太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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イリナがどんどん常識人枠に。意図してるわけじゃないんですけどね。


43話:冥界旅行の終わり

 一誠がレーティングゲームを敗退した後、医療室に運ばれたが怪我と言える怪我は貧血程度なので輸血して飲み物を渡されるとすぐに解放された。

 ゲームに負けたのを知ったのは医務室を出た時だった。

 あれほど意気込んだのに結果を見れば惨敗に等しい内容。

 シトリー眷属に良いように踊らされたゲーム内容に一誠は気を落とす。

 もしこれが実戦だったのならという仮定は無意味だ。

 今回の敗北という経験を糧に前へと進むしかない。

 ただ、リアスとちょっとだけ顔が合わせ辛い。

 渡されたジュースを飲みながら廊下を歩いているとイリナと顔を合わせた。

 

「イッセーくん……」

 

「よっ!アーシアかゼノヴィアの見舞いか?」

 

 一誠が話しかけるとイリナが少しだけ考える仕草を取る。それに首を傾げる一誠だがすぐに答えは返ってきた。

 

「実は、みんなの試合の最中に禍の団の襲撃があったの」

 

「マジか!?」

 

 いきなりもたらされた情報に一誠は声を張り上げる。もしかしてヴァーリが襲撃してきたのかと思ったがその考えはイリナによって否定された。

 

「一応、別の派閥だったみたいよ。規模も小規模で、被害はほとんど出なかったらしいわ。でも、戦闘に巻き込まれた一樹くんが負傷して……」

 

「日ノ宮が!?大丈夫なのかよ!?」

 

 お世辞にも仲の良いとは言えない関係だが仲間が怪我をしたと聞いて何とも思わない程、一誠は冷たい人間ではない。山籠もりのときは殺し合いに近い喧嘩はあったが別に本気で死んでほしいとか殺したいと思っているわけではないのだ。

 ただあの時は精神状態が不安定だっただけ。

 

「えぇ。ゲームでリタイアして治療を終えたアーシアさんも神器で一樹くんの治療に加わってくれたおかげで大事には至らなかったわ。今は薬で眠ってて、白音さんと黒歌さんが付き添ってる」

 

「そっか、安心した」

 

 ほっと息を吐く一誠。そんな一誠にイリナは神妙な顔で話題を振った。

 

「ねぇ、イッセーくん。コカビエルの件で私とゼノヴィアが学園に来た時に私と戦ったのを覚えてる?」

 

「ん?あぁ。覚えてるけどそれがどうした?」

 

「やっぱり、私と闘うのって辛かった?」

 

「あったり前だろ!ガキの頃は男だと思ってたって言っても幼馴染だし、女の子と闘うのはやっぱり嫌だったさ。実際は手も足も出なかったけどな」

 

 コカビエルの一件の際に一悶着あり、祐斗はゼノヴィアと。一誠はイリナと決闘することになった。

 あの時イリナは悪魔に転生した幼馴染を正しき道へと更生させるのだと使命感に燃え、相手の言い分など耳を貸さずに闘った。その時にアーシアにも酷いことも言った。

 相手の事情も気持ちも踏み躙って。

 当時はそれが当然だと思っていたが。神の不在を知り、三勢力の会談でそれぞれの主張を聴き、ゼノヴィアとアーシアの想いを聴いて視野が広がり始めたイリナにとってあの時の自分は顔を真っ赤にするくらいの黒歴史として刻まれていた。

 そして先程の戦いで一樹が呼び止めても拒絶して去ってしまった少女。

 あの一樹の辛そうな表情を見て改めて自分が過去、使命感で嬉々として行った行為がどういうモノだったか客観的に考えるようになった。

 

「うん。ごめんね、イッセーくん」

 

「な、なんだよ!?今更いいだろそんなこと!!」

 

「うん、ありがと」

 

 イッセーの言葉にイリナは微笑んだ。

 自分とイッセーがこうして蟠りが溶けたように、あの2人もいつか手を取り合えたらいいと願いながら。

 

 

 

 

 次に一誠があったのは治療を終えたリアスだった。

 

「部長!」

 

「あらイッセー。もう怪我はいいの?」

 

「はい!抜いた血を輸血するだけでしたから。その、部長は……?」

 

「えぇ。倒されてすぐにフェニックスの涙を使ってくれたおかげで傷も残ってないわ」

 

 ほら、と胸元を開けて刺された場所を見せる。

 イッセーはリアスの肌に傷が残っていないことに安堵してホッとすると同時に鼻の下を伸ばす。それを察してリアスは苦笑した。

 

「本当に貴方は女性の胸が好きなのね。聴いてたわよ。貴方の夢。匙くんが真面目に話してるのに貴方って子は」

 

 呆れたように笑うリアスに一誠は顔を真っ赤にさせた。

 自分を奮起させるための宣言だったが確かにアレは酷いと自分でも思う。

 そこでリアスが急に艶っぽい表情と声を出した。

 

「ねぇ、イッセー。なんならここで私の胸を押してみる?」

 

「え?えぇええええ!?ぶ、部長ぉ!!」

 

「イッセーが禁手に至ったご褒美がまだだったでしょう?何なら今ここでつついて行く?」

 

「ほ、ほんとうにいいんですか!?」

 

「まさか。冗談よ」

 

 さっきまでの艶っぽい表情と笑みはどこへやら。スッと引っ込んでいつもの表情に戻るリアスにイッセーはずっこけた。

 

「私の身体はそんなに安っぽくないわよ。それに、簡単に夢が叶ったらつまらないでしょう?そ・れ・よ・り……」

 

 リアスがイッセーの後ろに回る。

 

「ずいぶんと恥ずかしいことを衆人環視の前で叫んでくれたわね。観客の笑いの種にされてお偉方も失笑してたらしいわよ。あまり私に恥を掻かせないでほしいのだけれど」

 

 両の握り拳で一誠の頭を挟み、グリグリとし始めた。

 

「痛っ!すみません!ごめんなさい!!」

 

「まったくもう……」

 

 すぐに拳を離して笑みを浮かべる。それは仕方ないなぁといった顔はまるで出来の悪い弟を見る姉のような視線だった。

 

「今回は私たちの敗け。上の評価も大分厳しいものになってしまったわ。だからまた、1から這い上がりましょう。次は絶対に敗けないように」

 

 今回リアス陣営は惨敗に近い結果だった。

 上からの評価もかなり下方修正されてしまっただろう。

 だがこれで終わりではない。

 上へと上がり、前へと進む意思があるのなら挽回の機会はいくらでもあるだろう。

 その時々に少しずつ積み上げていけばいい。

 自分が出来る最善とその結果を。

 敗北を経験したリアスの表情はとても晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 リアスと別れて次に見つけたのは匙にソーナと話すサーゼクス。

 

「こんな物、俺は貰えません!」

 

 なにか焦ったように手を振る匙。しかしそれをサーゼクスはそれを首を振って諭す。

 

「これはレーティングゲームでもっとも活躍した者や印象に残る戦いをした者に贈られる物だ。今回君は確かにイッセーくんに敗けた。しかし彼を打倒したのもまた君だ。受け取りなさい。君にはその資格がある。今回のレーティングゲームで君の戦いを北欧のオーディーン殿も評価していたよ。そしてあの戦いに多くは者が魅せられた。あまり自分を卑下してはいけない。君も上を目指せる悪魔なんだ。これからどれ程の時間がかかってもいい。もっと精進していつかレーティングゲームの先生になりなさい」

 

 サーゼクスの言葉に匙は涙ながらに小箱を受け取って頷く匙。そんな匙の肩に手を置いて自らも賛辞を贈るソーナ。

 これ以上ここに居るわけにはいかないと一誠はその場を後にする。

 心の中で賛辞と再戦の決意を新たにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。

 

「いっくん!」

 

 体を起こそうとする一樹に白音が抱きついてくる。どうして寝ていたのか思い出そうとして射された二矢が頭に過った。

 

「アムリタ、は?」

 

「先輩は、曹操って人たちと……」

 

「……そっか」

 

 どうしてこんなことになってしまったのか。何もわからない。

 それでも今わかることは。

 

「あいつは、きっとまた俺の前に現れる」

 

「……いっくん」

 

 アムリタは一樹を殺したいと言った。彼女がどのようにしてそのような結論に至ったのかまるで理解できない。

 ただ重たい思考がどうして、とだけループする。

 次に会った時、今の自分では話をすることさえままならないだろう。

 どうするべきなのか。どうしたいのかさえ定まらない。

 

「情けねぇ……」

 

 自分の顔を覆って一樹は息を吐いた。

 その体は僅かに震えていた。

 そんな一樹の傍を白音はずっと傍で寄り添っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 自分たちの拠点に戻ってきた曹操は参謀のゲオルグと話していた。

 

「今回、冥界に赴いたことで多くの神器保持者を確保できた。これで計画の目処は立ったな」

 

「あぁ、冥界の転生悪魔で主に不満を持つ者は少なくない。これらを引き入れることに成功したのは僥倖だ。これでオーフィスから与えられた蛇の実験を行うことが出来る」

 

 満足そうに茶を飲む曹操にゲオルグは話題を変える。

 

「それで、アルジュナの方はどうしている?」

 

「今は部屋で休んでいるさ。能面のような顔で彼と相対していたが相当精神的に堪えたらしい」

 

 覚悟していてもかつての旧友に矢を向けることは精神的に負担が大きいようだ。

 

「それでも先祖の無念を晴らすか。まるで呪いだな。帝釈天殿も何を考えているのか」

 

 アルジュナを連れてきたのは帝釈天だった。半年ほど前に突如現れてアムリタをアルジュナの子孫と言ってこちらに預けてきた。

 彼女は神器保持者でこそないが、神話の時代から受け継がれたアグニの弓と現代になっても色濃く残すインドラの()を持ち合わせていた。

 なにより、子々孫々と伝えられた異形との戦う技術は素晴らしい。純粋な武芸においては英雄派の中でもひとつ飛び抜けていると言っていい。

 

「カルナの勧誘は失敗したようだが」

 

「元々今回のは顔見せ程度で済ます予定だったさ。チャンスはまだある。焦る必要はない」

 

 日ノ宮一樹。カルナの子孫の情報を自分たちにもたらしたのも帝釈天だった。

 先日突如やって来て、グレモリーの協力者にこういう奴がいると教えに来た。

 

「神話の時代に奇しくも敵対した兄弟。その直系子孫の2人を俺の手元に置いてみたいが敵対するならするでそれでいい。彼が敵として成長し、俺たちの前に立ちふさがれば神話の再現が成されるだろう。それも今回は先祖のような呪いによるハンデのない正真正銘の戦いが。どちらにせよ面白いものが観れそうじゃないか」

 

「私としては敵対する可能性があるなら未成熟なうちに消してしまうべきだと思うが」

 

「ダメだ。それではつまらないし、そんなことをすればアルジュナも俺たちから離反するだろう。アレは、彼と戦うためにここに居るようなモノだ。彼が自分からこちらに来るなら不満を飲み込むだろうがな。それに味方でいるのなら戦う機会も作れる」

 

「わざわざ敵の成長を待つなど私には理解できないよ」

 

「ゲオルグはもう少し遊びを覚えるべきだ。ただ最短の道を走るだけでは大事なものを見落とすぞ。時には周りの景色に目を向けるのも必要だ」

 

 将来が楽しみだと言わんばかりに未来で起こるであろう神話の大英雄の末裔たる2人の戦いに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥界を立つ直前に世話になったグレモリー夫婦とその孫であるミリキャスと別れの挨拶をして列車に乗り込んだ。

 

 その際に一樹はヴェネラナに話しかけられ、パーティーの時のダンスを見られていたらしく、見込みがあるから次にうちに来たときは自分がダンスの練習を見ると言われてしまい、本人はその時はよろしくお願いしますと心にもないことを言う羽目になった。

 

 目が覚めた後、一樹は事情聴取を冥界の人たちから受けた。相手はサーゼクスの眷属悪魔でべオルフが担当することになった。

 一樹は特に嘘を吐く必要は感じずにありのままを話す。

 ただ、アムリタと自分の関係については話さず、白音やイリナも同様だった。イリナは白音からお願いされて黙っていたらしい。

 その後、一樹は拍子抜けするくらいいつもの調子を戻していた。

 

 そんな列車の中で一誠が一樹に対して叫んでいた。

 

「なんでお前は夏休みの宿題ほとんど終わってんだよ!」

 

 列車の中で夏休みの宿題をやっている一誠に向かって一樹は溜息を吐いた。

 

「夏休みの宿題なんて7月中か8月の頭で終わらせるもんだろ。まぁ、山籠もりさせられるとは思わなかったから全部は終わってねぇけど、残りの日数で十分終わらせられる程度だ」

 

「理不尽だ!ふっざけんな!」

 

「そもそも冥界に行くって話聞いた時から夏休みの宿題やる余裕があるか判んなかったから前日に急いで進めたしな。学年50位以内を嘗めんな」

 

 同じように山籠もりしていた筈なのにこの差はなんだよと泣きたくなる一誠。

 それに一樹はスケジュールの組み方だよと適当にあしらった。

 

 列車の中でそれぞれが思い思いに過ごしている中で白音が黒歌に話しかけた。

 

「どうかしましたか、姉さま。怖い顔して」

 

「ん~。なんでもないよー。ただ、グレモリー家のお菓子とかは美味しかったなーって思って」

 

 自分を心配する妹に適当な嘘を吐きながら黒歌は昨日サーゼクスから言われていたことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「今回、禍の団が侵入してきたことで出たこちらの被害だ。詳しくはこちらに纏めてある」

 

 渡された資料には今回の騒ぎで拉致された。いや、付いて行った者の詳細が書かれていた。

 

「うーん神器使いが多いわね。っていうかそれが目的?」

 

 横目で資料を見ながら黒歌が発言するとサーゼクスが嘆息して頷く。

 

「元々主に不満が募っていた元人間の眷属悪魔だ。彼らの待遇改善を我々の方からも打診していたが、聞き入れてもらえずに不平不満ばかりが目立っていた神器使いの転生悪魔たちだ」

 

「しかし、それだけなら俺はともかく黒歌まで連れてくるように言った理由はなんだ?俺だけにこれを渡せば済む話じゃねぇか」

 

 アザゼルの言葉に黒歌は小さく驚く。てっきりアザゼルの付き添いで連れて来られたのだとばかり思っていたが。

 

「……実は、連れ去られた者の中には転生悪魔ではない、囚人として牢に繋がれていた悪魔がひとり解放された。その悪魔がそちらに関係する者だったので来てもらったのだ」

 

 サーゼクスは眉間に皺を寄せて言う。

 それにアザゼルが質問を重ねる。

 

「黒歌に関係のある、ね。そいつはヤバい奴なのか?」

 

「戦闘に関しては中級の上か上級の下と言ったところだ。はっきり言えばリアスやソーナ君にも劣るだろう。だが彼はその頭脳面を評価されて上級悪魔に昇格した悪魔だ。こと研究や開発という分野ではアジュカに次ぐほどの」

 

 サーゼクスの説明に黒歌は自らの鼓動を速める。その人物に心当たりがあったから。

 

「おい、そいつはまさか……!」

 

「そうだ。その者の名はギニア・ノウマン。かつて黒歌くんを転生悪魔にしようとした元上級悪魔だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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