夏休みを終えて生徒たちが長期休みの終わりを惜しむなり新学期の幕開けに気を引き締めるなりしている。
二学期ならば体育祭やら文化祭やらでもっとも行事の多い学期と言える。
そんな中でオカルト研究部はとある事に頭を悩ませていた。
夏休みの終わる間近にアーシアに急接近してきた悪魔。ディオドラ・アスタロトのことである。
彼はあれ以降、アーシアに手紙やら高価な物品などを贈っているらしく、それがアーシアの精神的な負担になっていた。
呆けることも多くなり、藍華も理由は知らずとも心配している。
イリナは夏祭りが終わる数日前に教会の方へ用事があるらしく新学期早々には戻れず、少しの間休むことになってしまった。
「しかし、ディオドラ・アスタロトがアーシアさんにそこまで熱を上げるとはね」
「有名なのか?あの優男」
「部長と同じ、こっちでは有望株な若手悪魔だよ。アスタロト家自体、現魔王のアジュカ・ベルゼブブを輩出した名家だしね。それに眷属が全て元人間であることから現政権の転生悪魔の地位向上とかも期待されているね、確か」
昼食で弁当を食いながら一樹はふうんと答えながらもポツリと呟く。
「……そんな良い子ちゃんには見えなかったけどな」
一樹のディオドラに対する印象ははっきり言って胡散臭い奴、だ。
一誠のようなあからさまな変態なら対処し易いのだが、ああいう腹に一物抱えてそうなのはどうしても後手に回らざる得ない。
何しろどんなに疑わしく感じても証拠も無しに殴り飛ばす訳にもいかないからだ。それに、やはり一樹の思い違いということもある。
というか、そうであって欲しいと思う。
「ところで、イッセーくんの噂は聞いたかな?」
「あぁ。なんか女子の評判上がったよな。顔つきが締まって体つきが逞しくなってワイルドになっただとか。まぁ逆に今度は本格的に女子に襲い掛かるんじゃないかって危惧してる奴もいるけど……」
このところオカルト研究部の活動に勤しんでいたために松田や元浜と一緒に覗きなどをする機会が減り(全くないわけではない)鍛えてあることから制服の上からでも筋肉の付きが良くなった。
このことで一誠のことを見直す女子もチラホラと見えてきたが、逆に今まで覗きなどをしても運動系の部活なら力づくで撃退できたが鍛えたことでそれも難しく(というか無理だろう)なったため、力づくで捻じ伏せられる可能性に恐れを抱いている女子も少なくない。
評価が上がったというより、割れたと表現するべきか。そして現状では後者の意見が大半だったりする。
「イッセーくんがそんなことすると思うかい?」
「いや。しねぇだろ。あいつヘタレだし」
もしそんな度胸があるなら同じ家で暮らしているオカルト研究部の女子勢ととっくに行くところまで行ってるだろう。
ヘタレ、とバカにしたような表現ながらそうした面では信用している一樹に祐斗は苦笑した。
「次の対戦相手はディオドラ・アスタロトよ」
オカルト研究部のミーティングで告げられた一言に最初に言葉を発したのは眷属ではない一樹だった。
「まるで狙いすましたかのようなタイミングですね」
「今回の事は偶然の筈よ。いくらアスタロト家とはいえレーティングゲームの対戦に関与できるとは思えないわ」
一樹の言葉に苦笑しながらリアスは答える。
アーシアは視線を下へと向ける。
「わかっていると思うけど、前回のレーティングゲームで私たちはソーナに敗北した。これ以上の敗けは許されない。相手が何であろうと全力で勝ちに行くわよ!」
『はいっ!!』
リアスの宣言に眷属たちは一斉に返事をする。
「とりあえず、身体に異常はなさそうだな」
カルテを見ながら断言するアザゼルに一樹の後ろにいた猫上姉妹が安堵の息を吐く。
冥界から帰ってきた際に気付いたことだが一樹の鎧の個所が増えていた。
左足の防具と左耳に耳飾りが備わるようになった。
急激に増えた鎧の個所やその他諸々を事情でここ数日検査を受けていた。
「それにしてもカルナか……またとんでもないビッグネームが出てきたな」
「有名なんですか?俺、知らないんですけど」
「日本じゃ無名に近いが、インドじゃ知らない奴はいないってくらいメジャーな英雄さ。その代表的な装備が太陽神スーリヤから与えられた黄金の鎧。つまりお前の使ってる鎧なんだろうが」
「そんなにすごいものなんですか?」
「あぁ、なんせ太陽の威光の光を鎧化させたもんで、神々さえ破壊困難と言われるほどだ。それにカルナ自身多くの不幸に見舞われたせいで実力を発揮できない状態にされたが、万全な状態なら天界、地界、人界の三界を単身で制覇できるとまで言われた大英雄。最後は身動きが出来ない状態に追い込まれてアルジュナっつう英雄に首を落とされた言わば倒される側の英雄だ」
簡潔に説明するアザゼル。一樹が反応したアルジュナという名前。
もしそれがアムリタが一樹を狙う理由に関係あるのだとしたら。
(くだらねぇ。そんな大昔の因縁を持ち出してきてお前は満足なのかよ……)
昔は昔。今は今だ。
そんなものを現代に持ち出す感性が一樹には理解できない。
ギリッと歯を鳴らし強く拳を握る。
「傷が治りやすくなったのもそのせいかもな。カルナは鎧のおかげで不死身の英雄とも言われていた筈だ。それで、力の消耗の方はどうだ?」
「右手だけの時とそんなに変わりませんね。でも今は右手だけ出しても以前みたいに疲れなくなりましたね」
「それはお前の気の量が増えたからと思いたいがちょっと成長が急激すぎるな」
なにやらぶつぶつと考え始めるアザゼルに黒歌が確認する。
「でも、今のところ異常はないんでしょ?」
「まぁな。一樹はこれからも定期的に診察するから、何か変わったことが起きたら真っ先に言え。いいな」
「はい」
一樹はただ首を縦に動かした。
「しかし日ノ宮も強くなったな」
「まぁ、ここ最近色々と密度が濃かったからな。ちょっとは強くならねぇと、な」
兵藤邸の地下にある訓練場で模擬戦を行っていた。
デュランダルを構えたゼノヴィアとリアスから貰った槍で戦う一樹。
それなりの広さがある部屋とはいえ、デュランダルを十全に振るうには些か狭く、デュランダルの制御訓練の一環であり、一樹は強力なパワータイプを捌く訓練になっていた。
オカルト研究部がこうした訓練を行う際には必ずアーシアが傍にいることが条件になっている。
どちらかが怪我をした場合、アーシアが即座に治療をする為だ。
アーシアはここ最近で距離が短いながら回復の力を飛ばすことに成功したのだが、ここで別の問題に直面していた。
「え、えいっ!」
アーシアが回復の射程距離に入った一樹に回復の力を贈る。
しかし―――――。
「あ、当たりません!」
こうして少し激しく動くだけでアーシアの回復を飛ばす力はまず目標に命中しないのだ。というか止まっていても当たらないこともある。
飛ばす力の命中率がとことん低いのだ。
コレはもうひたすら練習して命中精度を上げるしかないとして誰かが模擬戦をやる際に、こうして回復の力を飛ばしたり、広範囲の回復領域を円状ではなく自分を中心とした線状などで展開するなどの工夫を頑張っていた。
一樹は槍でゼノヴィアのデュランダルを躱しながら槍や徒手空拳で攻撃していく。
別段一樹は槍専門ではない。要は勝てばいいのだ。
ゼノヴィアの攻撃を躱し、捌き、丁重に自分の得意な間合いを維持する。
(焦る必要はない。ただ槍の一撃が届く範囲にだけいればいい)
そもそも本来生き物を殺すのに強力な一撃などいらない。
ただ速く、最短で、敵の急所を穿てばいい。
派手な技は観客受けはいいだろうが、溜めを必要とするし、第一余計な被害が広がり過ぎる。
(とはいえ、デカい敵や硬い防御を持つ敵ならそういうのもいるかもな)
例えばタンニーンとか。アレと同じサイズ。もしくはあれ以上デカい敵が現れないとも限らない。今のうちに対策を立てておかないと。
(だけど俺の当面の目的は
ゼノヴィアが大振りになった僅かな隙をついて胸に槍の矛が当たる。
刺さった胸を押さえて蹲るとアーシアが驚いて駆け寄り神器の光を当てる。
「おい日ノ宮!!いくら何でもやり過ぎだろうが!」
「馬鹿か。何のためにお互いに得物使ってると思ってんだ!つうかゼノヴィア相手にそんな細かな配慮できねぇよ!」
怒って詰め寄ってくる一誠に一樹は真っ向から反論する。
そもそもゼノヴィアが使ってるのはデュランダル。そのその破壊力たるや、下手すれば掠っただけでも死にかねないのだ。
しかも一樹は炎も使ってない。
「それでもだろ!!お前の槍でゼノヴィアの綺麗なおっぱいに傷が残ったらどうすんだ!」
あぁ、なるほどと、一誠が心配していたことを理解して、一樹は言い返しながらも一誠の仲間に対する思いに僅かでも湧き上がった感動は一瞬で冷める。
「溶解しろ」
「どわっとぉ!?」
槍の矛先に炎を纏わせて一誠の頭に攻撃する。
しかしあの山籠もりで一樹とともに過ごした一誠だ。これくらいは予想の範疇だった。
「甘いな日ノ宮ぁ!もうお前の不意打ちなんてお見通しだぜ!」
自信満々に胸を張る一誠に一樹は一度息を吐いて休憩に入った。
もう2、3撃くらい攻撃が来ると思っていた思っていた一誠は肩透かしを食らった気分だった。
「最近、一樹くんなんだかピリピリしてるね。冥界から帰った後くらいからかな」
「そうかぁ?日ノ宮はいつも不機嫌そうだろ」
傍に寄ってきた祐斗の言葉に一誠は首を傾げる。
「なんて言うのかな。考え事していることが増えたし、訓練をするときは以前より鬼気迫っている感じなんだ」
白音を除けば一樹と一番仲が良い祐斗が言うのだからそうなのかもしれない。
「俺たちがレーティングゲームをしてる間に禍の団に襲撃されて怪我したらしいからな。それで、ちょっと気を引き締めてるんじゃないか?」
「う~ん。そうなのかなぁ」
どこか納得いかない様子で首を傾げる祐斗。前に模擬戦した際にちょっと聞いてみたところ、手っ取り早く強くなりたい、としか答えてもらえなかった。
どうにも今の一樹は焦っているよう思えて危うく感じるのだ。
しかし明確な答えも出せずに裕斗は一樹を心配した。
「お疲れ様です、アーシア先輩。クァルタ先輩」
治療を終えたのを見計らって白音は2人にスポーツ飲料を渡す。
2人とも礼を言ってスポーツ飲料に口づけた。
「どうですか、いっくん?」
「正直に言えば末恐ろしいな。槍を持ってまだ半年足らず。異常なまでの速度で成長している。槍と剣では違いもあるが、もう精密な動きで勝てる気がしないよ」
白音の質問にゼノヴィアは意地を張らず、正直な感想を述べた。
以前、ライザーとのレーティングゲームの前に山で訓練した時とは別物と言っていい。
もっとデュランダルの力を存分に振るえる広い空間なら負ける気はしないが、今のような室内での戦闘では勝率はグンと下がるだろう。
ゼノヴィアは教会の戦士として幼少の時から戦う術を磨いてきた。
聖剣への適性なども含め、才能という点では恵まれていると自惚れではなく客観的に理解している。
しかしだからこそ思う。
アレは一体何なのか、と。
一誠のように神器の力を引き出すのとは違う。純粋に体術の技術が劇的に上がっている。
それは、才能などという言葉では納得できないほどに一樹の成長は異常だった。
「ゼノヴィアさん」
しばし考えこんでいたゼノヴィアにアーシアが不安そうに自身の名を呼ぶ。
それにゼノヴィアは首を振って話を切ろうとした。
「まぁ、もうすぐイリナも帰ってくるし、その時に色々と話し合おう。体育祭の練習もあるしな」
「イリナさん、明日にはこちらにお戻りになられるんですよね!」
「らしいな。ミカエルさまに渡した擬態の聖剣の修復が終わったのとは別に話もあるらしくて遅れているが早くこっちに戻りたいとぼやいていたよ」
イリナは転入してきて早々に学園に馴染んでいる。
郷愁というわけではないが、向こうよりこちらの生活を好んでいることは友人として嬉しい。
「そういえばアーシアは一誠と体育祭で二人三脚に挑戦するようだが白音は何の種目に出るんだ?」
「パン食い競争です……」
「そうか。私はリレーだな。そういえば日ノ宮と木場も二人三脚にペアで出ると言っていたな」
一樹と祐斗が二人三脚のペアになったのはクラスの女子の熱烈な希望によるものである。これできっと学園の腐女子からは聴きたくもない歓声が上がるのかと思うと一樹はげんなりしていたが。
その姿を想像して3人はクスリと笑う。
そこでリアスと朱乃が入ってきた。
「お疲れ様」
「部長!どうしたんですか!?」
「あら。みんなが訓練している場に私が来ちゃいけない?」
「いえ!そんなことは……」
焦ったように手と首を振る一誠にリアスはクスッと笑った。
「冗談よ。実は明日、これから戦うことになる若手悪魔のレーティングゲームの映像記録が届くの。だから明日はそれの鑑賞と検証を行おうと思うの。その知らせにね」
「随分と早いですね」
「えぇ。とりあえず先日の私たちの試合を含めて全員が一戦を終えたから、その映像を明日送ってもらうのよ。そのゲームを観て、対策を立てたりしましょう。イリナも明日帰って来るそうだし彼女の意見も聞きたいわ」
部長の台詞に皆が声を上げて返事をした。
本作品の主人公、日ノ宮一樹のイメージソングとしてangelaさんのDEAD SETという曲をイメージに置いてます。
物語中盤以降、その曲が似合う主人公になったらいいなぁ。