太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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61話:神に挑むための準備

 ミドガルズオルムと接触した翌日。

 オーディーンからミョルニルを預かったアザゼルは一誠にそれを手渡す。

 

「本来ならこれも神族にしか使えない武器なんだがレプリカだからか多少は融通は利く。そこに居るロスヴァイセとバラキエルの協力で一度だけ振るえるよう仕様を変更した」

 

「はい。オーディーンさまからこれを赤龍帝にお渡しするように言い遣っております」

 

 渡されたのは装飾の成された日曜大工ほどの大きさの有るハンマーだった。

 

「なんか思ったよりショボいっすね」

 

 正直な感想を口にする一誠に苦笑する。

 

「オーラを込めてみろ。そうすりゃサイズが変わる」

 

 言われた通りニョルニルにオーラを込めると一瞬光を放ち、柄や槌の部分が巨大化する。

 重くなったそれを一誠は支えきれず床にニョルニルは埋まる。

 

「おいおい纏わせ過ぎだ。抑えろ抑えろ」

 

 言われた通り流すオーラを抑えるとサイズが再び変わり、一誠が振るうのに丁度良いサイズへと縮小する。

 それでも重さは変わらず持ち上げられないが。

 

「これだと禁手化しないと持ち上げられそうにないです!メッチャ重い!」

 

「そりゃ仕方ねぇな。とにかく一旦戻せ。ここで使うわけじゃねぇし、手違いで発動したら目も当てられん」

 

「そんなにすごい武器なんですか?」

 

「神の雷を宿した武器だからな。それはレプリカとはいえオリジナルに近い力を持ってる。ここで発動させたら町にどこまで被害が出るか予想できん」

 

 アザゼルの言葉を聞いて慌てて流したオーラを切り、元のサイズに戻す。

 そこで一誠はキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「そう言えば、部長はどうしたんですか?」

 

 リアスならこうした場面に顔を出すのではと思っていたのでこの場にいないことに違和感を覚える。

 

「リアスなら木場と一緒だ。ロキと戦うために自分なりの案を持ってきてな。木場とそれを準備中だ」

 

 楽しそうな表情をするアザゼルに一誠は首を傾げる。

 しかしそれを訊くまえにアザゼルはヴァーリへと視線を向ける。

 

「オーディーンのじいさんがドワーフたちを保護してくれた礼になにか送りたいと言ってたぜ。なんか頼んで見たらどうだ?イッセーみたいに追加の武器とかよ」

 

 アザゼルの言付けに一誠は顔を青褪めさせる。ただでさえ強敵なのにこれ以上強くなっては堪らない。

 

 しかしその提案にヴァーリは首を横に振る。

 

「俺は白龍皇と自身の力のみを極めるつもりだ。だから追加武装はいらない。だがメディアが北欧の術式に興味を持っていたな。出来ればそれらを記した書物でも譲ってくれれば十分だ」

 

「わかった。オーディーンのじいさんにはそう伝えておくぜ」

 

 ヴァーリの自身を鍛える方針に一誠は呻く。

 こうして周りの助けられながらどうにか進んでいる自分と違い、ライバルは生まれ持った才能だけを磨き、進もうとしていることに若干の劣等感が刺激される。

 

 しかしその考えを直ぐに引っ込める。

 ヴァーリと自分は違うのだ。自分は自分なりに強くなればいい。周りの力を借りて強くなることも悪いことではないはずだ。要はそれに見合うだけの器を持てばいいのだから。

 

 そこでアザゼルがニヤリと笑い、ヴァーリに絡む。

 

「ところでヴァーリ。あんな美人といつ知り合いになったんだ?」

 

「メディアのことか?彼女は以前所属していた魔術ギルドに追われていたところを偶然見かけて追い払ったのが縁だ。それ以来、こまめに連絡を取っていた。俺が禍の団に所属することが決まった時もどこで聞きつけたのか一緒に行くと言ってきてな。彼女の能力なら他のギルドでもやって行けただろうに」

 

 物好きな人だと続けるヴァーリ。

 

「で?お前はあの女のことをどう思ってるんだ?」

 

 年寄りの冷や水というか嬉々として突っ込んで訊いてくるアザゼルにヴァーリは表情を崩さずに答える。

 

「彼女は優秀な魔術師だ。実際俺も彼女から魔術に関して指導を受けたこともある。時々俺に向ける視線が気になることはあるが、概ね助かっている」

 

 淡々とした回答にアザゼルはふーんと答えながら若干安心する。

 あのメンバーが戦闘狂ばかりでないことと、ヴァーリにそういう視線を向けてくれる相手がいることに。

 

(ヴァーリは向こうの感情に気付いてねぇだろうが、こりゃひょっとするか?)

 

 一誠のように異性に対する感情が希薄なヴァーリだがメディアの態度からもしかするかもしれないと希望を持つ。

 その眼は息子に恋人が出来るかもしれないと期待する父の眼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練室で一樹は空から急降下するとそのまま勢いを殺しきれずに地面へとマンガで見るような豪快なヘッドスライディングを披露する。

 

「うわ~。空を飛べるようになったって言っても自由自在ってわけじゃないのね」

 

「……人間は地に足を着けて生活する生き物なんだよ。いきなり空飛べるようになったからって楽々と空中移動出来てたまるかっての!」

 

 黒歌に苦笑されながら評され、一樹は不貞腐れて答える。

 炎の翼を出して空を飛べるようになったはいいが如何せん零か百かしかないような制御で酷いものだった。これで攻撃まで意識を割くのは難しいだろう。

 

「そこまで拙いと作戦に組み込むのは危険ね。今まで通り地上メインかな?」

 

「それがいいな。今のままでは体当たりくらいしか使い道がなさそうだ」

 

 イリナとゼノヴィアの評価に一樹は頭をガシガシと掻く。

 せっかく飛べるようになっても下手過ぎて扱えない。慣熟させる時間もないときた。

 肩を落とす一樹。

 

「リアス・グレモリーたちも一樹にはブラフマーストラのほうを期待してるのかもね。あれならロキ相手でも充分通じる筈だし」

 

「……あれ、発動にまだ時間がかかるんだけど」

 

「それを補うのが周りの役目でしょ。とは言ってもロキとフェンリル相手にどこまで出来るか不明だけど」

 

 肩を竦める黒歌。

 

「それにミョルニルのレプリカとグレイプニルがあれば勝ち目も出てくる。問題は何処を戦場にするか、かな」

 

「話によると駒王町にある広い採石所に転移させるらしいわよ。そうじゃないとタンニーンとか戦えないし」

 

 流石に町中を戦場にする気はないらしい。

 安心して息を吐く面々。

 

「でも追加の戦力を持ってくるだろうし、その規模が不安です」

 

「何にせよ、やるしかねぇだろ。あのじいさんにはディオドラの時の借りもあるしな」

 

「ちょっとこっちがお釣りが多い気がするけどねぇ」

 

「私たちはいつも通り目の前のことを全力を尽くすしかないわけだ。それなら分かりやすくていい。チマチマとするよりはね」

 

 ゼノヴィアの言うとおり、政治だのなんだのとは今の自分たちには理解の外だ。

 ただ、目の前に脅威が迫っているからなんとかしよう。

 結局自分たちはそれだけなのだ。

 

 それを自覚して全員が苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、廊下を歩きながら一誠はうんうんと唸っていた。

 

「参ったなぁ。予想よりずっと重いじゃん……」

 

 一誠が悩んでいるのは朱乃のことだった。

 先程、協定の調印役として訪れたグレイフィアとリアスに朱乃のことを尋ねたところ返ってきたのは想像以上に過酷な朱乃の過去だった。

 

 始まりは過去、神の子を見張る者と敵対していた組織との抗争で大きな怪我を負ったバラキエルを偶然介抱したのが朱乃の母、姫島朱璃だった。

 手厚い看病を受けている間に互いに好意を抱くようになり、怪我の治療を終えた後も彼女の下へ訪れるようになり、その仲は更に深まることとなった。

 そうして産まれた娘が朱乃だった。

 正式な婚約こそ認められなかったがそれでも親子3人で幸せな生活が続いていた。

 しかしその幸せは親族の誤解から最悪の結末を辿る。

 朱璃が堕天使に洗脳されたと勘違いした親族たちはバラキエルを排除しようと堕天使に怨みを持つ術者を放ち、バラキエルを排除しようとした。

 たが運悪くその時、バラキエルが所用で家を離れていたため、術者の手が朱乃と朱璃に及ぶ。

 親族たちはあくまでもバラキエルの排除が目的で合って朱璃はもちろん、ハーフである朱乃にも危害を加える気はなかった。

 しかし術者にとって堕天使とのハーフである朱乃も契りを交わした朱璃も粛清の対象でしかなかったのだ。

 そして親族の中にその手段を良しと思わない者もおり、姫島母娘の下へ向かった時には既に遅く、朱璃は術者によって殺害され、娘の朱乃はなんとか保護できたが、この一件での自責に堪えかねた親族たちは全ての責はバラキエルにあると朱乃に吹き込む始末。

 幼かった朱乃はそれを鵜呑みにし、堕天使やバラキエルを憎むようになる。

 そして歳を重ねる内に事実を知った朱乃は親族も憎悪の対象とした。母を奪った全てを。

 その後、リアスに出会い彼女の女王へと転生したらしい。

 

 リアスとグレイフィアの話を聞き終えた一誠は正直、いっぱいいっぱいだった。

 

 ここ数日のバラキエルの様子から朱乃のことを大事に思っているのは間違いないが、どうしたら朱乃に話を聞かせるか全然案なんて浮かばない。

 

 自分の不甲斐なさに落ち込んでいると珍しい組み合わせの話し声が聞こえた。

 

「だから、俺はその話を受けるつもりはねぇんだって。そんなに出場したきゃ、お前が堕天使側に戻ってやれよ」

 

「そういうことを言っているのではないんだけどね。それだけの才能と力が有りながら平凡に堕ちるのは勿体ないと思わないか?」

 

「……お前、平凡ってモンを馬鹿にしてんだろ?」

 

 話していたのはヴァーリと一樹だった。

 その組み合わせも珍しいがやや険悪な雰囲気に一誠は顔を出す。

 

「どうしたんだよ?」

 

 一誠が顔を出すと2人はそちらに視線を向ける。

 

「……兵藤一誠か。大したことじゃない。アザゼルから日ノ宮一樹がレーティングゲームを堕天使勢として参加するよう依頼されたが断られたと聞いてね。聞けばどこかで一般人に戻る選択をするというじゃないか。それが、俺には多大な損失に見えた。だから説得してみたのだが」

 

「レーティングゲームの件ならお前がアザゼルさんのところに戻って参加してやれって返しただけだ。兵藤には前にも言ったが俺はこの力で食ってく気はねぇし、一生を戦いに捧げる気もないからな」

 

「だが君もこちら側の世界で注目を集めつつある。まだ赤龍帝やグレモリー眷属に隠れているがいつかはそれも難しくなるだろう。今回ロキを退ければなおのことな。そこまで関わっていながら君は途中で降りられると本気で思っているのか?」

 

「それ、は……」

 

 ヴァーリの言葉は一樹が心のどこかで思っていたことだ。

 このまま関わり続ければ戻れなくなるのではないか。

 もしかしたらアザゼル辺りが何とかしてくれるかもしれないが、それも限界があるだろう。

 功績を積み上げれば周りから注目され、逃げ場を失くす。

 

「……それでも俺はどこかで距離を取る。今はまだ俺自身ここでやらなきゃ、いや……やりたいことはあるけど。それを終えればそっち側に立つ理由がない」

 

「……君の好きにすればいい。だが、そんな半端な気持ちでこちらに関わり続ければ取り返しのつかない事態になることだけは忠告しよう」

 

 それで会話を打ち切る2人。

 僅かな沈黙に耐え切れず、一誠はどうにか話題を口にする。

 

「そ、それにしても神様と戦うことになるなんてな!禍の団といい、なんでみんなで仲良くすることに反対するのかな?俺、みんなと楽しく平和に過ごせればそれで満足なのに……」

 

「君にとっての平和が誰かにとって苦痛となることもあるということさ」

 

 平和であることが苦痛。

 それは平和な現代日本でずっと暮らしてきた一樹と一誠には理解に苦しむ感情に違いない。

 

「お前も、平和なことが苦痛なのか」

 

「退屈なだけだ。だからこそ、ロキやフェンリルに挑める今回の戦いは楽しみで仕方ない」

 

 旅行を心待ちするような子供のような表情をするヴァーリ。

 

 そこでドライグが宿敵に話しかける。

 

『俺たちも今回こうして神に挑むのは久しい。なぁ白いの』

 

『……』

 

『白いの?』

 

『……話しかけるな。私の宿敵に乳龍帝などいない』

 

 アルビオンの一言にドライグの心に亀裂が入る。

 

『うおぉい!ちょっと待て!?乳龍帝と呼ばれているのは相棒であってだな!』

 

「え!俺だけ!?」

 

『モニターで宿敵の禁手化姿で乳龍帝などともてはやされる宿敵を観て私がどんな気持ちだったかわかるか?相対的に私への評価も下げられているんだぞ?』

 

『俺だってアレを観たとき言葉もなかったわ!何故だ……俺は二天龍の赤き龍と恐れられ聖書の三勢力はおろか他の神話体系にすら恐れられていた筈なのにどうしてこうなった……!』

 

 神器の中で震える声を出す二天龍。

 

「あぁ、だから前にモニター鑑賞してた時、一言も話さなかったのか。おい兵藤。お前の所為だぞ。何とかしろよ」

 

「俺か!俺が悪いのかよ!?」

 

「最近、この手の話題を耳にする度にアルビオンは啜り泣いているんだが……こんな時俺はどんな言葉をかければいいんだ?」

 

「知るか!?いや本当に変態でごめんなさい!」

 

 そうして話しているうちに別の誰かがひょっこり顔を出す。

 

 現れたのはオーディーンとロスヴァイセだった。

 

「ほっほっほ!まさかあの二天龍が啜り泣く声が聞けるとはのぉ。長生きをすれば面白いもんが見れるわい」

 

「赤龍帝と白龍皇は顔を合わせれば周りを巻き込む戦いが起こることが常だと聞いていましたが、今回は相当稀有な事態ですね。もしくは宿主が……」

 

 突然現れた2人に言葉を返さない3人にオーディーンは口元を歪める。

 

「それで?白龍皇の小僧と梵天の小僧はどこが好きなんじゃ?」

 

「はぁ?」

 

 いきなり訳の分からない質問をする北欧の主神に一樹は首を傾げる。

 

「女体で好きなところじゃて。お主らとて男子に生まれたからには好みがあろう。このじじいにちょいと話してみぃ」

 

「……当日ロキに売り飛ばすぞじいさん」

 

 眼を細めて暴言を吐く一樹とは対象にヴァーリは少し考える素振りを見せる。

 

「そういうことに関心が薄いのでな。だが強いて言えばヒップか。腰からヒップのラインは女性を表す象徴的な部分だと思うが」

 

『ヴァーリィイイイイイッ!?』

 

「そうかそうか!で?そっちの小僧は自分だけ答えんつもりか?」

 

「ロスヴァイセさん。本当にこのじいさんをロキに突き出して殺させた方が北欧(そっち)は平和なんじゃないですか?」

 

「言いたいことはわかりますが堪えてください。こんなのでも私たちのトップなんです」

 

「お主ら言いたい放題じゃのぉ」

 

 2人の会話にオーディーンは咎めるどころかむしろ可笑しそうに笑う。しかし次の瞬間、真面目な表情を作る。

 

「わしはジジイの知恵袋が多くの問題を解決する術だと信じておった。じゃがここに来てそれが年寄りの傲慢じゃとわかって来たわい。重要なのは若いモンの可能性。年寄りはそれを守るための道を作れば充分じゃったのだと思うようになっての。そしてわしの傲慢が若いモンに苦労させとる」

 

 何か振り返るような瞳をするオーディーン。

 それに一誠は首を傾げながら答えた。

 

「うーん。でもさ。一歩一歩進んでいけばいいんじゃないかな」

 

「こういうことってどうやったって問題は出て来るもんなんじゃないか?要はどう収まりをつけて、どう活かすかが問題で」

 

 2人の言葉にオーディーンの目が見開いた。

 

「そうか。そうじゃのぉ。全くもってその通りじゃて。これだから若いモンとの会話は止められん」

 

 その答えが気に入ったのか、とても満足そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤邸の地下でリアスと祐斗。それにアザゼルは一息ついていた。

 

「ようやく納得が出来るだけの形になったわね。ありがとう祐斗。それとごめんなさいね、付き合わせてしまって」

 

「いえ。僕のほうこそすみません。上手く出来るまでに時間がかかってしまって」

 

「いいのよ。初めての試みだったんだから。無理を言ったのはこっちなのだし」

 

「だが完成にはこじつけた。これがロキに通じるかは当日にならんとわからんが、手札が増えた事には変わりない」

 

「えぇ。たとえ神が相手でも、私は誰も死なせるつもりはないわ。必ずみんなで生きて帰るの。だから出来ることならなんでもしておかないと」

 

 完成した目の前の物にリアスは誓うように力を込めて握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




朱乃の過去は微改ざん。

次の話でようやくロキ戦突入。
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