセー先輩のエッチぃいいいいいいいいいっ!?」

 

「部長たちが隣に居るのになんてこといいやがんだテメェはぁあああああっ!!?」

 

 ギャスパーと一誠の叫びに隣からリアスの声が届かせる。

 

『イッセー!ギャスパーにセクハラしちゃダメよ』

 

 そうして聴こえる笑い声に一誠は耳まで顔を真っ赤にさせた。

 

 

 

 

 

 ところ替わって女湯。

 

「ふぅむ。しかし白音ってなんでこんなに成長が遅いのかしら?あんだけ食べてるのに。私が白音くらいの時はもっとこう―――――」

 

「シメマスヨ、姉さま?」

 

 妹の胸を揉みながら首を傾げる黒歌に白音は笑いながら物騒なことを言う。というか眼が笑っていない。

 

「はうぅ!私も部長さんたちみたいに大きくならないでしょうか……」

 

 自分の胸に手を置きながら悩むアーシアにゼノヴィアがふむと顎に手を置く。

 

「しかしアーシア。私は確かに大きさでは部長と副部長に劣っている自覚はあるが、他の要素では負けていないと思っている」

 

「ゼノヴィア。その話題、聖剣奪還の件で駒王町に来てた時も似たようなこと言ってたでしょ」

 

「そうそう。それにアーシア。白音の幼児体型に比べれば立派なっ!?」

 

 突如後ろに回った白音が黒歌の首を細腕で絞める。

 

「シメルと言った筈ですよ、姉さま……」

 

「ちょ!?ギブギブ!!そんな風にコンプレックスを突かれたくらいで暴力に訴える女の子に育てた覚えは――――」

 

「きるゆー」

 

「ゴッ!?」

 

 そんな2人のじゃれ合い(?)を見ながら3人と少し離れたところにいる朱乃とリアスが苦笑していた。

 顔立ちこそ似ているが本当に正反対な姉妹だと。

 

 黒歌は猫又の上位種である猫魈からか性格が猫っぽい印象を受けるが白音はどちらかというと犬系を連想する性格である。

 そんなことを周りが思っていると、白音が黒歌から腕を外して皆に警告する。

 

「身体、隠した方がいいですよ」

 

「え?」

 

「そ、そうね……」

 

 警告と同時に男女の湯の仕切りを越えて一誠が顔からダイブしてきた。

 

「イッセー……」

 

「いてて……アザゼル先生なにを……っ!?」

 

 目の前にオカルト研究部の女体が並んで一誠は鼻を思わず抑える。ただ、黒歌は一誠を背にして湯に沈んでいたし、白音はタオルで体を隠していたが。

 

 溜息を吐いて白音が一誠に近づく。

 

「なにか、遺言はありますか?」

 

「ゆ、遺言!?い、いやさ!アザゼル先生に無理矢理こっちに投げ飛ばして―――――!」

 

「その前に、覗こうとしてましたよね?聞こえてましたよ。こう見えて耳は良い方なんです」

 

 心底呆れた、を通り越してもはや唾でも吐かれそうなほどの汚物を見下す眼が一誠を射抜いていた。

 身体をタオルで隠しながら両手で使い螺旋丸を作っており、僅かに見える額からは青筋が浮かんでいることからその怒りがどれほどのものか想像に難くない。

 温泉に浸かっていた筈なのに冷や汗をドッと流す一誠はそのまま土下座のポーズに入る。

 

「す、すみませんでした!!どうかお許しをっ!!お慈悲をぉっ!?」

 

「ぎるてぃ、です……」

 

「ノオォオオオオオオッ!!?」

 

 そのまま螺旋丸を叩き込まれ、一撃で意識を沈ませる。

 

 その後、治療に回ったアーシアと朱乃の膝枕を堪能していたため、結果的には役得だったのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、グレモリー家の庭へと集められたオカルト研究部の面々と黒歌。

 学生組とアザゼルはジャージで黒歌は動き易そうな私服だ。

 

「これより、レーティングゲームまでの訓練メニューをひとりずつ渡す!しっかり訓練に励めよ!まずはリアスだ!」

 

 そう言ってリアスの訓練メニューを渡す。

 内容を読むとリアスはふむ、と頷いた。

 

「特別なメニューではないわね。むしろ堅実な印象を受けるわ。でも、ゲームの知識と滅びの魔力の精密操作にやや重点が置かれてるわね」

 

「お前はそれでいいんだよ。お前は現在の若手の中でもどれも高水準で纏まってる。だからお前が今一番育たなけりゃならんのは王としての資質だ。過去のレーティングゲームの記録を見て戦術を学んで視野を広めろ。滅びの魔力に関してはお前のチームは良くも悪くも広範囲の破壊に特化しすぎている。広いフィールドならそれでもいいが、例えば町中で戦わなきゃならん時に全員が周りを壊すだけだと話にならねぇ。そういう戦い方を他の連中も覚えられればいいが、レーティングゲームまでの僅かな時間でそれらを身につけられるのはお前だけだ。ゲームでも実戦でも手数が増えるんならその方がいい」

 

 アザゼルの答えにリアスは成程と頷く。

 

「今回の訓練メニューは長期的なものと短期的なものに別れている。ゲームまでに詰め込むだけ詰め込む奴もいれば、その先を見据えたメニューでもある。お前らはまだ若い。たとえ今回は大した成長は望めなくても、後々に必ず役に立つはずだ。次は朱乃!」

 

 髪を渡された朱乃は表情を即座に歪める。

 

「朱乃。お前はまず自分の中にある【血】を受け入れろ。話はまずそれからだ」

 

「わ、私はあのような者の血に頼らずとも―――――!?」

 

「ライザー・フェニックスとのゲームの記録は観させてもらった。お前、女王の癖に大して役に立たずにイの一番に脱落したじゃねぇか。それでよくそんなこと言えるな」

 

「―――――ッ!?」

 

 ギリッと歯を鳴らす朱乃に構わずにアザゼルは続ける。

 

「リアスの眷属たちはこれからも確実に力を伸ばしていくだろう。お前は女王だが遠距離攻撃以外の能力が低い。それなのにその拘りに固執し続ければ、この先確実に足を引っ張ることになるぞ」

 

「貴方に、堕天使(アナタ)たちにそんなことを言われたくありません!!」

 

 叫ぶように発したその一言で肩で息をするとその場から立ち去ってしまった。

 

「アザゼル……」

 

「なんだよリアス。これは本来、お前が言わなきゃいけないことだったんだぜ?レーティングゲームで勝ち続けるなら朱乃の力を引き出させるのは必須だ。優しいのは結構だが、向き合わなきゃならん事から逃げることは優しさとは言わない。そういった面でもお前はこれから成長せにゃならん。俺の言ってること、間違ってるか?」

 

「……いいえ、そうね。私の方からも朱乃に話してみるわ。でも私は朱乃に光の力を使うことを強要するつもりはないわ。あくまで使うならあの子の意志で、よ……」

 

「ま、それが理想だな。誰かに言われて無理矢理納得するより、自分から踏ん切り付けるほうがいい。次にギャスパー!」

 

「は、はいぃいいいい!?」

 

「お前はまず引きこもりから脱しろ。恐怖心を克服して人前で固まる癖を治せ。お前はただでさえスペックが高いのに反して精神面が脆くて危なっかしいんだが、それを克服すれば間違いなくリアスの眷属でエースになれる資質がある。だからこのマニュアルに従って少しでも勇気を身につけろ!」

 

 渡されたマニュアルを握り締めながらギャスパーは泣きそうな表情で宣言する。

 

「は、はい!当たって砕けろの精神で頑張りますぅうううう!!」

 

 いや、砕けちゃダメだろ、と全員が思ったが、本人のやる気に水を差すのを躊躇われたため、誰も口にはしなかった。

 そして次に祐斗の名前が呼ばれる。

 

「木場。お前はとにかく聖魔剣を少しでも長く維持できるように慣れろ。ついでに通常の魔剣創造も活かせるように工夫しろ」

 

「工夫、ですか?」

 

「あぁ。魔剣創造の1番の利点は多種多様の属性を持つ魔剣を創造できることだ。聖魔剣は強力だが、反面魔剣創造の利点を損なっている面もある。状況に応じてどんな剣を使うのか判断できる訓練も行え。そのための知識は後で渡してやる。剣術の方はお前の師匠の世話になるんだったな」

 

「はい!1から鍛え直してもらう予定です」

 

 そうして次に呼ばれたのはゼノヴィアだった。

 

「お前は自分でもわかってるだろうがデュランダルを少しでも飼い馴らせ。現状、リアスの眷属の中でお前が1番フレンドリーファイアの可能性が高い。なんせ思いっきり振るっただけで聖のオーラを放ってちゃ味方を脱落させる恐れがある」

 

 言われてゼノヴィアが痛いところを突かれたと顔を背ける。

 

「ついでにもう一本の聖剣も使えるようにな。詳細はあとで教える。それと紫藤イリナと模擬戦を繰り返せ。剣士としてお前と対極に位置する相手だ。模擬戦だけでも得られるものはあるだろう。いいよな?」

 

「あ、はい!私にお手伝いできることがあるんでしたら」

 

 最後のはイリナへの確認で本人は快く引き受ける。ゼノヴィアもイリナと剣の腕を磨けることに嬉しさを覚えた。

 

「それと次はアーシア!」

 

「は、はい!」

 

「お前の治療能力は相当なもんだが、わざわざ触れなきゃいけないってのがいただけねぇ。だからお前は自分が行える治療の範囲の拡大に努めろ」

 

「それってアーシアの治療の範囲が広げられるってこと?」

 

 リアスの質問にアザゼルが頷く。

 

「あぁ。だがそれだと敵味方識別せずに治療をおこなっちまう上にその維持だけで相当な力を使うからな。最終的にはもうひとつ上の段階に至ってもらいたい」

 

「もうひとつ、上?」

 

「治癒の力を飛ばすのさ。対象に向けて治癒の力を飛ばして仲間の傷を治す。もちろんそれには即座に対象の傷を見極める知識と経験がいるし、飛ばす以上、直接触れるより効果は落ちるだろうがな。だから訓練中にオカルト研究部の誰かが大怪我を負った場合、お前さんには救護班としての役割も与える。そしてついでに、自衛の手段もある程度身につけてもらう」

 

 その言葉に皆が驚く。

 

「回復役っていってもそれしかできないのはマズイ。真っ先に狙われるからな。だから、お前には黒歌に自衛に使えそうな魔法をいくつか習得してもらう。黒歌、任せるぞ」

 

「了~解~。ま、アーシア。悪いようにはしないけど、結構厳しくいくわよ?」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 そう言って礼儀正しく黒歌に頭を下げるアーシア。

 

 続いて白音の名前が上がる。

 

「お前は螺旋丸と仙術や体術の練度を上げろ。そして転移符を自作できるようになれ。いつまでも黒歌に頼ってる訳にもいかねぇだろ?それに転移符が実戦で切れてもその場で自作できりゃ取れる選択肢も増える。黒歌にそこら辺はきっちり仕込んでもらえ」

 

「……はい」

 

 それは白音自身が磨きたかった項目であるために反論はなかった。そして黒歌が白音にウインクする。

 

「2人纏めて面倒見てあげるわ。どうせ暇だしね」

 

 アーシアは白音と一緒であることに喜んでいる。

 

「あ、あの先生俺は?まだ名前が呼ばれてないんですけど?」

 

 もしかして忘れられてる?と不安になる一誠にアザゼルが待て、と空を見上げる。

 

「そろそろ来るはずなんだがな。お、来た来た!」

 

 アザゼルがそう言うと、突如空が巨大な影で覆われる。

 そしてその巨体は一誠たちの前に降り立った。その存在を一誠は驚いた声で呟く。

 

「ど、ドラゴン!?」

 

 現れたのは15メートル程の大きさを誇る巨大なドラゴンだった。その特撮番組の怪獣のような巨躯のドラゴンはアザゼルに視線を向ける。

 

「アザゼルか。よくもまぁ冥界へ足を踏み入られたものだな」

 

「ハッ!今回は魔王直々の許可があるんだぜ?何か不服か?」

 

「ふん!まぁいい。サーゼクスの頼みだからこそこうして出向いたということを忘れるなよ?」

 

「へいへい。と、いうわけでイッセー。こいつがお前の先生だ」

 

 笑いながら親指を指してとんでもないことをぬかすアザゼルに一誠は絶望の声を上げる。

 

「お、俺の先生!?このドラゴンさんが!?俺死んじゃいますよ!!」

 

 一誠の言葉をアザゼルは聞き入れる様子はなくま、大丈夫だろ、と他人事のように言う。

 そして一誠の左手に宿るドライグが巨大なドラゴンに話しかけた。

 

『久しいな、タンニーンよ』

 

「ドライグか。今はその小僧を宿主にしているか」

 

「へ?知り合いか、ドライグ?」

 

『あぁ。前に五大龍王のことは話しただろう?こいつはそれが六大龍王だったころに活躍していたドラゴンで悪魔に転生したことで五大龍王に変わったんだ』

 

「龍王を辞したとはいえ、タンニーンが現役で活躍する最上級悪魔であることには変わりない。その火の息は隕石の衝撃に匹敵すると言われてるほどの力を持っている。悪いがタンニーン。この赤龍帝のガキを鍛えてくれ。ドラゴンの力の使い方をな」

 

「俺が教えずともドライグが教えればいいだろう?」

 

『それでも限界がある。やはりドラゴンを鍛えるといえば……』

 

「実戦形式か。いいだろう。その話、承った!」

 

 そう言って一誠をその巨大な腕で掴むタンニーン。一誠はそれに異議を唱える。

 

「し、死ぬ!ホントに殺されるぅうううっ!?」

 

「気の毒にな、兵藤。生きて帰って来いよ」

 

 さすがに今回は本気で同情する一樹にアザゼルが予想外の一言を放つ。

 

「なに言ってんだ一樹?お前も行くんだよ」

 

「ホワット?」

 

 思わず英語で訊き返してしまった一樹を無視してタンニーンに依頼する。

 

「ついでにこいつも頼むわ。一応そこの赤龍帝と同じくらいの力があるから一緒に鍛えてくれ。期限は今から20日間程な!」

 

「ふん。まぁいいだろう。この赤龍帝の小僧1人ではすぐに殺してしまうかもしれんしな」

 

 そう言って一誠を掴んでいる手とは反対の手が一樹を包む。

 一樹が文句を言う前に白音がアザゼルの服を引っ張った。

 

「アザゼル先生!いくら何でも……っ!?」

 

「大丈夫だ。あぁ見えてアイツは何匹のドラゴンを鍛えて来た。鍛えるに関してはそれなりに信用できる。それに万が一の時はアーシアを即座に寄越すさ。ましてやグレモリー家の客人を殺すなんて不手際をやらかすほどマヌケでもねぇだろ」

 

「ふん!言ってくれるな。それではリアス殿。あの山をお借りしても?」

 

「えぇ。死なない程度に鍛えてあげてちょうだい!」

 

「部長!助けてください!」

 

「イッセー!一樹!貴方たちが逞しくなって帰ってくるのを楽しみにしてるわ!」

 

 サムズアップしてエールを送るリアスに一誠はガクンと絶望の表情を滲ませる。一樹は黒歌が笑顔で手を振っているのを見て、あまりの事態に肺活量の限界まで叫んだ。

 

「なんでさぁああああああああああああああああああっ!!!?」

 

 

 

 

 

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