太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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正直、サーゼクス魔王就任時の情報がもう少し欲しい。


51話:梵天と太陽の片鱗

 サーゼクス・グレモリーが魔王になろうと決意したのはいつの話だったか。

 それは、三勢力の戦争中に敵である堕天使から憎しみをぶつけられた時かもしれない。

 それは、三勢力が停戦して、荒んだ冥界を見渡した時かもしれない。

 それは、旧魔王派と新政権との内乱の最中だったかもしれない。

 二天龍の争いに巻き込まれ、三勢力が仕方なく共闘を行い、戦争の停止が決まった後の冥界はまさに地獄と呼ぶにふさわしい状態だった。

 力の有る悪魔を多く失い、四大魔王は倒れ、ガタガタだった冥界。

 正直、あの後に天使と堕天使から停戦協定の使者が送られなければ真っ先に滅んでいたのは悪魔たちだっただろう。

 それほどまでに悪魔の勢力は追い込まれていた。

 しかし、戦争継続を表明する旧魔王派と停戦に同意する現政権との亀裂が入り、内乱に突入してますます悪魔は後が無くなった。

 既に種としてギリギリまで追い込まれた悪魔には古い考えではなく新しい秩序を構築できる頭が必要だった。

 そうして選ばれたのが現四大魔王たちだ。

 サーゼクスが魔王に就任した当時ははっきり言って老獪な貴族悪魔たちに翻弄される日々だった。

 甘い汁を吸いたいだけの貴族たちに翻弄され、思い通りにいくことなど殆どなかった。

 もし、グレイフィアという伴侶を得ていなければ彼はとっくに魔王という職を辞していたか、心が病んでいただろう心労だけがかさむ日々。

 何度超越者と称されるその力で貴族たちを押さえようと思ったか。

 そんな中でも歯を食いしばり、貴族たちの老獪さを学び、自分の意見が通るように政治家として力を付けていった。

 そうしてサーゼクスが政治を取り仕切るようになって100年以上。亀のような遅さでようやく形になってきた。

 なんてことはない。彼はただ、冥界とそこに住まう悪魔たちに未来が欲しかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーゼクス・ルシファーがこの場に現れて始めたのはクルゼレイとルイーナの2名に対する説得だった。

 

「クルゼレイ・アスモデウス及びルイーナ・レヴィアタン。どうか矛を収めて欲しい。我々にはまだ君たちと話し合いを行う用意がある。どうかこれ以上、無駄な血を流す選択をしないでほしい」

 

「まるで俺たちでは貴公らには勝てぬと言わんばかりの台詞だな、サーゼクス・ルシファー」

 

「……はっきり言おう。君たち2人では私ひとりにすら絶対に勝てない。たとえ君たちがオーフィスの蛇に頼ったところで同様だ。そしてオーフィス。この場において交渉というのは君も含まれている。どうしてもこれ以上の各勢力へのテロ行為を止める気はないのか?」

 

「我の蛇を飲み、誓いを立てるなら。そして冥界周辺にある次元の狭間の所有権、全て貰う」

 

 それは無限龍への服従を意味する要求だった。そして次元への所有権の譲渡は冥界を人界や天界との隔離を意味する。そんな提案とも言えない要求を現魔王が受け入れる筈はなかった。

 

 サーゼクスはひとまずオーフィスとの会話を切り、クルゼレイとの話し合いに戻る。

 

「クルゼレイ。わかっているのか。これ以上内輪揉めで悪魔の数を減らせば、その先にあるのは間違いなく種としての衰退だ。君とて悪魔がこの世界から絶滅することを望んでいるわけではないだろう?」

 

「黙れぇ!あの戦争で怨敵であった天使、堕天使と手を組み、ぬるま湯の平穏を享受し、悪魔としての矜持を捨てて生きていけというのか!!あの戦争であれだけの同胞を殺され、我らも殺した!その事実を忘れ、手を取り合うなどと、恥を知れ!!」

 

 そもそもの話、現政権と旧魔王派が共に天使、堕天使の殲滅に動いていた戦争時代ですら彼らを滅ぼすことは叶わなかったのだ。それを、今ようやく息を吹き返してきた冥界の戦力で可能だと思っているのだろうか。

 はっきり言ってここからの戦争再発は自殺行為でしかない。

 

「既に時代が違うのだ。多くの悪魔は……特に戦争を知らない世代はもはや戦争を望んではいない。先代魔王や聖書の神が亡くなったことで我々悪魔も新たな関係と在り方を模索せねばならない時代が来たのだ。失った者たちを悼むことは大切だが、それを理由に新しい芽を無意味に摘み取って行くなどということは断じてあってはならない」

 

「それが堕落だというのだ!ただ下々の者たちの顔を伺い、怨敵と手を取り合って笑みを浮かべる!そして魔王という名を貶め続ける貴様らを俺たちは決して許すことは出来んっ!!」

 

 どこまで行っても平行線。

 新しい道を探し続けるサーゼクスと過去の在り方に拘る旧魔王派。それらが安易に話し合えるなど夢物語でしかなかった。

 

「もういいだろう、サーゼクス」

 

「アザゼル……」

 

「覚悟を決めろと言った筈だぜ?こいつらが今の冥界の敵である以上、魔王としてお前のやるべきことはわかっていた筈だ」

 

「…………」

 

 旧魔王派は自分たちが再び政権のトップに返り咲くことを望んでいるのだろうが、そうなれば天使、堕天使から間違いなく手を切られる。

 そうなれば堕天使、天使の2勢力を冥界単体で相手にしなければいけなくなり、冥界は滅亡するだろう。三勢力の和平はあくまでサーゼクスが政治の頭に据えているからこそ実現した部分が大きいのだ。

 

 サーゼクスは目を閉じて息を吐く。そしてその瞼が再び開かれた時、彼の表情は僅かな苦渋を表していた。

 

「残念だ。本当に残念だよ、クルゼレイ。そしてルイーナ・レヴィアタン、そこから動かないということは君も同じ意見なのか?」

 

「私は、カテレアお姉さまの遺志を継いでここに居ます。それが答えです」

 

「……わかった。ならば私も現ルシファーとして君たちを討つ」

 

 サーゼクスの周辺に小さな黒い魔力が幾つも現れる。

 

「貴様が、魔王を名乗るな!」

 

 既に蛇を飲んでいたのであろう。クルゼレイから膨大な魔力が吹き荒れていた。

 そこから放たれる強大な魔力の一撃。それを喰らえば並の上級悪魔ですらひとたまりもないだろう。

 しかし、そんなものはサーゼクス・ルシファーにとってなんの脅威にもならない。

 サーゼクスは指を一閃するだけでその魔力の波を掻き消した。

 

「なっ!?」

 

「甘いよ。言っただろう?君たちでは私には絶対に勝てないと」

 

滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクステインクト)

 

 放たれたその小さい一撃があらゆる存在を消滅させていく文字通り必殺の魔弾。

 いくら蛇を飲み、強化されたとしても、力関係は上下しない。

 それほどまでに悪魔としてのサーゼクスの力は他を隔絶していた。

 

 故に彼と相対したクルゼレイとルイーナはこのまま討ち滅ぼされるのみ。

 

 

 ――――――その筈だった。

 

 ルイーナがクルゼレイの前に出ていつの間にか手にしていた大きな盾を前へと掲げた。

 すると、おかしなことが起こった。

 

 放たれたサーゼクスの魔弾が全てその盾に吸い込まれてしまった。

 

 全員がそれに驚いている間もなく、ルイーナが攻撃に入る。

 

「返します!」

 

 すると盾から今サーゼクスが放った魔弾がこちらに返される。

 

「なっ!?」

 

 サーゼクスは僅かな動揺を見せたがすぐに返された魔弾を再び作り出した魔弾で迎撃する。

 それを見ていたアザゼルは舌打ちした。

 

「どっかで見たことがあると思ったら思い出したぜ。ありゃあ、【攻撃喰いの盾(オフェンス・イーター)】だ」

 

「【攻撃喰いの盾(オフェンス・イーター)】?」

 

「あぁ。滅多に見つからないレア神器のひとつさ。相手の攻撃を吸収して射出することが出来る盾だ。ただ、俺も過去2人しか使い手を見たことがねぇから細かいことはわからん。まだうちでも細かなことがわかっていない神器のひとつだ」

 

「神器?ということは彼女は……」

 

 神器ということで何かに気付いたサーゼクス。そしてそれを察したのかルイーナがそれを口にする。

 

「そうです。私は悪魔の父と人間の母を持つハーフです」

 

「ヴァーリと同じってわけかよ」

 

「通りで私たちも彼女の存在を知らなかったわけだよ」

 

 旧魔王派においてハーフなどかなり扱いが悪いだろう。恐らく今まで実子として認知すらされていなかったのではないか。

 

「要は、術関連はダメってことね。なら、接近戦で仕留めればいいだけでしょう?」

 

「猫上……黒歌ぁっ!?」

 

「あら怖い。ま、来てみなさいお嬢ちゃん……運が良ければ仇、討てるかもしれないわよ?」

 

 小馬鹿にしたような態度を取る黒歌にルイーナの眉間の皺がさらに深まる。

 黒歌は厄介な盾持ちを引き受けることでクルゼレイの防御を丸裸にしようとしているのだ。

 一触即発。

 僅かな変化で戦闘が再開されようとしたとき、それは起こった。

 

 爆音とともに現れた巨大な炎の柱。

 突如として見えたそれに全員の視線がそこに集まる。

 

「一樹……?」

 

 仙術使いの黒歌にはその炎の柱が誰によって出されたものか明確に察した。

 そんな中で無限を冠する黒い龍は口元を僅かに吊り上げる。

 

「太陽…………」

 

 その表情と声に気付いた者はこの場には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシアァアアアアアッ!!!!」

 

 異形の姿と化したディオドラがまず最初に狙ったのはアーシアだった。

 彼は真っ直ぐにアーシアへとその巨体を突っ込ませる。

 

「させるかっ!?」

 

 それを阻んだのはグレモリー眷属の戦車であるゼノヴィアだった。

 彼女は自身の相棒たるデュランダルを振るってディオドラの進行を阻む。

 

「く、うぅううううっ!?」

 

 しかし、力と力の激突でありながら戦車であるゼノヴィアの体がじりじりと押されていく。

 だが、それを黙って観ているほどオカルト研究部の面々は無能ではない。

 

「ハァッ!!」

 

「消えて、ください!!」

 

 祐斗がディオドラの片腕を落とし、白音が螺旋丸を腹に直撃させる。

 ディオドラの体が吹き飛ばされ、壁に激突する。

 

「よしゃあ!やったぜ、木場ぁ!白音ちゃん!!」

 

「……」

 

 一誠がガッツポーズをするが当の白音は険しい表情で飛ばしたディオドラを見ていた。

 巻き上げられた砂埃が晴れると壁にもたれかかっているディオドラが呻いていた。

 

「う、う、う……ウォオオオアアアアアアアアア」

 

 咆哮と共にディオドラの体が更に巨大化し、その背中と胸の部分から4本の腕が生える。

 

「な、なんですかアレェ!?」

 

 ギャスパーが怯えた表情で周りの思いを代弁した。

 しかし誰もその疑問に答える者はいない。

 

「っ!!イッセー!アスカロンを貸してくれ!」

 

「え?」

 

「早く!!」

 

「お、おう!?」

 

 イッセーは神器の中にあるアスカロンを取り出し、ゼノヴィアへと投げる。

 それを受け取ったゼノヴィアが皆に叫んだ。

 

「みんな、少し時間を稼いでくれ!奴を吹き飛ばす!!」

 

「わかったわ!朱乃!!」

 

「承知していますわ!」

 

 ゼノヴィアの案を了承し、リアスと朱乃はそれぞれ滅びの魔力と雷光の力を左右からディオドラに放つ。

 それに防御の姿勢すらせずに受ける。右腕と左足が吹き飛んだ。

 

「アーシアには近づけさせない!?デュランダル!アスカロン!私に力を貸してくれぇええええええっ!!」

 

 ゼノヴィアの2本の聖剣が持ち主の願いに応え、聖のオーラの相乗効果を生み出し、膨大な剣閃が生み出された。

 放たれた聖のオーラの奔流。それがディオドラの体を包み込む。

 

「ゼノヴィア、今のは……?」

 

「私にはデュランダルの制御が難しい。将来的には可能だろうが、数日であっさり熟せるほど器用でもない。だから逆にパワーのみを徹底的に鍛え上げてみた」

 

 その成果がこれだ、と笑う。

 ただ、相当力を消耗するのか呼吸を荒くして汗が大量に噴き出している。

 

 だが―――――。

 

 

「ウガァアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 既に言語を喪失しているのか、奇異な叫び声を上げる。

 その肉体は再び巨大化し、その大きさは8メートルを優に超えている。

 それだけでなく、腹部に巨大な口へと変化し、右肩には触手。左肩には翼が生える。

 頭髪は全て抜け落ち、整った顔立ちも血管が浮彫りになり、かつての美しさは完全に失われていた。

 

 ディオドラは息を吸いこむ動作をし始めた。そこから練り上げられた魔力の大きさにリアスたちは戦慄した。

 

「みんな、避けてっ!?」

 

「オォオオオオオオオオオオッ!!?」

 

 咆哮と共に腹の口から発せられた魔力の波。それはデュランダルとアスカロンによって相乗された砲撃すら比にならない程の大きさ。

 それが放たれ、神殿の斜め上を直線で破壊する。

 

「みんな、無事!?」

 

 リアスが辺りを見渡して呼びかけると幸い直撃を喰らった者はいなかった。

 アーシアはイリナが抱えて射線から外させ。ギャスパーは咄嗟に白音が蹴り飛ばして避けさせた。ゼノヴィアはギリギリのところで転がるように跳んで避けている。他の皆は予め射線外の位置にいた。

 それにしてもとディオドラの放った一撃に唇を噛む。

 

 攻撃を与えればそれだけ相手に力を与えてしまう。全体を吹き飛ばそうにも今のゼノヴィアの一撃がこちらの最大火力と言っても良かった。それで駄目だとすると。

 

 考えている合間にもディオドラはその手を振るう。それだけで今のリアスたちには脅威だった。

 悪魔の翼を広げて飛翔する。

 

 そんな中、一誠がディオドラの頭部の位置まで跳躍した。

 

「喰っらえェエエエッ!!」

 

 最大倍加の渾身の一撃。

 額を殴りつけると、ゴキリと首の骨が折れる音がして背中に顔が反対で見えるほどに動かされた。だがそれさえも相手に止めを刺す結果には繋がらなかい。

 折れた首は元の位置に戻ると同時に勢いよく一誠に頭突きをかます。地面へと叩きつけられた一誠はそのまま巨大化したディオドラの足に踏まれる形になった。

 

「ぐえっ!?」

 

「イッセーさん!?」

 

 そのまま足に押さえつけられている一誠は身動きが取れなかった。

 

(禁手の力でも押し返せねぇ!?)

 

『拙いぞ相棒!このままでは潰される!』

 

「そんなこと言ったって!?」

 

 身じろぎしながらも少しずつ鎧に罅が入り、圧し潰されていく一誠。だがそれを黙って観ているほど彼の仲間は薄情ではなかった。

 

「イッセーを放しなさい!!」

 

 滅びの魔力を全力で放ち一誠を押さえつけている脚の半分を抉り飛ばす。

 そして聖魔剣を手にした祐斗と破壊と天閃2つの聖剣の力を扱うイリナが残った部分を切断し、一誠を助けた。

 

「大丈夫かい、イッセーくん!?」

 

「ワリィ、助かったぜ!それにしても……」

 

 攻撃を加えれば加えるほど力を増す正に怪物。

 もはや一誠たちには手に負えないレベルにまで達しようとしていた。

 

「ギャスパー!ディオドラの動きを止められる!?」

 

「さ、さっきからやってるんですけど全然止まらないんですぅ!?」

 

 泣きそうな声で喋るギャスパーにリアスは悔し気にディオドラを睨む。

 理性を失い、暴れるだけの怪物と成り果てた悪魔。

 同情する気はないが、哀れには思う。

 

 6本に増えた腕を振るい、デタラメな攻撃を繰り返すディオドラ。

 全員がそれを避けるのに必死になっていると、一瞬の隙を突かれて宙に浮いていたリアスの体を胸から生えていたディオドラの腕が掴む。

 

「は、放しなさいっ!?」

 

「部長っ!?」

 

 何とか脱出しようと身じろぎするがその手を解くことが出来ない。

 自分をこのまま握り潰す気かと恐怖が競り上がってきたリアスだが、真実は違った。

 ディオドラは腹の巨大な口へとリアスを近づける。

 それはリアスの胴体を食い千切るに足る大きさがあった。

 

「まさか、部長を食べる気か!?」

 

 それを聞いた皆がゾッとした。

 リアスがあの化け物に食われる。そんなことは―――――。

 

「やらせるかぁああああああっ!?」

 

 1番に動いたのは一誠だった。

 彼は渾身の力でリアスを掴んでいる腕の手首に拳を叩き込んだ。それにより僅かにできた隙間からリアスが滑り落ちる。地面に落ちようとしていたリアスを朱乃が抱きかかえた。

 

「大丈夫、リアス!?」

 

「えぇ……ありがとう、朱乃……」

 

 朱乃が部長と言わず名で呼んだのがどれほど焦ったか物語っていた。

 再びディオドラへと意識を向けるとそこには白に近い銀髪が見えた。

 

「白音、なにをっ!?」

 

 彼女はディオドラの腕に足を着けて走っていた。

 そして肩のところまで辿り着くと普段では想像できない程大きな声量で皆に告げる。

 

「このまま神殿の外へ跳びます!!離れて!!」

 

 跳ぶ。つまり転移を行うということだ。

 

「待ちなさい、白音!?」

 

 リアスが止める間もなく、彼女はそのまま怪物となったディオドラ諸共その場から消えた。相変わらず凄まじい転移術だ。

 

「部長!白音ちゃんはどうして!?」

 

「……おそらく、自分たちの手に余ると判断して外にいるオーディーンさまの力を借りようとしたのだと思うわ」

 

「あの爺さんの?」

 

 えぇ、と頷きながら自分の不甲斐無さに唇を噛んだ。

 

 外には一樹もいるのだ。あんな化け物を彼の傍に跳ばすなんてやりたくなかった筈。

 それでもそうしたのはこのままでは全滅すると思ったからだろう。事実そうなってもおかしくなかった。

 守られた、という事実にリアスは歯噛みする。

 

「すぐに、神殿の外へ戻るわ、よっ!?」

 

 動こうとすると握られた痛みが走って膝をついた。みんながそれを心配してくれるがそれに甘えるわけにはいかなかった。

 今回は悪魔側の問題だ。

 その尻拭いを余所に任せてここで休んでいるわけにはいかない。

 力に成れなくとも、せめて結末くらい自分の目で見届けなければ。

 それくらいの意地は彼女にもある。

 

「急ぎましょう。私のことは、気にしないで!」

 

 強がりだと自分でも思ったが彼女にはこうするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 神殿の奥から光線が見えて少しした後にそれは降ってきた。

 自分の頭上が急に暗くなったのを不思議に思い視線を上に向けるとそこには巨大な落下物が自分の真上に突如出現していた。

 

 

「おぉわぁっ!?」

 

 全力で退避する一樹。ついでに美猴もだ。

 

 

「なんだよなんだよなんだよこれぇっ!?」

 

「お、俺が知るわけねぇぜぃ!?」

 

 いつも飄々としている美猴もこれの出現には度肝を抜かれたらしい。

 その落下物の上から聞き慣れた声が降ってきた。

 

「いっくん!」

 

「白音っ!?」

 

 巨大な落下物から飛び降りる彼女を一樹は槍を捨ててキャッチした。それを見た美猴がナイスキャッチと親指を立てる。

 そんな美猴を無視して一樹は訊くべきことを口にした。

 

「なんだよこのデカ物!あの優男、こんなの飼ってたのか!?」

 

「これが、ディオドラ・アスタロトだよ……」

 

「はぁっ!?のわっ!?」

 

 驚いている最中に攻撃を受けて慌てて避ける一樹。そして驚いているのは美猴も同様だった。

 

「どうゆうことだい?嬢ちゃん!」

 

「新しい、蛇の力で、こんな姿に!攻撃を与えれば与えるほど強化されて―――――!!」

 

 一樹から体を離し、ディオドラの攻撃を避ける白音。そこで頼みの綱が話しかけてきた。

 

「うむ。そこで儂に助力を得ようという訳じゃな?」

 

 相手にしていた悪魔たちを粗方屠ったオーディーンが問いかけると白音がコクリと頷く。

 

「あまり老骨を扱き使うのは感心せんがお主ら赤ん坊ではこれの相手は確かに辛かろうて、な!!」

 

 手にしていた槍――――グングニルを一閃させると強大な力が放たれ、ディオドラの上半身と下半身を切断した。

 

「あの巨体を一撃かよ……うちの爺といい、神話の英雄ってのはマジでデタラメだぜぃ」

 

「ホッホッホ!これくらいできねば北欧の主神は務まらんでな。だが、安心するにはちと早いようじゃぞ?」

 

 なにを?と言おうとしたがその意味はすぐに悟る。

 2つに切断されたディオドラの上半身がバタバタと動き、獣のような叫び声を上げると奴は瞬時に下半身を再生させた。それも先ほどより凶悪な形と大きさで。

 先程と違うのは膝のあたりに角のような突起物が増え、身長が既に15メートルに達した。

 

「こりゃ、本気で消し飛ばさねばならんようじゃのう」

 

 力の溜めに入るオーディーン。しかしそこで一樹がポツリと呟いた。

 

「あれなら、試し撃ちには丁度いいか……」

 

 力を溜めるオーディーンに腕で制止をかける。

 

「爺さん。あの化け物にちょっと試したいことがある。少し、待って貰っていいかな?」

 

「ん?そりゃ構わんが、下手な攻撃だとあ奴を強化させるだけじゃぞ?」

 

「あぁ。だから、一撃で滅する。そういう、一撃を放つ」

 

 一樹の提案にオーディーンはほう?と面白そうに口元を歪める。

 

「いいじゃろう、やってみよ。挑戦は若いモンの特権じゃからのう。もし失敗して死んだら儂自らお主を勇者(エインフェリア)としてヴァルハラへ連れてってやるわい」

 

「どうも……って、エインフェリアって死後に神様の先兵として戦わされるアレだろ!?いらねぇよそんなボーナス!?」

 

 一樹の反論にオーディーンは口髭を撫でてホッホッホと笑い、なら必ず成功させて見せいと激を贈る。

 

「白音!ちょっとあれを消し飛ばすから!時間を稼いでくれ!美猴!お前も手伝え!!」

 

「はぁ!?なんで俺っちまで!俺は禍の団の一員だぜぃ?」

 

「アレにそれを識別する判断能力があるのかよ?それに思いっきり戦いたいだろう!アレなら、申し分ないと思うがな!3分だけでいい、時間を稼げ!」

 

 一樹の申し出に美猴は僅かに考える。

 

「ん~、そりゃ、かまわねぇけどよ。人にモノを頼むのにその態度はちょっといただけねぇぜぃ?別にアイツの攻撃をやり過ごすだけなら何とかなりそうだしなぁ」

 

 美猴のニヤニヤとした態度にテメェ!と言おうとすると、ディオドラの口から神殿内で放たれた魔力砲が放たれようとしていた。

 

「クソがっ!?」

 

 一樹は兵藤のドラゴンショットを防いだ車輪状の盾を具現化し、その一撃を防ぐ。

 その衝撃で一樹の体は大きく後退させられた。

 

「で、どうする?人に頼みごとをするならそれなりの態度を見せないとなぁ!」

 

 美猴の言葉に一樹は顔を引きつらせながらも一度大きく深呼吸をして頭をさげた。

 

「……どうか力を貸してください」

 

「ギリ及第点だが、ま、いっか。それに化け物退治は孫悟空(うち)の十八番だからなぁ!望み通り引き受けてやるから、オメェさんもつまらねぇもん見せんじゃねぇぞ!!」

 

 言い終わると同時に意気揚々と巨大なディオドラに突っ込む美猴。

 白音も息と視線が合うとコクリと頷いて時間稼ぎを開始した。

 

「さて、と……」

 

 一樹は技の準備に入った。

 夏休みの山籠もりでタンニーンに言われたことがある。

 

 

 

 

 

 

『小僧、お前はもう少し、聖の力を高めろ』

 

『高めろったって、そんなやり方わからねぇよ』

 

『お前はわかりやすい火力の強化に意識が向いていて聖の気はそれほど練れておらん。もし火力と聖の力。両方を高められた一撃を放てればそれは大きな力となるだろう。自分の中の力と向き合え。火力と言うわかりやすい力に意識を奪われるな。そうすればお前は悪魔にとって天敵となりえる存在だ。まぁ、悪魔の俺がするアドバイスではないかもしれんがな』

 

 

 

 

 そう言われても結局山籠もり中に一樹はその意味を理解することはできなかった。しかしここ最近の【夢】で理解しつつある。

 何度も夢で殺された。

 その度に自分の知らない経験を刻みこまれる。喰らった技が自分のモノとして理解させられていく。

 

(夢の中で喰らったあの技の威力をそのまま再現は出来るなんて思っちゃいないが、あれくらいなら消し飛ばせる筈だ!!)

 

 そう確信して一樹は技の準備に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「伸びろ、如意棒!!」

 

 空中で背後を取った美猴が如意棒を伸ばしディオドラの喉を貫く。

 伸ばされた如意棒は地面に突き刺さり、敵の体を固定する。

 

「ふっ!!」

 

 間髪入れずに白音が鋼糸の巻きついた苦無を大量に投擲し、鋼糸に付けられている起爆符を密着させた。

 50を超える起爆符が連鎖的に爆発し、ディオドラの体を焼く。

 

「どうだいっ!!」

 

 如意棒を戻した美猴が得意げに笑うが、それはまだ早かった。

 背中の腕が美猴に迫り、彼を払い除ける。

 

「ちっ!蠅か蚊の扱いかよ!!」

 

 それを如意棒で受け止めながら、綺麗に着地した。

 

「やっぱ攻撃はダメだな……とすると、あんま得意じゃねぇが、術で動きを封じさせて貰うぜぃ!?」

 

 髪を引き抜き、吹きかけ、再び分身を作る。

 3体の分身たちは移動し、敵を囲うように配置に着く。

 

「これなら、どうでぃっ!!」

 

 両の手をパシンと合わせると、地が動き、ディオドラの動きを封じていく。

 隆起し、突起物となった岩の柱が次々と突き刺さって行く。

 それだけでなく岩が宙を浮き、磁石のようにディオドラへと引き寄せられ、その体を圧し潰す。

 

(とはいえ、長くは持たなそうだぜぃ!)

 

 そう考えていると、美猴は後方から膨大な熱量と聖のオーラを感じてそちらへと振り向いた。

 

「待たせたな……今、片を着ける!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスたちが神殿の外へ出たのは一樹が強力な聖の炎を槍に纏わせているのを終えたのと同時だった。

 

「なんだ、これ、これだけ離れてるのに……っ!?」

 

「や、火傷しそうですぅ!?」

 

 その熱量と聖のオーラ。

 距離が離れているにも関わらず、消されてしまいそうなほどそのオーラは悪魔であるリアスたちにとって毒だった。

 

 一樹が放とうとしている技。かつて多くのインドの戦士が習得した秘儀。

 本来は弓術で放つ技だが一樹はそれを投擲槍で再現しようとしていた。

 神話の時代の英雄たちが使った、絶技。

 その一撃は核兵器に例えられ、国すら滅ぼすと謳われた破壊の一撃。

 

未・梵天よ、(ブラフマーストラ)――――――」

 

 その技が今、現代に甦る!

 

我を呪え(クンダーラ)!!」

 

 投げられた炎を纏った槍。それが真っ直ぐと放たれ、動きを封じていた岩を抜け、ディオドラの肉体に突き刺さる。

 その場にいた全員が驚いたのはその後だった。

 一拍置いたその後に突き刺さった内部の槍から炎が噴出し、炎の柱となってディオドラの巨体を包み込む。

 ディオドラは熱さに苦しむように体を動かすが、炎の柱は燃やし尽くすまで収まらないとばかりにその体を焼き続ける。

 

 炎が静まったのは、ディオドラの体を真っ黒な炭のように焦がし、身動きひとつ取らなくなってからだ。

 

 その巨体が地面へと倒れたが、もはや再生することはなかった。

 

「はぁ……」

 

 大きく息を吐き、力を使い果たした一樹はその場に仰向けに寝転がる。

 

「初めて撃ってみたが、やっぱまだ未完成だな。(アイツ)には到底及ばねぇ」

 

 そう言って一樹は疑似空間の天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 




未・梵天よ、我を呪えの未の部分は未完成の意味です。本作品の演出としては炎を纏った槍を投擲。突き刺さった内部から炎の柱が出現する爆発という感じです。
CCCやEXTELLA通りにやると使いずらいので。

ようやく一樹の主人公力が僅かに重い腰を上げましたがどうでしょうか?(震え声)
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