太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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白音魔改造計画の初級編。


68話:白猫への試練・前編

 ドンッ!地べたに叩きつけられ、白音は息を肺から絞り出した。

 

「どうしたの?さっきの大口はやっぱり口だけだったのかしら?」

 

 見上げるとそこには姉の冷たい眼差しに竦みながらよれよれと立ち上がる。

 

「まだ諦めないのね。なら、もう少しだけ痛い目見てもらいましょうか!」

 

 向かってくる黒歌に白音は構えを取った。

 

(絶対に、私は―――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 パシンと室内に頬を張る音が響く。

 

「白音、アンタ自分がなに言ってるのかわかってる?」

 

 叩いたのは黒歌。叩かれたのは白音。

 黒歌は怒りの感情を隠さずに正座する妹を見下ろす。

 強い意志を持って自分を見返す白音に黒歌は溜息を吐いた。

 

「確かに、上手くいけば白音は今より段違いにレベルアップできるでしょうけど、その仮定は無意味よ。失敗することが決まってる仮定なんてね」

 

 黒歌は台に乗せてある幾つもの札が張られている壺に触れる。

 

「白音。この中に封印されているのは私たち猫魈の中でも最強の力を持った存在。それを身に宿して制御するなんて無謀を通り越して自殺行為なの。それに強くなるなら白音は順調に強くなってるわ。少なくとも10年以内には最上級に手が届くくらいにね。ここで無理をする必要なんてないじゃない」

 

「でも、全然足りない……」

 

 白音はポツリと呟く。

 

「いっくんは、どんどん強くなってる。このままじゃ、追い越されて私が足を引っ張る日が必ず来る。そんなのは、イヤなんです。いっくんは私が守らないと。そうじゃないと、私は―――――」

 

 まるでそうでなければ自分に存在価値無いと言わんばかりに力を求める白音。

 その理由を知っているだけに黒歌は苦い表情をするがだからといってこんな方法を試させる訳にはいかない。

 

「とにかく、強くなりたいなら別の案を出しなさい。これは、白音の手に余るわ」

 

 壺を抱えて移動しようとすると白音が服の裾を掴む。

 

「ダメだって言ってるでしょ!これ以上駄々をこねるならもう1回引っ叩くわよ!」

 

「……………」

 

 言いながらもこのままじゃ納得しないだろうということはわかっていた。

 黒歌は舌打ちして代案を出す。

 

「わかったわ。ならひとつ勝負と行きましょうか?」

 

 黒歌の提案に白音は目を見開くがすぐに表情を引き締めて頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いわね、リアス・グレモリー。訓練場所貸してもらっちゃって」

 

「それは良いのだけれど……いったい何を始めるの?」

 

「ただのちょっとした姉妹喧嘩よ、姉妹喧嘩!」

 

 肩を竦める黒歌にリアスははぁ、と相槌を打つ。

 

 兵藤邸の地下にある訓練場に移動していた。

 白音はジャージで軟体をしている。

 そんな妹に黒歌は手に持っていた鈴を見せた。

 

「とりあえず今からお昼までの約2時間以内に私からこの鈴を奪うこと。それが出来たら白音の言うことを利いてあげる。もし出来なかったらこの話は無しってことでいいわね?」

 

 その提案に白音は頷いた。

 黒歌は鈴を手首から下げ、指をクイックイッと動かして挑発する。

 

「来なさい、白音。その思い上がり、お姉ちゃんが叩き直してあげる」

 

 黒歌の挑発に乗ったわけではないが、時間制限がある為、白音は最初から仙術を用い、全力で鈴を取りにかかる。

 仙術の仙気を身体能力に回して一瞬で黒歌の背後まで移動し、背後から鈴を奪いにかかる。

 その速度は白音の体格の小ささもあり、祐斗以上に観戦しているリアスと朱乃には感じた。

 

「甘いのよ」

 

 しかし黒歌はその動きは僅かに体を動かして避け、すれ違い様に掌底を背中に叩き込む。

 

「っ!?」

 

 地べたに叩きつけられた白音は即座に起き上がろうとするが、その時、不可解なことが起こった。

 起き上がろうと腕で体を支えようと動いた際に、膝が動いた。

 

「え!?」

 

「あら?どうしたの、白音?早く起き上がらないと時間がきちゃうわよ?」

 

 クスクスと笑う黒歌に何かされたのだと判断した。

 右腕を動かそうとすれば、左足が動き、左腕を動かそうとすれば首が動く。

 

「気付いたみたいね。少し白音の身体を動かす電気信号を弄って、体の動きをデタラメにしてみたの。ゲームとかで偶にあるでしょ?攻撃を喰らうと操作方法が変わっちゃう状態異常とか。早くどこを動かせばどこが動くのか把握しないと、立ち上がることさえままならないわよ。もっとも、私の攻撃を喰らう度に弄らせてもらうけどね!」

 

 そう言って黒歌は白音を蹴り飛ばした。

 受け身も取れずに地面をゴロゴロと転がされる。

 

(落ち着け!?落ち着け!!姉さまの言葉に惑わされちゃダメ!自分の体がどう動くのか把握するんじゃなくて、仙術の気を用いて状態を元に戻す!)

 

 白音は自身の仙気で姉の仙気を追い出す。

 一瞬血の流れを自分で操作するような不快感に吐き気がしたが、それを堪えて黒歌と向き合う。

 すると黒歌はパチパチと手を叩いた。

 

「へぇ。もう少し混乱するかと思ったけど、意外と頭回るわね」

 

 称賛半分。小馬鹿にするのが半分と言ったところだろう。白音は息を整えながら、悪態を吐いた。

 

「姉さまのイヤらしい戦い方なんてお見通しです……」

 

「そう?もっともお姉ちゃんも妹の直情的な思考なんてお見通しだけど!」

 

 言い終えると黒歌の姿が掻き消えた。

 

「白音に転移符を教え込んだの、誰だと思ってるの?」

 

 背後からの声に白音は本能的に前方に跳び込み、背後からの黒歌の攻撃を躱した。前転する合間に懐から玉を取り出し、黒歌へと投げつける。

 玉は黒歌の目前で煙を撒き散らしてその姿を覆った。

 

「目暗ましね。でも―――――」

 

 そこで白音が黒歌の上から鈴を奪いに跳びついてきた。

 迎え撃つ黒歌が腕を突き出す。

 それが白音の腕を掴むと黒歌の体が爆発した。

 

「がっ!?」

 

 爆発で吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる白音。

 

(影分身!?いつの間に)

 

「そっちがこっちの目を眩ませるってことは、白音からも一瞬でも私の姿が見えなくなるってことよね」

 

 起き上がると目の前に黒歌が立っていた。

 この目の前に居る黒歌は本物なのか。それに一瞬でも思考を割き、動きが鈍ってしまう。それは致命的なミスだった。

 目線が合う。すると、白音の視界は一瞬で闇に包まれた。

 

「幻、術……」

 

「ご名答」

 

 気付けば、自分は磔にされており、視界に姉の姿を映す。

 その手には彼女の愛剣が握られていた。

 

「これから白音を襲うのは偽りの痛みよ。残り時間、存分に耐えてみなさい」

 

 それだけ言って、黒歌は手にした剣を白音の体に突き刺した。

 

 

 

 

 

「あ、ああああああああああああああっ!?」

 

 突如悲鳴を上げた白音にリアスと朱乃は唖然とした。

 

「黒歌!白音に何をしたの!?」

 

「大丈夫よ……少し、痛い目見てもらってるだけだから。約10分。思ったより早かったわね」

 

 大きく息を吐いて地面に這いつくばる妹を見下ろす。

 動かないところを見ると痛みに耐えかねて意識を失ったのだろう。

 これならタイムリミットまで待つ必要はない。

 黒歌はリアスの方に向く。

 

「ごめんなさいね。もう終わったから帰るわ」

 

 体が完全にリアスの方へ向いた瞬間に伏していた白音が跳ね上がる。

 そのまま黒歌の鈴を奪おうとするがあっさりとその腕を掴まれて関節を極められた。

 

「へぇ。精神世界とはいえ、都合6回も切ったり刺したりしたのに。随分根性が付いたのね」

 

「……っ!」

 

「で?次はどんな手で来るのかしら?」

 

 白音は袖口から起爆符を取り出し、それを自分から爆発させて関節技を外させ、距離を開けさせる。

 

「む、無茶しないの!?今の下手したら自分の手が吹き飛んでたわよ!!」

 

「これくらいやらないと、姉さまの意表は付けません!」

 

「だぁ、もう!誰に似たんだか!」

 

 妹の無茶な行動に呆れながら、黒歌は影分身を10体作る。

 

「数の差で圧倒させてもらいましょうか。このまま降参してくれるとお姉ちゃんとしては嬉しいんだけど」

 

「誰が……!」

 

「ま、そうよね。いくわよ」

 

 それを合図に黒歌の影分身が一斉に襲いかかってくる。

 

「……!!」

 

 接近してくる影分身たち。それに白音は敢えて突っ込んだ。

 

(影分身なら戦闘能力はオリジナル程じゃない。それにあの数で距離を取ったら確実にこっちがやられる)

 

 本来、黒歌は幻術や妖術を駆使して戦う中・遠距離型。ほぼ近距離型の白音が距離を開けるなど時間の無駄だ。

 

 一番前に居た黒歌に近づくと速度を上げ、苦無を取り出して腹に刃を入れる。

 それだけで影分身の1体が消えた。分身体とはいえ、姉に刃物を通すことに嫌悪感が過ったが、それをすぐに仕舞う。

 先程のように影分身を爆発される可能性を考慮し、ヒット&アウェイで対応する。

 しかし、あれは多用しないと白音は考えていた。

 影分身の経験はオリジナルにフィードバックされる。

 自分が自爆する苦痛と経験なぞ何度も味わいたくは無い筈だ。

 

 妖術を駆使してくる分身体や、足止めしてくる分身体をひとりずつ消していく。

 螺旋丸。起爆符。体術。

 分身体とはいえ手加減できる相手ではない為に全力で潰した。

 

 8体目の分身体と相対ときに妖術で地面を隆起させられ、バランスを崩した際に剣で襲いかかられた際はカウンターで顎を蹴り上げた。空中で背後に回り、蹴りや拳を放ちながら上空を取る。

 

「ハァッ!!獅子連弾っ!」

 

 最後に蹴りとともに地面へと叩きつけた。

 

 着地し、息を切らせる。

 だがそれを許すほど相手は甘くない。

 自分に向けて振り下ろされる剣を横に跳躍して躱し、着地する合間に苦無を相手2体同時に投げつけて消した。

 

「これで、全部……!」

 

「そうね。でも時間をかけ過ぎたわね。そろそろタイムリミットよ!」

 

 黒歌は妖術で猫を形作った炎を作り、白音へと放つ。

 そしてそれが白音の体を焼いた。

 

「っ!?このくらいで!」

 

 仙気を操って炎を払い、黒歌に向けて苦無を投げつける。

 それが黒歌の近くまで移動した際に白音は転移を発動させた。

 

「お得意の転移攻撃ね……読めてるのよ!」

 

 バシッと鈴を取ろうとする白音の手首を掴む。

 

「残念だったわね、白音。頑張ったみたいだけど、時間的に私の勝ちよ」

 

「いいえ、姉さま。私の、勝ちです」

 

 宣言すると白音は掴まれている腕とは反対の腕で黒歌の腕を掴む。

 それと同時に地面から、もうひとりの白音が飛び出してきた。

 

「影分身!?いつの間に!」

 

 驚く間もなく白音に拘束されている黒歌は動くことが出来ずにそのまま白音の影分身に手首に付けられた鈴を奪われた。

 

「うっそ……」

 

 黒歌自身信じられないと言った顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「姉さま、では約束通りに」

 

「本当にやるの?お姉ちゃんとしてはお薦めできないんだけど……」

 

「姉さま?」

 

「わかってるわよ!だー!もっと難易度の高い課題にすれば良かった!」

 

 頭を抱える黒歌にリアスが話しかける。

 

「え、と……おめでとうって言えば良いのかしら?ところで今回の原因は何だったのかしら?持ってきていた壺と関係あるの?」

 

「……それには昔討伐された強力な力を持った猫魈。その霊体が眠っているのよ」

 

 黒歌の答えにリアスと朱乃は目を見開く。

 

「それを体の中に入れて屈服させて制御することで強大な力を得られるんだけど」

 

「そんなことが可能なの?」

 

「理論上はってとこ。危険な事には変わりないから交換条件で今の試練出したのに」

 

 妹を無暗に傷つけないように加減したのが仇となった。

 苦い表情をしている黒歌からリアスは白音に訊く。

 

「そんな危険なことを……」

 

「覚悟の上です。今の私にはどうしても必要なんです」

 

 強い意志を持って答える。その姿にリアスは困惑した。

 

「こうなったら少しでも安全に憑かせる準備をするしかないか。約束だから協力はするわ。だから先ずはその前に――――――今着ている物を全部脱ぎなさい」

 

 白音は自分の体を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 かつて又旅、と呼ばれる猫魈が居た。

 長い年月を生きたその妖怪は人を飲み込めるほどの大きな体と1匹で都市を壊滅させられるほどの膨大な気と力を有していた。

 

 どれほど優秀な退魔師も単体では相手にならず、数百の退魔師や術者が集まり、多くの犠牲を出して討伐に成功し、その霊体を封じた。

 

 その僅かに残る伝承を頼りにアザゼルの指示で黒歌が山奥にある朽ち果てた神社からそれを発見したのは2年ほど前。

 

 

「又旅。聞いたことがありますわ。その討伐には五大宗家も関わっていて、又旅の封印後、多くの才ある術者が制御しようとしましたが、成功した者はひとりもおらず、結局、人の手には届かない山の奥地に封じられたと聞いています」

 

「それを見つけたのが私って訳。まぁ、確かにあの場所はそこらの人間の術者じゃ難しいでしょうね」

 

 裸になった白音の体に真言(マントラ)を書きながら朱乃の言葉に又旅が封じられていた、神社のことを思い出す。

 生身で入るにはキツイ高山の頂上に建てられた神社。それも結界が敷かれており、方向感覚を狂わせ、幻覚まで見せる術は今なお稼働しており、うっかり入ろうものなら確実に遭難するだろう。

 

 真言を書き終えた白音を同じように術式が書かれた床の中心に寝かせる。

 

「白音、これが最後の警告よ。本当に良いのね?」

 

「はい。お願いします」

 

「……安全装置は付けて置くわ。危なくなったと判断したらすぐに引き剥がすから」

 

 黒歌の言葉に白音は頷く。

 そして壺の封を外し、開けた。

 

 同時に術を展開して又旅の霊体を白音の身体の中へと誘導する。

 同時に白音の意識は深く、墜ちていった。

 

 

 

 

 

(今度こそ、今度こそちゃんと守るから。その為に力を付けるから。だからいっくん。貴方は――――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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