太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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どの作品を書いても筆が進まない。暑さのせいか若干スランプ気味です。


80話:守りし者

「ほら、食えよ」

 

 椅子に拘束されて自分で食事が摂れない一樹に世話役の男がスプーン差し出す。

 それを一樹はプイッと顔を背けた。

 

「ハハハ、テメェ。昨日に続いてまだ意地張んのか!食わねぇと体持たねぇだろ」

 

 顔を逸らす一樹を無理矢理こっちに向かせる。

 

「誰がお前らからメシなんぞ貰うか。なにが入ってるか分かんねぇしな!大体な、こちとら知らない人から物を貰っちゃいけませんってちゃんと教わってんだよ!それにな、ガキの頃は半年くらいパンの耳と水道水で食いつないでた時期があったから問題ねぇよ」

 

「どんな家庭環境だったんだよ!?」

 

 ケッと不貞腐れた子供の様な態度の一樹に男は溜息を吐く。

 

「お前、あんまり反抗的な態度取んなよ。命握られてる自覚ねぇのか?そこまでバカなのか?」

 

「体の自由が奪われてるのに態度まで卑屈になってたまるか。心くらいは自由でいたいんだよ!」

 

「そういうのは嫌いじゃないが、自分の首を絞めるだけだと思うぜ。つかお前、昨日オーフィスに口に入れたモン吐き出して当てたろ。あんなことばっかやってっと、本当にバラされるぞ」

 

 昨日、何を思ったのかオーフィスが一樹に今のように食事を与えに来た。その際に口に入れようとしない一樹に肉を刺したフォークを無理矢理突っ込まれて2,3回噛んだ後にオーフィスの頬を目がけてペッ、と吐き出した。

 向こうはどうやら何故自分が敵視されているのか気付いていない様子だったが。

 

「誰の所為でこんなところに居ると思ってんだあの電波!何が『太陽、もう我の物。我の言うこと聞くの、当然。なぜ、逆らう?』だ。ふざけんなってんだ……!」

 

 心底嫌悪感を滲ませて話す一樹に男は肩を竦めた。

 

「だからってこんなとこで独り粋がっても仕方ねぇだろに。そんなに死にたいのか?自殺志願者?」

 

「その前に出て行ってやるから安心しろ!」

 

「その自信がどこから来るのやら」

 

 肩を竦める男は一樹を拘束している椅子に触れる。

 

「お前、この椅子の所為で力使えねぇんだろ?そんな状態でどうすんだよ?」

 

「使えねぇわけじゃない。少し、痛みが走って邪魔されるだけだ」

 

「同じことだろうに」

 

 一樹が座っている椅子は一樹が闘気を使用したり、暴れたりすると神経を通して一樹に痛みを認識させる。あと、向こうが故意に装置を起動させることができる。

 これの所為で一樹は現状、ここから出れないでいる。

 

「しかし、アンタも俺の世話役なんてやらされて、暇なのか?」

 

「おいおいこれでも俺は代々ベルゼブブ様に仕える家系だぞ。ま、位は下の中ってとこだがな」

 

 煙草を吹かす男に一樹はふうんと興味無さそうに相槌を打つ。

 

「そういや坊主、お前の名前は。これからお前の世話役として来るんだ。名前くらい教えろよ」

 

「日ノ宮一樹……一樹が名前で、日ノ宮が苗字だ」

 

「バラド・バルルだ。精々長生きしろよ、坊主!」

 

 頭をわしゃわしゃと力強く撫でた後にトレイを持って立ち去るバラド。

 一樹はそれを見送った後に手の平に意識を集中させる。

 

(アグ)……があっ!?」

 

 ここに来てから何度も試したことを繰り返す。

 闘気を使って炎を出そうとすると体に鈍い痛みが全身に駆け巡る。

 

 少しでも力を使おうとすると与えられる痛みに身動ぎする。

 それが数分間続いて一樹は汗をびっしょりと掻きながらクソ、と呻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バラド・バルルはつい最近、世話するようになった人間の子供について考えていた。

 オーフィスを真なる魔王派に留める為のゴマすりとしてベルゼブブ領にある研究所に置いている少年。

 性格は反抗的でこちらに擦り寄る様子は全く見せず、噛みつかんばかり態度をこの敵地で維持できるのは大した胆力と褒めるべきか自分の立場を理解できない阿呆と呆れるかは判断しにくいところだが、バラドはあの少年を気に入っていた。

 

「顔立ちは全然違うが、生意気なところだけは重なりやがる」

 

 かつて居た家族と似た雰囲気。それに触れることで衰退し、明日も見えぬ陣営の中で捻くれていった心に僅かばかりの楽しみが生まれる。

 出来ることなら退屈なこの場所で少しでも良き隣人として付き合いたいものだ。

 そんなことを願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(京都で狐の奪還を渋ったら自分が拉致られるとか情けなさすぎて笑えもしねぇ)

 

 自分の現状に苛立ちながら一樹は息を吐いた。

 相手が最強のドラゴンだった、など言い訳にしかならない。

 それに気がかりなのは他にもある。

 

(アムリタの奴はどうなった?あのオーフィスという奴を攻撃して、無事なんだろうな?それに京都は?グレートレッドの召喚は阻止できたと思いたいが。それにセラフォルーさんも居たっけ?情報が足りねぇ)

 

 一度考え始めると色々なことが頭に過る。

 

(こんなことになっちまって、姉さんと白音、心配してっかな。つーかここのメシも口に合わねぇし)

 

 そうして考え続けて出た言葉が。

 

「白音の作ったメシ食いてぇ……」

 

「いきなり何言ってんだ、お前……」

 

 一樹の言葉に呆れてバラドは一樹のために用意された食事を食っている。

 

「白音って誰よ?彼女?」

 

「世話になってる人の妹だよ。家族だ家族!」

 

「へーほー」

 

「その面むかつくなぁ。ぶん殴りてぇ」

 

 ニヤニヤとしたバラドの表情に一樹は青筋を浮かべている。

 

「そういや、昨日オーフィスがここに来ただろ。その後にお前の呻き声が聞こえたんだけど、どうかしたのか?」

 

「別に。ただ、『我の言うこと聞く、太陽』とか言われたんで、『目障りだから消え失せろ、この無脳ドラゴン』って言っただけ。無能じゃなくて無脳な。考える頭なんて無さそうだから。そしたら、後ろに居た科学者っぽい男にこの椅子を起動させられた!」

 

 昨日のことを思い出して不機嫌そうにしているとバラドは何度目になるか分からない呆れの溜息を吐く。

 あのギニア・ノウマンという男。一樹の両親を殺したと言っていたが、それを真面目に受け取る気はなかった。

 気にならない訳ではないが、今は早くここから出ることが重要だった。

 

「……あの、ノウマンって男には気をつけろよ。ここに居る奴らはどいつも大概だが、アレは抜きん出てヤバい。下手に反抗ばかりしていると本当に何をされるかわからん」

 

 声のトーンを落として真面目な表情で言うバラドに一樹は舌打ちする。

 

「そういや、アンタはなんでここに居るんだ?前にベルゼブブに仕える家系とか言ってたが、それだけで?」

 

「ん?お前から質問なんて珍しいな。ま、理由としちゃそれもあるが、今の魔王が嫌いなんだよ、俺」

 

 バラドの発言に一樹は目を見開く。

 どこか格式やら家柄に拘りがなさそうなこの男は、どちらかといえば今の魔王側の方が合いそうな気がするが。

 それを察したのかバラドは苦笑し、煙草を取り出して話始めた。

 

「どこにでも転がってる話さ。内乱の時に自分の領地が襲撃されて家族を失う。そして俺の家族を殺したのが現魔王のひとりだった。それだけだ」

 

 煙草の匂いが鼻についた。

 

「別に今の魔王政権が間違ってるなんて思っちゃいない。実際、向こう側はどんどん暮らしやすくなってるらしいしな。それに、俺だって無抵抗な悪魔を内乱で殺した。非武装の民間人を盾に立てこもったこともある。それでも、俺の家族は今の魔王に殺された。俺がここに居る理由はそれだけだ」

 

 煙草の火を消してバラドはまた来ると、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「術式水槽を貸してほしい?」

 

 シャルバの復唱にオーフィスは首を小さく縦に動かす。

 彼女の素性を知らない者が見れば愛らしい仕草に映るだろう。

 

「あの人間に何かするつもりか?なぜ人間の子供一人に拘る?」

 

「グレートレッド、封印する。その為に、太陽が必要」

 

 オーフィスの説明はいまいち要領を得ない。

 高々人間の子供にあのグレートレッドをどうにかできるとはシャルバは思えない。しかし、変にオーフィスの機嫌を損ねる必要も感じないのであっさりと許可を出す。

 それに、ここ最近、英雄派の方に偏っていた蛇の製造も増量させたい。

 

「水槽は好きに使え。あの人間も君が連れてきた玩具だ。どう扱おうと私は関与しない。その代り、蛇の製作も頼む」

 

「感謝……」

 

 それだけ呟いてオーフィスは部屋を出て行く。

 何を考えているのかわからない存在だが利用できることは間違いない。故にシャルバ・ベルゼブブはオーフィスのやることは出来る限り尊重していた。

 それに今はあの連れてきた人間にご執心の様で、それだけでここに留まってくれるのなら願ったり叶ったりだ。

 

 そこでシャルバはこの件を頭の中に押し込め、後日行われる取引に頭を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の扉が開かれるとそこにはオーフィスとノウマンが現れた。

 

「やぁやぁ!ご機嫌は如何ですかな!」

 

「……良いように見えんのかよ?」

 

 2人に視線を合わせずに悪態を吐く一樹。それに気を悪くした様子もなくノウマンは口を動かす。

 

「貴方にはこれから私たちの研究の手伝いをしてもらいます」

 

「……」

 

 相手の発言に反応せずに拘束されたままの一樹はただ睨みつけた。

 しかし次にノウマンが懐から出した見た目は人間界の物とは若干異なるが注射器と思しき物に目が大きく見開かれる。

 注射器の中身が何かを問う前にノウマンは一樹の首筋にそれを打ち込む。

 

「テメ……な、にを……」

 

「ただの筋肉弛緩剤ですよ。貴方に暴れられてもオーフィスさまなら対処できますが、万が一がありますからね。申し訳ありませんが、彼を例の部屋に。薬も、そう長時間彼に効くとは思えませんのでお早めに」

 

「ん」

 

 薬が効いてきて体が自由に動かせなくなった一樹の拘束を解くと、オーフィスが首を掴んで無造作に引きずって運ぶ。

 

「安心してください。何も恐れることはありません。次に目が覚めた時、貴方は今より良い待遇になっていますよ」

 

 胡散臭い。見るものを不安に駆りたてる笑みを浮かべるノウマンに、一樹は意識を失うこともなくオーフィスに運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 体を引きずられて連れて来られたのは見たこともない部屋だった。もっとも監禁されていた部屋以外知らないので当然だが。

 5名ほどのスタッフに部屋に描かれた幾つもの魔法陣。それに機械の設備。

 そして中心に置かれているオレンジ色の液体で満たされた人が2、3人は入れそうな水槽。

 

「これから何をされるのか不安でしょうから手短に説明します。あの水槽は貴方の意識を生まれ変わらせる為の物です。色々と用途はあるのですが、今回は貴方の頭を弄るのに使用します。つまりですね。今回の実験が終われば貴方はこれまでの記憶を全て失い、真っ白な存在となってもらいます」

 

 そこでノウマンが一樹の髪を掴んで醜悪な笑みを向ける。

 

「理解できますか?これから貴方は全てを忘れるんです。仲間や友人。大切な記憶もそうでない記憶も。その後は私たちに都合のいい人形として教育して差し上げます」

 

「……っ!?」

 

 身動ぎして逃げようとするが薬の所為で体に力が入らず、気を体内で張り巡らそうとしても痛みが走った。

 

「あまり抵抗をしないでください。苦しむ時間は、短いほうが良いでしょう?」

 

「て、め……はな、せ……」

 

 抵抗しようとする一樹にノウマンは肩を竦めてオーフィスに指示を出す。

 

「オーフィスさま、彼を水槽の中に」

 

「わかった」

 

「はなせ、ってん、だ……ろ……」

 

「太陽、大人しくする。すぐに我の言うことを聞くようになる」

 

「や、め……っ!」

 

 オーフィスは水槽の中へ一樹を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バラドは施設内の一角で不機嫌そうに煙草を吸っていた。

 考えているのは数日前に連れて来られた人間の子供のこと。

 

 今頃はノウマンに何かされている最中だろう。

 それがどういう結果になるかは末端でしかないバラドの知るところではないが、一樹にとって碌なことにならないことは想像できる。

 

「だから、なんだってんだ……」

 

 僅か数日。少し話をしただけの人間だ。

 暇潰しにはなったし、あの狂人に何かされることに同情の念が無いと言えば嘘になるが、苛立つ理由にはならない筈だ。

 知っていることは僅かで。

 家族や仲間の話をするときは少しだけ表情が柔らかくなる。

 

『見てろよ親父!すぐに強くなってそのツラに一発ぶち込んでやるからな!』

 

『はいはい。いつになるかね~、それ』

 

 かつて居た息子の姿が頭に過り、バラドは舌打ちする。

 

「本当に、重なり過ぎるんだよ、あのクソガキ」

 

 吸い終わった煙草を床に捨て、忌々し気に踏み潰してその火を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浸食される。

 頭の中が白に塗り変えられていく。

 それに抵抗できずにいる。

 

 消去。消去。消去。

 

 ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!

 

 それを防ごうと水槽の中で僅かに体を動かすが、何の意味も為さない。

 記憶が、真っ白になっていく。

 

 その作業が進むたびに身体の力が抜けて瞳も色を失っていく。

 だがそれでも意識の奥で抵抗は続く。

 記憶を侵食してくる白がこれ以上広がらないようにその心がまだ白に染まっていない領土(きおく)に壁を作る。それが、僅かな時間稼ぎだったとしても。

 

 記憶は飲み込まれる。津波のように。雪崩のように。日ノ宮一樹という人間の人格を形成していた経験(きおく)を潰していく。

 

 意識の奥で絶叫する。

 その唇が、小さく動く。

 ―――――タスケテ、と。

 

 瞬間、世界(きおく)の侵食が止まった。

 

 

「あ……」

 

 一樹は、目を見開くとひとりの男を幻視した。

 白い髪に白い肌。

 手には人が扱うとは思えない巨大な槍が握られている。

 そして何よりも視線を奪うのは見慣れた黄金の鎧。

 男は手にしていた槍を振るうと襲いかかる白を打ち消していく。

 

「ま―――――こ―――――――あ――――――お――――――」

 

 こちらに身体を向けて何かを言っているがよく聞き取れない。

 彼が、誰なのかもわからない。

 ただ理解できたのは目の前の男が自分の記憶を守ってくれているという事実だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?」

 

「なに?」

 

「記憶の削除が止まりました。なにかがこちらの術を弾いています」

 

 ノウマンの説明にオーフィスが首を傾げる。

 

「記憶の奥に彼を守護する何かがあるようです。ですがこれ以上の記憶操作は難しいですね」

 

 説明にはどこか興味深そうな響きがあるが、オーフィスがそれを察することは無く質問する。

 

「いまなら、太陽は我に従う?」

 

「難しいでしょうね。記憶の根が残っている限り、そこから他の記憶も再構築されていくでしょう。いやはや存外に手こずらせてくれます」

 

「これ以上、太陽の記憶消せない?」

 

「時間はかかるでしょうが、やってみせますよ。人間ひとりの記憶も消せないのでは、私の沽券に関わりますので。ですがこれ以上は危険ですので今日はここまでですね」

 

「?よく分からない。でもできるなら任せる」

 

「お任せを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶の消去に失敗した一樹は元の部屋で監禁されていた。

 身体の拘束は解かれておらず、ぐったりとしている。

 そんな彼の頬を軽く誰かが叩く。

 

「おい、生きてるか?」

 

 僅かに視線を動かすとそこにはバラドが立っていた。

 

「お……さん……?」

 

「ハッ!どうやら、まだ無事みてぇだな」

 

 確認するとバラドは一樹の拘束具を短剣で切り、解放する。

 

「あんた……なに、を……?」

 

 一樹の力無い質問にバラドはわしゃわしゃと自分の頭を掻く。

 そして一樹を担ぎ上げると事も何気に言い放った。

 

「帰してやるよ。お前を。お前が帰りたい場所に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、今回そちらに渡すフェニックスの涙です」

 

「あぁ」

 

 箱に丁重に並べられた小瓶を見せられてシャルバは満足気にそれを受け取る。

 

「確認した。対価はいつも通りそちらに振り込もう」

 

「ありがとうございます」

 

 シャルバの言葉にフェニックスの涙を渡した男は恭しく頭を下げる。

 

「しかし、まさか偽りの魔王。その妹の婚約者だった君が我々を相手に取引をするとはな。先の件で今の魔王に愛想が尽きたと見える」

 

 シャルバの雑談に相手の男は笑みを浮かべた。

 

「えぇ。あの破談のせいで私は冥界中の笑い者です。それに何の意識も覚えない彼女やその親族とは付き合い切れませんよ。それは我が家も同様です。ならばこそ、真なる魔王である貴方がたを支持するのは当然でしょう」

 

「そうか。我々が魔王の地位を取り戻した際にはフェニックス家とは良い間柄を保ちたいものだよ。君もそう思うだろう、ライザー・フェニックス」

 

 シャルバの言葉にライザーは能面のような笑みを張りつかせていた。

 

 

 

 

 

 

 




次回はオカ研回。

この作品のオーフィスがどう思われてるのかちょっと気になる作者です。
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