太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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66話:思わぬ指名

 一樹は冥界の空を眺めながらいつも以上のしかめっ面をしていた。

 向かい合うようにいるのは若手最強と名高いサイラオーグ・バアル。

 彼はまるで子供のような好奇心いっぱいの表情でこれから対戦する一樹を見ていた。

 そんな相手を見ながら一樹は疑問を口に出す。

 

「なんでこうなったんだよ!」

 

 原因となったアザゼルを睨めつけて一樹はここに至る経緯を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行前にオカルト研究部は冥界のグレモリー家に訪れていた。

 主に話をしているのはリアスの母であるヴェネラナと一誠。そしてリアスが時々話に割り込むくらいだ。

 グレモリー家に到着したころ、一誠と一樹はヴェネラナとグレイフィアからダンスの練習はしているか?と訊かれたので一樹はそこそこにっと、と答え、一誠は言葉を詰まらせた。

 その後、以前と同じように一誠はヴェネラナと。一樹はグレイフィアと一緒にダンスの練習をさせられた。

 一樹はどうせまた踊る時が来るだろうとアザゼルの助言から週1回の数時間だけ練習を続けていた。

 そのおかげでその場を乗り切る。

 まぁ、一樹の上達したと言っても、以前よりはマシ程度なのだが。

 

 

 そうしてお茶会を終えた後に帰還するのだと思っていたら、サーゼクスや他の魔王の用があるらしく、転移魔法で移動することとなった。

 サーゼクスの息子であるミリキャスも連れて。

 

 指定された場所に行くとそこにはサーゼクスともうひとり。リアスたちの次の対戦相手でもあるサイラオーグ・バアルが居た。

 

「やぁ、リアスに皆。わざわざすまないね」

 

「お邪魔している、リアス」

 

 サイラオーグは貴族服で挨拶する。

 それにリアスも2人に軽く挨拶を返した。

 

「それで、お兄さま。御用件というのは?」

 

「あぁ。実はサイラオーグと次のゲームのことで話し合っていてね。そこで彼はリアスとのレーティングゲームで科せられるはずだった制約をすべて取り除いてほしいと頼まれたんだ」

 

 サーゼクスから知らされた言葉にグレモリー眷属は目を見開いた。

 

「兵藤一誠の女の服を破く技もハーフ吸血鬼の神器。そして互いの真価を損なうような舞台ではなく、真っ向から全力で戦える舞台で戦いたい。その上で越えて往かねばバアル家の次期当主。そして、俺の夢である魔王の座も胸を張って言える筈もない」

 

 そのあまりにも堂々とした姿にリアスたちは目を見開く。

 そしてその器に飲み込まれそうになった。

 

 特に自分の能力を前向きに捉えるサイラオーグにギャスパーは近くにいた一誠の後ろで震えている。

 互いに視線を交わすリアスとサイラオーグにサーゼクスは口を挟む。

 

「そういえばサイラオーグ。君は赤龍帝との全力の戦いを所望していたね」

 

「はい。同じパワー型の肉弾戦を得意とする彼との戦いを俺は心待ちしています」

 

「なら丁度いい。ここで軽く闘ってみるかい?」

 

 サーゼクスの提案に全員が眼を丸くした。

 

「赤き龍の力。その身で味わいたいのではないか?」

 

 しかしその提案にサイラオーグは僅かに逡巡する。

 その態度にサーゼクスは首を傾げた。

 

「どうしたのかね?これは君にとって悪い提案ではないと思うが?」

 

 再び質問する魔王にサイラオーグは僅かな躊躇いを以て口を開いた。

 

「……サーゼクスさま。もし許されるのであれば、この場で我が儘を言うことをお許し頂きたい」

 

「ほう。我が儘ね。赤龍帝では不満と?」

 

「そうではありません。俺は赤龍帝との戦いを心から待ちわびています。しかし彼とはレーティングゲームでその拳を交えることになるでしょう。しかしこの場に、いつ拳を交える機会が有るのかわからない者がいる。叶うことなら、俺はその者と闘ってみたい」

 

「その者の名は?」

 

「日ノ宮一樹です」

 

 名前を呼ばれて一樹は盛大に表情を崩す。もちろん歓喜とは真逆の方に。

 

「一樹くんとかい?しかし彼は……」

 

「もちろん彼が今回のレーティングゲームとは関係ないことは重々承知です。しかし彼はリアスの眷属になる意思はなく、これから先、闘いの機会が訪れることもないでしょう。ですから、この機会に彼と闘ってみたい。子供とはいえフェンリルを屠り、あの北欧のロキに一撃を浴びせたと聞く彼と」

 

 そこでサイラオーグの視線が一樹に向けられ、それに釣られるように皆の視線が一樹に集まる。

 当の本人としては話が盛られてないか?という感想だ。

 子供のフェンリルは周りの助けを借りて一撃を見舞っただけだし、ロキの時はほぼ無抵抗な状態でビビって倒せなかった本人としては恥話だ。

 

「しかし良いのかい?それでは君だけが手札を晒すことになるが」

 

「俺にできるのはこの鍛え抜いた身体で敵を殴ることだけです。元より、知られて困るほど難解な手札など持ち合せてはおりませんので」

 

 つまり、ここでリアスたちに自分の力を知られても問題ないという。

 少し考えた後、サーゼクスは一樹へと視線を向けた。

 

「どうだろう、一樹くん。後は君の返答次第なのだろうが……」

 

 断るに決まってるだろ!?と内心で思いながらやんわりと辞退しようとするとアザゼルが後ろから一樹の口を塞いだ。

 

「いいぜ。俺が許可する」

 

「……アザゼル。私は一樹くん本人に訊いているのだが」

 

「ま、俺のレーティングゲーム参加の件も断りやがったしな。そうなんでもかんでも逃げられると思うなよって俺が無理矢理でも闘わせる。いいな、一樹?」

 

(いいわけねぇだろ!!)

 

 そう言いたかったが、口を強く塞がれている上に腕力で首をがっちりと固定されていた。

 

 こうして一樹は若手最強の男と戦うことを余儀なくされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい白音。さっきから俺の脛に蹴り入れるの止めろ」

 

「……どういうつもりですか?」

 

 ジト目どころか視線で人が殺せそうな眼光を放ち、白音はアザゼルの脛をこまめに蹴り続けていた。

 

「別に。ただ、今の一樹がサイラオーグにどれだけ通用するか気になっただけさ。それにあくまでも軽い手合わせだ。最悪の事態になんてさせねぇよ。そしてリアスたちもサイラオーグの実力に触れることが出来る。良いこと尽くしじゃねぇか」

 

「肝心のいっくんに得がありませんが?」

 

「たまには苦労を買って出ることも教えねぇとな。それに納得できねぇなら後で上等な酒でもくれてやるさ。これは、それだけ価値のある試合だ」

 

 要は自分が面白いものが観れればそれでいいのだ、この大人は。

 

 舌打ちして白音は眼下の対戦が無事終わるように手を組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武具を、使ってもいいんですよね?」

 

「あぁ。全力で来い!」

 

 すっかりやる気のサイラオーグから発せられる闘気に飲み込まれそうになるのを堪えながら、一樹は槍と籠手と足甲を出現させる。

 

「それが噂の……成程、こうして対峙するだけでも肌を焼くようだ」

 

「どうもっ!」

 

 それを合図に一樹は一跳びでサイラオーグの下まで跳ぶ。

 それに合わせてサイラオーグの拳が放たれるが、寸でのところで跳躍し、相手の背後へと跳び越えて槍を突く。

 しかしサイラオーグも凄まじい反応で振り向き。槍を受け流し、上下逆さまになった一樹に蹴りを入れる。

 向かってくる脚を槍で受け止めながらその勢いなままに飛ばされ距離を取るが、一樹は寒気がした。

 

 サイラオーグの放った拳や蹴りから地面が破壊されるほどの衝撃が走ってくるからだ。

 

(さっきの反応からしても身体能力だけなら禁手化した兵藤以上かもな。なにが才能無しだ。魔力関係の才能を全部肉体関係に回されただけなんじゃねぇか?)

 

 舌打ちして構えを取り直す。そんな一樹にサイラオーグは感心したように笑みを浮かべる。

 

「なるほど。小手調べで放った攻撃で委縮するほど軟な精神ではないか。大概の若手悪魔はこれくらいの攻撃で心が折れるのだが」

 

「今も逃げ出したいくらいですけどね」

 

「そんな軽口が言えるのなら上等だ!だが無暗に手を隠していると、すぐに意識が飛ぶぞ!」

 

 今度はサイラオーグから接近してくる。

 それと同時に一樹は後方へと跳び、着地する僅かな間に矛先に力を集める。

 

「飛べ、(アグニ)よ!」

 

 横薙ぎに払われた炎の斬撃が飛ぶ。

 それをサイラオーグは一息とともに自分の拳を合わせた。

 

「フッ!!」

 

「ウソだろっ!?」

 

 一樹が放った攻撃はサイラオーグの拳を受けて霧散する。

 それを観客席で見ていた一誠が驚きの声を上げる。

 

「あの技、俺の禁手()も斬れる威力があるのに!」

 

「ましてや生身の悪魔だ。あいつの炎は天敵の筈なんだがな。闘気の量だけじゃなく、その密度も段違いってわけだ。お前ら、せっかくの機会だから良く観察しておけよ。この模擬戦でお前らの勝率を1%でも上げるためにな」

 

 アザゼルの言葉を聞かずとも全員が2人の模擬戦に釘付けなっていた。

 そして攻撃を受けたサイラオーグは笑みを浮かべている。

 

「薄皮一枚とはいえ、身体を傷付き、血を見るのは久しぶりだ。これが、お前の力か」

 

 炎の斬撃を受けた拳は火傷と切り傷が出来ており、そこから血が流れている。

 

「ほとんどバグキャラだな。アレでもあれしか傷つけられないとか」

 

「今度こそこちらから行くぞ!」

 

 真正面から突っ込んでくるサイラオーグに一樹は一旦、槍を腕輪に戻し、防御の体勢を取る。

 

「バカッ!?なにやってんだっ!?」

 

 観客席から一誠が叫ぶ。

 いくら鎧があってもサイラオーグの拳を一樹がまともに受けきれるはずはない。

 そうして放たれた拳を一樹は重ねた両の掌で受け止め、同時に地面を蹴り、身体を回転させる。

 サイラオーグの突きの威力を利用した蹴りは顎へと直撃した。

 

「つぁ……っ!?」

 

 少し離れたところで着地し、手首を振る。

 

(タイミングは完璧だった筈なのに威力を殺しきれなかった!てか、攻撃した筈のこっちのほうがダメージがデカい!)

 

 カウンターで放った蹴りにサイラオーグは嬉しそうに顎を撫でる。

 

「まさかあんな方法で反撃されるとは思わなかったぞ」

 

「前に、野生の猿にやられたことを真似してみたんですけどね。やっぱり、見様見真似じゃ通じないみたいで」

 

「謙遜するな。今のは効いたぞ。俺の力を技で反して来る相手は久しぶりでな。お前との闘いはまだまだ得るものが多そう、だ!」

 

 距離を詰めるサイラオーグに一樹は炎の球を放つがそれを拳で打ち払われ、時間稼ぎにもならない。

 

 槍の矛先に炎を纏わせながら一樹は応戦する。

 サイラオーグの攻撃はどれも必殺。一撃で一樹をノックアウトさせる威力がある。故に全て捌き、避けながら攻撃の隙を窺っていた。

 

 サイラオーグの蹴りに合わせて横に跳び、威力を軽減させながらも矛に闘気を注ぐ。

 

 ロキの時のように力を一点に集中し、サイラオーグの防御を貫く。

 

「焼き斬れ……(アグニ)よ!」

 

 一樹の槍がサイラオーグの胸を捉え、サイラオーグの拳も一樹の頭部を捉えている。

 

「そこまでだ」

 

 しかし、その闘いは突如中断されることとなった。

 サーゼクスが槍と拳を押さえることで

 

「魔王さま……」

 

「すまないね、サイラオーグ。しかし、これ以上の続行は確実に死合に発展する。いくらアーシアくんがいるとはいえ、それはマズイ。ここまでにしてくれないか?」

 

 サーゼクスが止めに入ったことで一樹は槍に纏わせた炎を消し、腕輪に戻す。それにサイラオーグも拳を引っ込める。

 

「いえ……これ以上、闘いが長引けば、止め時を誤るところでした。感謝します、魔王さま」

 

 そして一樹へと視線を向け、笑みを作る。

 

「俺のワガママに付き合ってくれてありがとう。良い経験をさせてもらった」

 

 そうして求められた握手に応じる。

 触れたその手は厚く、硬い。愚直なまでに鍛え続けた重みのある男の手だった。

 

 そうしているとリアスたちが観客席から降りてくる。

 

「リアス。中々、良い協力者を得たようだな」

 

「えぇ。眷属同様に、自慢の後輩よ」

 

 サイラオーグの言葉にリアスは胸を張って答える。

 

「アザゼル殿も、今回のワガママを許してくださり、感謝します」

 

「気にすんな、俺は面白いモンが見れて満足だ」

 

 そして最後に一誠に体を向けた。

 

「今回はこうした形になったが、ゲームでのお前との闘いを俺は楽しみにしている。お前となら、真っ向のパワー勝負が出来そうだからな」

 

 そうして肩に手を置かれる。それだけでズシリとした何かが重く感じられた。

 

 サイラオーグが去った後にサーゼクスが教えてくれた。

 彼は身体に負荷をかけて闘っていたと。

 その事がなおのこと一誠に重圧をかける。そしてリアスとそう変わらない歳の彼がそこまで強くなれたことに畏敬の念を懐かずにはいられなかった。

 

 そこでサーゼクスが話を変える。

 

「実は今日、もうひとり来訪する者が居てね。イッセーくんには是非彼と会ってほしい」

 

「俺ですか……?」

 

「あぁ。来たね」

 

 現れたの緑色の髪をした妖艶な男性だった。

 

「やぁ、初めまして。俺はアジュカ・ベルゼブブ。一応魔王のひとりを任されている」

 

「アジュカは主に冥界の技術面を担当している。彼のおかげで冥界の技術は5段階飛んで発展したからね。悪魔の駒の開発を行ったのも彼だ」

 

 軽く手を挙げて挨拶するアジュカにサーゼクスは簡単な紹介をした。

 そこで一樹が、ん?と何かを思い出す。

 

「ベルゼブブって確か……」

 

「ディオドラの件はすまなかったね。そして、身内の不始末を着けてもらい、感謝している」

 

 そう言われて一樹は眉を動かす。

 別段ディオドラを殺ったことは後悔してないが、身内にそうあっさり言われるとどう反応したら良いのかわからないのだ。

 

「アジュカ」

 

「わかっている。赤龍帝くん。良かったら、君の悪魔の駒を見せてもらってもいいか?」

 

「へ?悪魔の駒、ですか?」

 

「あぁ、なに、すぐに済むさ。何せ、魂を封じ込めた神器保有者を悪魔に転生させた例は少ない上に二天龍だからな。少し興味がある」

 

 そう言って小さな魔法陣を幾つも展開し、それらに目を走らせる。

 

「へぇ。面白いことになってるな。駒が神器の中に入っている。禁手と昇格を使い続けた影響か?でも術式が雑だな。これだと誤作動を起こす可能性がある。よし、ついでだからそこら辺も調整しておこう。ゆくゆくは、駒が神器と同化する筈だ」

 

「え!?良いんですか、そんなことして?ゲームとかで不正になるんじゃ」

 

「今回はあくまでも誤作動しないように調整するだけだ。それに、君たちは何かと面倒ごとに巻き込まれやすい性分のようだしな。どう成長するかはこれからの君次第だが、と終わった」

 

「もう!?あれ?でも何かが変わったような感じは……」

 

 アジュカの仕事の早さに驚きながらも何か変わったか?と疑問を抱く一誠。

 

「今回は不具合の調整と可能性の提示だけだからね。君の中にある可能性の前に鍵を置いた。どの鍵を手にして扉を開けるのは君次第さ」

 

 成長する要素は与えたが、あとは自分で何とかしろということらしい。

 そこで一誠はふと思いついたことを訊いてみた。

 

「あの、レーティングゲームってどれくらいの隠し要素があるんですか?」

 

「言う訳ないさ。それを個人に教えてしまったら、それこそ不正になってしまうし、そういうのはユーザー側に見つけて欲しいのが作りてってもんだ」

 

 肩を竦めて笑うアジュカ。

 

「なんか、アザゼル先生と話しが合いそうですね」

 

「いやいや。俺は新しいモノを創るのがメインで彼は在ったモノを研究するのがメインだからね。この違いから、研究者としては微妙にウマが合わないと思うよ」

 

「ま、そうだな。必要なら協力するくらいの関係が丁度いい」

 

 アジュカの論にアザゼルが同意する。

 どうやら同じ研究者でも全員仲良くとはいかないらしい。

 

「さて、俺はもう帰るよ、俺は地上でもゲームを創って運営しているんでね。長いこと居なくなると支障をきたす」

 

「アジュカ。それは例の件か?それともただの趣味か?」

 

 サーゼクスの問いにアジュカは笑みだけを浮かべて応えずにそのまま去って行った。

 

 こうして、短い冥界での交流は幕を閉じた。

 

 

 そして、白猫は自分の手の平をジッと見つめてあることを決意した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

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