太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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47話:忠告と依頼

 その拳に反応できたのは言ってみれば経験だった。

 冥界での山籠もりで不意打ちには勘が良く働くようになったらしい。

 すれ違った女が自分の後頭部に拳を打ち込んできた際に一樹は拳を挟んで防ぐと同時にほぼ条件反射で回し蹴りを放った。

 相手も素早く反応し、後ろへと跳んで避ける。

 

 距離を取れて一樹は現状を思考した。

 目の前の女は見覚えのない人物だ。

 

(もしかしたらあの優男からの刺客か?)

 

 アザゼルやリアスからもしかしたら今回の腹いせに一樹に何らかの干渉をしているかもしれないとは聞かされていた。

 しかしまさかここまで早急に手を打たれるとは。

 

 そんな風に考えていると女が一樹に向かってくる。顔を目がけて繰り出された蹴りを腕で防ぐと闘気で強化された骨がミシッとなる感覚がした。

 

(ただの人間の……ましてや女の脚力じゃねぇ!やっぱりこいつっ!?)

 

 危険な相手と判断して警戒を強めていると、女は口元を吊り上げて一樹に向かってきた。

 突きだされた拳は避け、互いの立ち位置が入れ替わる瞬間に女は腰を回し、裏拳へと切り替える。

 一樹も振り向き様だったため、反応が遅れ、頬にもらう。

 

「くっ!?」

 

 幸い、ダメージは微々たるモノだっただめ、体勢を崩す程度で済んだが女の攻撃は一樹の体を押さえて膝蹴りを胴体に喰らわせる。

 

「っ!」

 

「嘗めんな、クソアマッ!!」

 

 膝蹴りを素手で止め、頭突きを相手の顎に目掛けて叩き込む。勢いは然程でもなかったため、大した効かなかったが、続いて女の顔に拳を出す。

 しかし、そこで女は驚くべき行動に出た。

 一樹の拳を重ねた両の掌で受け止めると同時に地を蹴り、宙返りの要領で一樹の顎を蹴り上げた。

 女の着地と同時に距離が空く。一樹は血の混じった唾液をペッと吐くと顎を撫でた。

 

「軽業師みてぇなことを……っ!」

 

 構えを取ると、女の方がクックッと、笑っていた。

 

「いやはや。チョイと小手調べのつもりだったが思った以上に成長してるようで嬉しいぜぃ」

 

「おまえ……」

 

 女の口から発せられたのは明らかな男性の声。そしてその特徴的な口調には覚えがあった。

 

 ボンッ!と煙が発生して女の姿を隠すと次、その場に立っていたのは以前相対した美猴だった。

 違いは以前見た漢服ではなくジーンズにTシャツというくらいだ。

 

「……まさかおまえに女装趣味があったとはな。そういうのはうちの後輩だけでお腹いっぱいなんだよ!」

 

 一樹の嫌味に美猴は快活に笑って見せる。

 

「いやいや。女の姿なら油断するだろうと思ったのに躊躇いもなく顔面を狙ってくるとは思わなかったぜぃ!容赦ねぇなぁ」

 

「敵対してくるヤツに男も女もあるかよ」

 

「その意見には賛成だぜぃ」

 

 美猴が嬉しそうに笑っていると何処からともなく【声】が聞こえた。

 

『まったくいつまで勝手なことをしているのかしら?貴方はヴァーリさまの護衛で出かけた筈でしょう?』 

 

 なにもない空間から紫色の外套が出現する。

 一樹は内心で新手かと舌打ちした。

 

「おいおいメディア。俺っちは別にヴァーリの手下じゃないぜぃ?それにあいつに護衛なんて必要ないと思うけどな」

 

 外套の内側に隠れた素顔は20前後の薄紫の髪をした女性だった。

 

「黙りなさいこのサル!今代の赤龍帝がヴァーリさまに襲いかかったらどうするつもりなの!!」

 

「それはそれであいつなら喜びそうだけどな。それに今の赤龍帝じゃヴァーリには勝てないと思うねぃ。それともお前さんはヴァーリが敗けると思うのかい?」

 

「はぁ!?ヴァーリさまがあんな品の欠片もない発情龍に敗けるわけないでしょう!!」

 

「なら、俺があいつから離れても問題ないよな?」

 

「~~~~っ!」

 

 なにやら言い争いをしている2人に一樹は警戒を緩めずに困惑していた。それに気づいた美猴がこちらに手を挙げる。

 

「悪ぃな。俺っちはちょいとお前さんにアドバイスを送りにきたんだぜぃ。もっとも、ヴァーリのほうも赤龍帝に同じことを言ってる筈だがねぃ」

 

「兵藤に……?」

 

 一体何のことか図りかねている一樹に美猴はニヤリと笑う。

 

「ディオドラ・アスタロトには気をつけろ。お前さんらも奴の試合は観たんだろ?」

 

 一樹は美猴の問いに答えずに沈黙を貫く。それを気にした様子もなく話は続く。

 

「奴はとある方法を使って自分の力を跳ね上がらせている。お前さんなら大体想像できてるんじゃないか?」

 

 一樹はそれに答えない。

 映像を観ていて一樹はあのディオドラの力の増大にはどこか既視感を感じていた。予想通りだとするならあれは―――――。

 

「俺っちの話はそれだけさ。ただディオドラはそっちの嬢ちゃんを狙ってるんだろ?ああいう奴は色々と小狡い手を使ってくる精々気をつけるといいぜぃ」

 

 それだけ言うと美猴は手を振ってその場を去ってしまった。メディアと呼ばれた女性もこちらを一瞥して後を追う。

 

「なんなんだよいったい……」

 

 一樹はただ悪態をついて2人を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 家に戻ると靴がひとつ多いことに気付く。

 リビングまで歩くとそこには椅子に座っているリアスがいた。

 

「おじゃましてるわ、一樹」

 

「どうしたんですか、部長!」

 

「えぇ、ちょっと。黒歌にお願いがあってね」

 

 首を傾げる一樹にリアスはどう説明したものかと顎に手を当てた。

 

「念の為とでも言えば良いのかしら。何もなければ笑い話に終わるけど、なにかあった時の為に備えておくことも必要でしょ?今回はそういう頼み事よ」

 

「はぁ。わかったような。わからないような」

 

 要領を得ないリアスの説明に曖昧に答える。そしてリアスは少し考えた後に質問する。

 

「そういえば、一樹。貴方もやけにディオドラを毛嫌いするわね。正直、一樹がそこまで彼を嫌うほど接点もないと思うのだけれど……」

 

「それは……」

 

 言われて、一樹は答えを返そうとして詰まる。

 自分がディオドラ・アスタロトを嫌う理由。

 思い当たる節があったのかどんどん表情が崩れていき、最後に手で自分の顔を覆う。

 

「なんというか、ですね。うちの叔母にそっくりで……」

 

「叔母?」

 

「えぇ、まぁ。叔母は、気に入った相手を見ると是が非でも自分のモノにしようとするくせに、一度自分に振り向いたら搾り取るだけ搾り取ってポイする人だったので。あの優男を見てると同類にしか……」

 

「アーシアもそうなる可能性があると?」

 

「あくまでも俺の勘ですが」

 

 一樹の言葉に少し考える素振りをするリアス。そこで白音がポツリと呟く。

 

「あの人……色んな女の人と香水の匂いが混ざってて気持ち悪かったです」

 

「……少し、調べた方が良さそうね」

 

 誰にも聞こえないように呟くと黒歌の方に振り向く。

 

「それじゃあ、黒歌。お願いを聞いてくれてありがとう」

 

「はいはい。そっちもお礼の方をしっかりね~」

 

「後日手配するわ」

 

 手をひらひらさせる黒歌にリアスは苦笑しながら一礼してその場を後にした。

 リアスが去った後に白音が近づいて来て一樹の顎に触れる。

 

「どうしたの、この痕?」

 

「……野生の猿に襲われたんだよ」

 

「……」

 

 一樹の答えに白音がジト目を向けるが一樹は気付いていないフリをして自室へと逃げることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、会長のお姉さんがなんかやらかしたって聞いたけどそこんところどうなんだ?」

 

 体育祭の準備を手伝いながら一樹は匙に話題を振った。

 話題はソーナの姉であるセラフォルーに関することだ。

 

「あぁ。セラフォルーさまが無理矢理レーティングゲームの学園を建てようとしたんだが、色んなところから反対されてな。結局おじゃんになった」

 

 経緯はこうだ。

 先のリアス戦で勝利を収めたソーナに舞い上がったセラフォルーがこの勢いにソーナの夢であるレーティングゲームの学園設立を行おうとしたところ、サーゼクスを始め、各所から止められたらしい。

 ちなみに止めた側には本人であるソーナも回っている。

 

「行動早すぎだろ、あの人……」

 

「聞くところによると、例の魔法少女も結構なごり押しで番組として設立させたらしいしな。正直、止めてくれて助かったよ。今学園を設立してもなにをしたらいいのかさっぱりわかんねぇし」

 

 乾いた笑いをする匙。

 ソーナにしても、年単位で功績を積み上げながら夢の実現に関するプランを立てていたのに魔王のごり押しで学園を建てられても困るだけだろう。

 教師だって居ないのに。

 

「そういや、今日グレモリー先輩たちはアスタロト家と対戦だっけ?」

 

「そうだな。その前に取材があるとかで先に冥界に向かったよ。俺もゲーム直前に向こうに行く」

 

「グレモリー先輩の協力者としてお前と猫上にもオファーが来てたって聞いたぞ?」

 

「ハッハッハッ!俺と白音がそんなのに出ると思うか?」

 

「ま、そうだな」

 

 荷物を置いて納得したように笑う匙。

 確かに一樹と白音にも取材のオファーは来たらしいが断固拒否させてもらった。

 それで暇になってこうして生徒会の手伝いをしているわけだが。

 

「今回は何事もなく試合観戦したいもんだ」

 

「大丈夫なんじゃないか?俺たちの試合で禍の団に侵入されて、警備も前回より増えてて転移とかで侵入できないように色々と手を打つって話だし」

 

「だといいけどな~」

 

 手にしていた荷物を下ろして一樹はんん!、と伸びをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は整ったか、ルイーナ?」

 

「問題ありません、クルゼレイお兄さま」

 

「……本当にいいのか?カテレアは君にこのようなことをすることは望んでいない筈だ」

 

「もう決めた事です。私は、レヴィアタンの名を継ぐ者として、カテレア姉さまの血縁として果たすべき務めを果たすと決めました」

 

 強い決意の籠った眼で自身を見上げる女性にクルゼレイは諦めたかのように息を吐く。

 

「わかった。君の覚悟はもう問わん。だが今回はあくまでも現政権への我らの覚悟を示すのが目的だ。くれぐれも無茶はしないでくれ。君に何かあれば、俺はカテレアに合わす顔がない」

 

「私も、ここでクルゼレイ兄さまに死なれたら姉さまに合わす顔がありません」

 

 ルイーナの言葉にクルゼレイはフッと笑みを浮かべる。

 

「生意気を言う。しかしそれならば互いに死ぬわけにはいかんという訳か」

 

「はい。必ずや姉さまの墓前に吉報をお届けしましょう」

 

「あぁ、もちろんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、約束の品だ」

 

「ありがとう、シャルバ。礼を言う!」

 

 シャルバから小瓶を受け取ったディオドラは満足げに手の中で小瓶を転がす

 

「それは貴重な品だ。あまり、乱雑な使い方はしてほしくないのだがな」

 

「あぁ、わかっている。でもそちらも今回、僕たちのゲームで事を起こすんだろう?なら、現ルシファーの血縁であるリアス・グレモリーを殺すのはそちらにとっても良い挑発になるんじゃないか?それにこの蛇の対価は存分に払っただろう」

 

「そうなのだがね。まぁ良い。とにかくくれぐれも下手を打ってくれるなよ?」

 

 わかったわかったと相槌を打つとシャルバは呆れるように溜息を吐き、その場から姿を消した。ディオドラ自身、与えられた蛇に夢中でそのことに気付いていなかったが。

 

「これさえあれば、リアス・グレモリーは勿論、あの赤龍帝にも負けはしない……」

 

 ディオドラには世間では公にされていない性癖があった。それは、信心深い聖職の女性を誘惑し堕落させ、自分に従属させるという趣向だ。

 彼の眷属の何人かは元聖女やシスターも混じっている。

 アーシア・アルジェントは今まで彼が堕としてきた聖女の中でも最高の逸材だった。

 彼女を絶望に堕とし、あの愛らしい顔を歪ませることを想像するだけ昂ってしまう。

 一度は彼女を手に入れる機会を逃してしまったがある意味では好都合と捉えるべきだ。

 リアス・グレモリーの眷属の女性はどれも見栄えが良い。その一点は過大な評価を与えられる。

 彼女たちの戦力の中心である赤龍帝を嬲り殺しにして絶望した彼女たちを捕えて思うままに扱うのも愉しそうだ。

 そんな暗い妄想に浸りながら端正な顔を醜く歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディオドラ・アスタロトの不審な強化についてだが、グラシャラボラス家の次期当主の不審死も含めて調べ終わったぜ。ついでにアーシアの教会追放時の件も。もっとも、最後のを調べたのはミカエルたちセラフだがな」

 

「すまないね、アザゼル。本来はこちらが行わなければならない調査を任せてしまって。アザゼル、我々悪魔は未だ多くの問題を抱えているようだ。私の想像以上に多く、深く……」

 

 疲れたような笑みを見せて息を吐くサーゼクス。

 そのことに当然気付いていたがアザゼルはあえて指摘せずに話を進める。

 

「……レイナーレたちが駒王町(グレモリー領)にアーシアを連れ込んだのは今思えば不幸中の幸いだったな。もし他の場所だったら確実にアーシアはディオドラの下に堕ちていた」

 

 今になってはなぜレイナーレたちが駒王町にアーシアを連れ込んだのか知る術はない。しかしそうでなければ最悪の結末を辿っていただろう。アーシアにとって。

 

「……やはり、彼らは来ると思うかい?」

 

「来るだろうな、確実に。だからこそお前さんも各勢力に話をつけたんだろ?」

 

「わかっている。わかっているのだが……」

 

 きっとサーゼクスの中ではこうなるまで事態を治められなかった自分を責めているのだろう。だがこの場においてそれは甘えだ。

 

「覚悟を決めろ、サーゼクス。奴らがオーフィスをバックにつけている以上、どんな手を隠し持ってるかわからねぇ。例の旧魔王派が引き抜いた囚人のこともある」

 

「リアスたちには、また迷惑をかけることになるのだね……」

 

「あいつも魔王の血縁者だ。それくらいの覚悟はあるだろうさ」

 

 アザゼルの言葉にサーゼクスはただただ目を瞑った。その眉間にはその苦悩が表れているように深い皺が刻まれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ドラゴンのオーラが異性を引き付けるならヴァーリに本気で熱を上げている女キャラがひとりくらい居ても良いと思った。
原作黒歌枠の代わりに入れたキャラで何故かこの人が入ってた。毎度の如く子孫です。
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