太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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37話:冥界の人々と対面

 タンニーンの背に乗ってグレモリー邸に戻ってきた一誠と一樹はまず祐斗と顔を合わせた。

 

「2人とも随分良い体になったね。イッセーくんは筋肉が少し大きくなったように感じるし、一樹くんは以前の合宿の時より身体が引き締まって見えるよ」

 

 身体をペタペタと触られた一誠は身の危険を感じて距離を取った。

 

「やめろ、触るな!そんな眼で俺を見るなぁ!」

 

「そこまで言わなくても……」

 

「祐斗の方は訓練どうだったよ?師匠のところに行ってたんだろ?」

 

「うん。やっぱり神器の特性に頼ってばかりで純粋な剣技の研鑽を疎かにしてるって言われちゃったよ。だから一から鍛え直してもらった。他にも色々と教えて貰えたよ」

 

 それはつまり当たり前だがさらに剣技に磨きがかかったということだ。

 まだ成長の余地があるのかよと一樹は内心で複雑な気分だった。

 

 話していると次にゼノヴィアとイリナが現れる。

 

「やぁ、3人とも、久しぶりだね!」

 

「っていうかイッセーくんと一樹くん。すごい恰好……」

 

 言われて一樹は自分の格好を見る。

 山での修行でボロボロになったジャージは胸から腰のあたりまで無くなっており、下半身も左側が無くなってところどころ穴だらけだ。

 確かに端から見れば酷い恰好だろう。無性に着替えたくなってきた。

 

 次に合流したのは猫上姉妹とアーシアだった。

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアが小走りで一誠に近づく。

 遅れて白音と黒歌も一樹に傍に寄った。

 

「久しぶり、白音、姉さん。白音は弁当ありがとな」

 

 頭を撫でると白音がうん、と微笑む。

 最後にリアスと朱乃が現れた。

 

「外出組も帰って来たのね」

 

「ウォオオオオオオ、部長ォオオオオ!!」

 

 咆哮する一誠に一樹はうるさいと蹴りを入れた。しかしそれに構わず一誠はリアスに近づく。

 

「部長!兵藤一誠、ただいま帰還しました!!」

 

「よく戻って来てくれたわイッセー。それに一樹も。体つきが随分逞しくなって」

 

 敬礼をする一誠にリアスは嬉しそうに後輩の成長を喜ぶ。

 

「さ、入ってちょうだい。シャワーを浴びて着替えたら修業の報告会と行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリー邸の一室でオカルト研究部の面々はそれぞれの修業の成果を報告し合っていた。

 ただその中で一誠と一樹が気になったのはひとつ。

 

「なんか俺らだけ酷くないですか?なんで俺らだけ山で野宿してんスか?他のみんなは最低でも小屋とか用意されてるのに」

 

「あぁ。俺も驚いたよ。まさかお前らが山でサバイバル生活できてるとは思わなくてよ。途中で逃げ帰ってくるかと思ったぜ」

 

「あんな山からここまで足で帰れるわけないでしょう!?」

 

「あ、そっか」

 

 どうでもよさそうに返すアザゼルに一樹と一誠は頭を抱えた。

 アレからサバイバル生活に慣れて一誠は川魚の捕獲技術が上昇し、一樹は槍で動物を捌けるようになったのだ。

 

「ま、いいじゃねぇか。そのおかげでイッセーは禁手化にも至れたわけだし」

 

「そうですけど!」

 

「一樹も鎧の力が増えただろ。結果オーライだよ」

 

 手をヒラヒラさせるアザゼルに一樹は嘆息した。

 

「とにかくレーティングゲームまでにイッセーが禁手化に至れたのは幸いだったな。禁手に至れない可能性も考えてたし。だがまだ使いこなせてるわけじゃないだろう。イッセーお前の口から禁手のメリット、デメリットを説明してくれ」

 

「えっと先ず禁手化するためには2分間の溜めを必要とします。その間は倍加も譲渡も出来ません。それに禁手を使おうとすると途中で止めるのも無理です。それと可動限界途中で鎧を解除してもその後丸一日は禁手どころか通常の赤龍帝の籠手も使えません。一応最大維持時間は30分です。戦闘だともっと短いでしょうけど」

 

 一誠の説明を聞きながらリアスは長所と短所を頭の中でまとめ、ゲームでの使い方を思考し始めた。

 アザゼルは腕を組んで意見を述べる。

 

「その2分間は命取りだな。だが、一樹との戦闘で対人戦が鍛えられたのは僥倖か。神器無しでどこまで出来るか疑問だがな。少なくとも真正面からなら瞬殺ってことはねぇだろ。ま、デメリットの克服は今後の課題だな」

 

「はい。すみません」

 

「別に謝るこたぁねぇよ。歴代の赤龍帝が禁手に至った際のデータとほぼ一致するしな。だが、おそらくシトリー側もお前さんが禁手に至ること前提で戦略を練ってくるだろうさ。使いどころは慎重にな。お前の長所は倍加の火力もそうだが、譲渡のサポートも大きな力なんだからよ」

 

 そこで黒歌が口を挟む。

 

「それで、一樹の鎧の力が増えたって聞こえたけど?」

 

「あ~、なんか浮遊する盾みたいなもんが出てきたな。イッセーの禁手で放ったドラゴンショットも防げるくらい頑丈な」

 

 そこでみんなの視線が一樹に向く。

 

「前にも言ったが一樹のソレは神器じゃない。どういう条件で出たのかはまだ不明だ。だが、おそらくは―――――」

 

 そこでいったん言葉を切る。

 

「確証のないことを言っても仕方ねぇな。とりあえずお前たちは明日のパーティーを楽しめ。報告会は終了だ」

 

 手を叩いてアザゼルはその場を解散させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の夕刻。パーティーに着ていく服としてやたら高級感のあるスーツを着ていた。

 本来これはグレモリー家に親交ある身内だけのパーティーであるため、制服でも良かったのだが、黒歌が口を挟んできたのだ。

 

「私たちがドレスとか着るんだから一樹たちもそれ相応の格好をしないと不自然じゃない?」

 

 という発言に始まり、リアスが悪ノリした結果、男性陣も急遽スーツで参加ということになった。

 もちろんパーティーで着ていくようなスーツなんてもってないため、グレモリー家から借り受けたわけだが。

 

(着慣れねぇ。サイズがキツイわけでもないのに圧迫されてるように感じるな。髪も整えられちまって違和感しかねぇ)

 

 棒立ちになっていると見知った顔が声をかけてきた。

 

「もしかして、日ノ宮か!?」

 

「……もしかしなくても日ノ宮だよ」

 

「お前どうしたその格好!」

 

「色々あってな。急遽オカ研の部員はスーツかドレスで参加だそうだ。部長命令で」

 

 スーツはリアスの家から借りたと説明する。

 

「マジか!それだと学園の生徒で制服は俺だけじゃねぇか!浮いちまうかなぁ」

 

「今から支取会長に頼んでみたらどうだ?案外、用意してくれるかもよ」

 

「いや、それがさ。スーツ貸そうかって訊かれた時にどうせお前たちも制服だろうと思って断っちまったんだよ。今からまた頼むのもな~」

 

 困ったように膝を抱える匙。しかしすぐに会話を切り替えた。

 

「なぁ、日ノ宮。お前、若手悪魔の会合の時のこと聞いてるか?」

 

「支取会長が新しいレーティングゲームの学校を作りたいって言って古参の悪魔たちから笑われたことか?」

 

「あぁ。会長は上級悪魔だけを優遇するんじゃなくて下級や転生悪魔たちにもすごい人材が眠ってるんじゃないかって学校の設立を考えたんだ。建前上は下級、転生悪魔にも上級悪魔になる機会があるって言ってもそれは本当に稀なことでさ。基本、下級は中級悪魔昇格で止まるのがほとんどだし、転生悪魔に至っちゃさらに壁が高くなる。ましてや三勢力が和平を結んじまって戦争も起きないから下の人間が活躍して認められる機会なんてゲームくらいしかないらしいんだ。もしくは余程専門技術に秀でた奴とかさ」

 

 話していくうちに熱くなってきたのかその声には確かな熱が灯る。

 

「戦争が終わったことは良いことだと俺も思う。でも下級でも能力のある奴や頑張ってる奴がいつまでも機会すら与えられないのはおかしいだろ。だから俺たちはゲームに勝って本気だってことを証明して、レーティングゲームの学校を設立する。そしたら俺、そこで先生をやりたいんだ。兵士の戦い方を教える」

 

 先生になるという匙の言葉に一樹の目が見開く。

 

「その為に、いっぱい勉強して、ゲームを経験して。色んなモンを蓄えてさ。俺だけじゃない。他の眷属の奴らだってそれを夢見てる。会長の夢が俺たちの夢だから」

 

 そこで不安そうな表情で一樹を見た。

 

「日ノ宮はどう思う?会長の夢」

 

「……新しいことを始めるなら古い連中に反発が起きるのは当然なんじゃないか?今までやったことがないってことはそれだけ結果が未知数なわけだし。保守的な考えの人には受け入れられないだろうな。少なくとも結果が出るまでは」

 

「でも会長はその為に駒王学園で色んなことを学んだんだぜ!」

 

 てっきり賛成してくれるものだと思っていた匙は手厳しい意見を言う一樹に声を荒らげる。

 

「その努力だって別に誰かに見せてたわけじゃないだろ?結果しか見ない人たちにとって支取会長の目標が夢物語だって思っちまうのも理解はできる」

 

 でも、と言葉を続ける。

 

「それが悪魔社会に本当に必要だって言うなら賛同する悪魔(ひと)は出てくるだろう。その為にもまずは結果を見せなきゃいけないんじゃないのか?」

 

 ま、頑張れよ、と肩を叩く一樹に匙はあぁ、もう!と髪を掻き上げる。

 

「俺さ、会長の夢もそうだけど、おふくろも安心させてやりたいんだ。まだ、悪魔のこととか話してないけど、先生になりたいって話したらさ、目から涙溜めて喜んでくれた。だから俺はあの言葉を嘘にしたくない。その為にも会長の学園設立は必ず成功させる!その為にも明日のレーティングゲームでグレモリー先輩たちに勝つぜ!」

 

 自分を奮起させるように宣言する匙。だが一樹は思った。

 

「それ、部外者()に言ってもしょうがなくね?」

 

「うるせー!ただ誰かに俺たちの本気を聞いてほしかったんだよ!」

 

 どこか吹っ切れたように悪態つきながらも笑う匙にどこか眩しさを感じた。

 思えば、一樹自身やりたいこと。すなわち将来の夢と呼べるものがないから。

 だから嫉妬というわけではないが、僅かな焦りを覚える。

 兵藤も上級悪魔に昇格してハーレムを築くという夢がある。まぁ、それを見習いたいとは思わないが。

 

(俺も、なにか見つけるべきかねぇ)

 

 そうしたら黒歌や白音は安心するだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 その後、オカルト研究部の面々やソーナと合流する。

 祐斗などは慣れているのか元から見栄えが良いからか、スーツも着こなしているように見えた。

 だがそれより問題は―――――。

 

「なんでギャスパー(おまえ)もドレス着てんだよ!」

 

「だ、だってドレス着てみたかったんだもん」

 

「もんじゃねぇえええええっ!!」

 

 一誠の追及にギャスパーはもじもじしながら答える。

 その有様が様になっているから困る。

 

(ダメだこいつ。早くなんとかしないと……)

 

 心の内でそう考えていた一樹は祐斗に視線を送るとただ肩を竦めて苦笑しているだけだった。

 そこで一樹の袖が引っ張られる。

 

「えっと、どうかな?いっくん。こういうの初めて着たから……」

 

「ん?あぁ……」

 

 着ているドレスのスカートを抓みながら白音がなにを訊いてきたのか察する。

 白音が着ているのは光沢のある生地で作られた翠色のドレスだった。

 肩が露出しており、手には白い手袋が填められている。

 

「あぁ、似合ってるよ。綺麗になってビックリした」

 

「うん。いっくんもカッコいいよ」

 

「どーも」

 

 白音の受け答えに苦笑いしながらここに来る前にアザゼルに言われたことを思い出していた。

 

『いいか、一樹。もし白音にドレスを似合うとか訊かれたら綺麗だって言っとけ。今回みたいな場だと可愛いは子供扱いされてると思われて女は機嫌を悪くするからな!』

 

 というアドバイスだ。

 どうやらアザゼルのアドバイスどおりにして正解だったらしい。

 

(まぁ、綺麗だって思ったのは事実だしな)

 

 一瞬、息を呑んだ。きっとアザゼルの助言がなくとも同じことを言ったのではないかと思える程に。

 

 

 

 

 

 

 それからタンニーンとその眷属であるドラゴンが10体ほど現れてオカルト研究部と生徒会の面々を乗せて会場へと移動することになった。

 

 タンニーンの背に乗って色々な話を聞く。

 タンニーンはドラゴンが食べるドラゴンアップルという果実を得るために転生悪魔になったらしい。

 環境の激変で人間界では実らなくなったそれを龍王自ら転生悪魔になることでドラゴンアップルが実る土地を得た。その果実が無ければ生きていけないドラゴンたちの為に。

 

 現在では人工的にドラゴンアップルを栽培する研究も進められているのだとか。本人曰く、時間はかかるだろうが、それが種の存続に繋がるのならそういう研究は続けるべきだと。

 

 当たり前のことだが、悪魔にも色々いるのだ。

 最後に一誠に上級悪魔昇格を最終目標にするのはもったいないと言っていた。

 今はまだその先は考えられないだろうが、いずれその先の目標も定めるべきだと。

 それらの会話が一誠にどんな変化をもたらしたのか、彼以外には分からない事だった。

 

 

 

 

 

 会場に着いて入場する前にリアスから話かけられた。

 

「一樹、白音。私はこれからイッセーとあいさつ回りをしてくるけどあなたたちはどうする?」

 

「あ~。適当に壁にもたれかかってますよ。出来る限り注目されたくないんで」

 

「それが良いわね。それと、ライザーとのレーティングゲームの映像が一部に流れていて、その……」

 

「俺らを眷属にしようと近づく人もいると?」

 

「えぇ。お兄さまから一応あなたたちは眷属禁止の令が出されているけど、本人の承諾があればその限りではないし。たぶんそれなりに勧誘は行われると思うわ」

 

 認めたくないことだけどね、と息を吐く。

 彼女からしたら魔王から禁止令が出されているにもかかわらず眷属になる気のない2人を勧誘する者たちに呆れているのだろう。

 

「そこら辺は上手くかわしてみますよ。忠告、ありがとうございます」

 

 礼を言う一樹にリアスは微妙な笑みを浮かべる。

 

 

 

 会場に入場した後にオカルト研究部の面々と別行動を取っている。白音は一樹にくっついていたが。

 そしてリアスの危惧したとおりに数名の若い悪魔から勧誘を行われたが、バッサリと断った。

 それでもしつこく勧誘してくる馬鹿はいるもので。

 

「この私の眷属になれることがどれほど光栄なことか―――――」

 

(うぜぇ……)

 

 お家の自慢話から始まり眷属になれと勧誘してくるのはリアスたちよりも少し年上の悪魔だった。

 それを聞きながら一樹はまるで宗教勧誘みてぇと内心でイライラしていた。

 白音に至ってはあからさまに欠伸をしている。きっと片方の耳で聞いて脳に理解させる前にもう片方の耳へと内容を通過させてるに違いない。

 段々面倒になったので無視して向こう行こうかと思い始めた頃に違う悪魔が近づいてくる。

 

「そこまでにしておけ。その気のないものを眷属入りさせるのは感心せんぞ」

 

 それは大きな体格をした筋肉質な男だった。

 男の眼力に委縮したのか勧誘していた悪魔は悪態を吐きながらもそそくさと立ち去って行った。

 

「すまないな。あの手の手合いはうんざりしただろう。日ノ宮一樹と猫上白音」

 

 名前で呼ばれて一樹の警戒心が高まった。

 

「そう警戒するな。お前のことはリアスから多少聞いている。それにフェニックス家とのレーティングゲームでのお前たち2人を観ただけだ。俺はサイラオーグ・バアル。リアスの親戚だ」

 

 差し出された手。警戒心が緩んだわけではないが握手しないのも失礼だと思ってその手を握り返す。

 握ったその手は厚く大きい力強い手だった。

 そして山籠もり前に聞いた若手で最も強い悪魔の名前を思い出した。

 握り返すとサイラオーグはフッと笑みを浮かべる。

 

「お前とは話をしてみたかった」

 

「俺と、ですか」

 

「あぁ。フェニックスとのレーティングゲーム。お前とそこの彼女が居なければリアスが勝利することはあり得なあっただろう。だからこそ、俺は惜しく思う」

 

「惜しい?」

 

「今回は若手同士の非公式レーティングゲームと言えど、フェニックス家の時のようなゲスト出演は許可されんだろう。つまり俺とお前たちが戦う機会はない。それが俺には残念でな」

 

 つまりこのサイラオーグは強者との闘いを望んでおり、それに一樹や白音もロックオンされているらしい。

 

「お前は、リアスの眷属になるつもりはないのか?」

 

 そう訊かれて一樹は僅かに笑みを作る。

 

「えぇ。俺には長寿も悪魔になることで得られる恩恵も必要ありませんから」

 

 それは、オカルト世界に関わってずっと一樹が思っていたことだった。

 永遠に近い寿命。確かに魅力的だろう。

 それらはいくら金を積んでも人間世界では手に入らないものだ。

 だが、それが必ずしも日ノ宮一樹の人生に必要なものではない。

 

「俺は人間です。人間で十分なんです。人間として産まれて人間として死ぬ。それが当たり前のことだし。俺は、それでいいと思ってます。それ以上は俺のポケットには入り切らないですよ、きっと」

 

 例えば、人より早く死ぬ動物が目の前にいるとする。それらは決して人より長く生きられないが、その生を憐れむのは傲慢だ。本人が納得して生を終えるのなら、10年でも1000年でもきっとそれは素晴らしことなのだ。

 辛いことや苦しいこと。嬉しいことや楽しいこと。

 それらを全部ひっくるめて歩いて最後に笑って死ねれば上等。

 少なくとも一樹はそう思う。

 

「……そうか。どうやら俺は余計なことを訊いたらしい。すまないな。忘れてくれ」

 

 一樹の考えを聞いてサイラオーグは笑顔で謝罪した。

 

「だが、機会があればお前とも拳を交えてみたいな。そんな時が来るのを楽しみにしている」

 

「冗談言わないでください。俺はそんな機会が来ないことを願いますよ」

 

 全く正反対のことを言われてサイラオーグは肩を竦めてその場を去って行った。

 

「いっくん。あの人……」

 

「あぁ。強いな、きっと。ゼッテェ闘いたくない」

 

 だがサイラオーグという悪魔個人は好ましい人物だと一樹の頭に記憶された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白音がケーキなどを食べに離れている間、一樹は気疲れしている一誠を発見した。

 

「どうした、兵藤。挨拶回り、大変だったのか?」

 

「おう……部長のお母さんに色々教えて貰わなかったら恥掻いてたぜ!」

 

 一樹が手にしていたノンアルコールのグラスを渡すと一誠はそれを受け取って一気に飲み干した。

 

「他のメンツは?」

 

「アーシアはゼノヴィアやイリナと一緒の筈だ。木場はさっき見たら女性悪魔に囲まれてた。クソッ!イケメン死ね」

 

「まだ言ってんのかそんなこと……」

 

 普段からアレだけ女に囲まれてなに言ってんだかという感じに呆れる一樹。

 

「そっちこそ黒歌さんはどうしたんだ?おっさんのところで集合したときはいなかったよな?」

 

「姉さんはアザゼル先生の付き添いだよ。挨拶が終わったら合流するって聞いた」

 

 そんな風に話していると見覚えのある少女が話しかけてきた。

 

「ごきげんよう。赤龍帝。それに聖火使いさん」

 

 話しかけてきたのはフェニックス家のレーティングゲームで僧侶だった金髪ドリルヘアーの少女だった。

 

「あー!焼き鳥野郎の妹!?」

 

 一誠のあんまりな呼び名に少女はバランスを崩す。

 それに一樹がフォローを入れた。

 

「いや、名前で呼んでやれよ。確かレヴェル・フェニックスさんだっけ?」

 

「レ()ヴェル・フェニックスですわ!?貴方こそ女性の名前を間違えるなんてどういうおつもりですの!?」

 

 レイヴェルの糾弾に一樹はアレ、と首を傾げる。

 

「わ、悪い。俺ってほとんど会わない奴の顔と名前ってあんま覚えねぇんだわ。ぶっちゃけるとクラスの奴も担任を含めて10人ぐらいしか顔と名前が一致してねぇし」

 

「流石にそれはどうかと思うぞ」

 

「うっせ!それより兄貴のライター・フェニックスさんは元気で?」

 

「ライ()ー・フェニックスですわ!?というかライターって名前を間違えるふりしてお兄さまを侮辱してますの!?」

 

「いや、すいません。なんとなくで覚えてたから……」

 

 顔を逸らす一樹にレイヴェルはわざとらしく咳払いをして話を進める。

 

「ライザーお兄さまはレーティングゲーム以来、部屋に引きこもっておられますの。あのゲームで負けたのが余程ショックだったようですわ」

 

「メンタル弱っ!?」

 

 あれから結構経ってるはずだが引きこもり?いくらなんでも精神面が脆すぎると呆れる。

 

「言葉もありませんわ。今まで人生が上手く回っていたから、ここぞという時の失敗に耐えかねたみたいで。それを見かねたお母さまが私を空の僧侶の駒と交換しましたの。立場はお母さまの僧侶ですが、実質フリー同然ですわ」

 

 肩を竦めるレイヴェルに一誠は驚きの声を上げる。

 

「そんなこと出来るのか!?」

 

「ええ。同じ駒であることとお互いの王が許可すればの話ですけど」

 

「ところでそっちは名乗ったけど俺らは自己紹介まだだったよな?知ってるかもしれないけど俺は兵藤一誠だ」

 

「日ノ宮一樹。よろしく」

 

 それから短い時間、話をした。

 ライザーは引きこもり中だが、他の眷属はあの敗北を糧に各々鍛錬に励んでいるらしい。主の再起を信じて。

 そしてそれはレイヴェルも同じことだった。

 

「あの獣人の方に伝言をお願いしますわ。機会があればあの時の借りは必ず返すと」

 

 ということらしい。

 そこでレイヴェルに向こうからお声がかかる。

 

「レイヴェル様。向こうでお父上がお呼びです」

 

「あらもう?それでは赤龍帝に聖火使いさん。また」

 

「いや、そこは自己紹介したんだから名前で呼んでくれよ。俺は皆からイッセーって呼ばれてるからそう呼んでくれよ」

 

「ではイッセーさんと一樹さん。ごきげんよう」

 

 そうして立ち去ったレイヴェルを見て一樹はポツリと呟く。

 

「ごきげんようなんて別れの挨拶。現実にあったんだな」

 

「驚くとこそこかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一樹!ようやく合流できたわ!」

 

「姉さん。先生から離れて大丈夫なのか?」

 

「まぁね。今日、シェムハザとも合流したし、アザゼルから許可はもらってるわよ。それよりそのお皿に乗ってるデザート食べさせて~」

 

 あ~んと口を開ける黒歌に一樹は小さな一口サイズのケーキをその口の中に放り込む。

 

「ん~美味しい。流石グレモリー家主催のパーティね。デザートひとつとっても一級品だわ~」

 

 ご満悦な様子の黒歌に一樹の頬がほころぶ。

 

「それより白音は……あそこね」

 

 聞く前に見つけて指をさす。

 それにふむっと顎に手を当てると何か閃いたように口元を吊り上げた。

 

「いつき~。ちょっとお願いがあるんだけど~」

 

 手を合わせてお願いを始めた黒歌に一樹は嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 白音は一樹に手を引っ張られてダンス場に出ていた。

 

(なんでこんなことに……?)

 

 理由の想像はつく。きっと黒歌が嗾けたに違いない。

 そうでなければ一樹から踊ろうなんて誘いが来るわけがないのだ。

 

(いっくんも断ればいいのに)

 

 どうにも一樹は自分たち姉妹のお願いに対して甘いところがある。

 こうして踊っている間も周りがスムーズに動いているにもかかわらず、一樹と白音だけがぎこちない。

 ましてや悪魔の中で自分たちは悪魔ではないのだ。余計に注目を集めるのは道理だろう。

 

 一応、グレイフィアに仕込まれたダンスの技術は明確に失敗こそしていないもののいつ転ぶかひやひやする感じだった。

 

 一曲をどうにか踊り終えると一樹は顔を真っ赤にして白音の手を引き、そそくさと退場した。

 

「悪い、付き合わせた」

 

「いいけどね。でも姉さまのお願いだからってポンポン聞くことないんだよ」

 

 気付いてたかとバツが悪そうに片目を閉じる。

 

「確かに姉さんに言われたからってのもあるけど。どうせ踊るんなら白音とがいいよ。一番気ぃ使わないから」

 

「それ褒められてるのかなぁ」

 

「褒めてる褒めてる」

 

 飲み物を飲み干して笑う一樹に白音が袖を掴む。

 

「また、機会があったら一緒に踊ってくれる?」

 

 それに一樹は苦笑しながらもうないだろうけどと内心思いながら。

 

「機会があれば、な……」

 

「うん」

 

 それから手を引かれてリアスたちと合流し、からかわれたがそれも良い思い出だろう。そして2人が踊っているのを見て一誠が誘ってくれるのを待っていたアーシアがいつまでも誘ってくれないのに頬を膨らませていたのは余談だった。

 

 

 

 

 

 

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