太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

62 / 124
59話:悪神の宣誓

 オーディーンが駒王町に来訪してさらに日数が経った。

 

 あの主神が立ち寄る店が未成年お断りが大半であることから護衛として意味を為さないということでリアスたちが護衛に回ることもなかった。

 しかしそれに付き合わされる黒歌、バラキエル、ロスヴァイセは疲労の色が見え始めている。

 それでも余所様である黒歌とバラキエルはまだマシな方で、お付きであるロスヴァイセは店に入る度に高確率でやらかすことから生真面目な彼女は店に頭を下げ続ける日々が続き、オーディーン本人もロスヴァイセをからかい続けることからもよく胃に穴が開かないモノだと黒歌は感心していた。

 

 だがそれも限界があるわけで。こんな時間も必要なのである。

 

「おーでぃーんさまったらひどいんですよぉ……まいにちまいにちまいにち――――――」

 

「ホント、酷い上司ね~」

 

 高級な酒を一気に煽りながら不満を吐き出すロスヴァイセに黒歌はうんうんと受け流している。

 ここは駒王町にある風俗店のひとつでそこでオーディーンとアザゼルを待ちながら女2人で酒を飲んでいた。

 本来護衛役である彼女たちが酒を飲むのは当然NGなのだがここ最近のロスヴァイセに溜まった心労をバラキエルが慮って薦めたのである。ここが風俗店であることから女性2人は個室にまでは入れずに暇を持て余していることが多いという理由もある。

 

 まだ飲み始めて30分も経っていないというのにロスヴァイセは既に泣きながら愚痴を吐き出していた。

 知っているくせに彼氏が出来たかと毎日聞いてきたり。

 隙あらばロスヴァイセの胸や尻を撫で回してきたり。

 問題が起きれば対処をぶん投げられたりと。

 相当ストレスが溜まっていたのかアルコールの力に敗けて愚痴が噴水のように湧き上がってくる。

 黒歌自身酒を飲んでいるが果実酒をチビチビと舐める程度で聞き手に徹している。

 これは黒歌が酒を苦手にしているのではなく、あくまで護衛という立場を忘れていない為だ。

 何せ休日に朝から日本酒の一升瓶を飲んでいるのも珍しくないのだ。

 ロスヴァイセの愚痴はオーディーンから今の職に対するモノへと変わる。

 

「ヴぁるきりーってめいよしょくではあるんですけど近年、エインフェリアをまねく機会が少なくなっていてなれる人もかぎられてるし、下からけおとそうとするひともおおいしで……」

 

 もっともロスヴァイセ自身、オーディーンのお付きを誰もしたがらないことからそのスポットを収まってくれて周りからの評価が日々上がっていたりする。本人が気付いていないが。

 

 そんな風に話しているうちに頭をフラフラさせて黒歌の胸に頭を突撃させる形になる。

 

「うわっ!?あぶなっ!」

 

「うう……ごめんなさい……わたしってほんとうにだめなヴぁるきりーで」

 

「にゃはは。気にしてないわよ?」

 

 それを受け止め、支えていると申し訳なさそうにするロスヴァイセに黒歌はいいのいいのと答える。それにしても本当に酒に弱い。元々なのか心労で弱くなっているのかは判断しかねるが。

 

「わ、私ばかり聞いてもらって悪いので黒歌さんのほうはどうなのですか?」

 

 自身の失態で多少酔いが醒めたのか先程より口調がしっかりするロスヴァイセ。そんな彼女に黒歌は苦笑して今の職について考える。

 

「そうねぇ。不平不満は当然あるわよ?突然無理難題を吹っ掛けられることもあるし。でも私の場合自分から望んだことでもあるからねぇ。それ以上にアザゼルには恩もあるし」

 

 黒歌がアザゼルと接触したときは本当に切羽詰まっていた。

 幼い頃から猫の姿で日本各地を放浪していた姉妹は苦労を重ねてきた。

 食べ物を得るためにゴミを漁り、時には窃盗を働き。

 子供に石を投げつけられたこともある。

 そしてようやく見つけた猫又の集落などではとある事情から受け入れてもらえなかった。

 鍛錬など重点的にする機会がなかった黒歌は拙い妖術でどうにか生き延びてきた。

 

 そんな中で出会ったのがアザゼルだった。

 当時白音が熱を出してしまい、頼る当てもなく近くに居た堕天使にしか縋れる相手がいなかった。

 もっとも、その時は相手が堕天使総督とは知らずに、神の子を見張る者が神器使いや人間の異能を集めていると風の噂で聞いたのだ。もしかしたらそれにあやかれないかと接触した。

 質に入れられるモノは自分だけ。当時黒歌は自分が人型としてそれなりに見栄えする容姿であったことから生きる為、曳いては妹にこれ以上辛い生活を強いたくないという思いからアザゼルに頼み込んだ。

 なんでもする。だから私たちを助けてほしいと。

 身体でも殺しでも。必ず役に立って見せると自分を売り込んだのだ。

 それを始めはポカンとしていたアザゼルだったが話を聞き終わるとどことなく面白そうなというか当時の黒歌から見て悪い笑みを浮かべて姉妹を連れて行った。

 当時の黒歌は三大勢力でいう中級の下くらいの力しかなかったため、軽い雑用の仕事から訓練を受けさせられ、どこから手に入れてきたのか仙術に関して書かれた本なども渡されてそれを黒歌が我流で学んだ。

 力を付ける度に要求が上がり仕事を達成させてきたことで、神の子を見張る者の中で黒歌はアザゼルの都合のいい小間使いという地位を手に入れた。

 そして日ノ宮一樹という家族を傍に置いたことで黒歌は自分の生活に結構満足していた。

 それに今の黒歌なら何処へ行っても上手くやれる自信がある。流石に過去に色々とあったことから転生悪魔になるのは御免被るし、和平が成立したが基本人外御断りな教会に所属することは無理だが。

 それこそフリーの魔物狩りでも食べていけるだろう。そうしないのはアザゼルに恩があることと、組織を抜けると地盤造りが面倒という生来の不精な性分からだ。

 

「私のせいで白音と一樹には迷惑をかけてきたから、あの子たちが大人になってひとり立ちするまでは自分のことは後回しでもいいって思うし。私としては2人がくっついてくれたほうが安心だけど、それは本人たち次第だしねぇ?」

 

 黒歌としては2人が一緒になってくれれば万々歳だがそれを強要する気はない。

 そもそも一樹はそういうことに疎いし、白音も色々と面倒な性分なため今の関係が変化するのはもっと後だろうと黒歌は思っている。

 まぁ、本当に付き合い始めたら盛大にからかってやろうくらいは考えているが。

 

「うう。くろかひゃんはいいおねえさんですね……私もそんな姉がほしいです」

 

 ロスヴァイセの言葉に黒歌は苦笑する。

 黒歌としてはむしろ――――。

 

 そこでロスヴァイセがカウンターのテーブル突っ伏して眠っているのに気付く。

 本来なら起こす所だが疲れているようなのでそれも憚れた。オーディーンたちが戻るまでに起こせば問題ないだろうとそのまま寝かせることにする。

 それまで黒歌は酔わない程度に果実酒を舐め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会談の準備は着々と進んでいく。

 と言っても、サーゼクスにしろ、ミカエルにしろ、忙しく、駒王町に来訪する時間が取れないとのことなので話し合いは通信回線越しで行うこととなった。

 調印やらなにやらは代理を寄越すとのこと。

 これは三大勢力の協定に北欧が加わり、禍の団の件だけでなく、今まで交流の無かった魔法技術やその他諸々の交流が本格化される大事な会談なのだ、が――――――。

 

 

「ホッホッホッ!今日はどんな店に連れてってくれるのかのう。楽しみじゃわい!」

 

「俺らもう、帰っていいですかね?」

 

 これから風俗店に向かうオーディーンに一樹がこめかみに青筋を立ててアザゼルに問う。

 現在面々は空を移動する馬車をに乗って移動していた。一応、不可視の魔法をかけているらしく外からは見えないらしい。

 

「まぁまてまて!!正式な会談日も決まってあともう少しなんだ!その内にじいさんに何かあったら困るからお前らを呼んだんだ!言いたいことはわかるが堪えろ!」

 

「……キャバクラなら俺らは入れないし、あのじいさんの身の安全が大事なら兵藤家の地下にでも押し込めとけばいいのでは?」

 

「地下に閉じ込めた程度じゃあ、あの手この手で出て来るぞ。それに北欧の主神にそんなことした日にゃそれを理由に向こうがどんな要求をされるかわかったもんじゃない。酒と女で大人しくしてくれるなら万々歳だ」

 

「……本当に申し訳ありません」

 

「いや、貴女に謝られてもさ……」

 

 耐えるように体を震わせて謝罪するロスヴァイセに一樹は何も言えなくなる。

 

「ほら、あと数日だけだから。お願い、ね?」

 

 同時に黒歌にまでそう言われれば一樹は黙っている他ない。

 どうにもここ数日で2人の仲が深まったらしくやたらと仲が良い。

 

「…………」

 

 皆が警戒している中で朱乃は心ここにあらずといった感じで話しかけるなオーラを発している。

 バラキエルから視線を外して黙しており、そんな朱乃をオカルト研究部の者たちはどうするべきかと考えていたが家庭の問題であるため実質放置にせざるえなかった。

 

 そこで、黒歌の表情が一気に険しくなる。

 

「不味いわね……」

 

「え?」

 

 隣に居たロスヴァイセがどういうことか訊こうとすると馬車が大きく揺れた。

 

「キャッ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 一誠の肩を枕に眠っていたアーシアはビクンと跳ね起きたので、抱き支えられる。

 

 なにかあったのか馬車の外に出ると、外部で護衛していたバラキエルと祐斗とゼノヴィアが翼を展開して警戒している。

 停まった馬車の外では目つきの鋭い男性が空中に立っていた。

 

「初めまして諸君。我こそは北欧の悪神、ロキである」

 

 仰々しく礼をするロキと名乗る男に彼の存在を知る面々は驚きの表情をする。

 突然の来客にアザゼルが前に出て対応する

 

「これはこれは北欧のロキ殿。このような場に一体なんの御用で?貴殿の来訪は伝えられておりませんでしたが?それにこちらにはそちらの主神が乗っておられます。それを承知で今の攻撃を?」

 

 わざとらしい丁寧語で話すアザゼルにロキは口元を吊り上げる。

 

「なに。我らが主神が北欧の地を離れ、他の神話体系と接触し、あまつさえ和平を結ぼうなどと考えているのが我慢できなくてね。わざわざこの地に降りたまでのこと」

 

 喧嘩腰の態度にアザゼル先生がしかめっ面で舌打ちする。

 そこでひとつきになり、ロキに問うた。

 

「この時期にこの行動。まさか禍の団(テロリスト)と繋がってるわけじゃねぇだろうな?律儀に答える義理もないだろうが」

 

 アザゼルの質問にロキは不快そうに表情を歪める。

 

「あのような下賤な輩と同一視されるのは不快の極みだな。私のは自分の意志でここに居る。そこに彼奴らの意志はない」

 

 その答えにアザゼルは肩の力を僅かに抜く。

 北欧の神までテロリストに協力していると厄介さが増すからだ。

 

「これが、北欧の問題か?まったく面倒だぜ」

 

「まったくのぉ。今回の協定は正式な会議で決定したことじゃというに。まだ納得できん頭の固い連中が居るようじゃのぉ。それでも行動に移したのはあ奴だけのようじゃが」

 

 溜息を吐くオーディーンの横でロスヴァイセが声を張り上げる。

 

「ロキさま!このような行動、明らかな越権行為です!ご不満があるならば正式な場で異を唱えるべきです!」

 

「一介の戦乙女風情が口出ししないで貰えるかな?私はオーディーンに訊いているのだ。オーディーン。貴殿はまだこのような北欧の領分を越える行いを続けるつもりか?」

 

「然り。なにぶん他の神話体系の術式に興味があっての。三大勢力もこちらの知識と技術を欲してるようなので丁度良かったわい。これで正式な和議が成立すればお互いの大使を招き、異文化交流としたいものじゃて」

 

「なんと愚かな。いいだろう、ここで黄昏を始めよう」

 

 自らの宣言にロキから殺気と濃密なオーラが感じられる。

 それに反応して禁手の準備を終えた一誠が鎧を纏い、背中からドラゴンの翼を生やす。

 これは悪魔の翼で上手く飛べない一誠にドライグが解放した自らの翼だ。

 制御はドライグがやる為、まだ呼吸が合わせ切ってない2人では拙いがとりあえず空中戦を可能にしている。

 

 

 一樹も右手と左足の鎧を出し、槍を構える。

 もっとも、空の飛べない一樹では炎を投げつけることくらいしか出来ないが。

 それぞれが戦闘態勢を取る。そんな中でもっとも早く行動を移したのはゼノヴィアだった。

 聖剣のオーラを増幅させてロキへと撃ち放つ。

 

「……早ぇよ」

 

「先手必勝だと思ったのでな。しかし無傷か。流石は北欧の神と言ったところか」

 

 攻撃跡を見るとそこには無傷のロキが変わらずに佇んでいた。

 

「聖剣か。大した威力ではあったが、神を相手にするにはまだ足りん」

 

「部長!女王に昇格します!!」

 

 リアスの許可を得て一誠は女王へと昇格する。

 

『相棒、飛行をこちらに任せろ!全力で行け!』

 

「あぁっ!」

 

 倍加を行いながら一誠は急激な加速でロキに詰め寄る。

 突き出された拳とロキの魔法による防壁が衝突する。

 

「ほう!赤龍帝か!順調に力を上げていっているようで何よりだ。しかしな!」

 

 防壁ごと一誠を弾くと反対の手に魔力が集約される。

 

「まだ神を相手にするほどではない!」

 

 感じる膨大な魔力に回避行動を取ろうと一誠が動くも間に合わず、吹き飛ばされる。

 

「今ので死なんか。特別加減したわけではないのだが……」

 

 僅かだが意外そうに目を細めるロキ。

 その間にイリナは天使の力である光力と炎の聖魔剣を振るう祐斗の攻撃はロキの髪や召し物を揺らすだけだった。

 

「まったく。堕天使幹部が2人に赤龍帝その他諸々。他神話の主神の護衛としては些か以上に厳重だな」

 

「お主のような血気盛んな者が現れたんじゃ。結果的に正解じゃて」

 

「これほどの戦力だ。我ひとりでは手に余るかもしれんなぁ。なればこそこちらも増援を呼ばせてもらおう。来い!我が愛しき息子よ!」

 

 指を鳴らすと空間が歪み、出来た亀裂の中から現れたのは10メートル程の大きさがある灰色の狼だった。

 狼を認識した瞬間、全員に悪寒が走る。

 

「ロキの奴、厄介なモンを連れて来よって……!」

 

 オーディーンも忌々し気にしている。

 

『相棒、アレはヤバい!奴の攻撃は絶対に避けろ!』

 

「どういうことだよドライグ!アレがヤバいってのはなんとなくわかるけど……」

 

 ドライグが答える前にアザゼルが声を張り上げる。

 

「お前ら、絶対に神喰狼(フェンリル)には手を出すなアレは、俺とバラキエルがやる……!!」

 

 脂汗を滲ませて警告するアザゼルに皆が息を呑む。

 訳が分からず一誠が問う。

 

「先生!あの狼ってそんなにヤバいんですか!?」

 

「イッセー!そいつは神さえ屠れる牙を持ってるんだ!お前の鎧もそいつの前じゃ歯が立たねぇ!!」

 

 アザゼルの断言に一誠に冷や汗が流れる。

 そんな反応に気を良くしたのかロキは撫でながら言う。

 

「これは我が生み出した魔物の中でもトップクラスに最悪な部類だ。この牙ならば他神話の神仏や伝説のドラゴンと言えど殺せるだろうよ」

 

 そこでロキの視線がリアスへと向けられた。

 

「この子の牙に北欧以外の者に使いたくはないが、現魔王の血筋。その味を覚えさせるのもいいかもしれんな」

 

 その一言でフェンリルはその場から消えるような高速移動でリアスに迫る。

 リアスの目の前に現れたフェンリルはその巨大な口で獲物を食い千切ろうと迫る。

 

「っ!?」

 

 滅びの魔力で凌ごうとするリアスより先にその口の中に炎の球が投げ込まれ、爆発する。

 僅かに止まった動きに一誠が追従し、倍加された拳をフェンリルに叩き込む。

 

「部長!大丈夫ですか!!」

 

「え、えぇ!ありがとう、イッセー!一樹も!」

 

 リアスの礼に一樹は首だけを動かして応える。

 しかしフェンリルの方は特にダメージもなく、平然としていた。

 

「ゴフッ!?」

 

 そこで一誠が吐血する。

 

「イッセー!?アーシア!」

 

 見れば鎧に小さな穴が開けられえており、僅かに遅れて一誠の中で痛みが襲う。

 祐斗が一誠を引き、馬車に居るアーシアの元へと送ろうとした。

 

「赤龍帝。ここで逃しておくと後々に厄介かもしれんな。ここで確実に仕留めておこう。いや、どちらかと言えばあの少女からか?」

 

 再びロキの手に魔力が集まる。

 狙いは、アーシアだった。

 

「ロキィイイイイイイイッ!!」

 

 アザゼルとバラキエルが同時に仕掛けるがそれすらもいなされてしまう。

 そして小さな矢がアザゼルとバラキエルの体に突き刺さる。

 

「ツッ!?さすがに魔法技術関連は俺らより進んでいるって話だったが!!避けろ、アーシア!」

 

「先ずはひとり」

 

 無駄と知りつつ叫ぶアザゼル。馬車に居るアーシアに魔力の渦が迫る。

 

「ヤロッ!!」

 

 アーシアの後ろから一樹が手を付き出し、車輪状の盾を前面に出し、ロキの攻撃を防ぐ。

 

 力の奔流が馬車を破壊していく。

 そして防ぎ終わる瞬間、その衝撃に一樹の体が大きく吹き飛ばされた。

 

「っ!?」

 

 端に追いやられた一樹はバランスを崩す。

 落ちようとする一樹の手を白音が掴むが咄嗟で支え切れずに2人して馬車から落ちる形となった。

 

「……っ!?」

 

「一樹さん!?白音ちゃん!?」

 

「こ、のっ!!」

 

 黒歌が妖術で助けようとするが冷静な部分で間に合わないと告げている。それは他の面々も同じだった。

 落下する感覚に恐怖しながら一樹は白音の体を抱きしめ、現状を打破しようと考える。

 しかし、こんな状況で都合よく案が浮かぶわけもなく。

 全てがスローモーションに感じ、自分が落下して死ぬ未来が頭に過る。

 今抱きかかえている白音と一緒に。

 それはダメだと強く思う。

 まだ何にも返せてないのに。

 こんなにあっさりと死んで、死なせるなんて―――――!

 

「死なせ、られっかぁああああああっ!?」

 

 その叫びと共に一樹の背中から炎が噴出する。

 それが翼の形を成し、その場に落下の動きを止めた。

 

「いっ……くん……?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 疲労ではなく助かった安堵により呼吸を荒らげる。

 慣れていないからかフラフラと馬車へと戻る。

 

 それを見て黒歌は安堵した。

 駆け寄って抱きしめたい衝動はあったが、それよりも目の前の事態を切り抜けなければならない。

 

 ロスヴァイセがロキを相手に北欧の魔術で応戦している。

 高速で形作られる魔法陣により次々と放たれる威力、精密性は彼女が名ばかりのお付きでないことを実感させる。

 しかしロキは全方位から襲われる攻撃を涼しい顔で防いでいる。

 

 そうしている間にもフェンリルの凶行が一誠たちへと襲い掛かってくる。

 その時―――――。

 

『Half Dimension!』

 

 突如フェンリルを中心に空間が圧縮され、巨大な狼は拘束される。

 しかしそれも僅かで自らの力でその拘束を食い破った。

 

「兵藤一誠は無事か?」

 

「おいおい。おっぱいドラゴンは重傷かぃ?さすがにアレの相手はちぃっときつかったかぃ?」

 

 現れたのは禁手化したヴァーリ・ルシファーと筋斗雲という雲に乗った美猴だった。

 ヴァーリは一誠を一瞥した後にロキへと視線を移す。

 

「初めまして、北欧の悪神ロキか。俺はヴァーリ。貴殿を屠りに来た」

 

「白龍皇が赤龍帝を助けるか。中々に面白い展開だ。だがそこまで戦力があると流石に手に余る。ここは引かせてもらうとしよう。次はそちらの会談の時にオーディーンの首を狩らせてもらう」

 

 それだけ言い残し、ロキはその場から消え去った。

 

 一誠はヴァーリにどうしてここに居るのか問おうとしたが、フェンリルから受けた傷による出血で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは黒い空間だった。

 黒く染め上げられたこの場では自身の体すら見えず、息が詰まりそうな虚無の空間。

 そこで帝釈天は口元を吊り上げて目の前に居る筈の男に話しかける。

 

「YO!相も変わらずこんなところで修業とは暇な奴だZE!もっともここに監禁されているお前さんにはそれしかやることが無いんだろうがな!」

 

 テンション高く話しかける帝釈天に話しかけられた男は不快そうに睨みつける。

 

「おいおい睨むなよ!俺はむしろお前さんのそうしたところは嫌いじゃないZE!それにケンカ売ってきたお前を半殺しにして殺さずにここに閉じ込めただけで済んでんだ!むしろ感謝するべきだろ?」

 

 帝釈天と話す気が無いのか男は背を向けて訓練を再開する。そんな相手を無視して帝釈天は要件を伝えた。

 

「お前さんの釈放が決まったZE!あと数日したらここから出してやる。そしてお前さんにお誂え向きな相手も用意してなぁ。俺?HAHAHA!止めとけ止めとけ!いくら強くなったつってもお前じゃ俺には勝てねぇよ。それでもやるってんなら、今度は確実に殺すZE?」 

 

 帝釈天の言葉を聞き男は鬱陶しそうに舌打ちする。

 

「楽しみにしてるといい。なんせ相手は―――――」

 

 最後の言葉を聞き、男は大きく口元を歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。