太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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今回、一樹が猫姉妹に引き取られたばかりでまだ馴染んでなかった頃の話を。


幕間2:家族のはじまり

「いい?術の構成はできる限り正確に。発動する際には魔力が術式に引っ張られる感覚がするのよ。その引っ張られた分の魔力で術の強弱が決まるわけ。特に攻撃魔法なんかはね。ただ、高度な術式なんかになると込められる魔力量の最低値と最高値が決められているのもあるからうんぬんかんぬん―――――」

 

 ホワイトボードに文字を書き込みながらアーシアに魔法の基礎を叩き込んでいた。黒歌の口での説明と書きこまれた説明を生真面目にノートに記していくアーシア。

 

「白音。転移符の書き方はだいぶ慣れてきたわね。でもまだまだよ。最終的には自分の血とか妖力だけで作成できるようにしないとね!」

 

「はい、姉さま……」

 

 2人に教鞭を執りながら的確に問題点を指摘していく。

 

 それから、ある程度の時間が過ぎて黒歌が休憩時間に入る。

 

「いや~ホントにここ数日で2人とも驚くくらい進歩してくれて先生嬉しいわ~」

 

 冗談めかして言う黒歌にアーシアは顔を赤くして白音は巻物に目を通している。

 

 ここ数日でアーシアは簡単な魔法を幾つか習得していた。

 それはアーシアの才能もあるが、黒歌の教えが上手いという理由もある。アザゼルが教師役に推薦するだけはあった

 

 白音のほうも転移符の作成は時間がかかるが身に付け、その他に起爆符の作成も可能にしていた。

 滞在中は無理だろうが、このまま黒歌の教えを受け続ければ、アーシアは傷の治療だけでなく、解呪、解毒系の技能も覚えるかもしれない。

 白音も転移するだけでなく、対象を空間を隔てて自分の元へと呼び寄せる口寄せという術も習得できる可能性がある。

 いや、まず間違いなくするだろう。2人はそれだけの才能を有し、また勤勉であるのだから。

 

 そこでアーシアが黒歌と白音に質問した。

 

「あ、あの……こういうことを興味本位で聞いていいのかわからないんですけど……」

 

「ん?質問は大歓迎よ?」

 

「いえ、勉強には関係ないんですけど……どうして一樹さんはお2人に引き取られたんですか?」

 

「あぁ、そのことね。確かに気になるでしょうね。まぁ隠してるわけじゃないんだけど。一樹の両親が亡くなった理由は知ってる?」

 

「以前、火事で亡くなったと……」

 

「そ。で、その後一樹はね、叔母の下へ引き取られたんだけど、その人が問題の多い人でね。一樹のご両親が残した保険金とかその他諸々の財産目当てで引き取っただけで碌に面倒も見ていなかったらしいのよ。私たちが見つけた時は年末の寒空の下で薄着で家から追い出されてた状態だったし」

 

「おいだされた、ですか……」

 

「そ!その叔母さんが男を連れ込んでて邪魔だからって」

 

「そ、それは……!」

 

「うん。虐待よね。実際体には殴られた痣とか火傷の痕とかたくさんあったし」

 

 軽い調子で言うが、その眼は決して笑っていなかった。むしろ憤慨しているのを悟らせないためにあえて軽い口調で話している印象だ。

 

「それで、一旦家に連れ込んでご飯を食べさせてね。そこで意識が緩んだのか眠っちゃって。その間に然るべきところに電話したりしてその叔母さんは児童虐待で逮捕されて。その後に私が後見人って形で引き取ったわけ」

 

 当時のことを思い出してか宙を見つめる。

 

「どうして、黒歌さんは一樹さんをお引き取りに……?」

 

「以前、一樹のご両親にはお世話になったことがあってね。亡くなったことは知ってたけどまさか虐待されてるとは思わなかったわ。それで偶然見つけたのも何かの縁だと思って引き取ることに決めたの。もっとも、最初の頃はかなりギクシャクしてたけど」

 

「そうなんですか!?」

 

 黒歌の言葉にアーシアは驚きの声を上げた。

 少なくとも今は気遣う態度は多く見られるがギクシャクしているようにはアーシアには見えなかった。

 アーシア自身、兵藤邸ですぐに馴染んだことも原因だろうが。

 

「そりゃそうよ。赤の他人がいきなり家族になるんだもの。歩み寄るのにちょっと時間がかかるでしょ」

 

 出されていたお茶を飲み干して懐かしそうに息を吐く黒歌。

 

「ホント、あの頃の一樹は私たちに嫌われないようにビクビクしてて――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……手伝おうか、白音……」

 

「ん。これくらいなら大丈夫だよ。ありがとう。いっくんは休んでて……」

 

「あ、うん、わかった……」

 

 それはまだ、一樹が猫上家に招かれて、数カ月が過ぎ。春休みに入る少し前のことだった。

 当時の一樹は嫌われないようにと他人行儀な子供だった。

 自分の意見というものが基本無く、猫上姉妹の意見に従うだけ。

 家事などを手伝おうとしても、今まで白音ひとりで上手く回っていたため、改めて一樹が手伝うことも少なかった。

 

 

 

「上手くないわねぇ」

 

 そんな現状を煎餅を齧りながら呟く。

 一樹は今外出しており、家に居るのは黒歌と白音だけだった。

 

 一樹の現状はお世辞にも良くない。

 こちらに気を使いすぎてストレスも溜まっているように感じる。それは一樹だけでなく白音も。

 

「叔母に虐められてた影響か、こっちが不用意に接触すると怯えられちゃうしね」

 

 一樹がここで暮らし始めた当初、黒歌が後ろから冗談で抱きついた際にひっ、と声を上げて拒絶されてしまった。

 その時の表情。アレは照れているのではなく明らかな怯えの色だった。

 

「でも、いっくんは私たちと一緒に暮らすことを選んでくれた。今は、少しだけ擦れ違っても解決法はある筈」

 

「せっかく術をかけてこっちを選んでくれるように誘導したんだしね!仲良く楽しくいかないとね!」

 

 黒歌の台詞に緑茶を飲んでいた。白音の動きが止まる。

 

「……姉さま、今なんて言いました?術をかけたって聞こえましたが」

 

「ん?あぁ。一樹を引き取ったときに少し術をかけてうちに来やすいように仕向けたのよ。言ってなかったっけ?」

 

「!?」

 

 それを聞いた白音は立ち上がって黒歌の腕を捻りあげる。

 

「ね・え・さ・ま!一体なんてことを……!」

 

「イタタ!痛い痛い!だって調べたら他の親戚筋の人は一樹を引き取りたくなさそうだったし!施設で暮らすより良いかなって!そ、それに術をかけたって言っても遠慮とかそう言うのを薄くしただけで強制的に言質を取ったわけじゃ……!」

 

「だからって妖術で意識に介入するなんて許されるわけないでしょう!」

 

「誰も損してないから良いじゃない!それに白音だって喜んでたでしょー!」

 

 言われて白音の捻っていた腕の力を弱める。黒歌が一樹を迎えにいったあの時、なんとかするからという言葉を聞いて方法を確認しなかったのは白音だ。

 単純に浮かれて。

 この件に関しては白音にも責任がある。

 

「……これから人に暗示をかけるの禁止ですよ、姉さま」

 

「お~け~!お~け~!お姉ちゃん約束するから!」

 

 白音は嘆息しながら腕を外し、黒歌は自分の手首を揉む。

 

「それに、今更追い出すなんて選択肢もないでしょ?人間関係っていうのは、どんな風に始まったかじゃなくて、どう紡いだかが重要だとお姉ちゃんは思うな~」

 

「……姉さまが言えることじゃないです、それ」

 

 拗ねたようにそっぽ向く白音に黒歌は苦笑して肩を竦めた。

 

「一樹の不眠症のこともあるし、何とかしないとね。このままじゃお互いに疲れちゃうし」

 

 つい最近発覚したが、一樹は不眠症を患っている。登校中に倒れるほどに深刻なものだった。

 今は薬で誤魔化しているが、いつまでもそれに頼っているわけにもいかないだろう。

 

「なにはともあれ、現状を変えるために手を打たないとね。だから―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「温泉旅行、ですか……」

 

「そ!近々2人も春休みに入るでしょ。私も休み入れてあるし、2泊3日で。あ、宿泊期間に近くでちょっとしたお祭りもあるみたいだから、そっちも楽しみましょ!」

 

 雑誌を広げつつ説明する黒歌に一樹がおずおずと手を挙げる。

 

「あの、それ俺も行っていいんですか?」

 

「もちろんよ。むしろなんで置いてきぼりするって発想に至ったのかしら?」

 

「えっと……」

 

 訊き返されてどう答えるべきか悩む一樹の手を白音が握った。

 

「温泉、楽しみだね」

 

 そう微笑を浮かべる白音に一樹はあ、うんと頷く事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの人に引き取られた当初は、少しでも良好な関係を築こうと自分なりに努力していた。

 やったことはない家事を引き受け、多少の暴言暴力は我慢した。

 毎日邪魔者として扱われても言うことを聞き、逆らわない。

 何か嫌なことがあったり、酔っ払う度に暴力を振るわれる。

 煙草の火を体に押し付けられる。

 あの人が欲しかったのは、自分が受け取った両親の遺産や保険金であって、自分はむしろ居て欲しくない存在だということはすぐに気づいた。

 もっとも出て行かれれば金も手を付けられないから出て行かれても困るのだろうが。

 

 いつも違う男の人を連れ込んだ時に目が合うと決まって煩わしそうに言われた一言が身に残る。

 

『なに見てんの?鬱陶しいからどっか消えなさいよ!』

 

 あの自分の居場所がどこにも無い地獄は今でも身を凍えさせるほどに心に棲みついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の卒業式も終わり、一樹は次に中学生に上がる。

 その前の春休みで予定通り温泉旅館に来ていた。

 着いたのは夕方に差し掛かる時間帯で。

 

「いや~。旅っていいわよね~」

 

「あの……同じ部屋なんですか?」

 

「そよ。なんかおかしい?」

 

「いえ、なんにも……」

 

「ほらほら!こんな美人姉妹と一緒の部屋で過ごせるんだからもっと喜びなさい!」

 

 黒歌は一樹の顔に自分の胸を押し付けてくる。ただ一樹としてはもう中学に上がる年齢で。だからこそ色々と意識して困っているのだが。

 というか黒歌の豊満な胸とかに顔を埋める形になっているためそれだけで耳まで赤くなっている。

 

 見兼ねた白音が2人引き離した。

 

「それで、姉さまこれからどうしますか?」

 

「温泉宿に来たんだからやることなんて決まってるでしょ!あ、混浴在るみたいだから一樹も一緒に入る?」

 

「いえ!ひとりで入りますよ、黒歌さん!?」

 

 顔を真っ赤にさせて首を振る一樹の初々しい反応に黒歌は心の中でイタズラ心が芽生えながら肩に手を置く。

 

「え~。ひとりで入ってもつまらないでしょ?それとも私たちと一緒に温泉入るのイヤ?」

 

 甘ったるい声で囁かれて声が出せなくなっている一樹に白音が黒歌の体を再び離す。

 

「私たちは先に入ってるから……いっくんもゆっくりしててね。いきましょう、姉さま」

 

「ちょ!?白音、首引っ張らないで!それに白音も一樹と入りたいでしょ!ここで色々アピールしておかないと後々に寝取りフラグぐぎゃっ――――」

 

 絞め落として姉を引き摺っていく白音。

 それに唖然としながらもこれからどうするか考えて。

 

「俺も、温泉入ろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いった~。白音最近容赦無さすぎ……」

 

「姉さまもあんまりいっくんを困らせないの」

 

「スキンシップよ、スキンシップ!でもちょっと強引すぎたかしら?」

 

 脱衣所でジト目を向けてくる白音を軽く流す黒歌。

 黒歌も一樹との現状にもどかしさを覚えているのは同じだ。

 しかし1日2日でどうにかなる問題ではないのも事実だ。こればかりは気長にやっていくしかない。

 気落ちした風の白音の頬を引っ張った。

 

「はいはい。そんな暗い顔しないの。一樹だっていつまでもこのままじゃいけないってことがわからない子じゃないことは私たちだってしってるでしょ?あともう一歩踏み出すきっかけが足りないだけ。焦らずにいきましょう」

 

 黒歌の言葉に白音はコクコクと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男湯の温泉に浸かりながら天井を見上げていた。

 この旅行が自分を想って企画された旅行だということは一樹自身薄々と気付いている。

 黒歌が事あるごとに絡んでくることや白音が気を使ってくれていることも。

 気付いている。気付いているのに。

 

「鬱陶しいからどっか消えなさいよ!」

 

 事あるごとにあの叔母の顔がチラついて身が固くなるのだ。

 その上この前、不眠症で倒れるなんていう失態までかましてしまった。

 

 迷惑をかけたくない。

 仲良くなりたい。

 嫌われるのが恐い。

 どうしたらいい?

 様々な感情が渦巻いて一樹の処理能力を大きく上回っていた。

 

「なんて、情けない」

 

 自分の無様さに反吐が出そうだった。

 温泉という心身ともに癒す場でさえ一樹の中にある煩悶とした気持ちは洗い流せそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 先に戻ってきた一樹はひとり呆っと過ごしていた。

 というより、何をしたらいいのかわからないだけなのだが。

 数十分後に猫上姉妹が戻ってきた。

 何故か黒歌が表情が引きつっていた。

 

「どうかしました?」

 

 首を傾げて訊く一樹に白音は僅かに口元を吊り上げて苦笑しており、黒歌が答える。

 

「うん。ちょっとね。温泉に入っている間に白音の髪を洗ってあげてたんだけど。その時おばあさんに話しかけられて、こう言われたのよ――――――」

 

 ――――――()さんと仲が良いですね。

 

「って……」

 

 白音はもうすぐ小6に上がる年齢だが、小柄で小学校の低学年に見える。

 対して黒歌は20歳ほどらしいが、その発育の良さから実年齢より上に見える容姿をしている。

 その為に勘違いをされたのだろうが、本人にはショックだったらしい。

 

「私って子供を儲けてるように見えるのかしら?」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべる黒歌。

 そこで一樹から声が漏れる。

 

「く、はは……娘って……」

 

 口元を押えて笑っていた。

 心の底からおかしくて堪らないと言った感じで。

 その姿に姉妹は目を丸くした。

 一緒に暮らし始めてこんな風に笑う一樹は初めて見たからだ。

 

「なによー!一樹も私がそんなに年配にみえるのー」

 

「す、すいません!でも母娘に間違われるとか……」

 

 尚も笑う一樹に黒歌が絡む。

 そんな一樹に安堵したように白音は笑った。

 あの笑顔を見れただけでも旅行に来た甲斐があったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を食べて少しだけ距離を縮めた三人は布団を横に並べて横になっていた。

 

「俺が真ん中なんですね……」

 

「嬉しいでしょ?」

 

 イタズラっぽく笑う黒歌に一樹は曖昧な笑みを浮かべる。

 そこで黒歌は穏やかだが真面目な口調で話しかける。

 

「……一樹。もっと自分の思い通りに過ごしていいのよ」

 

「え?」

 

「私も白音も一樹と暮らせて良かったって思ってる。だからもう少し自分に正直に生きていいんだから」

 

「……どう、して」

 

 そこまで想ってくれるのか。

 ただ叔母に虐待されていたところを偶然出会った姉妹。

 同情だけでこうも親身になってくれるものなのか?

 黒歌はそれに答えずに一樹の頭を抱き寄せ、白音も背中にくっついてくる。

 

 この時感じた温かさと安堵に覚えがあった。

 小さい頃、暗くなった家が恐くて眠れなかった時に母に添い寝してもらった時に感じた安らぎ。

 

 今日はぐっすりと眠れそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 季節外れのお祭りは思いの外賑わっていた。

 外来の客が多いらしい。

 

「これははぐれないように気をつけないとね」

 

 などと言っていた筈の黒歌が真っ先にはぐれてしまったわけだが。

 

「自分で言っといて……」

 

 呆れたように声を出す白音。

 

「まぁ、姉さまなら自分で何とかするでしょう。行こう、いっくん」

 

 手を引っ張られて祭りの中を歩く。

 途中で気になった屋台を見たり買ったり遊んだりしながら過ごした。

 射的で遊んだ際に撃ち落とした猫の人形を上げると白音が顔を赤くしながらも笑ってくれた。

 

 そうして祭りの最後に演舞があるらしく、そこを観るために客が集中して移動したため、人混みから出ようと動いた際に白音ともはぐれてしまった。

 

「マズイ……」

 

 白音ともはぐれて一樹は目元を覆う。

 携帯で、連絡を取るべきだろうか?

 そう思案しながら周りを見渡す。

 周りの客はやっている演舞に夢中になっていて一樹の存在など目もくれていない。

 それは当たり前のことだが、それがまるで自分の存在がこの場から切り取られているように感じた。

 孤独という恐怖がじわじわと押し寄せてくる。

 このまま自分がいなくなっても誰も気づかないのではないかという不安。

 だが、同時に消えてしまいたいという願望。

 ここに自分がいる意味が見出せずにいる自分なんてという思い。

 

 イッソココデキエテシマエバイイノデハナイダロウカ?

 

 そんなくらい感情が生み出されている中で誰かが一樹の視界を塞いだ。

 

「だ~れだ!」

 

「くろ、歌さん……」

 

 正解!と目隠しを外されて振り向くとそこには黒歌が立っていた。

 

「なに暗い顔して立ってるのよ。ダメじゃない白音とはぐれちゃ」

 

「あ、すみません」

 

「ま、最初にはぐれた私が言えたことじゃないけどね。ほら行きましょ。白音もすぐに見つけてって必要はなかったみたいね」

 

「いっくん!姉さま!」

 

 少しだけ息を切らせて早歩きで白音がやってきた。

 

「2人とも、俺を探して……」

 

「?当たり前でしょ?家族なんだから」

 

 本当に当然のことのように言う黒歌に一樹は目を見開く。

 そんな一樹の手を白音が握る。

 

「家族だよ、私たちは……」

 

「そうそう!ほら、今度ははぐれないように手をつないで行きましょ」

 

 反対の手を黒歌に握られて2人に引っ張られた。

 

「あ、うん。白音。姉、さん……」

 

 ピタッと動きが止まる。

 

「今の、もう一回言ってみて」

 

「えっと……姉さん?」

 

 その呼称に黒歌が目を輝かせた。

 

「ヤバイヤバイヤバイ!これはちょっと不意打ちだった!」

 

 頬を緩めて喜の感情を浮かべる。

 一樹なりの家族として過ごす相手との決意表明みたいなものだったのだが思った以上に気に入られたらしい。

 この2人の家族で居てもいいんだという安心感。それを現しての呼び方だった。

 この件から一樹は笑うことが増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この一件で格段と距離が縮まったわけじゃないけど、これがきっかけだったのも事実ね。不眠症もこれから少しずつ良くなっていったわ」

 

「はぁ。色々とあったんですね」

 

 人に歴史ありは言い過ぎかもしれないが、少なくとも一樹と猫上姉妹が最初から今のような家族関係でなかった3人の仲が深まった経緯を聞いて自分のことを考えさせられた。

 

 アーシアが兵藤邸に迎え入れられた時は一誠の両親はとても喜んでくれてすぐに打ち解けた。もちろん最初は異国ということもあって戸惑うことは多かったが。今では胸を張って家族と言える人達だ。

 他者の話を聞いて自分が恵まれていることを改めてアーシアは実感した。

 

 そこで黒歌が手を叩いた。

 

「それじゃあ休憩は終わりにして続きを始めましょう。白音と組手するから、アーシアは怪我した白音を即座に治療してね。直接手に触れるんじゃなくて飛ばすか範囲を広げて治療してね」

 

「はい!」

 

「姉さまが怪我する仮定がないんですけど……」

 

「ふふん!白音にお姉ちゃんが傷つけられると思ってるの?」

 

「絶対一撃入れます……」

 

「その意気よ」

 

 そうして訓練を再開する。

 次の日にアザゼルに一樹と一誠の治療を頼まれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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