太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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本作品ではライザー編とコカビエル編の時系列が入れ替わります。




4話:聖剣と復讐と

「足りんな……」

 

 落胆するように男は呟いた。

 足下に広がるのは無数の死体。

 それらに対する意識は既になく、苛ただしげに舌打ちをした。

 

「聖剣を持ち出せば少しは骨のある獲物にありつけるかとも思ったが……ミカエルめ、存外に腰が重い」

 

 彼の予想───というより、希望を口にすれば、上級天使が来るかもと期待していたが、討伐に訪れたのはどれも人間にしては実力があるものの彼の渇きを潤すにはとても足りない雑魚ばかりだった。

 

「ふん!まあいい。本命の前の前菜だと思えばな」

 

 星の見えない夜空に血で濡らした手を唯一見える月にかざした。

 

「何人たりとも俺の邪魔はさせんぞ!アザゼル!」

 

 かつての仲間の名前を呟いて男は漆黒の闇の中へ溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

日ノ宮一樹と木場祐斗は休日を利用して買い物に来ていた。

 特に欲しいものがあるわけでなくふらふらと店を見て周っているだけだが。

 そんな中、一樹が洋服店で1枚のTシャツを手に取った。

 

「おお!なぁ、祐斗!これとか良くねぇか!!」

 

 テンションを上げながらそのTシャツを見せてきて祐斗は若干笑顔を引き吊らせた。

 大きな赤いドラゴンが東京タワーと思しき建物に突き刺さった絵が描かれており、背中の方に【最後まで抗った結果がコレだよ!!】と書かれている。

 一樹は趣味でこういうおかしなTシャツを買うことが多い。

 以前、大量の奇形なクリーチャーが描かれたシャツや男らしい赤い筆文字で名誉粉砕などと描かれたシャツを着ていた。

 少し、悩んだ末に他にいくつかの衣類と一緒に購入し、次にバッティングセンターで軽く体を動かす。軽い勝負で一ゲームで多く球を打てるか競ったところ、祐斗に軍配が上がった。

 

 

 

「なんか、久々に思いっきり遊んだな!」

 

 自販機で買った飲み物を口に入れながら二人は雑談をする。

 話題を降るのは専ら一樹だが。

 

「そういやもうすぐ、球技大会だっけ?んで、それが終わったらすぐに中間テストか」

 

「そうだね。一樹くんはどの種目に参加するんだい?」

 

「一応バレーだな。祐斗は部活のほうはなにやるんだ?」

 

「ドッチボールって聞いてるけど」

 

「ところで中間テストさ━━━」

 

 そんな風に会話をしながらいつきはある種の安心感を覚えていた。

 家では美人姉妹の家で居候と聞けば楽しそうだがやはり気を使うのだ。

 一所に暮らすようになって五年近くになり、心が休まらない環境というわけではないが、たまには同性と気兼ねなく過ごしたい時があるのだ。

 そうして歩いているととても心を逆撫でする声が聞こえた。

 

「おやおや~!とても見覚えのある悪魔さんが居るじゃあ~ありませんか!」

 

 なにか、人の神経を逆撫でする声が聞こえた。

 目の前に居たのは銀髪で一樹たちと同じ年頃の神父の格好をした少年だった。

 

「フリード・セルゼン……」

 

 祐斗が相手の名を呟いた。

 

「は?知り合いか、祐斗?」

 

「出来れば、二度と会いたくなかった相手だけどね」

 

「おやつれない!でも僕ちゃんとしてはあそこまで虚仮にしてくれたおたくら糞悪魔を忘れたくても忘れられんのですよ!」

 

 どうやら祐斗に怨みがあるようだがそのふざけた口調のせいか真剣実が感じられず、むしろただのお題目のような感じしかしない。

 状況がわからず戸惑っている一樹の前に祐斗が前に出た。

 

「一樹くん少しここ離れていてくれ。彼は僕が何とかする」

 

「おいなに言って━━━」

 

「大丈夫さ。すぐに終わらせる」

 

 祐斗の発言に鼻で嗤うフリード。

 

「おうおう!かっこいいねぇ!二人がかりで俺様をボコったくらいでもう楽勝気分ですか!でもねぇ、今回俺様が用意したスペッシャルな秘密兵器を見ても同じ態度が取れますかね~」

 

 そこでフリードが竹刀袋から取り出したのは一本の剣だった。しかしそれを見た瞬間に祐斗の表情が変わる。

 

「それは……!?」

 

「おやご存じで?そう!これこそが現存する7つのエクスカリバーの一本!天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)でございあす‼」

 

 などと言われても一樹にはなんのことだか意味不明だった。

 だが、あの剣から発せられる威圧感のようなものを感じて息を飲む。

 そして対照的に祐斗は今までに見たことのないほど獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「まさか、聖剣に出会えるなんてね。今日は本当に良い日だ……」

 

「お、おい、祐斗……?」

 

「一樹くん。君は逃げてくれ。彼は僕が相手をする」

 

「ちょっ!?おまえなに言って……」

 

 祐斗の提案に一樹は訳もわからずに意を唱える。

 祐斗が運動神経が良いのは知ってるが、刃物を持った相手に無事で済むとは思えない。それは、相手が持っている剣の異質な気配を感じ取っているせいかもしれない。

 

「おぉっ!?格好いいですねぇ!お友達を助けるために敢えて聖剣と戦おうっての?その自己犠牲の精神に僕ちゃん感動して涙が出ちゃう!」

 

 楽しそうに人を小馬鹿にした態度を取り続ける少年は一樹に視線を向けた。

 

「ほらせっかく木場くんが時間を稼いでくれるって言うんだからお逃げなさいな。もっとも、悪魔なんかと仲良くしてるよおなクズ野郎は俺様の経典で死刑確定でさぁ!すぐに追い付いてその首かっさばかせてもらいますよ?」

 

 やたらとテンション高く話す相手の言葉の意味はまったくの理解出来なかったが、ここで自分がどうするべきなのか考えは纏まった。

 一樹が出した答えは—————。

 

「うわぁあああああああっ!?とぅあすけてぇええええええ!?刃物!刃物持ってるぅうううううう!?」

 

 大声で助けを呼ぶことだった。

 突如奇怪な行動に祐斗もフリードと呼ばれた少年も目を丸くした。

 そしてそのまま祐斗の手を引いて。

 

「逃げるぞ!」

 

 その場を脱出した。

 しかしすぐに違和感に気づく。

 

(なんでこの時間帯に人っ子一人いねぇんだよ!?)

 

 普段、この辺りは見渡す限りとはいかなくても、それなりの人が行き交うはずなのに今日に限って人が見当たらなかった。

 

「ホイ待ちな!」

 

 いつの間にか追い付いてきたフリードが真横に並び、その刃を振るう。

 

「ってぇ!?」

 

「一樹くん!?」

 

 刀身は一樹の左腕に走り、血を流させた。

 それをフリードは不思議そうに見ている。

 

「およ?腕をブツ斬りにするつもりで振るったんですけどねぇ?思ったよりも反応が宜しいようで」

 

「ホントに切れた!?っのやろ!?真っ昼間からイカれてやがんのか!!」

 

 一樹は斬られて血を流す腕を押さえながら当に察していたことを口にする。

 目の前の少年は正気ではない。絶対に関わってはいけない類いの人間だと。

 

「一樹くん、逃げてくれ!彼の狙いは僕だ!!」

 

「やかましい!こんなヤバい奴相手に友人ひとり残して逃げられるかよ!!」

 

 祐斗の叫びを一樹はバッサリと却下した。その事に祐斗は内心で一樹に対して煩わしさを覚える。

 フリード・セルゼンが何故聖剣を持っているのか不明だが、明らかに狙いは祐斗自身だと察していた。

 だからここで祐斗がフリードの相手をすれば一樹を逃がすことができる。

 なにより聖剣だ。祐斗の中であれは絶対に破壊しなければならない物なのだ。だから今すぐ頭を空っぽにしてあの聖剣に襲いかかりたいという衝動を必死に押さえている。わずか一年ほどの付き合いとはいえ、友人を危険の中に放って置けるほど彼は冷酷ではなかった。

 そして一樹にしてもこの状況で友人を置き去りにするつもりなど毛頭ない。

 

「ご相談は終わりかな?ならとっととその首落とさせろやぁ!」

 

 尋常ではない速度で向かってくるフリードに一樹の中でなにかが囁いてくる。

 

 ————燃やせばいい。

 ――――不思議なことではない。だってお前(おれ)には簡単なことだろう?

 ――――歩くように。走るように。跳ぶように。呼吸するように。掴むように。お前にはソレを扱うのは簡単なことの筈だ。

 一樹は迫ってくるフリードに掌を向けるとぼそりと呟いた。

 

「――――(アグニ)よ」

 

 瞬間、炎が舞った。

 

「おわっチ!?なんですかコレわぁ!?」

 

 突然吹いた火炎にフリードは本能的に横に跳び、避けた。

 しかし、一樹が腕を振るうと地面に炎が走り、フリードを取り囲む。

 それを眺めながら祐斗は愕然としていた。

 

「この炎は……!?」

 

 炎から感じる強烈な聖の力に以前、一樹が巻き込まれたはぐれ悪魔の件を思い出した。

 あの時、建物を燃やしていた炎。あれを操っていたのは猫上白音だと思っていた。しかし、それが間違いだと気付いたのだ。

 

(一樹くんは神器をもっていたのか?)

 

 聖書の神が人間に与えた、物によっては神や魔王ですら滅することを可能にする道具。

 そんな風に僅かに思考の海を漂っていた祐斗の手を再び一樹が取って引いた。

 

「一樹くん!?さっきのは……!」

 

「知るか!勝手に出たんだよ‼」

 

 ヤケクソ気味に答える一樹だがその表情にはどこか怯えが見えた。

 

 駅に近づくにつれて人通りも戻っており、その際左腕から血を流している一樹に通行人が驚いていたが、気にせず走り、駅近くの交番に駆け込んだ。

 

「助けてください!」

 

 行きなり駆け込んできた高校生二人。それも片方は腕から血を流していたため、警察官を驚愕させた。

 

「そ、そこの路地で刃物を持った男に襲われて!!火も放ってきたんです!」

 

 その言葉に祐斗は顔を引き吊らせた。

 刃物はともかく火は放った本人が被害者面をして涙ぐみ、力説しているからだ。

 どうやらその事もフリードに押し付けるつもりらしい

 一樹が怪我をしていたことや、必死な顔で身振り羽振り説明していたことから警官から不審に思われることもなく、対応してくれた初老に見える警官に慰められた。

 

 その後、それなりの人数が現場に向かったが、フリードは既にその場を逃走。残ったのは地面の焼け跡と一樹の血痕だけだった。

 

 一樹は腕の怪我から交番で応急処置を受けて救急車に運ばれ祐斗は警察に事情を説明した。

 もちろん都合の悪い部分は話さず、フリードの容姿や訳もわからないことを言って襲われたとだけ説明した。

 

 

 

 

(気まずい……)

 

 手当てのために病院を訪れていた一樹はその間に連絡を受けてやって来た黒歌と白音に鉢合わせした。

 腕を吊るしてある一樹を見て黒歌は眉を寄せ、白音は唇を噛んで震えていた。

 とりあえず医者に聞いた怪我の容態を報告をすることにした。

 

「腕は吊ってあるけど問題ないよ。数日すれば包帯も取れるってさ」

 

 力無く笑いながら説明する。

 はっきり言って空元気だがないよりはいいだろう。

 その後、病院を後にして三人は家に着くと黒歌が「ちょっと用事があるから出かけるね」と家を再び出る。

 白音も「ご飯の準備する」と台所へ向かう。一樹も皿を並べるのを手伝おうとしたが断られてしまった。

 利き腕は無事だが左腕が吊ってあることで少し食べ辛そうにしている。それを見ていた白音が。

 

「いっくん、あ~ん……」

 

「いや、自分で食べられますよ、白音さん。別に利き腕が怪我してるわけじゃないんから……」

 

「あ~ん」

 

 顔は無表情の筈なのにどこか逆らえない雰囲気を纏いながらおかずのチキンカツを一切れ箸で差し出してくる。

 数秒固まっていた一樹だが根負けして口を開けて差し出されたチキンカツを口に入れる。

 

「美味いな」

 

「うん……」

 

 他人には分かりづらく少しだけ口元を動かして笑う白音。

 それを見て一樹は急激に安堵を覚えた。

 ―――あぁ、帰ってきたな。

 いきなり訪れた危機に張りつめていた精神の糸が緩んでいくのを感じた。

 

「どうしたの、いっくん?」

 

「いや、なんでもねぇよ。白音の料理はやっぱり美味いなって。つか、やっぱり食べ辛いから自分で食わせろよ。白音も食べないとだしさ」

 

 一樹の言葉に若干不満そうにしていたが黙って食事を再開する。

 あの炎のことやフリードとかいう男。考えなければならないことはあるが、今は何も考えたくなかった。

 

 

 

 

 

「で?どういうことかな?」

 

「おいおい。来るなりそんな怖い顔して笑うなよ。まともに話も出来ねぇだろうが」

 

 アザゼルの元を訪れた黒歌は薄らとした冷たい笑みを浮かべてアザゼルに詰め寄っていた。

 

「つい先日、間抜けにも教会から聖剣が盗まれたって情報が私の所にも来たのよ。そして、一樹の傷口からは強力な聖の気配を感じた。まさか、これが偶然なわけないわよね?」

 

 何か知っているのなら答えろとその眼光が口よりも雄弁に語っていた。

 

「ねぇ、アザゼル。私、こう見えてあなたに感謝してるのよ?」

 

 突然の話題変換を始める黒歌。

 

「あの子の両親が私のせいで殺されて。また行き場を失くした私たちはあなたのお陰でまっとうな生活が出来るようになった。だからあなたが一樹に高校受験の際に駒王学園を勧めたこともなにも言わなかった。あの子もあなたになついているしね」

 

 確かに駒王学園は私立にしては破格な程に学費が安く家からも近い。そして女子高から共学に変わったばかりなため、男子はなおのこと入学しやすい。

 一見すれば完璧な条件に見えるが、あそこは悪魔が支配する学園だ。

 それだけで日ノ宮一樹を遠ざける理由にあまりある。

 そしてそのために白音も一樹に付いていく形で駒王学園を受験することになった。

 態度にこそ出ていないものの、悪魔の支配地域で1日の大半を過ごすことは白音にとってそれなりのストレスだろう。

 それでも我慢できるのは生来の我慢強さと一樹に対する配慮故だろう。

 

「でも、もしあなたが一樹や白音を厄介事に巻き込んで傷つけるつもりなら話は別よ。私にだって優先順位があるから」

 

 雇い主と云えど許さない。そう宣言する黒歌にアザゼルは頭を掻く。

 

「わあってるさ。俺だって無暗矢鱈にアイツを危険な目に合わせるつもりはないんだぜ?今回のことはあくまで偶然だ偶然!」

 

 本当に?と疑いの視線を向ける黒歌にアザゼルは視線を逸らさずに肩を竦めた。

 

「その件と関係のある案件をお前に頼みたい」

 

「それは一樹を傷つけた奴を八つ裂きにするって依頼かしら?」

 

「それは状況次第だな。さっきお前さんが言ってた聖剣強奪の件な、やったのはコカビエルだ。もっとも教会の中に協力者が居てそっちから持ちかけたらしいが」

 

 アザゼルの言葉に驚きに目を見開くも同時にあぁと納得する気持ちもあった。

 

「確か、コカビエルは幹部の中で唯一の戦争推進派だったわよね?」

 

「そうだ。下っ端はともかく俺たちの中で戦争回避は決定事項だ。コカビエルの奴も今まで説得を続けてたが俺らの目を盗んで事を起こしやがった。そして現在この街に潜伏中だ」

 

 お~やだやだと天井を見上げるアザゼル。黒歌は面倒臭そうに顔を歪める。

 

「なら私はコカビエルの暴走を止めればいいのかしら?」

 

「そうなんだが、お前も知っての通り駒王町はグレモリーの管轄地だ。先のことも考えてお姫さんに頑張って貰いてぇ」

 

「まさか、グレモリーの娘がコカビエルを倒せるように動けって訳じゃないよね。それは流石に……」

 

「いや、俺だってそこまで期待してねぇよ。ただ、聖剣の奪還くらいはしてくれねぇとな。それに派手好きのコカビエルのことだこの町になんか仕掛けてる可能性もある。先ずはそっちの調査頼むわ。流石に俺まで動いたら色々ことだからな」

 

「うわ~い、めんどくさ~い」

 

 笑顔で万歳しながら口調はふざけんなと主張する黒歌。

 アザゼルもそれくらいわかっているが軽くスルーした。

 

「その代わりに一樹を傷つけた奴はお前が好きに料理しろ。それとうちの秘蔵っ子も連れていっていいぜ。最近暇だ暇だとうるせぇからな」

 

「あの子を?まぁ戦力としては申し分ないけど……」

 

「よろしく頼むわ。今回の件に関わった奴の資料はここだ」

 

 アザゼルはテーブルに置いてあった資料を黒歌に投げる。

 

 それを読みながら黒歌はこれからどう動くか頭の中で思考を張り巡らせていった。

 

 

 

 

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