太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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42話:拒絶された手

 朱乃がやられ、このゲームも最終局面を迎えようとしている中、アザゼルはこれまでの経緯を考察する。

 下馬評でリアスたちの勝率8割と予想されていたこのゲーム。蓋を開けてみればリアスたちはソーナの策略に翻弄される形になっている。

 匙の神器の使い方についてアドバイスを送ったのは確かにアザゼルだがゲームまでにモノにしてくるとは正直思わなかった。目標に対する執念の成せる業か。

 

(だが、ラインを繋いだ時点で逃げを選択しなかったのはマイナスだな。本当に勝ちたいのならあそこは真正面から闘うんじゃなく、逃げを選択するべきだった)

 

 結果的に一誠はリタイアしたものの、もうひとりくらい倒されていた可能性もある。

 ましてやこれから先生を目指すのであればあんな選手生命を縮ませるような行動は論外だ。

 教える立場の者はただ闘いに勝たせる術を教えれば良いというわけではない。少しでも長く戦える術を教えるのも仕事だ。

 一戦勝ったが選手生命が潰えてもう試合に出れないでは話にならない。

 そういう意味では今回の匙の闘いは教師としては失格と言わざる得ないのだが。

 

(だが、ああいう我武者羅さは嫌いじゃない。若者(ガキ)ってのはアレくらい直向きな方がいい)

 

 後々のことを考えて手を抜くという賢さは大人になって身につければいい。

 無茶ができる若いうちは夢に向かって愚直に進む姿にこそ観客を魅せることができる。

 実際、この試合を観戦している古参悪魔の中には匙の行動に魅せられてシトリー勢を見直している者もチラホラと出ている。

 

 次に祐斗だが、たったひとりで敵を2人倒し、フェニックスの涙を消耗させた功績は大きい。アレが無ければリアス側はもっと数の違いに翻弄されていた筈だ。

 真面目な本人は倒されたという事実だけで気落ちしているかもしれないが。

 

 そしてシトリー勢が使った反転(リバース)、アレは――――。

 

(うちの技術局の奴が渡しやがったな。まだ試験運用段階だってのに。中々面白い使い方だったが、これからのゲームには反転は使用禁止にするようにサーゼクスに進言しておかないとな。後付けの能力は一部の例外を除いて危険(リスク)が高いし、若い芽がこんなことで潰えるのは賛成できねぇ)

 

 そして今しがたリタイアした戦友の娘を思う。

 

(ようやく力を使うことに吹っ切れたか。だが、ぶっつけ本番で使うには相手が悪かったな。これが格下なら倒せただろうが)

 

 それでも、ようやく朱乃が前進したことを喜ばしく思うアザゼルがいる。

 

 そこで同じ場所で試合を観戦していたオーディーンがサーゼクスに問うた。

 

「サーゼクス。あの龍の小僧は何と言ったかのう?」

 

「兵藤一誠くんのことですか?」

 

「いや、シトリーの方の兵士じゃ」

 

「匙元士郎くんですか」

 

「まだ青いが見所のある小僧じゃ。ああいうのは強くなる。大事にするとええ。赤龍帝の小僧を倒した功績は大きいぞ。わしも、あの小僧の名を覚えておこう」

 

 その言葉にその場にいた全員が驚いた。

 あのオーディーンが、まだ新米の転生悪魔の名を覚えると言ったのだ。この場での最大の賛辞と言ってもいい。

 

「そうでしょうそうでしょう!オーディーンのおじいちゃんったら話がわかるんだから☆」

 

 先程からハラハラして試合を観戦し、朱乃がソーナを攻撃した場面など自ら飛び込んで行くんじゃないかというくらいヤバい雰囲気を醸し出していたセラフォルーがオーディーンの賛辞に一変して上機嫌になる。

 というかいくらなんでもあのフレンドリーさ色々と問題なのではないだろうか?本人は気にしていないようだが相手は仮にも他神話の主神。実際傍で控えている銀髪の戦乙女は睨むとまではいかないが苛立ちを含んだ視線を送っている。

 それに気付いているのかいないのか。セラフォルーは本当に外交担当なのか疑わしくなってくる図だ。

 

 全員がオーディーンとセラフォルーに注目している間にアザゼルはサーゼクスに耳打ちする。

 

「事態はどうなってる?」

 

「今、私とセラフォルーの眷属たちが事態の収拾に動いている。だが、まだ日ノ宮一樹くんたちに関する報告は受けていない。すまない」

 

「そっちは黒歌たちに任せるさ。俺たちがここですべきなのは客人にこの異常事態を悟らせないようにすることだろ?」

 

「すまない。ありがとうアザゼル」

 

 礼を言われてアザゼルは苦笑いを浮かべながらも内心では自分で動けない立場に歯軋りする思いだった。

 

(何かに巻き込まれているとしても、無事でいてくれよ、一樹)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍の団と三者三様の闘いは未だ決着が着かずに続いていた。

 

 イリナは日本刀の状態の擬態の聖剣でジャンヌと名乗った剣士と刃を交えている。

 

聖処女(ジャンヌ)の名を持ちながらテロリストに加担するなんて!」

 

「この名前は別に偶然の一致じゃないわ!お姉さんはジャンヌ・ダルクの魂を受け継ぐ者だもの!」

 

「はぁっ!?」

 

 思いもよらない告白にイリナが素っ頓狂な声を上げる。

 

「私たち英雄派の幹部は全て過去の英雄の魂を受け継いだか、その子孫で構成されているわ!つまり君が剣を向けているのはあの聖処女の現身ということよ!」

 

 一瞬の動揺を突いてジャンヌはイリナを体ごと弾く。

 もたらされた情報。それにイリナが感じたのは怒りだった。

 

「ふざけないで!ならなおのこと許せないわ!」

 

 ようやく長くいがみ合っていた三勢力が融和の道を歩み始めたのだ。それを聖人の魂を宿している語る目の前の女性がそれを台無しにしようとした組織に所属しようとしているなど、彼女のファンでもあるイリナには到底容認できることではなかった。

 17から19の2年という短い間に戦場を駆け抜け、策謀から火刑に処されながらも数百年後に聖人として認められた神の声を聴いた少女。

 彼女の存在を知り、報われなかった凄惨な生涯と死後に認められた功績を想ってイリナは涙を流したほどだ。

 そんな彼女と目の前の女性はイリナのイメージと真逆と言っていい存在に感じた。

 それが、一方的な押しつけだと理解していながら。

 

「こっの!!」

 

「あら?」

 

 イリナが振るった擬態の聖剣がジャンヌの剣を弾き飛ばす。

 そして聖剣を相手の喉に突き付ける。

 

「貴女の剣は破壊されたわ!大人しくお縄に付きなさい!」

 

「ふふ。甘いわね。たった1本の()()を弾いたくらいで勝った気になるなんて」

 

 突き付けていた刃はジャンヌが腕を上げる。そこには弾かれた筈の剣が握られていた。

 

 後方に跳ぶイリナは驚愕の表情でジャンヌを見る。

 

聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)。これが私の神器。貴女がいくら私の剣を弾き、壊そうとも何度だって創り直してあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ヘラクレスと対峙していた白音は相手の神器の能力を聞いて触れないように迫り来る巨躯を避け続けていた。

 

「なんだよ逃げてばかりかぁ!俺に触れられんのがそんなに怖ぇのかよ!!」

 

「……セクハラです」

 

「ハッ!そういうマセた台詞はもうちょっと肉付きが良くなってから言えやメスガキ!」

 

 ヘラクレスの動きは白音から見て直線的な動きならまぁまぁと言った感じだが、動きが判り易く避け易い。

 しかし、先程から当てている打撃で内臓にダメージを通そうとしても向こうは潜在的にオーラの量が多いためか思ったよりダメージが通らない上に打たれ強い。

 相手は口から血を流しながらも突進してくる敵に白音は小さく舌打ちする。

 

 先程のイリナとジャンヌの会話は白音の耳にも届いていたがすぐに切って捨てる。

 相手が誰かなど白音にはどうでも良いし、少なくとも美猴より強いとは感じられず、十分倒せる範囲だと判断したからだ。

 あとは神器である以上、禁手にだけ気をつければいい。

 

(それに、体力勝負はどう考えても分が悪い。すぐに決めにかからないと……)

 

 持久戦になれば確実に負ける。そう冷静に考えて白音は懐に隠してあった符を数枚投げつけた。

 それがヘラクレスに近づくと火が点り、爆発が起きる。

 起爆符。

 術式を書き込んだ符に妖力を流すと僅かな間をおいて爆発させる道具。術で作った手榴弾がイメージとしては近いかもしれない。

 この合宿で白音が転移符とともに作成できるようになった道具だ。

 

「俺と爆発で勝負しようってかぁ?だがな――――甘ェんだよ!!」

 

 後ろから接近してくる人影に振り向いてその拳を叩きつける。

 今の爆発が目暗ましであることくらいヘラクレスも察していた。そしてそういう場合、大抵背後から攻撃してくるものだ。今までの戦闘の勘からそう判断したヘラクレスの拳は白音に殴りつけると同時に自身の神器で爆発を起こそうとした。

 しかし、当たった拳はなんの感触もなく、目視で触れるとその姿が掻き消えていった。

 

「幻術です。この程度の手に引っかかるなんて、マヌケです。螺旋丸!」

 

 白音の手にある螺旋丸はいつもは野球ボールサイズの大きさだが、今はバスケットボール程の大きさで完成されている。

 その螺旋丸をヘラクレスの横っ腹に叩き込む。すると、受けた相手は壁に激突するまで弾き飛ばされる。

 

「貴方がヘラクレスの何なのかは知りませんが、少なくとも私の敵ではありません」

 

 それだけを告げて白音は一樹とアムリタの方へと視線を移した。

 その目にはアムリタに組み伏せられている一樹が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 都合4本目の聖剣を破壊したイリナはこれじゃあ埒が明かないと判断して峰で5本目の聖剣を峰で受け止める。

 

「ふふ。峰打ち(そっち)じゃいくら何でも聖剣は破壊できないわよ?」

 

「これでいいのよ!そっちこそ、私の擬態の聖剣がどういう聖剣(エクスカリバー)か忘れてるんじゃない?」

 

「え?」

 

 ジャンヌの訝しむ表情を無視してイリナは日本刀の形態を取っていた刀身の半分を鋼糸へと変化させて操り、ジャンヌの両手を聖剣の柄へと固定化させる。

 

「しまっ!?」

 

「いくらでも聖剣を生み出せてもそれを扱う腕が封じられば意味無いで、しょっ!」

 

 そこでイリナは自分の獲物から手放し、ジャンヌに一本背負いを極める。

 コレにはジャンヌも目を見開く。

 床に叩きつけられて呻くと自分を見下ろす聖剣使いの少女を見る。

 

「聖剣使いが、投げ技なんて……」

 

「聖剣の担い手が剣しか振るえないなんてあるわけないでしょ?こうした体術もしっかり教会で仕込まれたわよ!」

 

 特にゼノヴィアと違い後天的な聖剣使いであるイリナはむしろこうした体術から学んだのだ。もちろん剣が最も得意な獲物であることには違いないが。

 

「さ、貴女をミカエルさまに突き出して聖人がどういうモノかたっぷりと教えてあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(距離を取られたら歯が立たねぇ!)

 

 飛来する矢を弾きながら一樹はどうやって相手の間合いを詰めるか考えていた。

 一射一射が恐ろしく速く、特に先ほどの知覚できない程の速さで射られた矢を出されれば回避も防御も出来る気がしない。

 3歩近付けば4歩後退させられ、じりじりと距離を離される。

 矢を弾くために一瞬だけアムリタを視線から外した。次に同じ場所を見るとそこにアムリタの姿はなかった。

 何処に?と考えるより速く感じた殺気から上を見るとアムリタが一樹の真上から弓を構えていた。

 放たれた矢はさっきの知覚不可能の矢。それが一樹の横へと落ち、粉塵が巻き上がる。

 

「クソッ!?」

 

 僅かに視界を奪われた一樹だが、アムリタの着地をすぐに察して槍を振るう。しかしアムリタの手には弓ではなく、武骨な刃渡りがやや短めの剣が握られていた。

 一樹の槍を一度受け流すとすぐに攻守が逆転し、一方的に受けに回された。

 

「近づけば勝てると思ってマシタカ?つくづく甘イ……」

 

 足払いをかけられて背中を打った一樹にアムリタが体を押さえる。

 

「鎧の力も満足に引き出せずにこの始末。やはりまだ時期尚早デシタ」

 

 アムリタがなにを言っているのか一樹には理解の外だったが聞いておきたいことがあった。

 

「おじさん……お前の親父さんはお前が禍の団に居ることを知ってるのか!?それともあの人も一緒に――――」

 

 何度か会ったことのあるアムリタの父は温和という言葉をよく表した人柄をしていて娘がこんなことをすることに賛成するようには思えなかった。

 それを言うなら、アムリタの今の姿も想像の埒外なわけだが。

 一瞬だけ動きを止めるとほんの少しだけ言葉を濁すように唇が動いたが、すぐに答えを口にした。

 

「……父は、死にマシタ」

 

「―――――どういうっ!?」

 

 そこでアムリタがナイフを取り出し、一樹の腹を刺す。

 腹から血を流し、吐血する。

 外へと吹き出た血がアムリタの服を染める。

 

「いっくん!?アムリタ先輩、貴女は!!」

 

 2人の下へすぐに駆け付けようとする白音。

 腹を刺したアムリタは一樹の耳元で――――――。

 

「イツキ……私は、貴方を殺したい」

 

「っ!?」

 

 そう呪いの願望を囁いた。

 

 そこで、ヘラクレスが雄叫びとともに立ち上がる。

 

「くそがぁあああああっ!?許さねぇ!許さねぇぞこのメスガキがぁ!!」

 

 立ち上がったヘラクレスが息を荒くして白音を睨めつける。

 

「ここでテメェを確実に消し飛ばしてやる!!禁手(バランス・ブレ)―――――」

 

 禁手化を行おうとするヘラクレス。

 しかしそれは第三者によって止められた。

 

「そこまでだ」

 

 現れたのは一樹より少し年上に見える漢服をきた男だった。

 ヘラクレスは怒りの表情を抑えずにその男に掴みかかる。

 

「曹操、テメェ!!」

 

「お前の禁手は派手過ぎる。一応お忍びで来ているんだぞ?それに多くの悪魔たちがここに近づいて来ている。潮時だよ。今回は旧魔王派の用事に便乗して冥界に訪れているんだ。向こうがここを出る以上、俺たちも撤退する。置いて行かれるからな。異議は認めない。いいな?」

 

 そこには有無を言わさない圧力があった。

 曹操と呼ばれた男はジャンヌに近づいて彼女の手を拘束している擬態の聖剣の鋼糸を手にしている槍で切り放し、ジャンヌを回収する。

 

「もうちょっと優しく助けてくれるとお姉さん嬉しいんだけど……」

 

「自分の不手際だろう?我慢しろ」

 

 言われてジャンヌはそのまま黙ってしまった。

 

「アルジュナ。聞いての通り、今回はここまでだ。帰還しよう」

 

 言われてアムリタは一樹から体を離す。

 しかしそれに納得しない者がいた。

 

「待てよ……まだ、話が終わってねぇだろ……!」

 

 アムリタのズボンの裾を掴み、体を起こそうとする一樹をアムリタは力づくで振り払って蹴り飛ばすと白音の傍まで移動させられる。

 そこで曹操は思い出したかのように一樹に視線を向ける。

 

「そうだ。冥界に来た最後の目的を忘れるところだった。日ノ宮一樹。俺は曹操。君を迎えに来た」

 

「?」

 

「君は俺たちと来るべきだ。アルジュナと同じく大英雄の血を引く君は俺たちと来る資格がある」

 

 曹操の勧誘に一樹は苛立ちを隠さずにいる。

 

「うる、せぇな。俺はお前と話なんてしてねぇんだよ!俺が話してんのは……っ!?」

 

 既に離れた位置にいるアムリタに手を伸ばす一樹。しかし、返って来たのは手の平と太腿に打ち込まれた2射の矢だった。

 

 立ち上がろうとした体が再び沈む。

 白音の悲鳴が上がった。

 それを見ていた曹操は手厳しいなと苦笑し、ジャンヌが顔を引きつらせている。

 

「まぁ、いい。今回は急だったからな。次会ったときにでも答えを聞かせてくれ。色好い返事を期待しているよ、日ノ宮一樹、いや―――――」

 

 不敵に笑い曹操は一樹をこう呼んだ。

 

施しの英雄(カルナ)

 

 それで話は終わりとばかりに彼らを包むように転移の魔法陣が展開される。

 白音とイリナはそれを止めようとするが、無理だと判断する。

 白音は一樹を抱えているし、イリナは擬態の聖剣を曹操によって破壊されてしまい、戦闘に不利だ。

 

 なにも出来ず、敵が消え去るのを見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームの最終戦は戦車(ゼノヴィア)女王(椿姫)(リアス)(ソーナ)の闘いで展開されていた。

 

 ゼノヴィアが振るうデュランダルのオーラを纏ったアスカロンを椿姫は魔力で強化した薙刀を上手く使ってあしらっている。

 しかし仲間が居たとはいえ、祐斗との激戦を繰り広げた椿姫の体力は目に見えて消耗しており、倒されるのは時間の問題に思える。

 

 対して王の対決はソーナが水で作られた多種多様な獣の群れで襲いかからせ、リアスは滅びの魔力で迎撃していく。

 

 武器対武器。

 魔力対魔力。

 グレモリー側はパワーでシトリー側は技術。

 それぞれの持ち味を以てお互いに一歩も譲らない闘いが展開していた。

 

 今回のルール上、ショッピングモールという閉鎖された空間ではリアスはソーナの獣を全力の滅びの魔力で消し飛ばすわけにはいかず、威力調整を念入りに頭で計算して放ち、ソーナもこの空間で障害物を利用し、水の獣を上手く動かして戦いを進めている。

 その行動力と計算高さにリアスは内心舌を巻いていた。

 

 大規模な破壊が出来ない以上、柱などの後ろに隠れられれば攻撃を行えず、ソーナは縦横無尽に獣を動かしてくる。

 だがあれだけ複数の獣をここまで扱うのにどれだけ高い魔力の精密操作と集中力が要求されるか。リアスは親友に感嘆の念を抱かずにはいられなかった。

 

(だからこそ負けられない!既にリタイアした眷属(あの子)たちの為に!なにより私自身の為にも!!)

 

 ずっと考えていたことがある。

 自分の血に悩んでいた朱乃に前へと進むきっかけを作ったのはイッセーだ。

 朱乃だけじゃなく祐斗もギャスパーも。眷属たちの悩みや苦しみから一歩踏み出させるのに自分はどれほどのことが出来ていたというのか。

 それでも彼、彼女らは自分を主として信頼し、戦ってくれた。

 それも結局はソーナの手の平で踊らされただけだった。

 このゲームが終わってもきっと眷属たちはリアスを責めず、むしろ自分の不甲斐なさを恥じるのだろう。

 そんなあの子たちだからこそ、自分はここで勝ち、ミスを清算しなければならない。

 胸を張って自分の眷属たちと顔を合わせるために。

 

 1羽の水の鷹がリアスに近づくとリアスは黒い魔弾で迎撃しようとするが、躱され、近くに寄った時にその鳥はその体を爆発させた。

 

「あうっ!?」

 

 小さな爆発だったが体は頭から水浸しになり体勢を崩され、膝をついた瞬間に今度は獅子が襲いかかってきた。

 

「これくらいで……!馬鹿にしないで!!」

 

 向かってくる爪を避けて、顔の部分に滅びの魔力で消し飛ばした。

 次の獣を警戒するリアス。

 

 もし、リアス・グレモリー個人に明確な敗因があったとするなら、この時点で倒した獅子から僅かでも意識を外してしまったことだろう。だが、四方八方から襲い掛かってくる獣たちを前に倒した獣を即座に意識から外すのはそう間違いではない。

 だがもう少しだけ警戒が持続していれば結末は変わっていたかもしれない。

 

 破壊された水の獅子の中には今まで姿を現さなかったもうひとりの僧侶が居たことに気付いていれば。

 

「アァアアアアアアッ!!」

 

 叫びと共に破壊したはずの獅子の中から飛び出してきた最後の僧侶。花戒桃は上を取っていた落下の勢いのままリアスに体当たりをして押し倒した。

 前進を濡らした姿で、その手にはデパート内で物色したであろう包丁が握られていた。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!?」

 

 息を切らして胸下にナイフを突き付ける桃。それでチェックメイトだとソーナが寄ってくる。

 

「よくやってくれました桃。そしてこれで終わりです、リアス」

 

「ソーナ……!」

 

「卑怯、などと言わないでくださいね、リアス。これはレーティングゲーム。チームで王を取る戦いです」

 

 そんなことを言うつもりはない。だがいつから彼女を忍ばせていたのか。

 

「このショッピングモールなら隠れるところはいくらでもあります。彼女にはギャスパーくんを打倒した後からずっと身を潜ませてもらっていたのです。この奥の手の為に」

 

 やられた!とリアスは思った。

 おそらく、戦いに夢中になっていた最中に水の獅子の中に桃を入れたのだろう。この決定打の為に。

 

「この段階に移行するために邪魔だったのがギャスパーくんと木場くんでした。ギャスパーくんの探索能力なら隠れている彼女を見つけるかもしれない。木場くんの速度ならあの一瞬からでも貴女を助けることが出来るかもしれない。だから、この2人は確実に倒しておきたかった」

 

「……」

 

 無言で、悔しそうに唇を噛むリアス。結局最後の最後までソーナの手に踊らされていたのだと理解して。

 

「今回のレーティングゲームはあらゆる意味で私たちに有利な条件での戦いでした。数の差。私たちに都合の良いルール。そして戦いの場。ですがだからこそ今回のゲームでだけは負けるわけにはいかなかった」

 

 もしこのゲームで敗ければソーナたちの夢は大きく遠ざかる結果になっただろう。自分の得意な戦場ですら敗ける者の教えなど誰が乞おうと思えるのか。

 無茶をしたし、させた自覚もある。

 それでも、今回だけは勝利を得なければいけなかった。

 彼女はリアスが1対1で戦うだろうという思い込みすら利用したのだ。

 

「兵士でも王は取れる。ありとあらゆる駒が王を倒し得るのです。姿を現さないのが僧侶だという油断もあったのでしょう?」

 

 ソーナの言うとおりだった。

 基本サポート中心の僧侶で王の駒を取ろうなどとリアスにはない発想だった。これは自身の僧侶が戦闘に向かない気質なのもあるだろうが。

 

 完敗だった。勝利への執念も策略もあらゆる意味で上を行かれた。

 

「此度のゲームは私の勝ちです、リアス。次はお互いの駒を揃い終えた後に戦いましょう」

 

 それを合図にリアスの胸に桃が持つ包丁が無慈悲に落とされた。

 

 

 

 

 

『王のリタイアを確認。ソーナ・シトリーさまの勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




乳翻訳が出なかった時点で予想されていたかもしれませんが、今回はソーナの勝ちです。
理由はソーナが言ったことが大半です。

一樹のこれまでの戦績。

コカビエル編。
・無抵抗のバルパーを半殺し。
・コカビエルにかすり傷を負わせて死にかける。

ライザー編
・ライザー眷属2名撃破。
・ライザー戦で一誠の引き立て役。

三勢力会談編
・白音と2人がかりで美猴に敗北。

冥界編
・中学時代の友人に完膚なきまでに叩きのめされる。

…………主人公?



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